生前贈与とは?相続との違いをわかりやすく解説
「生前贈与」という言葉、よく耳にするけど、具体的にどんな制度なのでしょうか?簡単に言うと、生前贈与は「生きているうちに、自分の財産を誰かに無償で譲ること」を指します。一方で、「相続」は「亡くなった後に、財産が法律で定められた相続人に引き継がれること」です。財産を渡すタイミングが「生きている間」か「亡くなった後」か、という点が大きな違いですね。
生前贈与をうまく活用すると、将来の相続税を軽くできる可能性があるため、相続対策として注目されています。ただし、やり方を間違えると、かえって多くの税金を支払うことにもなりかねません。まずは、生前贈与の基本となる2つの課税制度について知っておきましょう。
生前贈与の2つの柱「暦年課税」と「相続時精算課税」
生前贈与には、主に2つの課税ルールがあり、どちらかを選ぶことになります。それぞれの特徴を理解することが、お得な生前贈与への第一歩です。
制度名 | 暦年課税 |
非課税枠 | 年間110万円まで。もらった人一人ひとりに対する金額です。 |
特徴 | 毎年コツコツ贈与することで、非課税で多くの財産を移せます。最も一般的な方法です。 |
注意点 | 贈与した人が亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に加算されて相続税の対象になります。(※2024年1月1日以降の贈与から適用) |
制度名 | 相続時精算課税 |
非課税枠 | 生涯で2,500万円まで。さらに2024年からは年間110万円の基礎控除が新設されました。 |
特徴 | 一度にまとまった金額を贈与したい場合に有効です。新設された年間110万円の控除分は、相続財産に加算されず、申告も不要です。 |
注意点 | 一度選択すると、同じ人からの贈与について暦年課税に戻すことはできません。2,500万円の特別控除を使った分は、すべて相続財産に加算して相続税を計算します。 |
生前贈与のメリットは?
生前贈与がなぜ相続対策として選ばれるのでしょうか。ここからは、生前贈与ならではの具体的なメリットを3つご紹介します。
相続税の節税効果が期待できる
最大のメリットは、やはり相続税の節税です。暦年課税の年間110万円の非課税枠を使って、長い期間をかけて子どもや孫に贈与を続ければ、将来の相続財産を大きく減らすことができます。相続税には「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という基礎控除額がありますが、財産がこれを上回る場合、生前贈与による対策がとても有効になります。例えば、子ども2人、孫2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、合計で4,400万円(110万円×4人×10年)もの財産を非課税で移すことができ、将来の相続税負担を大きく軽減できる可能性があるのです。
渡したい人に、確実に財産を渡せる
相続では、遺言書がないと法律で定められた割合で財産が分けられます。そのため、「この財産は長男に」「あのお店は事業を継ぐ次女に」と考えていても、他の相続人との話し合いがうまくいかず、思い通りにならないことも少なくありません。これが「争族」の原因になることも…。
その点、生前贈与は、自分の意思で「誰に」「どの財産を」「いつ」渡すかを決められます。生きている間に直接手渡すことで、自分の想いも伝えやすく、相続時のトラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
渡すタイミングを自由に選べる
子どもや孫のライフイベントに合わせて、必要なタイミングで資金援助できるのも大きなメリットです。例えば、「結婚式の費用」「マイホームの頭金」「子どもの教育資金」など、まとまったお金が必要になるタイミングは誰にでもありますよね。生前贈与なら、そうした一番助けが必要な時に、タイミングよく財産を渡すことができます。
また、株式や不動産など、将来価値が上がることが予想される財産を、価値が低いうちに贈与しておくという戦略も有効です。贈与した後に価値が上がっても、相続財産として計算されるのは贈与時点の価値なので、結果的に相続税を抑えることにつながります。
生前贈与のデメリット・注意点
