親から相続した土地、あるいはこれから資産形成のために取得を考えている土地。その土地が「底地」だった場合、どう考えれば良いのでしょうか。特に「普通借地」と「事業用定期借地」では、地主さんにとってのメリット・デメリットが大きく異なります。今回は、この2種類の底地について、相続対策と資産形成という2つの観点から、どちらがより有効なのかを分かりやすく解説していきますね。
そもそも「底地」とは?普通借地と事業用定期借地の違い
相続や資産形成の話に入る前に、まずは基本となる言葉の意味からおさらいしましょう。「底地」「普通借地権」「事業用定期借地権」、それぞれの特徴を理解することが、最適な選択への第一歩です。
底地ってどんな土地?
「底地(そこち)」とは、ご自身の土地でありながら、第三者が建物を建てるために借りている土地のことを指します。地主さんが持つ土地の所有権そのものを「底地」または「底地権」と呼びます。地主さんとしては、借地人さんから地代という形で毎月または毎年収入を得られますが、ご自身でその土地を自由に使ったり、簡単に売却したりすることが難しい、という特徴を持った不動産です。
「普通借地権」付き底地の特徴
普通借地権は、昔からあるタイプの借地権です。最大の特徴は、借地人さんが希望すれば契約の更新が原則として可能な点です。地主さん側に「正当事유」という、立ち退きを求めるだけのよほどの理由がない限り、更新を断ることはできません。そのため、一度土地を貸すと半永久的に土地が戻ってこない可能性があり、地主さんにとっては非常に活用の自由度が低い土地と言えます。地代も、昔からの契約が続いている場合、現在の相場からするとかなり低い金額になっているケースも少なくありません。
「事業用定期借地権」付き底地の特徴
こちらは1992年に新しくできた制度で、その名の通り、店舗や工場、倉庫といった事業用の建物を建てる目的に限定された借地権です。一番のポイントは、契約で定めた期間(10年以上50年未満)が終われば、契約の更新はなく、必ず土地が更地になって返ってくることです。地主さんにとっては、将来的な土地活用の計画が立てやすく、地代も普通借地に比べて高く設定できる傾向にあります。
【比較】普通借地 vs 事業用定期借地 どっちが有利?
それでは、地主さんの視点から「普通借地権の底地」と「事業用定期借地権の底地」を比べてみましょう。収益性や自由度など、気になるポイントを比較していきます。
収益性(地代収入)で比較
一般的に、収益性は事業用定期借地権の底地の方が高い傾向にあります。普通借地権の地代は、年間の固定資産税・都市計画税の2~3倍程度、更地価格に対して年率1.5%~2%程度が相場と言われています。一方、事業用定期借地権は、借主が企業でその土地から収益を生み出すため、更地価格に対して年率4%~6%程度と、比較的高めに設定されることが多いです。安定した高い収益を求めるなら、事業用定期借地権に軍配が上がりますね。
土地活用の自由度で比較
土地活用の自由度も、事業用定期借地権の方が圧倒的に高いです。普通借地権は、先ほどお話ししたように、正当事由がなければ土地の返還を求めることが非常に困難です。将来「この土地に家を建てたい」と思っても、実現はほぼ不可能です。一方、事業用定期借地権は、契約期間満了という明確なゴールがあります。例えば「20年後には自分で駐車場経営をしたい」といった具体的な計画も立てやすく、将来の選択肢が大きく広がります。
契約の安定性・リスクで比較
普通借地権は、借地人さんとの関係が長期にわたるため、地代の値上げ交渉や更新料、建て替え承諾料などを巡るトラブルが発生する可能性があります。一方、事業用定期借地権は、契約内容が明確なため借地人とのトラブルは少ないですが、借主である企業の業績不振や倒産といったリスクが考えられます。もし倒産してしまった場合、建物の後始末などで予期せぬ手間や費用が発生する可能性もゼロではありません。
比較まとめ表
これまでの比較を、分かりやすく表にまとめてみました。
| 比較項目 | 普通借地権の底地 |
| 収益性(地代) | 比較的低い(更地価格の年1.5~2%程度) |
| 土地の返還 | 原則返ってこない |
| 活用の自由度 | 低い |
| 主なリスク | 借地人とのトラブル、更新料問題 |
| 比較項目 | 事業用定期借地権の底地 |
