「大切な財産を子どもや孫に引き継ぎたいけど、相続と贈与ってどう違うの?」
「どちらの方法がお得なの?」
そんな疑問をお持ちではありませんか?相続と贈与は、どちらも財産を誰かに渡す方法ですが、タイミングや税金の種類、手続きなどが大きく異なります。
この記事では、相続と贈与の基本的な違いから、税金、メリット・デメリットまで、わかりやすく解説します。ご自身の状況に合った最適な方法を見つけるための参考にしてくださいね。
相続と贈与の基本的な違い
まずは、相続と贈与の最も大きな違いを見ていきましょう。それは「財産をいつ渡すか」というタイミングです。このタイミングの違いが、税金や手続きなど、さまざまな違いを生み出します。
相続とは? – 亡くなった後に財産が引き継がれること
相続とは、財産を持っている方(被相続人)が亡くなったことをきっかけに、その方の財産が配偶者や子どもなどの親族(相続人)に引き継がれることです。これは法律に基づいて自動的に発生するもので、財産を渡す側・受け取る側の事前の合意は必要ありません。
贈与とは? – 生きている間に財産を渡すこと
一方、贈与とは、財産を持っている方(贈与者)が生きている間に、自分の意思で財産を誰か(受贈者)に無償で渡すことです。こちらは「あげます」「もらいます」という双方の合意(契約)があって初めて成立します。生きている間に行うことから「生前贈与」とも呼ばれますね。
一目でわかる!相続と贈与の比較表
相続と贈与の主な違いを一覧表にまとめました。まずは全体像を掴んでみましょう。
タイミング | 相続は亡くなった後、贈与は生きている間 |
当事者の合意 | 相続は不要、贈与は必要 |
財産を渡す相手 | 相続は原則として法定相続人、贈与は自由に選べる |
かかる税金 | 相続は相続税、贈贈与は贈与税 |
税金はどう違う?相続税と贈与税のポイント
財産を引き継ぐ上で最も気になるのが税金のことではないでしょうか。相続では「相続税」、贈与では「贈与税」がかかりますが、その仕組みは大きく異なります。
相続税の基礎控除 – 大きな非課税枠が魅力
相続税には、税金がかからなくなる「基礎控除」という大きな非課税枠があります。この基礎控除額は以下の式で計算されます。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、相続人が奥様とお子様2人の合計3人だった場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」となります。相続する財産の総額がこの4,800万円以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。
贈与税の基礎控除 – 毎年使える非課税枠
贈与税にも基礎控除がありますが、こちらは1年間(1月1日~12月31日)で110万円までという金額です。これは財産を受け取る人(受贈者)一人ひとりに対して適用されます。つまり、1年間に複数人から贈与を受けても、合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。この仕組みを「暦年課税」と呼びます。相続税の基礎控除と比べると金額は小さいですが、毎年コツコツと非課税で財産を移せるのが特徴です。
税率はどっちが高い?
一般的に、同じ金額の財産を受け取る場合、贈与税の方が相続税よりも税率が高く設定されています。これは、相続税対策として一度に多額の贈与が行われるのを防ぐためです。しかし、贈与税には年間110万円の基礎控除や、後述する様々な特例制度があります。これらを上手に活用することで、結果的に相続税の負担を軽くできる可能性があるのです。
誰に・何を・どう渡す?自由度の違い
「誰に財産を渡したいか」「どの財産を渡したいか」といった希望を、どの程度反映できるかにも違いがあります。
財産を渡す相手 – 相続は親族、贈与は自由
相続の場合、遺言書がなければ財産は法律で定められた法定相続人(配偶者、子、親など)に引き継がれます。内縁の妻や孫(子が健在な場合)、お世話になった方など、法定相続人以外の人に財産を渡したい場合は、遺言書を作成する必要があります。一方、贈与は契約なので、相手を自由に選べます。親族に限らず、友人やNPO法人など、誰にでも財産を渡すことが可能です。
渡す財産や分け方 – 贈与の方が希望を反映しやすい
相続では、遺言書がない場合、どの財産を誰がどれだけ受け取るかを相続人全員で話し合って決める「遺産分割協議」が必要です。この話し合いがまとまらないと、トラブルに発展することもあります。贈与であれば、生きている間に「この土地は長男に」「この預金は孫に」というように、特定の財産を特定の相手に確実に渡すことができます。渡す側の意思が明確に反映されやすいのがメリットです。
メリット・デメリットを比較!あなたに合うのはどっち?