いいことずくめに見える生前贈与ですが、もちろん注意すべき点もあります。デメリットもきちんと理解して、慎重に計画を進めましょう。
贈与税の税率は相続税より高い
暦年贈与で年間110万円を超えて贈与した場合、「贈与税」がかかります。この贈与税の税率は、相続税の税率よりも高く設定されています。一度に大きな金額を贈与すると、高額な税金を支払うことになり、かえって損をしてしまう可能性があります。計画的に少しずつ贈与することが大切です。
死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算される(生前贈与加算)
2024年1月1日からの税制改正で、このルールが大きく変わりました。以前は亡くなる前「3年以内」の贈与が相続財産への加算対象でしたが、これが「7年以内」に延長されたのです。これにより、亡くなる直前に急いで贈与する「駆け込み贈与」での節税が難しくなりました。生前贈与を考えるなら、より一層、元気なうちから早めに計画を立てて始めることが重要になっています。
ただし、延長された4年間の贈与については、合計100万円までは加算対象から控除されるという経過措置が設けられています。
「名義預金」とみなされるリスク
良かれと思って、子どもや孫の名前で銀行口座を作り、内緒でコツコツお金を貯めてあげている、というケースはありませんか?実はこれ、税務署から「名義預金」と判断される可能性が高いです。「名義預金」とは、口座の名義は子どもでも、実質的な管理・支配は親がしている預金のことで、贈与とは認められず、亡くなった方の相続財産として扱われてしまいます。
贈与として認めてもらうためには、毎年「贈与契約書」を作成したり、通帳や印鑑はもらった本人が管理したりするなど、「あげた」「もらった」という双方の合意と事実を明確にしておくことが大切です。
不動産の贈与は税金が高額になりやすい
現金だけでなく、家や土地などの不動産も生前贈与できますが、税金面で注意が必要です。不動産を贈与すると、贈与税だけでなく、「不動産取得税」と「登録免許税」がかかります。特に、相続の場合はかからない不動産取得税が課され、登録免許税の税率も相続の場合より高くなるため、税金の負担が重くなりがちです。
税金の種類 | 生前贈与の場合 |
登録免許税 | 固定資産税評価額の2.0% |
不動産取得税 | 原則課税(固定資産税評価額の3%など) |
税金の種類 | 相続の場合 |
登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% |
不動産取得税 | 非課税 |
節税効果大!生前贈与で使える4つの非課税制度
暦年贈与のほかにも、特定の目的のためであれば大きな金額を非課税で贈与できる特例制度があります。条件に当てはまる場合は、ぜひ活用を検討してみてください。
夫婦間の居住用不動産の贈与(おしどり贈与)
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、住んでいる家や、これから住む家を購入するためのお金を贈与する場合に使える制度です。最高2,000万円まで贈与税がかかりません。暦年贈与の110万円の基礎控除と併用できるので、最大で2,110万円まで非課税で贈与することが可能です。
教育資金の一括贈与
30歳未満の子どもや孫に対して、教育資金として使う目的で一括して贈与する場合、1,500万円までが非課税になります。(※塾や習い事など学校以外への支払いは500万円が上限)この制度を利用するには、金融機関で専用の口座を開設する必要があります。この特例は2026年3月31日までの期間限定の制度です。
結婚・子育て資金の一括贈与
18歳以上50歳未満の子どもや孫に、結婚や子育て(出産、育児など)に使うためのお金を一括で贈与する場合、1,000万円までが非課税となります。(※結婚に関する資金は300万円が上限)こちらも教育資金と同様に、金融機関での手続きが必要です。この特例は2025年3月31日までの制度となっています。
住宅取得等資金の贈与
子どもや孫がマイホームを新築・購入・リフォームするための資金を贈与する場合に使える制度です。省エネ性能などが高い質の良い住宅であれば1,000万円まで、それ以外の住宅の場合は500万円までが非課税となります。この特例は2026年12月31日まで適用されます。
結局、生前贈与と相続はどっちが得なの?
