ご家族が亡くなられた後、待っているのが相続人全員での遺産分割協議です。どの財産を誰が、どのように引き継ぐのかを決める大切な話し合いですが、実はこの「分け方」次第で、納める相続税の額が大きく変わることがあるのをご存知でしたか?この記事では、遺産分割の基本的な4つの方法と、それぞれの税務上のメリット・デメリット、そして損をしないための特例について、わかりやすく解説していきます。
遺産分割の基本的な4つの方法
遺産分割協議で財産を分ける際には、主に4つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、ご自身の状況に最も合った方法を選ぶことが、円満で有利な相続への第一歩です。まずは、どのような方法があるのか見ていきましょう。
現物分割(げんぶつぶんかつ)
現物分割は、最もシンプルで一般的な分割方法です。「この土地と建物は長男に」「この預貯金は長女に」「この株式は配偶者に」というように、遺産をそのままの形で、それぞれの相続人に分配します。手続きが比較的簡単で、財産を売却する必要がないため、譲渡所得税などがかからないのが大きなメリットです。ただし、財産の価値がそれぞれ異なるため、相続人間で完全に公平に分けるのが難しいという側面もあります。
代償分割(だいしょうぶんかつ)
代償分割は、特定の相続人が法定相続分を超える価値の財産(例えば、事業で使っていた土地や自宅など)を相続する代わりに、他の相続人に対してその超えた分を現金などで支払う方法です。これにより、分けにくい不動産などを売却せずに済み、相続人間の公平性を保つことができます。ただし、財産を取得する相続人に、他の相続人へ支払うための十分な資力(代償金)が必要になります。
換価分割(かんかぶんかつ)
換価分割とは、不動産や株式などの遺産をすべて売却して現金に換え、その現金を相続人間で分配する方法です。金額で明確に分けられるため、最も公平な分割方法と言えるでしょう。相続人の中にその財産を必要としている人がいない場合や、公平性を最優先したい場合に適しています。ただし、財産を売却する際に仲介手数料などの費用がかかるほか、売却益に対して譲渡所得税が課税される可能性がある点に注意が必要です。
共有分割(きょうゆうぶんかつ)
共有分割は、一つの不動産などを複数の相続人の共有名義にする方法です。例えば、実家を兄弟2人の共有名義で相続する、といったケースがこれにあたります。一見、平等な分割方法に見えますが、将来的にその不動産を売却したり、賃貸に出したりする際に、共有者全員の同意が必要になるなど、後々のトラブルの原因になりやすいという大きなデメリットがあります。また、共有者の誰かが亡くなると、さらにその相続人が権利を引き継ぎ、権利関係がどんどん複雑になってしまうリスクがあるため、基本的には避けるべき方法とされています。
各分割方法のメリット・デメリットまとめ
ここまでご紹介した4つの分割方法のメリットとデメリットを、わかりやすく表にまとめました。ご自身の状況と照らし合わせながら、どの方法が最適か考えてみましょう。
分割方法 | メリットとデメリット |
現物分割 | 【メリット】 ・手続きがシンプルで費用が少ない ・財産をそのままの形で残せる ・譲渡所得税がかからない 【デメリット】 ・相続分通りに公平に分けるのが難しい |
代償分割 | 【メリット】 ・分けにくい財産(不動産など)を維持できる ・相続人間の公平を保てる 【デメリット】 ・財産を取得する人に代償金を支払う資力が必要 |
換価分割 | 【メリット】 ・金額で分けるため、最も公平性が高い ・不要な財産を現金化できる 【デメリット】 ・売却に手間や費用(仲介手数料など)がかかる ・売却益に譲渡所得税がかかる場合がある |
共有分割 | 【メリット】 ・とりあえず分割を完了させることができる 【デメリット】 ・将来の売却や活用に共有者全員の同意が必要 ・権利関係が複雑化し、トラブルの原因になりやすい |
税務上の有利不利①:小規模宅地等の特例
相続税の計算において、最もインパクトの大きい特例の一つが「小規模宅地等の特例」です。これは、亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす相続人が取得した場合に、その土地の評価額を最大80%も減額できるという非常に強力な制度です。
例えば、5,000万円と評価される土地があった場合、この特例を使えれば評価額が1,000万円となり、相続税額を大幅に抑えることができます。この特例を最大限に活用するためには、特例の適用要件を満たす相続人が、その土地を現物分割または代償分割で取得するのが最も有利です。
換価分割や共有分割では、適用が受けられなかったり、減額効果が小さくなったりする可能性があるため、ご自宅などの不動産を相続財産に含む場合は、分割方法を慎重に検討する必要があります。
