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後妻の生活を守りつつ財産は子供へ。円満相続を実現する3つの方法

2025-10-23
目次

ご自身の再婚後、相続についてお悩みではありませんか?「自分が亡くなった後、後妻の生活は保障してあげたい。でも、最終的には自分の財産は前妻との間の子供たちに渡したい…」こういったお気持ちを抱えている方は、実は少なくありません。大切なご家族全員が安心できる相続を実現するためには、事前の準備がとても重要になります。この記事では、後妻の生活を守りながら、ご自身の財産を子供たちに引き継がせるための具体的な3つの方法を、分かりやすく解説していきますね。

なぜ通常の相続では希望が叶えられないのか?

まず、なぜ特別な対策が必要なのかを知っておきましょう。何もしないまま相続が発生すると、法律で定められた割合(法定相続分)で財産が分けられます。この場合、後妻と子供が法定相続人となり、財産を共有することになります。これにはいくつかの問題点があるのです。

法定相続のままだと起こりうること

もし遺言書がなければ、民法で定められた相続分に従って財産が分けられます。例えば、配偶者(後妻)と子供がいる場合、相続分はそれぞれ2分の1ずつです。不動産などをこの割合で共有すると、売却や活用をする際に全員の同意が必要になり、手続きが複雑になることがあります。さらに大きな問題は、後妻が亡くなった後(二次相続)です。後妻が相続した財産は、後妻の親族(例えば後妻の兄弟姉妹など)が相続することになり、ご自身の子供たちには渡らない可能性が高いのです。これでは、「最終的には子供に」という想いを叶えることはできません。

単純な遺言書だけでは不十分なケース

では、「後妻に全財産を相続させる」という遺言書を書けば良いのでしょうか。これなら後妻の生活は安心ですが、今度は子供たちに財産が渡りません。子供たちには遺留分(最低限相続できる権利)がありますが、それだけではご自身の意思とは異なる結果になってしまいます。逆に「子供に全財産を」と書けば、今度は後妻の生活が立ち行かなくなるかもしれません。このように、単純な遺言書だけでは、複雑なご希望を叶えるのは難しい場合があるのです。

財産承継の流れの問題点

通常の相続や単純な遺言では、財産の承継は一代限りで完結してしまいます。「AさんからBさんへ」という流れは指定できても、「AさんからBさんへ、そしてBさんの死後はCさんへ」という連続した指定は、原則としてできません。この問題を解決するために、これからご紹介するような特別な法制度を活用する必要があるのです。

解決策1:柔軟な設計が可能な「家族信託」

ご自身の想いを実現するための最も柔軟で強力な方法の一つが「家族信託(民事信託)」です。これは、ご自身の財産を信頼できる家族(例えば長男など)に託し、契約で決めた目的に従って管理・運用してもらう制度です。

受益者連続型信託の仕組み

今回のケースにぴったりなのが、家族信託の中でも「受益者連続型信託」という仕組みです。これは、受益者(信託財産から利益を受け取る人)を連続して指定できるものです。具体的には、以下のように設定します。

  • 委託者:あなた(財産を託す人)
  • 受託者:あなたの子供(財産を管理・運用する人)
  • 第一受益者:後妻(あなたが亡くなった後、財産からの収益を受け取る人)
  • 第二受益者(残余財産帰属権利者):あなたの子供(後妻が亡くなった後、残った財産そのものを受け取る人)

この仕組みを使えば、あなたが生きている間はもちろん、亡くなった後も、受託者である子供が財産を管理し、そこから得られる収益(例えばアパートの家賃収入など)を後妻の生活費として渡し続けることができます。そして、後妻が亡くなった時点で信託契約は終了し、残った財産は最終的に子供が受け取ることになります。まさに、ご希望通りの財産承継が実現できるのです。

家族信託のメリットとデメリット

家族信託には多くのメリットがありますが、注意すべき点もあります。両方をしっかり理解しておきましょう。

メリット デメリット
・遺言ではできない数世代にわたる財産承継の指定が可能
・ご自身の意思に沿った非常に柔軟な財産管理ができる
・認知症対策としても有効(ご自身が元気なうちから財産管理を任せられる)
・不動産の共有状態を避けられる
・信託契約書の作成などに専門的な知識が必要で、費用がかかる
・信頼できる受託者(子供など)を見つける必要がある
・受託者の負担が大きくなる可能性がある
・信託できる財産はプラスの財産のみ(借金などは信託できない)

家族信託にかかる費用

家族信託を利用する場合、専門家(司法書士や弁護士など)に相談して信託契約書を作成するのが一般的です。費用は信託する財産の額や内容によって大きく異なりますが、目安として以下のような費用がかかります。

  • 専門家へのコンサルティング・契約書作成費用:30万円~100万円以上
  • 公正証書作成費用:5万円~10万円程度
  • 不動産を信託する場合の登録免許税:固定資産税評価額の0.3%~0.4%

初期費用はかかりますが、ご自身の想いを確実に実現できるという大きなメリットがあります。

解決策2:自宅の居住権を守る「配偶者居住権」

もし、後妻に保障したい生活が「今の自宅に住み続けること」がメインであれば、「配偶者居住権」という制度が非常に有効です。これは2020年4月の民法改正で新設された比較的新しい権利です。

配偶者居住権の仕組み

配偶者居住権とは、ご自宅の不動産を「住む権利(配偶者居住権)」と「所有権(負担付所有権)」の2つに分けて考える制度です。遺言書や遺産分割協議によって、以下のように設定します。

