ご家族が亡くなられたとき、「うちの場合は相続税がかかるのかな?」と不安に思われる方は少なくありません。実は、相続税がかかるかどうかは、ご自身である程度試算することができます。この記事では、専門的な言葉をなるべく使わずに、相続税がかかるかどうかの試算方法をわかりやすく解説していきますね。手順に沿って一緒に確認していきましょう。
そもそも相続税ってどんな税金?
相続税は、亡くなられた方(被相続人といいます)から財産を受け継いだときにかかる税金のことです。ただし、財産を相続したすべての人にかかるわけではありません。亡くなった方の遺産の総額が、法律で定められた「基礎控除額」という非課税の枠を超える場合にのみ、申告と納税の義務が発生します。
相続税の対象になる財産・ならない財産
相続税の計算をするためには、まずどのような財産が対象になるかを知ることが大切です。預貯金や不動産といったプラスの財産はもちろん、生命保険金なども「みなし相続財産」として対象に含まれます。一方で、借金などのマイナスの財産は差し引くことができますし、お墓のように課税対象にならない財産もあります。主なものを表にまとめました。
相続税の対象になる財産(プラスの財産) | 現金、預貯金、不動産(土地・建物)、有価証券(株式・投資信託など)、自動車、貴金属、生命保険金、死亡退職金、亡くなる前3~7年以内の贈与財産など |
相続財産から差し引けるもの(マイナスの財産) | 借入金、未払いの税金や医療費、葬儀費用など |
相続税の対象にならない財産(非課税財産) | お墓、仏壇、仏具などの祭祀財産、国や特定の公益法人への寄付金など |
生命保険金や死亡退職金には、「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠がありますので、全額が課税対象になるわけではありません。
相続税の申告が必要な人の割合
「相続税ってお金持ちがかかるものでしょう?」というイメージがあるかもしれませんが、実はそうとも限りません。国税庁の発表によると、令和4年中に亡くなられた方のうち、相続税の課税対象となったのは約9.6%でした。これは、およそ10人に1人が相続税の申告をしている計算になります。2015年に基礎控除額が引き下げられたことで、以前よりも相続税が身近な税金になっているんですよ。
申告と納税の期限は10か月
もし相続税の申告が必要になった場合、とても大切な期限があります。それは、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。この10か月という期間内に、相続人の確定、財産の調査と評価、遺産分割協議、そして相続税の申告と納税まで、すべてを完了させる必要があります。思ったより時間がありませんので、早めに準備を始めることがとても重要です。
相続税がかかるかどうかの試算ステップ
それでは、実際に相続税がかかるかどうかを試算する手順を見ていきましょう。大きく分けて3つのステップで確認できます。ご自身の状況に当てはめながら、計算してみてくださいね。
ステップ1:誰が相続人になるか確認する(法定相続人の確定)
最初に、誰が財産を相続する権利を持つ人(法定相続人)なのかを確定させます。法定相続人の人数は、次のステップで計算する「基礎控除額」に直接影響するため、とても重要です。
法律で定められた相続人には優先順位があります。
- 常に相続人:配偶者(夫または妻)
- 第1順位:子(子が既に亡くなっている場合は孫)
- 第2順位:親(親が既に亡くなっている場合は祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は甥・姪)
上の順位の人が一人でもいれば、それより下の順位の人は相続人にはなりません。例えば、亡くなった方に配偶者と子がいれば、その方たちが相続人となり、親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。まずは、法定相続人が何人になるかを確認しましょう。
ステップ2:相続財産の総額を計算する
次に、亡くなられた方が残した財産の総額を計算します。これは、先ほどご紹介した「相続税の対象になる財産」から「差し引けるもの」を引いた金額で、「正味の遺産額」とも呼ばれます。
計算式:プラスの財産の合計額 - マイナスの財産の合計額 = 相続財産の総額
預貯金は通帳の残高、不動産は固定資産税評価額(市町村から送られてくる納税通知書に記載)などをおおよその目安として計算してみましょう。正確な評価は難しいものもありますが、まずは大まかな金額を把握することが目的です。
ステップ3:基礎控除額を計算して比較する
最後のステップです。ここで、相続税がかかるかどうかのボーダーラインとなる「基礎控除額」を計算します。この金額が、いわば相続税の非課税枠です。
基礎控除額の計算式:3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が「配偶者と子2人」の合計3人だった場合、基礎控除額は以下のようになります。
3,000万円 + (600万円 × 3人) = 4,800万円
そして、ステップ2で計算した「相続財産の総額」と、この「基礎控除額」を比較します。
- 相続財産の総額 ≦ 基礎控除額 → 相続税はかからない(原則、申告も不要)
- 相続財産の総額 > 基礎控除額 → 相続税がかかる可能性が高い(申告が必要)
この比較によって、ご自身のケースで相続税の申告が必要かどうか、大まかに判断することができます。
相続税額の概算を知るための早見表
試算の結果、遺産総額が基礎控除額を超えそうな場合、次に気になるのは「いったい、いくらくらいの税金がかかるの?」ということですよね。ここでは、おおよその相続税額がわかる早見表をご紹介します。
※この表は、法定相続分で遺産を分割し、「配偶者の税額軽減」を適用したと仮定した概算の税額(相続人全員の合計額)です。
相続人が「配偶者と子」の場合
遺産総額(課税価格) | 子1人 (相続税額) |
5,000万円 | 40万円 |
7,000万円 | 160万円 |
1億円 | 385万円 |
1.5億円 | 920万円 |
2億円 | 1,670万円 |
