税理士法人プライムパートナーズ

【文例付】換価分割の遺産分割協議書の書き方|贈与税を防ぐポイント解説

2025-04-17
目次

ご家族が亡くなられて相続が発生したとき、遺された不動産をどう分けるかは大きな課題ですよね。特に、ご実家などの不動産は物理的に分けるのが難しく、相続人の間で公平に分ける方法に悩む方も少なくありません。そんなときに有効な選択肢となるのが「換価分割」です。これは、不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分け合う方法です。とても公平で分かりやすい方法ですが、その手続きの中心となる「遺産分割協議書」の書き方を間違えてしまうと、思いがけず高額な贈与税が課せられてしまう危険性があります。この記事では、換価分割の基本から、贈与税のリスクを回避するための遺産分割協議書の具体的な書き方、注意点まで、文例を交えながら優しく解説していきます。

換価分割とは?遺産を公平に分けるための一つの方法

遺産の分け方(遺産分割)には、主に3つの方法があります。それぞれの特徴を知ることで、なぜ換価分割が選ばれるのかが分かりやすくなりますよ。

現物分割 土地は長男、預貯金は長女、株式は次男、というように遺産そのものを現物のまま分ける方法です。最もシンプルな方法ですが、財産の価値が異なると不公平感が出やすいのが難点です。
代償分割 長男が実家の土地・建物をすべて相続するかわりに、他の相続人(長女・次男)に法定相続分に見合う現金(代償金)を支払う方法です。財産を渡す側に十分な資力が必要になります。
換価分割 今回テーマとなる方法で、不動産などの遺産を売却して現金に換え、その売却代金を相続人で分け合う方法です。物理的に分けられない財産でも、1円単位で公平に分割できるのが最大のメリットです。

換価分割のメリット

換価分割には、他の方法にはない大きなメリットがあります。

  • 公平な分割が可能:売却代金を分割割合に応じて分けるため、相続人の間で不公平感が生まれにくく、トラブルを避けやすいです。
  • 評価額で揉めない:代償分割では不動産の評価額を巡って意見が対立しがちですが、換価分割は実際に売れた金額が基準になるため、評価で揉めることがありません。
  • 納税資金を確保できる:相続税の納税は現金一括が原則です。遺産が不動産ばかりで手元に現金がない場合でも、売却代金を納税資金に充てることができます。
  • 誰も住まない不動産を有効活用できる:相続人の中にその不動産に住む人がいない場合、管理の手間や固定資産税の負担だけが残ってしまいます。売却することで、これらの負担から解放されます。

換価分割のデメリット

一方で、デメリットもしっかりと理解しておく必要があります。

  • 売却に手間と費用がかかる:不動産会社探しから買主との交渉、契約まで、時間と手間がかかります。また、仲介手数料や登記費用などの諸経費も発生します。
  • 希望の価格で売れるとは限らない:市場の状況によっては、想定より低い価格でしか売却できない可能性もあります。
  • 思い出の資産がなくなる:ご家族の思い出が詰まったご実家などを手放すことになるため、心情的な寂しさが伴うこともあります。
  • 譲渡所得税がかかる場合がある:不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税と住民税が課税されます。

換価分割が適しているケース

上記のメリット・デメリットを踏まえると、以下のような場合に換価分割が特に有効な選択肢となります。

  • 相続財産が不動産のみで、公平に分けるのが難しい。
  • 相続人の中に、その不動産を取得したい人がいない。
  • 相続税の納税資金を準備する必要がある。
  • 代償分割で必要となる代償金を支払える相続人がいない。

換価分割のための遺産分割協議書の基本構成

換価分割を行うと決まったら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類は、法務局での不動産の名義変更(相続登記)や、金融機関での手続きに必要となる非常に重要なものです。まずは、どのような内容を記載するのか、基本の構成を見ていきましょう。

