ご家族から広大な土地を相続されたとき、「相続税は一体いくらになるんだろう…」と不安に感じてしまいますよね。実は、その広い土地、評価方法によっては相続税を大きく減額できる可能性があります。その鍵となるのが「広大地の評価」という制度です。この制度は現在「地積規模の大きな宅地の評価」へと変わっていますが、平成29年12月31日以前の相続であれば、今からでも適用できるケースがあるんです。この記事では、そんな「広大地の評価」について、その仕組みや適用するための条件、注意点などを、できるだけ分かりやすくお話ししていきますね。
そもそも「広大地の評価」とは?
「広大地の評価」とは、とても広い土地を評価するときに、その広さゆえの使いにくさを考慮して、相続税評価額を最大で65%も減額できる、とても有利な評価方法のことです。現在は新しい制度に移行していますが、過去の相続についてはこちらの旧制度が適用されるため、今でも非常に重要な知識なんですよ。
なぜ評価額が下がるの?その仕組みを解説
広い土地を住宅地として売却しようとすると、多くの場合、土地の中に新しく道路(開発道路といいます)を造る必要があります。この道路部分は売ることができない「潰れ地」になってしまいますよね。つまり、広い土地は、その面積のすべてを有効活用できるわけではない、という事情があるのです。「広大地の評価」は、この開発道路になるであろう部分の価値を評価額から差し引くことで、評価額を下げてくれる仕組みになっています。具体的には、「広大地補正率」という特別な率を使って評価額を計算します。
「地積規模の大きな宅地の評価」との違い
平成30年1月1日以降に発生した相続では、「広大地の評価」は廃止され、新たに「地積規模の大きな宅地の評価」という制度が適用されています。この2つは似ているようで、実は大きな違いがあるんですよ。主な違いを表にまとめてみました。
項目 | 広大地の評価(旧制度) |
適用期間 | 平成29年12月31日までの相続 |
計算方法 | 広大地補正率で大幅に減額(適用されれば効果大) |
判断基準 | 「適用できるか/できないか」の判断が複雑で曖昧な部分があった |
項目 | 地積規模の大きな宅地の評価(現行制度) |
適用期間 | 平成30年1月1日以降の相続 |
計算方法 | 規模格差補正率で段階的に減額 |
判断基準 | 適用要件がより明確化された |
大きな違いは、広大地評価が「0か100か」のような評価だったのに対し、新制度は土地の条件に応じて段階的に評価額が下がるようになった点です。そのため、広大地評価が適用できた場合は、新制度よりも減額効果が大きくなるケースも少なくありません。
どんな土地が広大地に該当するの?
広大地に該当するのは、一言でいうと「戸建住宅を建てるために開発が必要になるような、市街化区域にある広い土地」です。具体的には、その地域での標準的な宅地の面積と比べて、著しく面積が広い土地が対象となります。例えば、周りが150㎡くらいの戸建てばかりの地域に、ポツンと1,000㎡の土地があれば、それは広大地に該当する可能性が高い、というイメージですね。
広大地評価の適用要件をチェックしよう
広大地評価を適用するためには、いくつかの厳しい要件をすべてクリアする必要があります。この判断は非常に専門的で難しいのですが、ここでは基本的な要件を一つずつ確認していきましょう。
その地域における標準的な宅地の地積に比べて著しく地積が広大であること
まず、面積に関する要件です。これは客観的な基準が設けられています。
地 域 | 必要な面積 |
三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏) | 500㎡以上 |
それ以外の地域 | 1,000㎡以上 |
ただし、これはあくまで原則です。地域の条例などで標準的な宅地面積が定められている場合は、そちらを基準に判断することもあります。
開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地(道路など)の負担が必要と認められること
これが広大地評価で最も重要かつ、判断が難しいポイントです。単に土地が広いだけではダメで、もしその土地を戸建分譲地として開発するなら、「新たに道路を造る必要がある」と客観的に認められなければなりません。例えば、既に広い道路に面していて、わざわざ中に道路を造らなくても各区画が道路に接することができるような土地は、この要件を満たさないと判断される可能性が高いです。この判断は、各自治体が定める「開発指導要綱」などを基に行われます。
都市計画法に規定する開発行為を行うことができる区域にあること
広大地評価は、戸建分譲開発を前提とした評価方法なので、開発が許可されている地域にある土地でなければなりません。具体的には、原則として「市街化区域」にある土地が対象となります。市街化を抑制している「市街化調整区域」にある土地は、原則として適用できませんが、大規模な宅地開発が許可される場合など、例外的に適用できるケースもあります。
大規模工場用地やマンション敷地ではないこと
その土地の最も有効な使い方が、戸建分譲ではない土地は対象外となります。例えば、既にマンションが建っている土地や、周囲の状況から見てマンションを建てることが最も合理的と考えられる土地は、マンション適地と判断され、広大地評価は適用できません。同様に、大規模な工場の敷地として利用されている土地も対象外です。
広大地評価の計算方法
それでは、実際にどのように評価額を計算するのか見ていきましょう。計算式自体はシンプルですが、「広大地補正率」の求め方がポイントです。
広大地の価額 = 路線価 × 広大地補正率 × 地積(㎡)
広大地補正率の求め方
広大地補正率は、土地の面積(地積)を使って以下の式で計算します。この式を見ると、土地が広ければ広いほど、補正率が小さく(=減額幅が大きく)なることが分かりますね。