税務上の有利不利②:配偶者の税額軽減
「配偶者の税額軽減」も、相続税を大きく左右する重要な特例です。これは、亡くなった方の配偶者が遺産を相続した場合、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、相続税がかからないという制度です。
この特例があるため、多くのケースで配偶者は相続税を納める必要がありません。しかし、注意したいのが「二次相続」です。二次相続とは、今回相続した配偶者が将来亡くなった時の相続のことです。一次相続で配偶者が多くの財産を相続しすぎると、二次相続の際に子供たちの相続税負担が非常に重くなってしまう可能性があります。
この特例はどの分割方法でも適用できますが、目先の相続税だけでなく、次の相続まで見据えて、配偶者がどの財産をどれくらい取得するのが最適かを考えることが、家族全体での納税額を抑えるポイントになります。
税務上の有利不利③:相続税の取得費加算の特例
相続した財産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、通常は所得税や住民税がかかります。しかし、相続税を納めた人が、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内にその相続財産を売却した場合には、納めた相続税の一部を売却時の経費(取得費)に加算できる「取得費加算の特例」があります。
この特例は、特に換価分割を行う際に非常に重要になります。換価分割では財産を売却するため、譲渡所得税が発生する可能性がありますが、この特例を使うことで税負担を軽減できるのです。遺産分割協議が長引いてしまい、売却が期限を過ぎてしまうとこの特例は使えなくなってしまうため、換価分割を検討する場合は、スケジュール管理が大切になります。
まとめ
遺産分割には「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つの方法があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。そして、どの分割方法を選ぶかによって、「小規模宅地等の特例」や「取得費加算の特例」の適用が変わり、最終的な納税額に大きな差が出ることがあります。
円満な分割はもちろん大切ですが、同時に税務上の有利不利もしっかりと考慮することが、家族の大切な財産を守ることにつながります。財産の内容や相続人の状況によって最適な方法は異なりますので、ご自身たちだけで判断せず、相続に詳しい税理士などの専門家に相談しながら、最善の分割方法を見つけることを強くおすすめします。
参考文献
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
遺産分割の方法と税務上の有利不利に関するよくある質問まとめ
Q.遺産分割にはどのような方法がありますか?
A.主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つの方法があります。それぞれの特徴を理解し、相続財産や相続人の状況に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。
Q.相続税が最も安くなる分割方法はどれですか?
A.一概にどの方法が最も有利とは言えません。しかし、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの特例を最大限活用できるような分割方法を選ぶことで、相続税を大幅に軽減できる可能性があります。
Q.不動産を相続する場合、どの分割方法が税務上お得ですか?
A.自宅や事業用の土地を特定の相続人が引き継ぐ場合、「小規模宅地等の特例」を適用できる現物分割や代償分割が有利になることが多いです。この特例は土地の評価額を最大80%減額できるため、節税効果が非常に大きいです。
Q.代償分割で代償金を支払う場合、税金はかかりますか?
A.通常、代償金の支払い自体に贈与税や所得税はかかりません。ただし、相続財産を売却して得たお金以外の手持ちの資金から支払う場合や、代償金の額が法定相続分を大幅に超える場合は、贈与税が課される可能性があるので注意が必要です。
Q.換価分割の税務上のメリットとデメリットは何ですか?
A.メリットは、公平に現金を分けられる点です。デメリットは、不動産などを売却する際に譲渡所得税がかかる可能性がある点です。売却益が出た場合、相続人それぞれが確定申告をする必要があります。
Q.共有分割は税務上、不利になることがあると聞きましたが本当ですか?
A.はい、不利になる可能性があります。共有名義の不動産は、将来の売却や活用に全共有者の同意が必要となり、トラブルの原因になりやすいです。また、「小規模宅地等の特例」の適用が一部しか受けられないケースもあり、税務上のメリットが減少することがあります。