令和5年度の税制改正で、生前贈与の持ち戻し(生前贈与加算)の期間が3年から7年に延長されました。「7年っていつから数えるの?暦年(1月1日)から?それとも贈与した日から?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。この期間の数え方は、相続税対策において非常に重要です。もし間違えてしまうと、せっかくの生前贈与が相続税の対象になってしまうかもしれません。この記事では、暦年贈与の持ち戻し期間の正しい数え方について、具体例や図を交えながら、誰にでもわかるように優しく解説していきます。
生前贈与の持ち戻し(生前贈与加算)とは?
そもそも「生前贈与の持ち戻し」とはどんな制度なのでしょうか。これは、亡くなる直前に財産を贈与して、意図的に相続税を安くしようとする「駆け込み贈与」を防ぐためのルールです。亡くなった日(相続開始日)から一定期間内に行われた贈与は、相続財産に足し戻して(持ち戻して)相続税を計算しなさい、ということになっています。これを「生前贈与加算」とも呼びます。
持ち戻しの対象となる人
この持ち戻しの対象になるのは、「相続または遺贈によって財産を取得した人」です。基本的には、亡くなった方の財産を相続する相続人が対象となります。そのため、相続人ではないお孫さんへの贈与は、原則として持ち戻しの対象にはなりません。ただし、お孫さんが遺言によって財産を受け取ったり、亡くなったお子さんに代わって相続人(代襲相続)になったりした場合は、持ち戻しの対象になるので注意が必要です。
2024年からの新ルール!持ち戻し期間が3年から7年に延長
これまで、持ち戻しの対象期間は「亡くなる前の3年以内」でした。しかし、令和5年度の税制改正によって、この期間が「亡くなる前の7年以内」に延長されることになったのです。この新しいルールは、2024年1月1日以降に行われた贈与から適用されます。過去の贈与にさかのぼって適用されるわけではないので、その点は安心してくださいね。
なぜ持ち戻し期間が延長されたの?
この改正の背景には、富裕層が暦年贈与を使って過度に相続税負担を回避することを防ぎ、世代間の資産の移転をより公平にするという目的があります。また、早めに若い世代へ資産を移すことを促し、経済を活性化させたいという国の考えもあるようです。
【結論】持ち戻し期間は「亡くなった日」から遡って計算します
さて、いよいよ本題です。暦年贈与の持ち戻し期間は、「暦年(1月1日〜12月31日)」で考えるのでしょうか、それとも「贈与した日」を基準に考えるのでしょうか。結論から言うと、持ち戻し期間は「相続が開始した日(亡くなった日)」をスタート地点として、そこから過去に遡って計算します。「暦年」というのは、あくまで贈与税を計算するときの単位であり、持ち戻し期間の計算とは直接関係ありません。
具体的な計算方法
例えば、ある方が2032年5月10日に亡くなったとします。この場合、持ち戻しの対象となる7年間の期間は、亡くなった日から遡って計算します。
2032年5月10日(亡くなった日)から遡って7年前は、2025年5月10日です。
したがって、このケースでの持ち戻し対象期間は「2025年5月10日から2032年5月9日まで」となります。「2025年の暦年(1月1日〜12月31日)」という区切り方ではない、という点がとても重要です。
図解でわかる!持ち戻し期間の数え方
言葉だけだと少しイメージしづらいかもしれませんね。下のように、時間の流れをイメージしてみてください。
(過去)・・・[贈与日A]・・・[贈与日B]・・・[贈与日C]・・・[亡くなった日(相続開始日)]→(未来)
持ち戻し期間を数えるときは、右側の[亡くなった日]を基準に、左側の過去に向かって「7年間」という定規をあてるイメージです。その定規の範囲内に入った贈与が、持ち戻しの対象となります。
新制度をシミュレーション!いつからの贈与が対象になる?
新しい7年ルールは、2024年1月1日以降の贈与が対象となり、期間は少しずつ伸びていきます。いきなり7年になるわけではないので、具体的なスケジュールをみていきましょう。
国税庁が示しているスケジュールは以下の通りです。
被相続人の相続開始日 | 加算対象期間 |
---|---|
〜2026年12月31日 | 相続開始前3年以内 |
2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から相続開始日まで |
2031年1月1日〜 | 相続開始前7年以内 |
2027年以降に相続が起こる場合に影響が出始める
この表からわかるように、2026年中に亡くなられた場合は、これまで通り「3年以内」の贈与が持ち戻しの対象です。新しいルールの影響が実際に出始めるのは、2027年1月1日以降に相続が発生した場合からということになります。
例えば、2028年10月1日に相続が開始したとしましょう。この場合、持ち戻しの対象となるのは「2024年1月1日から2028年10月1日まで」の贈与です。期間にすると、約4年10ヶ月分が対象となります。
新ルールが完全に適用されるのは2031年以降
そして、持ち戻し期間がまるまる7年間となるのは、2031年1月1日以降に相続が開始した場合です。例えば、2031年4月1日に相続が開始した場合、持ち戻し期間は「2024年4月1日から2031年3月31日まで」の7年間となります。
持ち戻し期間延長で注意すべきポイント
この新しいルールによって、私たちはどんなことに気をつければよいのでしょうか。いくつか重要なポイントを押さえておきましょう。
延長された4年間の贈与には100万円の控除がある
少しだけ嬉しいお知らせです。7年に延長された期間のうち、亡くなる前3年を超える期間(つまり、亡くなる前4年〜7年の間の4年間)に行われた贈与については、合計100万円までは持ち戻しの対象にしなくてよい、という特別控除が設けられています。これにより、少しだけ税金の負担が軽くなります。
贈与契約書の重要性がさらに増す
「いつ、誰から誰へ、何を贈与したか」を客観的に証明する贈与契約書の重要性が、これまで以上に高まります。特に、贈与した日付は持ち戻し期間の判定に直結するため、必ず明記し、公証役場で確定日付をもらっておくと、より証拠能力が高まり安心です。
相続時精算課税制度との比較検討が必須に
暦年贈与の節税効果が少し弱まったことで、もう一つの贈与制度である「相続時精算課税制度」の価値が相対的に上がりました。特に2024年からは、この相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設され、使いやすくなっています。どちらの制度がご自身の状況にとって有利なのか、専門家と相談しながら慎重に比較検討することが大切です。
これからの生前贈与対策はどうする?
