税理士法人プライムパートナーズ

知らないと損!過去の贈与と暦年贈与のルール改正を徹底解説

2025-09-24
目次

ご家族に財産を少しでも多く残したいと考え、「暦年贈与」を検討されている方も多いのではないでしょうか。暦年贈与は、年間110万円までなら贈与税がかからない、とても有効な生前対策の一つです。しかし、過去の贈与が将来の相続税に影響を与える「生前贈与加算」というルールがあり、このルールが2024年から大きく変わりました。今回は、この暦年贈与の基本から、知っておくべき過去の贈与の扱いや新しいルールについて、分かりやすく解説していきますね。

暦年贈与の基本をおさらい

まずは、相続税対策の基本ともいえる「暦年贈与」について、簡単におさらいしておきましょう。この仕組みを正しく理解することが、効果的な生前対策の第一歩になります。

暦年贈与とは?

暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからず、申告も不要という制度です。この110万円の非課税枠を「基礎控除額」と呼びます。この制度を活用して、毎年コツコツと非課税で財産を移していくことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。

非課税枠110万円の注意点

とても便利な110万円の非課税枠ですが、一つ大切な注意点があります。それは、この110万円という金額は、「財産をあげた人」基準ではなく、「財産をもらった人」基準で計算されるという点です。例えば、お子さんがお父さんから100万円、お母さんから100万円を同じ年にもらったとします。この場合、お子さんがもらった財産の合計額は200万円となり、基礎控除額の110万円を超えた90万円に対して贈与税がかかってしまいますので、注意してくださいね。

相続税に影響する「過去の贈与」とは?

「110万円以下の贈与なら、ずっと税金はかからない」と思いがちですが、実はそうではないケースがあります。それが、亡くなる直前の贈与を相続財産に含めて計算する「生前贈与加算」というルールです。そして、このルールが2024年から大きく変わりました。

生前贈与加算のルール(改正前)

これまでのルールでは、亡くなった日(相続開始日)から遡って3年以内に行われた贈与は、たとえ110万円以下の非課税枠内の贈与であっても、相続財産に足し戻して相続税を計算する必要がありました。例えば、2023年10月に亡くなった場合、2020年10月以降に行われた贈与が加算の対象となっていたのです。これを「3年内加算」と呼んでいました。

【重要】2024年からのルール改正(改正後)

2024年1月1日以降に行われる贈与から、この生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されました。つまり、亡くなる前の7年間に行われた贈与が、相続財産に加算されることになったのです。これは非常に大きな変更点で、これまで以上に長期的で計画的な贈与が必要になります。

ただし、この7年加算はすぐに適用されるわけではありません。段階的に適用期間が延びていき、完全に7年分が加算対象となるのは2031年1月1日以降に亡くなった場合からです。

相続開始日(亡くなった日) 加算対象となる期間
2024年1月1日~2026年12月31日 改正前と同じく3年以内
2027年1月1日~12月31日 4年以内(2024年1月1日以降の贈与)
2028年1月1日~12月31日 5年以内(2024年1月1日以降の贈与)
2029年1月1日~12月31日 6年以内(2024年1月1日以降の贈与)
2030年1月1日~12月31日 7年以内(2024年1月1日以降の贈与)
2031年1月1日以降 完全に7年以内

7年加算の対象者と経過措置

生前贈与加算の対象となるのは、「相続や遺贈によって財産を取得した人」です。つまり、亡くなった方の財産を相続した相続人が対象となります。相続人ではないお孫さんへの贈与などは、原則として加算の対象にはなりません。

また、急に期間が延長されることによる負担を和らげるための措置も設けられています。延長された4年間(亡くなる前の3年超~7年以内の期間)に行われた贈与については、その合計額から100万円を控除することができます。つまり、延長された4年間の贈与額が100万円以下であれば、実質的に加算されないということになります。

過去の贈与で注意すべきポイント

暦年贈与を有効に活用し、後から税務署に指摘されないためには、いくつか注意すべき点があります。形式だけを整えるのではなく、実態が伴っていることが重要です。

名義預金とみなされないために

お子さんやお孫さんの名義で預金口座を作り、そこに毎年お金を振り込んでいても、それが「名義預金」と判断されると贈与とは認められません。名義預金とは、口座の名義人と実際の所有者が異なる預金のことで、亡くなった方の財産として相続税の対象になってしまいます。そうならないためには、以下の点が大切です。

  • 通帳や印鑑は、財産をもらった本人(お子さんやお孫さん)が管理していること
  • もらった本人が、その預金の存在を認識し、いつでも自由にお金を使える状態であること

贈与契約書の作成

口約束だけでも贈与は成立しますが、「いつ、誰が、誰に、何を」贈与したのかを客観的に証明するために、「贈与契約書」を作成しておくことを強くおすすめします。贈与の都度、作成しておくことで、税務調査の際にも贈与の事実を明確に主張することができます。特に不動産や高額な金銭の贈与の場合は必須と考えましょう。