被相続人と相続人の特定

はじめに、誰の相続に関する協議なのかを明確にするため、亡くなられた方(被相続人)の情報を記載します。戸籍謄本や住民票の除票に記載されている通り、正確に書きましょう。

【記載例】

被相続人:山田 太郎
最後の本籍:東京都千代田区千代田1番1号
最後の住所:東京都新宿区西新宿二丁目8番1号
生年月日:昭和30年4月1日
死亡日:令和6年5月1日

次に、この遺産分割協議に参加した相続人全員が誰であるかを明記します。

対象財産の特定

どの財産を換価分割するのかを、誰が見ても一つに特定できるように具体的に記載します。特に不動産の場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載通りに、一字一句間違えずに書くことが重要です。

【不動産の記載例】

<土地>
所在:〇〇市〇〇町一丁目
地番:100番1
地目:宅地
地積:200.50平方メートル

<建物>
所在:〇〇市〇〇町一丁目100番地1
家屋番号:100番1
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 60.00平方メートル 2階 50.00平方メートル

相続人全員の署名と実印の押印

協議書の最後に、相続人全員が合意した証として、各自が署名し、実印を押印します。このとき、住所は印鑑証明書に記載されている通りに記載してください。そして、各相続人の印鑑証明書を添付します。これにより、協議書が相続人本人の意思に基づいて作成されたことを証明します。

【贈与税回避の鍵】換価分割の登記方法と遺産分割協議書の文例

さて、ここからが最も重要なポイントです。換価分割で不動産を売却するには、まず被相続人名義から相続人名義へと変更する「相続登記」が必要です。この相続登記の方法には2つのパターンがあり、どちらを選ぶかによって遺産分割協議書の書き方が変わります。そして、この書き方こそが、贈与税を回避する鍵となるのです。

パターン①:代表相続人1人の単独名義にする(単独登記)

相続人のうちの1人を代表者と決め、その人の単独名義で相続登記をした後、売却手続きを進める方法です。代表者が一人で売買契約などを進められるため、手続きがスムーズというメリットがあります。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。遺産分割協議書の書き方が不適切だと、「代表者が不動産を単独で相続し、その後に売却代金を他の相続人に贈与した」と税務署に判断されてしまうリスクがあるのです。そうなると、お金を受け取った他の相続人に高額な贈与税がかかってしまいます。

このリスクを避けるため、遺産分割協議書には以下の2点を必ず明記してください。

  1. この名義変更は、あくまで「換価分割を目的とする便宜的なもの」であること。
  2. 売却代金から諸経費を差し引いた残額を、具体的な割合で各相続人に分配すること。

この2点を明記することで、「これは贈与ではなく、最初から遺産分割の一環ですよ」ということを対外的に証明できます。

【単独登記の場合の文例】

第1条 相続人 山田 一郎、山田 花子及び山田 次郎は、被相続人 山田 太郎の遺産である下記不動産(以下「本件不動産」という。)について、換価分割することに合意した。

第2条 本件不動産は、換価分割を目的として、便宜上、相続人 山田 一郎が単独で取得するものとする。

(不動産の表示)

第3条 相続人 山田 一郎は、速やかに本件不動産を売却し、その売却代金から、仲介手数料、登記費用、その他売却に要した一切の費用を控除した残金を、以下の割合で各相続人に分配するものとする。
・山田 一郎:3分の1
・山田 花子:3分の1
・山田 次郎:3分の1

パターン②:相続人全員の共有名義にする(共同登記)

法定相続分や協議で決めた割合に応じて、相続人全員の共有名義で相続登記をしてから売却する方法です。売却活動や契約の際に相続人全員の署名・押印が必要になるため手続きは煩雑になりますが、公平性が高く、税務上のリスクが低いというメリットがあります。

【共同登記の場合の文例】

第1条 相続人 山田 一郎、山田 花子及び山田 次郎は、被相続人 山田 太郎の遺産である下記不動産(以下「本件不動産」という。)を換価分割するものとする。

第2条 本件不動産は、換価のため、相続人 山田 一郎、山田 花子及び山田 次郎がそれぞれ3分の1の共有持分にて取得する

(不動産の表示)

第3条 相続人らは、共同して本件不動産を売却し、その売却代金から、仲介手数料、登記費用、その他売却に要した一切の費用を控除した残金を、各自の共有持分割合に応じて取得する

単独登記と共同登記、どちらを選ぶべき?

