ご家族に少しでも多くの財産を残したいと考えたとき、「生前のうちに贈与をしておこうかな?」と思う方は多いのではないでしょうか。そんなときにぜひ知っておきたいのが「暦年贈与」という制度です。これは、年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからないという、とても便利な非課税制度です。この記事では、暦年贈与の基本的な仕組みから、上手に活用して相続税対策を行うための具体的な方法、そして2024年から変わった新ルールまで、わかりやすく解説していきますね。
暦年贈与の基本!110万円の非課税枠とは?
まずは、暦年贈与のキホンから見ていきましょう。暦年贈与とは、その年の1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が110万円以下の場合、贈与税がかからず、申告も不要になるという制度です。この110万円の非課税枠を「基礎控除額」と呼びます。この仕組みを上手に使うことで、将来の相続税の負担を計画的に軽くすることができるんですよ。
誰から誰へ?対象となる人
暦年贈与の大きな特徴は、贈与する人(贈与者)と、贈与される人(受贈者)に特別な制限がないことです。つまり、親から子へ、祖父母から孫へ、夫婦間、兄弟姉妹間など、誰から誰へでもこの制度を活用することができます。例えば、お子さんやお孫さんが複数いらっしゃる場合、それぞれに110万円ずつ贈与することも可能です。
どんな財産が対象になるの?
贈与の対象となる財産は、現金や預貯金だけではありません。株式や投資信託などの有価証券、土地や建物といった不動産、生命保険の権利など、金銭に見積もることができる経済的な価値のあるものすべてが対象となります。ただし、不動産などを贈与する場合は、その評価額の計算や名義変更の手続きが必要になるので注意してくださいね。
贈与税の申告は必要?
1年間にもらった財産の合計額が110万円の基礎控除額以下であれば、原則として贈与税の申告をする必要はありません。もし、複数の人から贈与を受けた場合は、その合計額で判断します。例えば、お父さんから100万円、お母さんから50万円をもらった場合、合計は150万円となり110万円を超えてしまうので、超えた部分(40万円)に対して贈与税がかかり、申告が必要になります。
暦年贈与を上手に活用する具体的な方法
暦年贈与の基本がわかったところで、次にもっと効果的に活用するための具体的な方法をご紹介します。ちょっとした工夫で、節税効果が大きく変わってきますよ。
複数人に贈与して非課税枠を拡大
110万円の非課税枠は、贈与を「もらう人」一人ひとりに対して適用されます。これを活かして、例えばお子さん2人とお孫さん3人の合計5人に、それぞれ110万円ずつ贈与するとどうなるでしょうか。110万円 × 5人 = 年間で最大550万円もの財産を、非課税で次の世代に移すことができるのです。贈与する相手が多いほど、大きな金額を効率的に贈与できます。
毎年コツコツ!長期的な計画で大きな節税効果
暦年贈与は、毎年繰り返し使える制度です。1年だけでは大きな金額にはなりませんが、長期的に続けることで、とても大きな効果を生み出します。例えば、1人のお子さんに対して毎年110万円ずつ10年間贈与を続ければ、合計で1,100万円もの財産を非課税で渡すことができます。相続税対策は、できるだけ早くから計画的に始めることが成功の秘訣です。
贈与の証拠を残すことが大切
暦年贈与を行う上で最も重要なのが、「確かに贈与が行われた」という客観的な証拠を残しておくことです。これを怠ると、税務署から「亡くなった方の名義預金(名義預金)」と判断され、相続財産として扱われてしまう可能性があります。証拠として有効なのは、以下の2つです。
| 贈与契約書を作成する | 「いつ、誰が、誰に、何を、いくら贈与したか」を明記した簡単な契約書を作成し、お互いに署名・捺印して保管しておきましょう。毎年作成するのが理想です。 |