| 収益性(地代) | 比較的に高い(更地価格の年4~6%程度) |
| 土地の返還 | 契約期間満了で更地返還 |
| 活用の自由度 | 高い(期間満了後) |
| 主なリスク | 借地人(企業)の倒産リスク |
【相続対策】相続税評価額の計算方法と節税効果
ここからは、相続対策の観点で見ていきましょう。土地を相続する際には相続税がかかりますが、その税額は「相続税評価額」によって決まります。底地の場合、この評価額の計算方法が普通借地と事業用定期借地で異なります。
底地の相続税評価額の基本
底地の相続税評価額は、その土地がもし更地だった場合の評価額(自用地評価額)から、借地人さんの権利(借地権)の価値を差し引いて計算するのが基本です。つまり、「自用地評価額 – 借地権評価額 = 底地評価額」となります。借地権の価値が高いほど、地主さんが持つ底地の評価額は低くなる、という関係です。
普通借地権の底地の評価方法
普通借地権が設定されている底地は、「自用地としての価額 × (1 – 借地権割合)」という式で評価します。「借地権割合」は、その土地の借地権の価値が更地価格の何割を占めるかを示したもので、国税庁が地域ごとに定めています。路線価図を見ると、「70C」のように数字とアルファベットが書かれており、このアルファベットが借地権割合を示します(例:C→70%、D→60%)。
例えば、自用地評価額が5,000万円で借地権割合が60%(D)の土地なら、底地の評価額は5,000万円 × (1 – 0.6) = 2,000万円となり、更地で持つよりも評価額を60%も圧縮できます。
事業用定期借地権の底地の評価方法
事業用定期借地権の底地は、原則として「自用地としての価額 – 定期借地権の価額」で評価しますが、計算が複雑です。そこで、実務上は多くの場合、特例的な評価方法が用いられます。それは、「自用地としての価額 × (1 – 残存期間に応じた割合)」という計算です。この控除できる割合は、契約の残り期間に応じて決まっており、残存期間が15年を超える場合は最大で20%です。
先ほどと同じ自用地評価額5,000万円の土地で、残存期間が15年を超える場合、評価額は5,000万円 × (1 – 0.2) = 4,000万円と評価されます。
(参考:国税庁 No.4613 貸宅地の評価)
どっちが相続税対策に有利?
単純な評価額の引き下げ効果だけを見れば、普通借地権の底地の方が相続税額を抑えられるケースが多いです。しかし、ここには大きな落とし穴があります。普通借地の底地は、市場での売却価格(時価)が相続税評価額を大幅に下回ることが珍しくありません。評価額は2,000万円なのに、実際には800万円でしか売れない、といったケースです。こうなると、高い評価額に基づいて計算された相続税を、価値の低い資産で支払わなければならず、納税資金に困ってしまうリスクがあります。一方、事業用定期借地権は評価額こそ高めですが、収益性が高く、将来的に売却しやすいため、納税計画が立てやすいというメリットがあります。
【資産形成】キャッシュフローと出口戦略
次に、長期的な資産形成という観点から比較してみましょう。安定した収入と、最終的にどう資産を手放すか(出口戦略)が重要になります。
キャッシュフロー(地代収入 – 税金)
キャッシュフローの面では、地代収入の高い事業用定期借地権が有利です。地代収入から固定資産税などの経費を差し引いた手残りが多くなります。普通借地権の場合、地代が低すぎて固定資産税を払ったらほとんど残らない、ということもあります。地代の値上げ交渉も簡単ではないため、安定した資産形成という面では事業用定期借地権の方が優れていると言えるでしょう。
出口戦略(売却のしやすさ)
資産を最終的に売却する「出口戦略」を考えた場合も、事業用定期借地権の方が有利です。普通借地の底地は、買い手が専門の不動産業者などに限定され、一般の人が買うことはまずありません。そのため流動性が極めて低く、売却できたとしても価格は更地価格の10%~30%程度になってしまうこともあります。一方、事業用定期借地権の底地は、契約期間満了が近づくにつれて更地としての価値に近づいていくため、一般の買主も見つけやすく、普通借地よりもずっと売りやすいと言えます。
資産形成の観点ではどちらが有効?
