ご家族が亡くなられた後、避けては通れないのが相続税の申告です。その計算の基礎となるのが、故人が遺した財産の評価です。この評価を正しく行わないと、本来より高い税金を納めてしまったり、逆に少なく申告して後から追徴課税されたりする可能性も。この記事では、相続における財産の評価方法について、財産の種類ごとに分かりやすく解説していきますね。
財産評価の基本ルール
まず、相続財産をいつの時点で評価するのか、という基本から押さえておきましょう。原則として、相続開始日(被相続人が亡くなった日)の「時価」で評価することになっています。時価というと難しく聞こえるかもしれませんが、これは「その財産をその日に売ったらいくらになるか」という客観的な価値のことです。しかし、財産によっては時価の判断が難しいものもありますよね。そのため、国税庁が「財産評価基本通達」という評価方法のルールを定めており、実務上はこの通達に従って評価額を計算していくことになります。
不動産の評価方法
相続財産の中でも特に大きな割合を占めることが多いのが、土地や建物といった不動産です。不動産の評価は少し複雑ですが、基本的な方法を知っておくと安心ですよ。
土地の評価方法
土地の評価方法は、その土地がどこにあるかによって、主に2つの方法に分かれます。
路線価方式 | 市街地にある宅地の多くで使われる方法です。道路に面した土地1平方メートルあたりの価格である「路線価」を基に計算します。路線価は国税庁のホームページで確認できますよ。計算の基本は「路線価 × 土地の面積」ですが、土地の形(間口が狭い、奥行きが長いなど)に応じて補正計算が行われます。 |
倍率方式 | 路線価が定められていない郊外や農地、山林などで使われる方法です。計算は比較的シンプルで、「固定資産税評価額 × 国が定める倍率」で評価額を算出します。固定資産税評価額は、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書で確認できます。 |
建物の評価方法
ご自宅やアパートなどの建物は、土地とは別に評価します。建物の評価はとてもシンプルで、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。土地の評価で使う固定資産税評価額と同じく、納税通知書で金額を確認してくださいね。
マンションの評価方法
分譲マンションの場合は、「建物(専有部分)」と「土地(敷地利用権)」に分けて評価し、それらを合計します。建物の評価は一戸建てと同じく固定資産税評価額です。土地は、マンション全体の土地の評価額に、ご自身の持分(敷地権の割合)を掛けて計算します。
ただし、2024年1月1日以降の相続から、いわゆる「タワーマンション節税」を防ぐための新しい評価方法が導入されました。市場価格と評価額の乖離が大きいマンションは評価額が従来より高くなる可能性があるため、注意が必要です。
賃貸不動産の評価方法
ご自身が住んでいるのではなく、人に貸している土地や建物は、利用が制限されるため評価額が低くなります。これを活用した相続税対策もよく行われます。
- 貸家建付地(アパートなどが建つ土地):ご自身で使う土地(自用地)の評価額から、一定の割合が減額されます。計算式は「自用地評価額 × (1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」となります。
- 貸家(賃貸アパートの建物):建物の固定資産税評価額から、借家権割合分が減額されます。計算式は「固定資産税評価額 × (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)」です。
金融資産の評価方法
現金や預貯金、株式などの金融資産は、多くの方がお持ちの財産ですね。それぞれの評価方法を見ていきましょう。
現金・預貯金の評価方法
現金や預貯金の評価は比較的わかりやすいです。
現金 | 亡くなった日に手元にあった現金の額面がそのまま評価額になります。いわゆるタンス預金も相続財産ですので、申告漏れのないようにしましょう。 |
普通預金 | 亡くなった日の預金残高が評価額です。金融機関で「残高証明書」を発行してもらうことで正確な金額を確認できます。 |
定期預金 | 亡くなった日の預金残高に、その日までに発生した利息(既経過利息)から源泉所得税を差し引いた額を加えた金額が評価額となります。 |
注意点として、ご家族名義の口座でも、実質的に亡くなった方が管理・積立をしていた預金(名義預金)は、被相続人の財産として扱われるので気を付けてくださいね。
上場株式の評価方法
上場している株式は、株価が日々変動します。そのため、相続税の負担が不公平にならないよう、以下の4つの価格のうち最も低いものを選んで評価することができます。
- 相続開始日(亡くなった日)の終値