では、法改正を踏まえて、私たちはこれからどのように生前贈与を進めていけばよいのでしょうか。有効な対策を3つご紹介します。
対策①:できるだけ早く贈与を始める
最もシンプルで効果的な対策は、「一日でも早く贈与を始めること」です。7年という持ち戻し期間を乗り越えるには、ご自身が健康で元気なうちから、長期的な視点で計画的に贈与を進めていくことが何よりの対策になります。
対策②:相続人以外(孫など)への贈与を検討する
先述の通り、持ち戻しの対象は原則として相続人です。そのため、お子さんではなく、相続人ではないお孫さんへ贈与することも有効な選択肢の一つです。ただし、遺言でお孫さんに財産を遺す場合などは持ち戻しの対象になる可能性があるので、注意しましょう。
対策③:暦年贈与以外の非課税制度もフル活用する
贈与税には、暦年贈与の110万円非課税枠以外にも、様々な特例があります。
- 教育資金の一括贈与(最大1,500万円非課税)
- 結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円非課税)
- 住宅取得等資金の贈与(最大1,000万円非課税)
これらの制度は持ち戻しの対象外となるため、ライフイベントに合わせて活用することで、効率的に資産を次の世代へ移すことができます。
まとめ
今回は、暦年贈与の持ち戻し期間の数え方について解説しました。大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 暦年贈与の持ち戻し期間の起算日は「亡くなった日」。暦年単位ではない。
- 2024年1月1日以降の贈与から、持ち戻し期間が段階的に7年に延長される。
- 持ち戻し期間の延長により、贈与契約書の作成や、長期的な計画がより重要になった。
- 相続時精算課税制度や、孫への贈与、各種非課税特例の活用も有効な対策となる。
制度が複雑になり、どの方法が最適かをご自身で判断するのは難しいかもしれません。大切な財産を円満に、そして賢く次の世代へ引き継ぐために、ぜひ一度、税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。
参考文献
暦年贈与の持ち戻しに関するよくある質問まとめ
Q. 暦年贈与の「持ち戻し」とは何ですか?期間の数え方を教えてください。
A. 持ち戻しとは、亡くなった方(被相続人)が亡くなる前一定期間内に行った贈与を、相続財産に加算して相続税を計算する制度です。期間は、贈与した日から亡くなった日(相続開始日)までで計算します。
Q. 持ち戻し期間の7年は「暦年」ですか?それとも「日付」で数えますか?
A. 暦年(1月1日~12月31日)ではなく、贈与した「日付」を基準に計算します。例えば、2031年10月1日に亡くなった場合、2024年10月1日以降の贈与が持ち戻しの対象となります。
Q. 持ち戻し期間が3年から7年に延長されたのはいつからの贈与が対象ですか?
A. 2024年1月1日以降の贈与が対象です。持ち戻し期間は段階的に延長され、相続開始が2027年1月1日以降の場合に初めて3年を超える期間が対象になります。完全に7年間の持ち戻しとなるのは、2031年1月1日以降に発生した相続からです。
Q. 7年以内の贈与は、110万円以下でもすべて持ち戻しの対象になりますか?
A. はい、相続人などへの贈与は、年間110万円の基礎控除内であっても持ち戻しの対象です。ただし、延長された4年間(相続開始前3年超~7年以内)の贈与については、合計で100万円まで持ち戻しから控除できる特例があります。
Q. 誰がもらった贈与が持ち戻しの対象になるのですか?
A. 亡くなった方から、相続や遺贈によって財産を受け取った人(相続人など)への贈与が対象となります。相続を放棄した人や、孫など相続人以外の人への贈与は、原則として持ち戻しの対象にはなりません。
Q. 贈与の証拠として、何を準備しておけばよいですか?
A. 税務調査などで指摘されないよう、「贈与契約書」を作成し、贈与の事実がわかるように銀行振込で記録を残しておくことが重要です。これにより、いつ、誰から誰へ、いくら贈与したかを客観的に証明できます。