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医療法人の相続税は高額に?
知っておきたい出資持分の評価と対策

2025-05-16
目次

医療法人を経営されている方、またはそのご家族にとって、相続は避けて通れない問題です。特に医療法人の場合、出資持分の評価額が思いがけず高額になり、多額の相続税が発生することがあります。この記事では、医療法人の相続税に関する基本的な知識から、具体的な評価方法、そして有効な節税対策まで、わかりやすく解説していきます。

なぜ医療法人の相続税は高額になりやすいの?

医療法人の相続税が高額になりやすい一番の理由は、「出資持分」の評価額が高騰するケースが多いからです。出資持分とは、株式会社でいうところの株式のようなもので、医療法人の純資産価値を表します。長年の経営で利益が積み重なり、内部留保が増えると、それに伴って出資持分の価値も上がっていきます。ご自身が思っているよりもはるかに高い評価額となり、相続時に高額な税金が課せられてしまう、という事態が起こり得るのです。特に、出資持分のある「社団医療法人」の場合は注意が必要です。

出資持分ありとなしの違い

平成19年4月1日以降に設立された医療法人は、原則として「出資持分の定めのない医療法人」(基金拠出型など)しか設立できなくなりました。しかし、それ以前に設立された医療法人の多くは「出資持分の定めのある医療法人」です。この2つの違いを理解することが、相続税対策の第一歩となります。

種類 特徴
出資持分の定めのある医療法人 出資者が法人の財産に対して持分権を持つ。退社や解散時に出資額に応じた払戻請求権があり、これが相続税の課税対象となる。
出資持分の定めのない医療法人 出資持分が存在しないため、社員が退社しても財産の払戻請求はできない。そのため、原則として相続税の課税対象にはならない。

相続財産となる「出資持分」とは

相続が発生した場合、亡くなった方(被相続人)が所有していた「出資持分」が相続財産となります。これは、医療法人の純資産を出資口数で割った1口あたりの価額に、被相続人が所有していた口数を掛けて評価されます。つまり、医療法人の業績が良く、資産が増えれば増えるほど、相続税の対象となる財産の価額も大きくなっていく仕組みです。

相続税がかからないケース

前述の通り、「出資持分の定めのない医療法人」には相続税の問題は原則として発生しません。また、個人で開業している診療所の場合は、事業用の資産(土地、建物、医療機器など)が個別に相続税の課税対象となりますが、医療法人のような出資持分という概念はありません。ご自身の法人がどちらの形態なのかを、まずは定款で確認することが重要です。

医療法人の出資持分の評価方法

では、具体的に出資持分はどのように評価されるのでしょうか。評価方法は、会社の規模や状況によって異なり、非常に専門的です。基本的には、財産評価基本通達に定められている「取引相場のない株式」の評価方法に準じて計算されます。

原則的評価方式(類似業種比準価額方式と純資産価額方式)

会社の規模が大きい場合(大会社・中会社)は、主にこの原則的評価方式が用いられます。

評価方式 内容
類似業種比準価額方式 事業内容が類似する上場企業の株価を基に、「配当」「利益」「純資産」の3つの要素を比較して評価する方法です。
純資産価額方式 相続開始時点の医療法人の総資産から負債を差し引いた純資産価額を基に評価する方法です。これが最も基本的な評価方法となります。

中会社の場合は、この2つの方式を会社の規模に応じて一定の割合で組み合わせて(併用して)評価します。

特例的評価方式(配当還元方式)

同族株主以外の少数株主が出資持分を取得した場合など、特例的なケースでは配当還元方式が用いられます。これは、過去2年間の平均配当金額を基に評価する方法です。一般的に、他の評価方法に比べて評価額は低くなる傾向がありますが、適用できるケースは限られています。

医療法人でできる相続税の生前対策

高額になりがちな医療法人の相続税ですが、早めに計画を立てて対策を行うことで、負担を大きく軽減できる可能性があります。ここでは代表的な対策をいくつかご紹介します。

役員退職金の支給

理事長などの役員が退職する際に、役員退職金を支給することで、法人の純資産を減らし、出資持分の評価額を下げることができます。退職金には税制上の優遇措置(退職所得控除)があり、所得税・住民税の負担も抑えられるため、非常に有効な手段です。ただし、不相当に高額な退職金は損金として認められない可能性があるため、役員の在任期間や功績に応じた適正な金額を設定することが重要です。

生命保険の活用

医療法人を契約者として、役員を被保険者とする生命保険に加入する方法です。支払った保険料の一部または全部を損金に算入できる場合があり、法人の利益を圧縮できます。そして、役員の退職時に保険を解約して解約返戻金を退職金支払いの原資にしたり、死亡退職金の支払いに充てたりすることができます。死亡退職金は、相続人が受け取る際に「500万円 × 法定相続人の数」という死亡保険金の非課税枠とは別に「死亡退職金の非課税枠」が適用されるため、相続税対策としても有効です。

