ご両親が元気なうちに、大切な資産である不動産をどう引き継ぐか、考えたことはありますか?「生前贈与」や「共有化(共有名義)」という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんね。これらは将来の相続税対策や、家族間のトラブルを避けるために有効な方法ですが、一方で知っておかないと損をしてしまう注意点もあります。この記事では、不動産の生前贈与や共有化について、メリット・デメリットから税金の話、具体的な手続きまで、わかりやすく解説していきます。
不動産の生前贈与と共有化の基本
まずは、「生前贈与」と「共有化」がそれぞれどのようなものなのか、基本から確認しておきましょう。言葉の意味がわかると、この後の話もスムーズに理解できますよ。
生前贈与とは?
生前贈与とは、その名の通り、所有者が生きているうちに自分の財産を他の誰かに無償で譲り渡すことをいいます。亡くなってから財産が引き継がれる「相続」とは、財産を渡すタイミングが異なります。元気なうちに、自分の意思で「この不動産をこの子に渡したい」という希望を確実に叶えることができるのが大きな特徴です。
不動産の共有化(共有名義)とは?
不動産の共有化とは、一つの不動産を複数人で所有することを指します。それぞれの人がその不動産に対して持つ所有権の割合を「持分(もちぶん)」と呼びます。例えば、親子で3,000万円の家を購入する際に、親が2,000万円、子が1,000万円を負担した場合、持分は親が3分の2、子が3分の1となります。このように、出資した割合に応じて登記するのが一般的です。
なぜ生前贈与や共有化が選ばれるの?
生前贈与や共有化が検討される主な理由には、以下のようなものがあります。
- 将来の相続税の負担を軽くしたい(相続税対策)
- 特定の子どもに家業で使っている土地を確実に引き継がせたい
- 遺産分割で家族が揉めないように、先に整理しておきたい
- 親子で協力して住宅ローンを組みたい
ご家庭の状況によって目的はさまざまですが、将来を見据えた大切な準備として選ばれています。
不動産を生前贈与・共有化するメリット
では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、特に知っておきたい4つのメリットをご紹介します。
相続税の負担を軽くできる可能性がある
親が単独で所有している不動産を子どもと共有名義にすると、親の持分が減るため、その分だけ相続税の対象となる財産を減らすことができます。また、将来的に価値が上がりそうな不動産は、価値が低いうちに生前贈与しておくことで、将来の高い評価額で相続税がかかるのを避けることができます。計画的に行うことで、賢く税負担を抑えられる可能性があるのです。
渡したい相手に確実に財産を渡せる
遺言がない場合、誰がどの財産を相続するかは相続人全員での話し合い(遺産分割協議)で決めることになります。不動産は現金のように簡単に分けられないため、相続トラブルの原因になりがちです。生前贈与をしておけば、自分の希望する相手に、生きているうちに確実に不動産を引き継ぐことができるため、将来の家族間の争いを防ぐことにつながります。
認知症への備えになる
もし不動産の所有者が認知症などで判断能力が低下してしまうと、その不動産を売却したり、賃貸に出したりすることが原則としてできなくなってしまいます。元気なうちに生前贈与や共有化の手続きをしておくことで、いざという時に不動産が凍結されてしまう事態を避けることができます。これは、近年注目されている認知症対策の一つでもあります。
知っておきたいデメリットと注意点
良いことばかりに聞こえるかもしれませんが、もちろんデメリットや注意点もあります。後悔しないためにも、事前にしっかりと把握しておきましょう。
贈与税や不動産取得税などの費用がかかる
相続であればかからない税金が、生前贈与では発生することがあります。代表的なものが「贈与税」です。年間110万円を超える財産をもらうと、原則として贈与税がかかります。不動産は高額なため、贈与税も高額になりがちです。その他にも、不動産の名義が変わる際には「不動産取得税」や「登録免許税」といった税金も必要になります。これらの費用を誰が負担するのかも考えておく必要があります。
不動産の活用や売却に全員の同意が必要になる
これは共有名義の最大のデメリットです。共有名義の不動産を売却したり、大規模なリフォームをしたり、担保に入れてお金を借りたりする場合、共有者全員の同意が必要になります。一人でも反対する人がいると、何も進めることができなくなってしまいます。将来、考え方の違いからトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
権利関係が複雑化するリスク
最初は親子2人の共有でも、もし親が亡くなると、その親の持分は兄弟姉妹など他の相続人に引き継がれます。さらにその兄弟姉妹が亡くなると、その子どもたちへ…というように、相続を繰り返すうちに共有者の数が増え、権利関係がどんどん複雑になってしまう可能性があります。会ったこともない親戚と不動産を共有している、なんてことにもなりかねません。
「小規模宅地等の特例」が使えなくなることも
相続の際には、亡くなった方が住んでいた土地などを相続する場合、その土地の評価額を最大80%も減額できる「小規模宅地等の特例」という非常に強力な制度があります。しかし、生前贈与ではこの特例を使うことができません。場合によっては、生前贈与をせずに相続で引き継いだ方が、トータルの税金が安くなるケースもあるので注意が必要です。
不動産の生前贈与にかかる税金の話
やはり一番気になるのは税金のことですよね。ここでは、生前贈与に関わる税金について、もう少し詳しく見ていきましょう。
贈与税の計算方法【暦年課税】
贈与税の最も基本的な計算方法が「暦年課税」です。これは、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額の110万円を差し引き、残りの金額に税率をかけて計算します。不動産のような高額な財産を一度に贈与すると、税率も高くなります。
