「自分の財産を、お世話になったあの人に渡したい」「相続税を少しでも抑えたい」そうお考えの方にとって、養子縁組は有効な選択肢の一つです。養子縁組を行うと、法律上の親子関係が生まれ、養子は実子と同じように法定相続人となります。これにより、相続税の計算に影響を与えたり、希望する人に財産を承継させたりすることが可能になります。この記事では、養子縁組が相続に与える影響や、節税効果、そして知っておくべき注意点について、わかりやすく解説していきますね。
養子縁組で法定相続人が変わる?基本的な仕組みを知ろう
養子縁組とは、血のつながりがない人との間に、法律上の親子関係を作り出す制度です。縁組が成立すると、養子は「子」としての身分を取得し、実子と全く同じ相続権を持つことになります。相続において、養子縁組は財産の承継先をコントロールするための重要な手段となるのです。
養子縁組の種類「普通養子縁組」と「特別養子縁組」
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。相続を考える上で重要なのは、実の親(実親)との関係がどうなるかです。それぞれの違いを比べてみましょう。
| 項目 | 普通養子縁組 |
| 実親との関係 | 親子関係は継続します |
| 相続権 | 実親と養親、両方の相続権を持ちます |
| 主な目的 | 家系の存続や相続・事業承継など |
| 項目 | 特別養子縁組 |
| 実親との関係 | 親子関係は終了します |
| 相続権 | 養親の相続権のみ持ちます |
| 主な目的 | 子の福祉や利益を守るため(原則15歳未満) |
相続対策や事業承継でよく利用されるのは、実親との関係も続く普通養子縁組です。
法定相続人になると何が変わるの?
養子が法定相続人に加わることで、それぞれの相続人が受け取る財産の割合(法定相続分)が変わります。例えば、配偶者と実子1人がいるご家庭で、養子を1人迎えたケースを考えてみましょう。
| 養子縁組前 | 配偶者:1/2、実子:1/2 |
| 養子縁組後 | 配偶者:1/2、実子:1/4、養子:1/4 |
このように、相続人が増えることで、元々いた相続人の取り分は少なくなります。これが後々のトラブルにつながる可能性もあるため、注意が必要です。
誰でも養子になれるの?
養子になるための要件は、養親となる人より年下であることなど、比較的シンプルです。ただし、自分の親や祖父母といった目上の人(尊属)や、自分より年上の人を養子にすることはできません。また、未成年者を養子にする場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。
養子縁組が相続税対策になる理由
養子縁組で法定相続人の数が増えると、相続税の計算上有利になる点がいくつかあります。これが「養子縁組は相続税対策になる」と言われる主な理由です。
相続税の基礎控除額が増える
相続税には、財産の総額から差し引ける「基礎控除」という非課税枠があります。この基礎控除額は、法定相続人の数によって決まります。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
例えば、法定相続人が2人から3人に増えると、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」から「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」に増えます。つまり、養子を1人迎えることで、非課税枠が600万円増えることになるのです。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠が広がる
被相続人が亡くなった際に支払われる生命保険金や死亡退職金にも、相続税がかからない非課税枠があります。この枠も法定相続人の数に応じて決まります。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
法定相続人が1人増えれば、非課税で受け取れる金額が500万円増えるため、大きな節税効果が期待できます。
相続税の総額計算で有利になることも
相続税は、財産が多ければ多いほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みです。相続人が増えると、一人当たりの相続財産額が少なくなり、結果として低い税率が適用される可能性があります。これにより、相続税の総額を抑えられるケースがあります。
相続税法上の養子の人数制限に注意
「それなら、たくさん養子を迎えて節税しよう」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながらそうはいきません。相続税の計算においては、法定相続人に含めることができる養子の数に制限が設けられています。
実子がいる場合といない場合で違うカウント方法
相続税法では、過度な節税を防ぐために、基礎控除などの計算に含められる養子の数を次のように定めています。
| 被相続人の状況 | 相続税法上カウントできる養子の数 |
| 実子がいる場合 | 1人まで |
| 実子がいない場合 | 2人まで |
例えば、実子が2人いる方が養子を3人迎えたとしても、相続税の計算上、法定相続人としてカウントできる養子は1人だけです。ただし、この人数制限はあくまで税金の計算上の話。民法上の相続権は、養子全員に認められます。
なぜ人数制限があるの?