| 銀行振込を利用する | 手渡しではなく、贈与する人の口座から受け取る人の口座へ直接振り込みましょう。通帳に記録が残るため、お金の流れが明確な証拠になります。 |
また、贈与されたお金は、もらった人が自由に使える状態にしておくことも大切です。通帳や印鑑はもらった本人が管理するようにしましょう。
注意!暦年贈与で失敗しないためのポイント
せっかくの暦年贈与も、やり方を間違えると意図しない課税を受けてしまうことがあります。ここでは、よくある失敗例と、そうならないための注意点をお伝えします。
名義預金とみなされるケース
名義預金とは、口座の名義は子供や孫になっていても、実質的な管理・支配は親や祖父母が行っている預金のことです。例えば、子供名義の通帳と印鑑を親が管理していて、子供はその口座の存在すら知らない…といったケースが典型例です。このような預金は、亡くなった方の財産とみなされ、相続税の対象になってしまいます。贈与を成立させるためには、財産をもらった人が、そのことを認識し、自由に使える状態にしておく必要があります。
定期贈与と判断されないために
毎年、同じ日に、同じ金額を贈与し続けると、「総額1,000万円を10年間に分割して贈与するという約束(定期贈与)があった」と税務署に判断されるリスクがあります。もし定期贈与とみなされると、贈与を始めた年に、約束した総額(この例では1,000万円)に対して贈与税が課されてしまいます。このリスクを避けるためには、以下のような工夫が有効です。
- 毎年、贈与契約書を作成する
- 贈与する日や金額を毎年少しずつ変える(例:ある年は110万円、次の年は105万円など)
- 誕生日やクリスマスなど、贈与の都度、目的が明確なタイミングで行う
贈与者が亡くなる直前の贈与は注意(生前贈与加算)
亡くなる直前に駆け込みで贈与をしても、残念ながら相続税の節税にならない場合があります。これを「生前贈与加算」といいます。これは、亡くなった日(相続開始日)から遡って一定期間内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して相続税を計算するというルールです。この期間が、2024年から大きく変わりましたので、次の章で詳しく解説します。
2024年からの新ルール!生前贈与加算の期間延長
2024年1月1日から、相続税と贈与税のルールが改正されました。特に、先ほど触れた「生前贈与加算」の期間が変更になった点は、今後の生前対策に大きく影響します。
生前贈与加算が3年から7年に
これまで、相続財産に持ち戻されるのは、亡くなる前「3年以内」の贈与でした。しかし、このルールが改正され、2024年1月1日以降の贈与については、持ち戻しの期間が「7年以内」に延長されました。つまり、より長期間の贈与が相続税の課税対象に含まれる可能性が出てきたため、相続税対策はこれまで以上に早くから始める必要性が高まったと言えます。
延長された4年間の100万円控除
ただ期間が延長されただけではありません。新しいルールでは、延長された4年間(亡くなる前3年超~7年以内の期間)に行われた贈与については、その合計額から100万円を控除できるという仕組みが導入されました。少し複雑ですが、7年間に持ち戻される贈与の合計額から、一律で100万円を差し引いて相続財産に加算する、というイメージです。
新制度はいつからの贈与が対象?
この新しい7年ルールは、2024年1月1日以降に行われた贈与が対象です。したがって、実際に加算期間が7年になるのは、2031年1月1日以降に相続が発生した場合からとなります。それまでは、例えば2027年に相続が発生した場合は、2024年1月1日から亡くなった日までの3年超の期間が加算対象になる、というように段階的に期間が延びていきます。
暦年贈与と相続時精算課税制度、どっちを選ぶ?