広大地補正率 = 0.6 - 0.05 × (広大地の地積 ÷ 1,000㎡)
ただし、この補正率には下限があり、どんなに土地が広くても0.35より小さくなることはありません。具体的には、地積が5,000㎡以上の土地は、一律で補正率が0.35となります。
具体的な計算例
ここで、具体的な例で計算してみましょう。
- 土地の地積:2,000㎡
- 正面路線価:100,000円/㎡
1. 広大地補正率を計算します
0.6 – 0.05 × (2,000㎡ ÷ 1,000㎡) = 0.6 – 0.1 = 0.5
2. 広大地の評価額を計算します
100,000円 × 0.5 (広大地補正率) × 2,000㎡ = 100,000,000円
もし広大地評価を適用しなかった場合、評価額は「100,000円 × 2,000㎡ = 200,000,000円」となります。このケースでは、広大地評価を適用することで評価額が半分になり、相続税も大幅に軽減されることが分かりますね。
広大地評価を適用する際の注意点
減額効果が非常に大きい広大地評価ですが、適用するには注意すべき点もあります。特に、税務署との見解の相違が生まれやすい点は知っておく必要があります。
税務署との見解の相違が生まれやすい
広大地評価は、適用要件の解釈、特に「開発道路の負担が必要か」という判断が非常に難しく、税務調査で指摘を受けやすい項目の一つでした。税理士が「適用できる」と判断しても、税務署は「適用できない」と判断し、見解が分かれてしまうことが少なくなかったのです。そのため、申告時には、なぜ広大地に該当するのかを客観的な資料に基づいて、理論的に説明できる準備をしておくことがとても大切です。
専門家(税理士)への相談が不可欠
ここまでお話ししてきたように、広大地評価の適用判断は、土地評価や関連法規に関する深い知識と経験が求められます。ご自身で判断して申告するのは、非常にリスクが高いと言えるでしょう。広い土地を相続された場合は、必ず土地評価や相続税申告に詳しい税理士に相談することをおすすめします。特に、実際に現地を調査し、役所での調査も丁寧に行ってくれる専門家を選ぶことが重要です。
更正の請求で相続税が戻ってくる可能性も
「うちの親の相続はもう何年も前に終わっているけど、もしかして広大地だったかも…」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。もし、平成29年12月31日以前の相続で、広大地評価を適用せずに相続税を申告・納税していた場合、「更正の請求」という手続きをすることで、払い過ぎた相続税が戻ってくる可能性があります。
更正の請求ができる期間
この「更正の請求」ができる期間は、原則として法定申告期限から5年以内と定められています。法定申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月後です。もし期間内であれば、諦めずに一度専門家に相談してみる価値は十分にあります。過去の申告書などを見てもらい、広大地評価が適用できる土地だったかどうかを診断してもらいましょう。
まとめ
今回は、相続税評価額を大きく下げることができる「広大地の評価」についてお話ししました。最後に、大切なポイントを振り返っておきましょう。
- 広大地の評価は、平成29年12月31日以前の相続に適用される、評価額を大幅に減額できる制度です。
- 適用には「面積要件」や「開発道路の必要性」など、複雑で専門的な要件をクリアする必要があります。
- 適用できるかどうかの判断は非常に難しいため、必ず土地評価に強い税理士などの専門家に相談しましょう。
- 過去の相続で適用し忘れていた場合でも、申告期限から5年以内であれば「更正の請求」で税金が還付される可能性があります。
広大な土地の相続は、税金の負担も大きくなりがちですが、このような制度を正しく活用することで、負担を大きく軽減できるかもしれません。心当たりのある方は、ぜひ一度、専門家への相談を検討してみてくださいね。
参考文献
広大地評価のよくある質問まとめ
Q.広大地評価とは、どのような制度でしたか?
A.広大な土地の相続税評価額を大幅に減額できる制度でしたが、平成29年末で廃止されました。現在は「地積規模の大きな宅地の評価」という新しい制度に引き継がれています。
Q.現在の「地積規模の大きな宅地の評価」との違いは何ですか?
A.最も大きな違いは減額率の計算方法です。新制度では、土地の面積や形状に応じて個別に「規模格差補正率」を適用して計算するため、より土地の実態に合った評価がされるようになりました。
Q.「地積規模の大きな宅地の評価」が適用される面積の要件は?
A.原則として、三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の土地が対象となります。ただし、適用除外の要件もあるため注意が必要です。
Q.マンションが建っている土地でも適用できますか?
A.以前の広大地評価では適用が難しいケースがありましたが、現在の「地積規模の大きな宅地の評価」では、マンション用地であることだけを理由に適用が否定されることはなくなり、適用できる可能性が広がりました。
Q.過去の相続で、広大地評価の適用を忘れていました。今からでも修正できますか?
A.相続税の申告期限から5年以内であれば、「更正の請求」という手続きを行うことで、評価額の減額と納め過ぎた税金の還付を受けられる可能性があります。
Q.この評価方法を適用する最大のメリットは何ですか?
A.土地の評価額が大きく下がることで、相続税や贈与税の負担を大幅に軽減できることが最大のメリットです。これにより、納税資金の準備が楽になったり、手元に多くの財産を残したりすることが可能になります。