ご家族が経営している会社が「合同会社」の場合、「相続の時ってどうなるんだろう?」と不安に思われるかもしれませんね。特に、株式会社の「株式」とは少し違う「持ち分」の評価額は、相続税に大きく影響します。実は、合同会社の持ち分の相続税評価は、会社の定款に特定の記載があるかどうかで、その計算方法がガラリと変わるんです。この記事では、その重要な違いと、それぞれの評価方法について、わかりやすく解説していきますね。
合同会社の相続、基本のキホン
まず、合同会社の相続について、基本的なルールから押さえておきましょう。株式会社とは異なる特徴が、相続時の評価に大きく関わってきます。
社員の死亡=原則「退社」扱い
会社法という法律では、合同会社の出資者(「社員」といいます)が亡くなった場合、その方は会社を「退社」したものとして扱われるのが原則です。つまり、株式会社のように、亡くなった方の株主としての地位がそのまま相続人に引き継がれる、というわけではないんですね。この「退社」という考え方が、相続財産を評価する上での最初の大きなポイントになります。
相続人が受け取るのは「持ち分」そのものではない?
原則として「退社」扱いになるため、相続人が直接引き継ぐのは「社員」という会社の地位そのものではなく、「持ち分の払戻請求権」という権利になります。これは、「亡くなった父が出資していた分のお金を、会社から払い戻してください」と請求できる権利のことです。この金銭を受け取る権利が相続財産となり、相続税の計算対象になる、という仕組みです。
「定款」の定めが運命の分かれ道
ここが最も重要なポイントです。会社のルールブックである「定款」に、「社員が死亡した場合には、その相続人が持ち分を承継できる」といった特別な定めを設けておくことができます。もしこの一文があれば、話は大きく変わります。相続人は「持ち分の払戻請求権」ではなく、「出資持分」そのものを引き継ぐことができるのです。そして、このどちらを相続するかによって、相続税の評価方法が全く異なり、結果的に納税額に大きな差が出ることがあります。
定款に定めがない場合の相続税評価額
まずは、定款に特別な定めがない「原則」のケースから見ていきましょう。この場合、相続財産は「持ち分の払戻請求権」という債権(お金を請求する権利)として評価されます。
評価方法は「純資産価額方式」
払戻請求権の評価は、会社の純資産を基に計算します。これを「純資産価額方式」と呼びます。計算式は以下の通りです。
(相続開始時点の総資産の相続税評価額 - 総負債額) × 被相続人の持分割合
ポイントは、会社の貸借対照表に載っている帳簿上の金額ではなく、会社が持つ土地や建物、有価証券などの資産一つひとつを、相続が発生した時点の「時価(相続税評価額)」で評価し直す必要がある点です。そのため、評価額が思ったより高くなることがあります。
注意点:法人税等相当額の控除ができない
非上場株式を純資産価額方式で評価する場合、資産の含み益(帳簿価額と時価の差額)に対して、将来かかるであろう法人税などを考慮して、評価額から37%を控除できる特例があります。しかし、「持ち分の払戻請求権」の評価では、この法人税等相当額の控除が認められていません。この差は非常に大きく、評価額が高額になる大きな要因の一つです。
みなし配当と準確定申告
もう一つの注意点として、会社から払い戻される金額が、亡くなった方が出資した元々の金額(資本金など)を超える場合、その超えた部分の利益は「配当」があったものとみなされます(みなし配当)。これは亡くなった方の所得になるため、相続人が代わりに、亡くなった日から4ヶ月以内に「準確定申告」という手続きをして所得税を納める必要があります。
定款に定めがある場合の相続税評価額
次に、定款に「相続人が持ち分を承継する」という定めがある、より有利なケースを見ていきましょう。この場合、相続財産は「出資持分」そのものとなり、評価方法は大きく変わります。
評価方法は「取引相場のない株式」に準じる
持ち分をそのまま承継する場合、その評価は上場していない株式会社の株式(取引相場のない株式)を評価する方法と同じルールで行われます。この方法では、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、いくつかの評価方法を組み合わせて使います。
会社の規模に応じた評価方法(原則的評価方式)
会社の規模によって、主に使われる評価方法が異なります。
会社規模 | 主な評価方法 |
大会社 | 類似業種比準価額方式 |
中会社 | 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用 |
小会社 | 純資産価額方式(類似業種比準価額方式との併用も可) |
「類似業種比準価額方式」とは、事業内容が似ている上場企業の株価を参考にして評価する方法です。一般的に、会社の純資産だけで評価するよりも評価額が低くなる傾向があり、相続税の節税につながりやすいという大きなメリットがあります。
純資産価額方式でも有利になるポイント
たとえ会社の規模が小さく、純資産価額方式で評価することになったとしても、こちらのケースの方が有利です。なぜなら、「持ち分の払戻請求権」の評価では認められなかった「法人税等相当額(37%)の控除」が、こちらの評価方法では適用できるからです。同じ純資産価額方式を使う場合でも、この控除があるかないかで、最終的な評価額に数百万円、数千万円もの差が生まれることもあります。
評価方法の比較まとめ
これまでの内容をまとめると、定款に定めがあるかないかで、以下のような違いがあることがわかります。一目で違いがわかるように表にしてみました。
項目 | 定款の定めなし(払戻請求権) |
相続財産の種類 | 債権(金銭請求権) |
評価方法 | 純資産価額方式のみ |
法人税等相当額の控除 | できない |
評価額の傾向 | 高くなりやすい |
項目 | 定款の定めあり(出資持分) |
相続財産の種類 | 有価証券(出資持分) |
評価方法 | 会社の規模に応じて決定(類似業種比準価額方式の適用あり) |
法人税等相当額の控除 | できる |
評価額の傾向 | 低く抑えられる可能性がある |
生前にできる対策と注意点
相続が起きてからでは遅いこともあります。安心して事業や財産を次の世代に引き継ぐために、生前にできる対策を確認しておきましょう。
まずは定款の確認を!