  • 配偶者居住権:後妻に設定
  • 負担付所有権:子供に設定

これにより、後妻は亡くなるまで無償でその家に住み続ける権利を得られます。一方で、家の所有権は子供にあるため、後妻が亡くなれば、子供が完全な所有権者として家を自由に使えるようになります。後妻の住まいを確保しつつ、財産は確実に子供に引き継がせる優れた方法です。

配偶者居住権のメリットとデメリット

この制度もメリットとデメリットを理解した上で検討することが大切です。

メリット デメリット
・後妻の住む場所を生涯にわたって確保できる
・所有権と分けることで、後妻が預貯金など他の財産も相続しやすくなる
・二次相続(後妻の死亡時)で配偶者居住権は消滅するため、子供の相続税負担が発生しない
・対象は自宅不動産に限られる
・後妻は自宅を自由に売却したり、誰かに貸したりすることはできない
・一度設定すると後妻の意思だけでは解除できない
・建物の固定資産税は後妻が負担する

解決策3:「負担付遺贈」や「遺言信託」という選択肢

家族信託や配偶者居住権の他にも、遺言書を活用した方法があります。ただし、これらはいくつかの注意点も伴います。

負担付遺贈とは?

「負担付遺贈」とは、財産を渡す代わりに、何らかの義務(負担)を負わせる遺言の方法です。例えば、「後妻にアパートを遺贈する。その負担として、後妻は毎月5万円を子供に支払うこと」といった内容の遺言を作成します。これにより、後妻に財産を渡しつつ、子供にも収益の一部を渡すことができます。しかし、後妻がその負担を履行しないリスクや、後妻の死亡後の財産の行先までは指定できないという限界があります。

後継ぎ遺贈型の遺言信託

これは、信託銀行などが提供している金融商品です。遺言書によって信託を設定し、信託銀行が受託者となって財産を管理します。仕組みは家族信託の受益者連続型信託と似ていますが、受託者が家族ではなく金融機関になる点が大きな違いです。プロに管理を任せられる安心感がある一方、信託報酬などの手数料が継続的にかかるため、コスト面は家族信託より高くなる傾向があります。

どの方法が最適?ケース別比較まとめ

これまでご紹介した3つの方法には、それぞれ特徴があります。ご自身の状況や財産の種類に合わせて、最適な方法を選ぶことが大切です。以下の表で比較してみましょう。

方 法 こんな方におすすめ
家族信託 ・自宅だけでなく、アパートや金融資産など様々な財産を対象にしたい
・財産の管理方法などを柔軟に決めたい
・信頼して財産管理を任せられる子供がいる
配偶者居住権 ・後妻に保障したいのが主に「自宅に住み続けること」である
・不動産以外の財産はあまり多くない
・なるべくシンプルな方法で実現したい
負担付遺贈や遺言信託 ・財産管理を任せられる身内がいない(遺言信託)
・特定の義務を果たしてもらうことを条件に財産を渡したい(負担付遺贈)

まとめ

「後妻の生活は守りたい、でも財産は最終的に子供へ」という想いは、生前のしっかりとした対策で実現可能です。主な方法として、柔軟な設計ができる「家族信託」自宅の居住を保障する「配偶者居住権」、そして遺言を活用する方法があることをご理解いただけたかと思います。どの方法が最適かは、ご自身の財産状況、ご家族との関係性によって異なります。大切なのは、ご自身の想いを法的に有効な形で残すことです。これらの制度は複雑な点も多いため、一人で悩まずに、弁護士や司法書士、税理士といった相続の専門家に一度相談してみることを強くお勧めします。専門家と一緒に、ご家族全員が安心できる最善の道筋を見つけていきましょう。

参考文献

国税庁 No.4662 配偶者居住権等の評価

民事信託の利用の円滑化|法務省

後妻への財産承継と子供への相続に関するよくある質問まとめ

Q.後妻が生きている間は生活の心配がないようにし、後妻が亡くなったら、財産は自分の子供に渡したいです。何か方法はありますか?

A.はい、「家族信託(民事信託)」という制度を活用することで実現できます。この方法を使えば、ご自身の希望通りに財産の承継先を柔軟に設計することが可能です。

Q.「家族信託」とは具体的にどのような制度ですか?

A.家族信託とは、ご自身の財産を信頼できる家族(受託者)に託し、契約で定めた目的に従って管理・運用してもらう制度です。誰に(後妻)、何を(収益)、いつまで渡し、その後は誰に(子供)、何を(財産そのもの)渡すかを自由に決めることができます。

Q.遺言書で「後妻が死んだら子供に渡す」と書くだけではダメなのですか?

A.遺言で指定できるのは、ご自身の財産を次に誰に渡すか(一次相続)までです。後妻に相続された財産は後妻自身のものになるため、その次に誰に渡すか(二次相続)を指定することはできません。確実に子供に財産を渡したい場合は、信託の活用が有効です。

Q.家族信託を利用するメリットは何ですか?

A.最大のメリットは、二次相続以降の財産の承継先まで指定できる点です。これにより、後妻の生活を守りつつ、最終的にはご自身の子供に確実に財産を渡すという希望を叶えられます。また、ご自身が認知症になった際の財産管理対策としても有効です。

Q.信託できる財産にはどのようなものがありますか?

A.現金、預貯金、アパートやマンションなどの収益不動産、ご自宅、株式などの有価証券が主な対象です。特に収益不動産を信託すれば、家賃収入を後妻の生活費とし、後妻が亡くなった後に不動産そのものを子供に渡す、という設計が可能です。

Q.家族信託を始めるには、どこに相談すれば良いですか?

A.家族信託は専門的な知識が必要なため、信託に詳しい弁護士、司法書士、行政書士などの専門家や、信託銀行に相談するのが一般的です。まずは専門家の無料相談などを利用して、ご自身の状況に合った方法を確認することをお勧めします。

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