ここまで見てきた違いを踏まえて、相続と贈与それぞれのメリットとデメリットを整理してみましょう。
相続のメリット・デメリット
メリット | ・基礎控除額が大きい ・不動産取得税がかからない ・亡くなるまで財産を自分で管理できる |
デメリット | ・財産を渡す相手や分け方が法律で制限される ・遺産分割協議でトラブルになる可能性がある ・自分の死後に手続きが行われるため、意思が反映されにくい場合がある |
贈与のメリット・デメリット
メリット | ・渡す相手、財産、タイミングを自由に決められる ・計画的に財産を移転できる(相続税対策になる) ・確実に特定の相手に財産を渡せる |
デメリット | ・税率が相続税より高い傾向にある ・不動産を贈与すると不動産取得税や登録免許税が高くなる ・贈与しすぎると自分の生活資金が不足する恐れがある |
相続税対策としての「生前贈与」活用術
贈与は、将来の相続税負担を軽減するための有効な手段です。ここでは、賢く贈与を活用する方法をいくつかご紹介します。
暦年贈与でコツコツ財産を減らす
毎年110万円の非課税枠を利用する「暦年贈与」は、最も基本的な相続税対策です。例えば、お子様2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、合計2,200万円(110万円×2人×10年)もの財産を非課税で移すことができます。ただし、注意点として、亡くなる前の一定期間内の贈与は相続財産に加算されてしまうルール(生前贈与加算)があります。2024年1月1日以降の贈与からは、この期間が死亡前3年から7年に延長されました。対策は早めに始めることが重要です。
相続時精算課税制度を検討する
「相続時精算課税制度」は、原則60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫へ贈与する際に選択できる制度です。この制度を使うと、合計2,500万円までの贈与が非課税になります。ただし、2,500万円を超えた分には一律20%の贈与税がかかり、この制度で贈与した財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算して相続税を計算します。2024年からは、この2,500万円の枠とは別に、年間110万円の基礎控除が新設され、より使いやすくなりました。この110万円以下の贈与は相続財産への加算も不要です。収益物件や将来値上がりが見込まれる財産を早めに贈与したい場合に有効な制度です。
目的に合わせた贈与税の非課税特例
特定の目的のための贈与には、大きな非課税枠が用意されています。これらを活用するのも良い方法です。
- 住宅取得等資金の贈与: 子や孫がマイホームを取得するための資金贈与。省エネ等住宅なら最大1,000万円まで非課税(2026年12月31日まで)。
- 教育資金の一括贈与: 30歳未満の子や孫への教育資金の一括贈与。最大1,500万円まで非課税(2026年3月31日まで)。
- 結婚・子育て資金の一括贈与: 18歳以上50歳未満の子や孫への結婚・子育て資金の一括贈与。最大1,000万円まで非課税(2027年3月31日まで)。
これらの特例にはそれぞれ細かい要件があるため、利用する際は専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
相続と贈与は、どちらも大切な財産を引き継ぐための方法ですが、その特徴は大きく異なります。
- 相続は、亡くなった後に法律に基づいて財産が引き継がれる方法で、基礎控除額が大きいのが特徴です。
- 贈与は、生きている間に自分の意思で財産を渡す方法で、相手やタイミングを自由に選べるのがメリットです。
一般的に税率は贈与税の方が高めですが、年間110万円の非課税枠や様々な特例制度を計画的に利用することで、将来の相続税の負担を大きく減らせる可能性があります。
ご自身の財産状況や家族構成、そして「誰に、いつ、何を渡したいか」という想いを基に、最適な方法を検討することが大切です。どちらの方法が良いか迷ったときや、具体的な手続きを進めたいときは、税理士などの専門家に相談してみることをお勧めします。
参考文献
相続と贈与のよくある質問まとめ
Q.相続と贈与の最大の違いは何ですか?
A.財産を渡すタイミングです。財産を渡す人が生きているうち(生前)に行うのが「贈与」、亡くなった後に行われるのが「相続」です。
Q.相続税と贈与税、どちらの税金が高いですか?
A.一般的に、同じ金額であれば贈与税の方が税率は高くなります。ただし、年間110万円までの贈与が非課税になる「暦年贈与」など、様々な特例制度を活用することで税負担を抑えることも可能です。
Q.手続きはどちらが簡単ですか?
A.ケースによりますが、贈与は財産をあげる人ともらう人の間の契約で完結します。一方、相続は遺言書がなければ相続人全員での話し合い(遺産分割協議)が必要になり、手続きが複雑になることがあります。
Q.生前贈与にはどんなメリットがありますか?
A.渡したい相手に、渡したいタイミングで、確実に財産を渡せるのが最大のメリットです。また、計画的に行うことで将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できる可能性もあります。
Q.不動産の場合、相続と贈与でかかる費用は違いますか?
A.はい、異なります。不動産の名義変更時にかかる登録免許税は、相続の方が贈与よりも税率が低く設定されています。また、贈与の場合は不動産取得税もかかりますが、相続ではかかりません。
Q.結局、相続と贈与どちらを選べばいいですか?
A.どちらが良いかは、財産の額、家族構成、ご自身の意向などによって異なります。将来のトラブルを避けたい、特定の人に財産を渡したいなど明確な目的がある場合は、生前贈与が有効な選択肢になります。