結論として、高い収益性を持ち、契約期間満了という明確な出口がある事業用定期借地権の底地の方が、計画的な資産形成には有効だと言えます。インカムゲイン(地代収入)とキャピタルゲイン(売却益)の両面で、普通借地権よりも有利な条件が揃っています。
それぞれの底地を相続・所有する際の注意点
最後に、それぞれの底地を実際に所有する上で、特に注意しておきたいポイントをお伝えします。
普通借地権の底地を持つ場合の注意点
まずは借地契約書をしっかり確認しましょう。特に、契約期間、地代、更新料や建て替え承諾料に関する取り決めがどうなっているかは非常に重要です。契約書自体が存在しないケースも少なくないので、その場合は早めに借地人さんと話し合い、合意書などを作成しておくことを強くお勧めします。また、地代が長年変わっていない場合は、近隣の相場を調べて、適正な地代に見直す交渉を検討することも大切です。
事業用定期借地権の底地を持つ場合の注意点
事業用定期借地権は、契約時に「公正証書」という公的な文書で契約することが法律で定められています。この公正証書があるかを必ず確認してください。また、相続が発生した場合、亡くなった方が預かっていた保証金(敷金)の返還義務も相続人が引き継ぎます。契約満了時に返せるように、保証金相当額もきちんと引き継いでおかないと、後で大きなトラブルになる可能性があるので注意が必要です。
まとめ
普通借地権と事業用定期借地権、どちらの底地が有効か、目的別にまとめると以下のようになります。
- 相続税の評価額だけをとにかく低く抑えたいなら、普通借地権の底地が有利に見えることがあります。ただし、時価との大きな価格差があり、いざという時に売却して納税資金に充てることが難しく、かえって苦労するリスクがあることを忘れてはいけません。
- 高い収益性と計画的な資産運用、そして将来の売りやすさ(出口戦略)を重視するなら、事業用定期借地権の底地が断然有効です。安定したキャッシュフローを生み出し、期間満了後には自由な活用や高値での売却も期待できます。
どちらの底地にも一長一短があります。ご自身の状況や、何を一番優先したいのか(節税なのか、収益なのか)をよく考え、総合的に判断することが大切です。もし判断に迷う場合は、底地に詳しい不動産会社や税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
底地の相続対策と資産形成に関するよくある質問まとめ
Q. 普通借地の底地と事業用定期借地の底地、一番の違いは何ですか?
A. 一番の違いは「契約期間満了後に土地が返ってくるかどうか」です。普通借地は正当事由がない限り契約が更新され続けますが、事業用定期借地は契約期間満了で必ず更地で土地が返還されます。
Q. 資産形成を考えた場合、どちらの底地が収益性は高いですか?
A. 一般的に「事業用定期借地」の底地の方が高い収益性を期待できます。土地が必ず返還される安心感から、普通借地よりも高い地代を設定しやすいためです。
Q. 相続税対策として有利なのは、どちらの底地ですか?
A. 一概には言えませんが、相続税評価額の圧縮効果は、借地権割合が高い「普通借地」の底地の方が大きくなる傾向があります。ただし、納税資金の確保や資産整理のしやすさでは「事業用定期借地」が有利な場合もあります。
Q. 事業用定期借地の底地を持つメリットは何ですか?
A. 高い収益性、契約満了時に必ず土地が更地で返還される点、そして将来の土地活用の自由度が高い点が大きなメリットです。計画的な資産運用が可能になります。
Q. では、普通借地の底地を持つメリットは何ですか?
A. 長期間にわたり安定した地代収入が見込める点です。借地人との関係が良好であれば、空室リスクのある賃貸経営よりも手間がかからず、安定したインカムゲインを得られます。
Q. 結局、私はどちらの底地を選べば良いのでしょうか?
A. 「将来、自分で土地を使いたい、高い収益性を求めたい」なら事業用定期借地、「安定収入を重視し、相続税評価額を大きく下げたい」なら普通借地が向いていると言えます。ご自身の目的や資産状況に合わせて専門家に相談することをおすすめします。