何よりも先に、会社の定款を確認してください。「社員の死亡による退社」や「持ち分の承継」について、どのような記載があるかを知ることが第一歩です。もし相続に関する定めがなければ、事業承継をスムーズに進めるためにも、社員全員の同意を得て定款を変更しておくことを強くおすすめします。
資産管理会社としての活用と注意点
不動産や有価証券などを多くお持ちの方が、相続税対策として合同会社(資産管理会社)を設立するケースがあります。これは、個人で財産を持つより、法人の出資持分として評価することで、評価額を引き下げる効果を狙うものです。ただし、個人から法人へ不動産などを移す際には、譲渡所得税や不動産取得税といった別の税金がかかります。対策を実行する前に、専門家である税理士に相談し、トータルで有利になるかどうかしっかりシミュレーションすることが大切です。
社員が一人しかいない場合のリスク
もし合同会社の社員が一人だけで、定款にも持ち分承継の定めがない場合、その方が亡くなると、持ち分を承継する人が誰もいなくなり、会社は自動的に解散となってしまいます。事業を誰かに引き継いでもらいたい場合は、生前に後継者となる方を社員に加えるなどの対策を検討する必要があります。
まとめ
合同会社の持ち分の相続税評価額は、会社のルールブックである定款に「相続人が持ち分を承継できる」という定めがあるかどうかで、天と地ほどの差が出ることがあります。原則的な「持ち分の払戻請求権」としての評価は、税金が高額になりがちです。一方で、定款に定めを設けて「出資持分」として承継できれば、類似業種比準価額方式の活用や法人税等相当額の控除によって、評価額を大きく抑えられる可能性があります。ご自身の会社の定款がどうなっているか、この機会にぜひ一度確認してみてください。そして、もし不安な点があれば、相続に詳しい税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
【参考文献】
合同会社の持ち分評価に関するよくある質問まとめ
Q. 合同会社の持ち分は相続税の対象になりますか?
A. はい、相続税の課税対象になります。合同会社の持ち分は、現金や不動産などと同じ「相続財産」とみなされるため、相続が発生した場合はその価値を評価し、相続税を計算する必要があります。
Q. 合同会社の持ち分の相続税評価額は、どうやって計算するのですか?
A. 原則として、株式会社の非上場株式の評価方法に準じて計算します。会社の規模や状況に応じて、主に「純資産価額方式」「類似業種比準価額方式」「配当還元方式」などを使い分けたり、組み合わせたりして評価額を算出します。
Q. 評価方法の基本となる「純資産価額方式」とは何ですか?
A. 会社の総資産から負債を差し引いた「純資産価額」を基に評価する方法です。具体的には、決算書の資産や負債を相続税評価額に置き換えて再計算し、その純資産額を発行済持分総数で割って1口あたりの価額を算出します。
Q. 評価額が低くなると聞いた「配当還元方式」は使えますか?
A. 相続した人が、会社の経営に関与しない「同族社員以外の社員」である場合に適用できる可能性があります。この方式は過去の配当実績に基づいて評価するため、一般的に純資産価額方式よりも評価額が低くなる傾向があります。
Q. 持ち分の評価額を生前に下げる方法はありますか?
A. はい、計画的な対策で評価額を下げることが可能です。例えば、役員へ退職金を支払う、不動産を購入するなどして会社の純資産を減らす方法が考えられます。ただし、税務上のリスクもあるため専門家への相談が不可欠です。
Q. 評価額の計算が複雑です。誰に相談すればよいですか?
A. 合同会社の持ち分評価は非常に専門的で複雑です。ご自身で計算すると、誤った申告により追徴課税のリスクが生じます。相続税に詳しい税理士に相談することを強くおすすめします。