出資持分の生前贈与

出資持分の評価額がまだそれほど高くないうちに、後継者となるご家族などへ生前贈与を行う方法です。贈与税の基礎控除(年間110万円)や、相続時精算課税制度などを活用することで、一度に相続するよりも税負担を分散させることができます。ただし、贈与するタイミングや評価額の算定には専門的な知識が必要となるため、税理士への相談が不可欠です。

相続税の納税猶予制度(認定医療法人制度)

後継者が事業を継続することを前提に、一定の要件を満たすことで、相続税や贈与税の納税が猶予・免除される制度があります。これが「認定医療法人制度」です。この制度を活用することで、後継者の納税負担を大幅に軽減し、スムーズな事業承継を後押しします。

制度の概要とメリット

この制度は、出資持分のある医療法人が、厚生労働大臣の認定を受けて「認定医療法人」へ移行し、その後、相続や贈与によって後継者が出資持分を取得した場合に適用されます。最大のメリットは、認定医療法人の出資持分にかかる相続税の納税が100%猶予され、後継者が死亡するなど一定の事由に該当した場合には、その猶予された税額が全額免除される点です。

認定を受けるための主な要件

認定を受けるためには、いくつかの厳しい要件をクリアする必要があります。

要件項目 主な内容
法人運営 ・社員総会で、同族関係者の議決権割合が1/2以下であること。
・理事及び監事のうち、同族関係者の割合がそれぞれ1/3以下であること。
財産要件 ・社会保険診療等に係る収入金額が、全体の収入金額の80%を超えていること。
・遊休財産を保有していないこと。
・役員等への年間給与総額が3,600万円以下であること。

これらは主な要件の一部であり、他にも詳細な規定があります。制度の適用を検討する場合は、厚生労働省のウェブサイトを確認するか、専門家にご相談ください。

相続発生後の注意点

万が一、生前対策が間に合わずに相続が発生してしまった場合でも、知っておくべきポイントがあります。慌てずに、適切な手続きを進めましょう。

相続税の申告と納税期限

相続税の申告と納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。医療法人の出資持分の評価は複雑で時間がかかるため、できるだけ早く税理士に相談し、準備を始めることが大切です。

納税資金の確保

出資持分は現金や預金と違い、すぐに換金できる資産ではありません。しかし、相続税は原則として現金で一括納付する必要があります。高額な相続税が予想される場合は、生命保険などを活用してあらかじめ納税資金を準備しておくことが重要です。万が一、現金での納付が難しい場合は、延納物納といった制度もありますが、それぞれ厳しい要件があるため、最終手段と考えるべきでしょう。

まとめ

医療法人の相続は、「出資持分」の評価が最大のポイントです。まずはご自身の法人が「出資持分のある医療法人」なのかを確認し、現在の評価額がどのくらいになるのかを把握することから始めましょう。そして、役員退職金の活用や生前贈与、認定医療法人制度への移行など、ご自身の状況に合った対策を計画的に実行していくことが、円満な事業承継と大切な資産を守るための鍵となります。相続はいつ起こるかわかりません。少しでも不安に感じたら、相続に詳しい税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。

参考文献

相続税のあらまし|国税庁

持分の定めのない医療法人への移行に関する計画の認定制度について(認定医療法人制度)|厚生労働省

医療法人の相続税に関するよくある質問まとめ

Q.https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikumi/index.htm医療法人の出資持分は相続税の対象になりますか?

A.はい、「持分あり医療法人」の出資持分は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となります。出資持分の評価額が高額になるケースも多く、事前の対策が重要です。

Q.医療法人の相続税評価額はどのように計算されますか?

A.医療法人の出資持分の評価は、一般企業の株式評価と同様に、純資産価額方式や類似業種比準方式などを用いて計算されます。計算が複雑なため、医療法人の相続に詳しい税理士への相談が不可欠です。

Q.「持分なし医療法人」へ移行すると相続税対策になりますか?

A.はい、有効な相続税対策になります。「持分なし医療法人」には出資持分の概念がないため、法人の財産は相続税の課税対象外となります。ただし、移行には一定の要件を満たす必要があります。

Q.理事長が亡くなった場合、死亡退職金にも相続税はかかりますか?

A.はい、遺族が受け取る死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の対象となります。ただし、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠が適用され、その金額を超える部分が課税対象です。

Q.医療法人の事業承継で相続税を抑える方法はありますか?

A.計画的に「持分なし医療法人」へ移行する、生前贈与を活用する、役員退職金を活用して法人の純資産を圧縮するなどの方法があります。いずれも早期の計画と専門家との相談が成功の鍵です。

Q.相続した出資持分を放棄することはできますか?

A.出資持分だけを放棄することはできません。相続放棄をする場合は、出資持分だけでなく預貯金や不動産など他のすべての財産も放棄することになります。

事務所概要
社名
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住所
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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