定期贈与とみなされないための工夫

例えば、「毎年100万円を10年間にわたって贈与する」という約束を最初にしてしまうと、「1,000万円を10回に分けて支払った」とみなされ、初年度に1,000万円全額に対して贈与税が課せられる可能性があります。これを「定期贈与」といいます。定期贈与とみなされないためには、以下のような工夫が有効です。

  • 贈与の都度、贈与契約書を作成する
  • 毎年、贈与する日や金額を少し変える(例:110万円、105万円など)
  • 振り込みを利用して、贈与の記録を残す

相続時精算課税制度との比較

贈与税には、暦年贈与のほかにもう一つ「相続時精算課税制度」という選択肢があります。どちらがお得かはご家庭の状況によって異なるため、違いを理解しておきましょう。

相続時精算課税制度とは?

この制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する際に利用できる制度です。合計2,500万円までの贈与であれば、贈与税が非課税になります。ただし、その名前の通り、贈与した人が亡くなった際に、その贈与財産を相続財産に足し戻して相続税を計算し、納税額を「精算」する仕組みです。また、2024年からはこの2,500万円の特別控除枠とは別に、年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の部分については、贈与税の申告も不要で、将来の相続財産に加算する必要もありません。

どちらを選ぶべき?

どちらの制度を選ぶべきか、簡単に特徴をまとめてみました。

制  度 特徴と向いているケース
暦年贈与 ・毎年コツコツ非課税で財産を移したい
・多くの人に長期間かけて贈与したい
・7年内加算のルールを理解して計画的に進められる
相続時精算課税制度 ・一度にまとまった額の資金援助をしたい
・将来値上がりしそうな財産(株式や不動産など)を先に贈与したい
・相続税がかからない見込みの方

一つ注意点として、一度「相続時精算課税制度」を選択すると、同じ贈与者からの贈与については二度と「暦年贈与」に戻ることはできません。慎重な判断が必要です。

過去の贈与に関するQ&A

ここまでの内容で、まだ疑問に思う点もあるかもしれません。よくあるご質問をいくつかご紹介します。

110万円以下の贈与でも申告は必要?

暦年贈与の範囲内、つまり年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告は必要ありません。ただし、上で説明した「相続時精算課税制度」を選択した場合は、最初の年に申告手続きが必要です。

孫への贈与も7年加算の対象?

生前贈与加算の対象は、原則として「相続または遺贈により財産を取得した人」です。そのため、遺言書などでお孫さんに財産を遺す指定がない限り、法定相続人ではないお孫さんへの贈与は、亡くなる直前であっても加算の対象にはなりません。この点は、お孫さんへの贈与を検討する上で大きなメリットになります。ただし、お孫さんが生命保険の死亡保険金受取人になっている場合など、「みなし相続財産」を受け取った場合は加算の対象になるので注意が必要です。

まとめ

今回は、過去の贈与と暦年贈与の扱いについて、特に2024年からのルール改正を中心にご説明しました。一番のポイントは、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されたことです。これにより、これまで以上に早くから、そして計画的に生前対策を進めることの重要性が増しています。「まだ先のこと」と思わずに、元気なうちからご家族と話し合い、準備を始めることが大切です。ご自身の状況に合わせて最適な方法を選ぶためには、税理士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。

参考文献

国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

暦年贈与と過去の贈与に関するよくある質問

Q. 暦年贈与とは何ですか?

A. 暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に個人から贈与された財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからず申告も不要になる制度です。

Q. 110万円を超えたら必ず贈与税の申告が必要ですか?

A. はい、1年間に1人の人から受け取った財産の合計額が110万円の基礎控除額を超えた場合は、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納税が必要です。

Q. 過去の贈与が相続税の対象になるのはどんな場合ですか?

A. 亡くなる前7年以内に行われた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算する「生前贈与加算」というルールがあります。このルールは2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用期間が延長されます。

Q. 贈与税の申告を忘れた場合はどうなりますか?

A. 申告期限を過ぎてしまうと、本来の税金に加えて無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。気づいた時点で速やかに申告することをおすすめします。

Q. 贈与の証拠として何を残しておけば良いですか?

A. 贈与契約書を作成することをおすすめします。また、手渡しではなく銀行振込などを利用し、お金の動きがわかる客観的な記録を残しておくことが重要です。

Q. 暦年贈与と相続時精算課税制度の違いは何ですか?

A. 暦年贈与は毎年110万円まで非課税になる制度です。一方、相続時精算課税制度は生涯で2,500万円までの特別控除が使える制度ですが、贈与した財産は相続時に相続財産に加算されます。一度選択すると原則として暦年贈与には戻れません。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。