相続人が「子のみ」の場合
遺産総額(課税価格) | 子1人 (相続税額) |
5,000万円 | 160万円 |
7,000万円 | 480万円 |
1億円 | 1,220万円 |
1.5億円 | 2,860万円 |
2億円 | 4,860万円 |
早見表を見るときの注意点
この早見表は、あくまで一般的なケースでの目安です。実際の相続税額は、土地の評価額や、誰がどの財産をどれだけ相続するか(遺産分割の内容)によって大きく変わります。特に、配偶者がいる場合は「配偶者の税額軽減」という非常に大きな特例を使えるため、税額が0円になることも珍しくありません。正確な金額を知りたい場合は、専門家への相談をおすすめします。
相続税を抑えるための主な特例や控除
遺産総額が基礎控除額を超えてしまっても、諦める必要はありません。相続税には税額を大きく軽減できる特例や控除が用意されています。ただし、これらの特例を適用するためには、たとえ納税額が0円になる場合でも、必ず期限内に相続税の申告を行う必要があります。代表的なものを2つご紹介しますね。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
これは、配偶者のための非常に強力な制度です。配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。多くのケースで、この特例を使うことで配偶者の相続税は0円になります。ただし、次にその配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)のことまで考えると、一次相続でこの特例を最大限使うことが必ずしも得策とは限らない場合もあるため、慎重な検討が必要です。
小規模宅地等の特例
亡くなられた方が住んでいたご自宅の土地や、事業で使っていた土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額できるという特例です。例えば、5,000万円と評価される土地が1,000万円の評価額で計算できるようになるため、相続税を大幅に減らす効果があります。しかし、適用するための要件が非常に細かく複雑なため、利用できるかどうかは専門家の判断を仰ぐのが確実です。
試算の結果、相続税がかかりそうな場合の対処法
ご自身での試算の結果、「どうやら相続税がかかりそうだ」とわかったら、次に何をすればよいのでしょうか。慌てずに、以下のステップに進みましょう。
正確な財産評価を行う
まずは、より正確な財産の価値を把握することが大切です。預貯金や上場株式は金額がはっきりしていますが、特に難しいのが不動産(土地)の評価です。土地の評価は、路線価や固定資産税評価額をもとに、土地の形や立地条件などを考慮して複雑な計算を行います。この評価額次第で相続税額が大きく変わるため、相続税申告の中でも最も専門性が問われる部分です。
税理士に相談する
相続税の計算や申告手続きは、税金の中でも特に複雑で専門的です。財産の評価、特例適用の判断、申告書の作成など、一般の方がご自身で行うのは大変な労力がかかりますし、計算ミスや申告漏れのリスクも伴います。相続税がかかりそうだと判断されたら、相続を専門とする税理士に相談するのが最も安心で確実な方法です。適切な節税方法を提案してくれたり、将来の税務調査のリスクを減らしたりといったメリットもありますよ。
まとめ
今回は、ご自身で相続税がかかるかどうかを試算する方法について解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 相続税がかかるかの判断は、「相続財産の総額」が「基礎控除額」を超えるかどうかで決まります。
- 基礎控除額の計算式は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。
- 基礎控除額を超えても、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などを使えば、税額を大幅に抑えられる可能性があります。
- これらの特例を適用するためには、納税額が0円でも必ず10か月以内に申告が必要です。
- 正確な計算や手続きに不安がある場合は、無理をせず相続専門の税理士に相談しましょう。
相続は、誰にとっても経験する機会が少ない出来事です。不安なことやわからないことがあれば、一人で抱え込まずに専門家の力を借りることも考えてみてくださいね。
参考文献
相続税の試算に関するよくある質問まとめ
Q.相続税は、遺産がいくらからかかるのですか?
A.相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される基礎控除額があります。遺産の総額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税はかからず、申告も不要です。
Q.自分で簡単に相続税がかかるか試算する方法はありますか?
A.はい、あります。まず、プラスの財産(預貯金、不動産など)からマイナスの財産(借金など)を差し引いて遺産の総額を算出します。その金額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、相続税はかかりません。
Q.法定相続人とは誰のことですか?
A.法律で定められた遺産を相続する権利のある人のことです。亡くなった方の配偶者は常に相続人となり、それ以外は子、親、兄弟姉妹の順で優先順位が決まっています。
Q.生命保険金も相続税の対象になりますか?
A.はい、対象になります。ただし、「500万円×法定相続人の数」までは非課税で受け取れます。この非課税枠を超える部分が相続税の課税対象となります。
Q.配偶者が遺産を相続する場合、税金は優遇されますか?
A.はい、「配偶者の税額軽減」という特例があります。配偶者が相続した遺産が、法定相続分または1億6,000万円のどちらか多い金額までであれば、相続税はかかりません。
Q.相続税の申告はいつまでに行う必要がありますか?
A.相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。期限を過ぎるとペナルティが発生する場合があります。