特に、親や祖父母から子どもや孫へ贈与する場合(特例贈与)は、それ以外の場合(一般贈与)よりも税率が少し優遇されています。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 |
|---|---|
| 200万円以下 | 10% |
| 400万円以下 | 15% |
| 600万円以下 | 20% |
| 1,000万円以下 | 30% |
例えば、評価額1,000万円の不動産の持分を親から子へ贈与した場合の贈与税は、(1,000万円 – 110万円)× 30% – 90万円(控除額) = 177万円となります。
贈与税を抑えるための制度【相続時精算課税制度】
高額になりがちな不動産の贈与で活用を検討したいのが「相続時精算課税制度」です。この制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する際に選択できます。
特徴は、累計2,500万円までの贈与であれば贈与税がかからないという大きな非課税枠がある点です。2,500万円を超えた部分については、一律20%の税率で贈与税を納めます。そして、制度の名前の通り、贈与した人が亡くなった時に、この制度で贈与した財産を相続財産に足し戻して「相続税」として精算する仕組みです。
さらに、2024年1月1日からは、この2,500万円の枠とは別に、年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の贈与であれば、贈与税の申告も不要で、将来の相続税の計算に足し戻す必要もありません。ただし、一度この制度を選択すると、同じ贈与者との間では暦年課税に戻ることはできないので、慎重な判断が必要です。
贈与税以外の税金も忘れずに
生前贈与で不動産を取得すると、贈与税以外にも以下の税金がかかります。納税資金を準備しておくことが大切です。
| 税金の種類 | 内 容 |
|---|---|
| 不動産取得税 | 不動産を取得した際にかかる都道府県の税金です。税率は原則、固定資産税評価額の3%(土地・住宅)ですが、軽減措置があります。 |
| 登録免許税 | 法務局で所有権移転登記(名義変更)をする際にかかる国の税金です。贈与の場合は、固定資産税評価額の2%です。 |
相続の場合、不動産取得税はかからず、登録免許税の税率も0.4%なので、生前贈与の方が初期費用は高くなる傾向にあります。
生前贈与・共有化の具体的な手続きの流れ
実際に手続きを進める場合、どのような流れになるのでしょうか。大まかなステップを確認しておきましょう。
ステップ1:贈与契約書の作成
まず、贈与する人(贈与者)と、もらう人(受贈者)の間で、「不動産を贈与します」「もらいます」という意思確認をし、贈与契約書を作成します。口約束でも契約は成立しますが、後のトラブル防止や、法務局での登記手続きのために、書面で残しておくことが非常に重要です。「誰が」「誰に」「どの不動産を」「いつ」贈与したのかを明確に記載します。
ステップ2:法務局での所有権移転登記(名義変更)
贈与契約を結んだら、その不動産を管轄する法務局で所有権移転登記を申請します。この手続きをもって、不動産の名義が正式にもらった人のものになります。手続きには贈与契約書のほか、贈与者の印鑑証明書や不動産の権利証(登記識別情報)、受贈者の住民票など、さまざまな書類が必要です。手続きが複雑なため、司法書士に依頼するのが一般的です。
ステップ3:税務署への贈与税の申告と納税
贈与によって基礎控除額110万円を超える財産をもらった場合や、相続時精算課税制度などを利用した場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、税務署へ贈与税の申告をし、納税まで済ませる必要があります。申告を忘れるとペナルティが課されることもあるので、忘れずに行いましょう。
まとめ
不動産の生前贈与や共有化は、将来の相続税対策や円満な資産承継のための有効な手段です。渡したい相手に確実に財産を渡せる、認知症対策になるなどのメリットがある一方で、高額な贈与税がかかる可能性や、共有名義にすることによる権利関係の複雑化といったデメリットも存在します。特に、税金の特例などはご家庭の状況によって有利・不利が大きく変わるため、「うちの場合はどうなんだろう?」と迷われることも多いと思います。安易に判断せず、まずは家族でしっかりと話し合い、必要であれば税理士などの専門家に相談しながら、ご自身にとって最適な方法を見つけていくことが大切です。
参考文献
不動産の生前贈与・共有化のよくある質問まとめ
Q.不動産の生前贈与のメリット・デメリットは?
A.メリットは、贈与する相手やタイミングを自由に選べる点、相続税対策になる可能性がある点です。デメリットは、贈与税が高額になる可能性や、不動産取得税・登録免許税がかかる点です。
Q.生前贈与でかかる税金は何ですか?
A.主に「贈与税」がかかります。年間110万円の基礎控除がありますが、超えた分に課税されます。また、不動産を受け取った側には「不動産取得税」と、名義変更のための「登録免許税」もかかります。
Q.不動産を共有名義にするメリットはありますか?
A.メリットは、複数人で資金を出し合って購入できる点や、将来の相続トラブルを一部避けられる可能性がある点です。また、各共有者が住宅ローン控除を利用できる場合もあります。
Q.不動産を共有名義にするデメリットは何ですか?
A.デメリットは、売却やリフォームなどの際に共有者全員の同意が必要になる点です。意見がまとまらないと、不動産の活用が難しくなる可能性があります。
Q.共有名義の不動産を売却するにはどうすればいいですか?
A.不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要です。もし自分の持分だけを売却することも可能ですが、一般的に買い手が見つかりにくく、売却価格も低くなる傾向があります。
Q.「相続時精算課税制度」とは何ですか?
A.2,500万円までの贈与が非課税になる制度です。ただし、この制度を利用して贈与された財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。利用には税務署への申告が必要です。