ここまで見てきたように、生前贈与と相続にはそれぞれメリット・デメリットがあります。どちらが得かは、その人の財産状況や家族構成、そして「何をしたいか」によって変わってきます。
生前贈与が得になるケース
- 相続税がかかることが確実で、税率が高くなりそうな方
早めに贈与を始めることで、相続財産を圧縮し、トータルの税負担を減らせる可能性が高いです。 - 将来、価値が大きく上がりそうな財産(株式や不動産など)をお持ちの方
価値が低いうちに贈与することで、将来の相続税評価額の上昇を避けられます。 - 特定の誰かに、確実に財産を渡したいと考えている方
相続時のトラブルを避け、自分の意思を確実に実現できます。 - 健康で、長期的な計画が立てられる若い方
7年の生前贈与加算の期間を考慮しても、時間をかければ大きな節税効果が期待できます。
相続の方が得になるケース
- 相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を下回る方
そもそも相続税がかからないため、無理に生前贈与をする必要はありません。 - 自宅などの不動産を配偶者や同居の子どもに引き継がせたい方
相続なら「小規模宅地等の特例」が使える可能性があり、土地の評価額を最大80%も減額できます。生前贈与ではこの特例は使えません。 - 高齢で、贈与を始めてから7年以内に相続が発生する可能性が高い方
生前贈与加算によって、贈与した財産が相続財産に戻されてしまい、節税効果がなくなってしまいます。
まとめ
「生前贈与は得か、損か」という問いに対する答えは、「人による」というのが正直なところです。財産が多く相続税の心配がある方にとっては、計画的に行えば非常に「得」な制度です。一方で、相続税がかからない方や、不動産の承継を考えている方にとっては、何もしないで「相続」を待つ方が有利な場合もあります。
2024年の税制改正により、特に生前贈与加算の期間が7年に延長されたことで、「早めに、そして計画的に」対策を始めることの重要性が増しています。ご自身の財産やご家族のことを一度じっくりと考え、どの方法が最適かを見極めることが大切です。もし判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
参考文献
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
生前贈与の損得に関するよくある質問まとめ
Q.生前贈与の最大のメリットは何ですか?
A.将来の相続税負担を軽減できる可能性がある点です。相続財産を前もって減らすことで、適用される税率を下げられる場合があります。また、自分の意思で、渡したい相手に、渡したいタイミングで財産を確実に渡せることも大きなメリットです。
Q.生前贈与はいくらまでなら税金がかからないのですか?
A.暦年贈与の場合、1人あたり年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。この非課税枠を毎年活用することで、無税で計画的に財産を移転させることが可能です。
Q.生前贈与が逆に損になるケースはありますか?
A.はい、あります。例えば、もともと相続税がかからないご家庭の場合、生前贈与をすることで不動産取得税や登録免許税などが余計にかかり、損になることがあります。また、亡くなる直前の贈与は相続財産に加算されるため節税効果がなくなる場合もあります。
Q.相続と生前贈与、結局どちらが得ですか?
A.一概には言えませんが、相続財産が多く高い相続税率が適用される見込みの場合は、生前贈与を計画的に行う方が得になることが多いです。一方、相続財産が基礎控除額以下の場合は、何もしない方がコストを抑えられる可能性があります。
Q.2024年から制度が変わって損になったと聞きましたが本当ですか?
A.一概に損になったわけではありません。亡くなる前の贈与が相続財産に加算される期間が「3年」から「7年」に延長され、早くから対策が必要になりました。一方で「相続時精算課税制度」に年間110万円の非課税枠が新設され、活用しやすくなった面もあります。
Q.生前贈与を始める前に注意すべきことは何ですか?
A.贈与の証拠として「贈与契約書」を作成することが重要です。また、贈与されたお金はもらった人が自由に使える状態でなければなりません。親が通帳や印鑑を管理する「名義預金」とみなされると、贈与が認められないため注意が必要です。