贈与税の制度には、暦年贈与のほかにもう一つ、「相続時精算課税制度」という選択肢があります。どちらも2024年からルールが変わり、使いやすくなりました。どちらが自分にとって有利なのか、特徴を比較してみましょう。
それぞれの制度の概要
2つの制度の主な違いを、簡単な表にまとめてみました。
| 制度名 | 暦年贈与(暦年課税) |
| 非課税枠 | 年間110万円まで |
| 対象者 | 贈与者・受贈者ともに制限なし |
| 相続時の扱い | 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される |
| 選択後の変更 | 相続時精算課税制度への変更は可能 |
| 制度名 | 相続時精算課税制度 |
| 非課税枠 | 生涯で2,500万円まで + 年間110万円の基礎控除(新設) |
| 対象者 | 贈与者:60歳以上の父母または祖父母 受贈者:18歳以上の子または孫 |
| 相続時の扱い | 2,500万円の特別控除を使って贈与した財産は全て相続財産に加算される(年間110万円の基礎控除分は加算不要) |
| 選択後の変更 | 一度選択すると、暦年贈与には戻せない |
注目すべきは、相続時精算課税制度にも新たに年間110万円の基礎控除ができた点です。この110万円分は、相続財産に持ち戻す必要がないため、非常に使い勝手が良くなりました。
どちらの制度が向いている?
どちらの制度を選ぶべきかは、ご自身の財産状況や家族構成によって異なります。
- 暦年贈与が向いている人:
・毎年コツコツと、多くの人(子や孫など)に長期間かけて贈与したい人
・相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で、将来的に相続税がかからない可能性が高い人 - 相続時精算課税制度が向いている人:
・収益を生むアパートや、将来値上がりが期待できる株式など、大きな財産を早めに贈与しておきたい人
・確実に相続税が発生することが見込まれ、相続時の財産評価額を贈与時の評価額で固定したい人
どちらの制度を選択するかは、一度選ぶと変更ができないなど重要な判断になりますので、迷った場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、暦年贈与の活用方法について詳しく解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 暦年贈与は、年間110万円までなら贈与税がかからない非課税制度です。
- 複数人に、長期間にわたって贈与することで、大きな節税効果が期待できます。
- 「贈与契約書」や「銀行振込」で証拠を残し、名義預金や定期贈与とみなされないように注意しましょう。
- 2024年からは生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されたため、より早めの対策が重要になりました。
- 自分の状況に合わせて、相続時精算課税制度との比較検討も行いましょう。
暦年贈与は、計画的に正しく行うことで、ご家族への想いを形にできる素晴らしい制度です。この記事が、あなたの賢い生前対策の第一歩となれば嬉しいです。
参考文献
暦年贈与の活用に関するよくある質問まとめ
Q. 暦年贈与とは何ですか?
A. 1年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからない制度のことです。この非課税枠を活用して、毎年少しずつ財産を移転できます。
Q. 110万円の非課税枠は、あげる人ごとですか?もらう人ごとですか?
A. もらう人ごとです。1人が1年間に複数の人から贈与を受けた場合でも、その合計額が110万円までであれば贈与税はかかりません。
Q. 暦年贈与に贈与契約書は必要ですか?
A. 法律上の義務ではありませんが、贈与の事実を客観的に証明するために作成することを強く推奨します。特に税務調査の際に、口約束だけでは贈与と認められないリスクがあります。
Q. 子どもの名義で預金すれば贈与になりますか?
A. 名義が子どもでも、親が通帳や印鑑を管理している場合は「名義預金」とみなされ、贈与と認められない可能性があります。贈与が成立するには、贈与された人が自由に使える状態であることが重要です。
Q. 2024年からの制度改正で何が変わりましたか?
A. 贈与者が亡くなる前の一定期間内に行われた贈与が相続財産に加算される期間(生前贈与加算)が、死亡前3年から7年に延長されました。ただし、延長された4年間の贈与については合計100万円まで控除されます。
Q. 暦年贈与を毎年繰り返しても問題ありませんか?
A. 毎年同じ日に同じ金額を贈与し続けると、あらかじめ決まった額を定期的に贈与する「定期贈与」とみなされ、贈与総額に対して課税される可能性があります。贈与の都度、贈与契約書を作成するなどの対策が有効です。