この人数制限は、もっぱら相続税を安くすることだけを目的とした、形式的な養子縁組を防ぐために設けられています。税の公平性を保つためのルールだとご理解ください。
養子縁組を行う際の注意点とデメリット
節税メリットのある養子縁組ですが、良いことばかりではありません。実行する前には、デメリットや注意点もしっかりと理解しておくことが大切です。
遺産分割トラブルの原因になる可能性
他の相続人に相談なく養子縁組を進めると、大きなトラブルに発展することがあります。「財産目当てではないか」「自分たちの取り分が減ってしまう」といった不満から、親族関係が悪化し、遺産分割協議がまとまらなくなるケースは少なくありません。養子縁組を考える際は、他の相続人の理解を得る努力が不可欠です。
他の相続人の遺留分が減ってしまう
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。法定相続人が増えると、一人ひとりの法定相続分が減少するため、それに伴って遺留分も減少します。これもまた、他の相続人から不満が出る原因となり得ます。
相続税の2割加算の対象になることも
相続税には「2割加算」というルールがあります。これは、配偶者と一親等の血族(子や親)以外が財産を相続した場合、その人の相続税額が2割増しになるという制度です。
孫を養子にした場合、その孫は法律上「子」として扱われますが、税法上は一親等の血族ではないため、原則として相続税の2割加算の対象となります。ただし、実子である親がすでに亡くなっており、孫が代襲相続人として相続する場合には、2割加算の対象にはなりません。
こんなケースで養子縁組が活用される
実際にどのような場面で養子縁組が活用されているのか、具体的なケースを見ていきましょう。
孫を養子にして財産を継がせたい
「特に可愛がっている孫に、直接財産を渡したい」という場合、孫を養子にすることがあります。これにより、相続を一代飛ばして財産を承継させることができ、長期的に見れば課税回数を一回減らす効果も期待できます。ただし、前述の通り、相続税の2割加算には注意が必要です。
息子の配偶者(お嫁さん)に財産を残したい
長年にわたり自分の介護をしてくれた息子の配偶者(お嫁さん)に、感謝の気持ちとして財産を残したいと考える方は多いです。しかし、息子の配偶者は法定相続人ではないため、通常は財産を相続できません。そこで、養子縁組をすることで、彼女を法定相続人とし、財産を法的に遺すことが可能になります。
事業承継をスムーズに進めたい
中小企業の経営者が、後継者として考えている親族以外の従業員や、娘の配偶者(婿)に事業を引き継がせたい場合にも、養子縁組は有効です。後継者を養子にすることで、会社の株式や事業用資産を相続によってスムーズに承継させることができます。
まとめ
養子縁組は、法定相続人を調整することで、相続税の基礎控除額を増やしたり、希望する人に財産を渡したりできる、とても有効な生前対策です。しかし、税法上の人数制限や、他の相続人とのトラブルの可能性、相続税の2割加算といった注意点も存在します。メリットとデメリットを十分に理解し、ご家族とよく話し合った上で、慎重に検討することが大切です。ご自身の状況に合わせて最適な方法を見つけるために、専門家への相談も視野に入れると良いでしょう。
参考文献
養子縁組と相続のよくある質問まとめ
Q.養子縁組をすると、相続税の節税になりますか?
A.はい、法定相続人が増えるため、相続税の基礎控除額や生命保険金の非課税枠が増え、節税につながる場合があります。ただし、養子にできる人数には税法上の制限があります。
Q.相続税対策で養子にできる人数に制限はありますか?
A.相続税法上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には制限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。
Q.普通養子縁組と特別養子縁組で、相続権に違いはありますか?
A.はい、違いがあります。普通養子縁組の場合、養子は養親と実親の両方の相続人になります。一方、特別養子縁組の場合、実親との法的な親子関係が解消されるため、養親の相続人のみとなります。
Q.孫を養子にした場合、相続分はどうなりますか?
A.孫を養子にすると、孫は「子」としての相続権と、本来の「孫」としての代襲相続権の両方を持つ可能性があります。ただし、相続税の計算上は2割加算の対象外になるなどのメリットがあります。
Q.連れ子を養子にしないと、その子に相続権はないのですか?
A.はい、再婚相手の連れ子と養子縁組をしていない場合、法律上の親子関係がないため、その連れ子に法定相続権はありません。遺産を渡したい場合は、養子縁組をするか、遺言書を作成する必要があります。
Q.養子縁組による相続対策にデメリットはありますか?
A.はい、あります。法定相続人が増えることで、他の相続人の相続分が減少し、親族間のトラブルに発展する可能性があります。また、一度養子縁組をすると解消(離縁)は簡単ではありません。