- 相続開始月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始月の前月の毎日の終値の月平均額
- 相続開始月の前々月の毎日の終値の月平均額
この中で一番有利な価格を選べるのは、納税者にとって嬉しい仕組みですね。
生命保険金の評価方法
故人が保険料を負担していた生命保険金は、本来の相続財産ではありませんが、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。ただし、遺された家族の生活保障という側面から、非課税枠が設けられています。
非課税限度額は「500万円 × 法定相続人の数」で計算できます。たとえば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人なら、500万円×3人=1,500万円までが非課税となります。
その他の財産の評価方法
不動産や金融資産以外にも、様々な財産があります。代表的なものの評価方法をまとめました。
財産の種類 | 評価方法 |
自動車 | 原則として、亡くなった日時点での売買実例価額や、中古車買取業者などの査定額を参考に評価します。 |
ゴルフ会員権 | 取引相場のある会員権は、亡くなった日時点の取引価格の70%で評価します。 |
書画・骨董品 | 売買実例があるものはその価格、ない場合は専門家(精通者)の意見などを参考に評価します。 |
家庭用財産 | 家具や家電、衣類などは、原則として個別に評価します。ただし、一つあたりの価額が5万円以下のものは「家財一式」としてまとめて評価することが認められています。 |
評価額を下げられる特例
相続財産の評価額を大きく下げることができる特例もあります。適用できれば節税効果が非常に高いので、ぜひ知っておきましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合に、その土地の評価額を最大で80%も減額できる非常に強力な制度です。たとえば、評価額が5,000万円の土地なら、80%減額で1,000万円として相続税を計算できます。ただし、誰が相続するか、面積の上限など、適用要件が細かく定められているため、専門家への相談が不可欠です。
配偶者居住権
2020年4月から始まった制度で、配偶者が亡くなった後も、残された配偶者が無償で自宅に住み続けられる権利です。この配偶者居住権も財産として評価され、その分、所有権の評価額は低くなります。遺産分割の選択肢の一つとして知っておくと良いでしょう。
まとめ
ここまで見てきたように、財産の評価方法は種類によって様々で、特に不動産の評価は専門的な知識が必要です。相続税の申告は、この財産評価がすべての基礎となります。正確な評価を行うことが、適切な納税と、使える特例を漏らさず適用することによる節税に繋がります。ご自身での判断が難しい場合や、財産の種類が多い場合は、無理をせず相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。大切な財産をきちんと次世代に引き継ぐためにも、正しい評価方法を理解しておきましょう。
参考文献
国税庁 No.4602 土地家屋の評価
国税庁 No.4124相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
財産の評価方法に関するよくある質問まとめ
Q.財産の評価はなぜ必要ですか?
A.相続税や贈与税を計算する際に、課税対象となる財産の価値を正確に算出するために必要です。税額は財産の評価額に基づいて決まります。
Q.土地の評価方法にはどのようなものがありますか?
A.主に「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外の地域は固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる倍率方式で評価します。
Q.預貯金の評価はどのように行いますか?
A.相続開始日(亡くなった日)の預入残高で評価します。定期預金などは、相続開始日までの経過利息(源泉徴収税額を差し引いた額)も加算します。
Q.上場株式の評価方法を教えてください。
A.相続開始日の終値など4つの価格のうち、最も低い価格を選択して評価します。具体的には、①相続開始日の終値、②その月の終値の月平均額、③前月の終値の月平均額、④前々月の終値の月平均額の4つです。
Q.生命保険金はどのように評価されますか?
A.被相続人が保険料を負担していた生命保険金は「みなし相続財産」として扱われます。ただし、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
Q.財産評価基本通達とは何ですか?
A.国税庁が定めた、相続税や贈与税の計算における財産評価の具体的な方法や基準をまとめたものです。公平な課税を実現するための統一的なルールです。