どちらの方法が良いかは、相続人の状況によって異なります。下の表を参考に、ご自身のケースに合った方法を選びましょう。

比較項目 単独登記(代表者名義)
手続きの手間 簡単(代表者1人で進められる)
贈与税のリスク あり(協議書の書き方が不適切だとリスク大)
売却代金の管理 代表者1人の口座に入金されるため、使い込みなどのリスクも考えられる
おすすめのケース 相続人間の信頼関係が非常に高く、手続きをスムーズに進めたい場合
比較項目 共同登記(全員の共有名義)
手続きの手間 煩雑(全員の署名押印が必要)
贈与税のリスク 低い(実態に即した登記のため)
売却代金の管理 各相続人に直接分配されるため、透明性が高い
おすすめのケース 手続きの透明性や公平性を重視する場合、税務リスクを確実に避けたい場合

換価分割で知っておくべき税金の話

換価分割を進める上で、税金の知識は不可欠です。特に注意すべき3つの税金について解説します。

最も注意すべき「贈与税」

前述の通り、単独登記を選択した際に最も注意すべき税金です。遺産分割協議書に「換価分割が目的であること」や「代金の分配割合」を明記しないまま、代表者の口座に入った売却代金を他の相続人に分けると、それは「遺産分割」ではなく「代表者から他の相続人への贈与」とみなされる可能性があります。贈与税は税率が非常に高いため、数百万円もの税金を支払うことにもなりかねません。協議書の書き方一つで結果が大きく変わることを、くれぐれも忘れないでください。

利益が出たら課税される「譲渡所得税」

不動産を売却して、購入した時よりも高く売れた場合、その利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税(所得税・住民税)が課税されます。納税義務者は、その不動産の名義人です。

  • 単独登記の場合:代表者1人が納税義務者となります。
  • 共同登記の場合:各共有者がそれぞれの持分に応じた譲渡所得について納税義務者となります。

ただし、一定の要件を満たせば「相続空き家の3,000万円特別控除」などの特例を使える場合があります。この特例を適用できれば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるため、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。適用できるかどうか、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。

換価分割と「相続税」の関係

「不動産が高く売れたら、相続税も高くなるのでは?」と心配されるかもしれませんが、その心配は不要です。相続税は、あくまで亡くなられた日(相続開始日)時点での財産の評価額を基に計算されます。そのため、その後に不動産をいくらで売却したとしても、一度確定した相続税額に影響はありません。

換価分割の遺産分割協議書作成Q&A

ここでは、換価分割の遺産分割協議書を作成する際によくある疑問にお答えします。

売却にかかる費用は誰がどうやって負担するの?

不動産の売却には、不動産会社に支払う仲介手数料や、登記費用、印紙税など、さまざまな費用がかかります。これらの費用を誰が負担するのかで揉めないように、あらかじめ協議書に明記しておくと安心です。「売却代金から諸経費を控除した残金を分配する」という一文を入れておけば、売却代金の中から全員で公平に負担することになります。

後から他の遺産が見つかったらどうなるの?

遺産分割協議が終わった後に、被相続人が持っていた株式や預金通帳など、協議書に記載していない財産が見つかることがあります。そのような場合に備えて、「本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人全員で別途協議する」といった一文を入れておくと、その後の手続きがスムーズになります。

遺産分割協議書はいつまでに作ればいい?

遺産分割協議書に法律上の作成期限はありません。しかし、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。相続税の申告には、遺産分割協議書が必要になる場合が多く、また、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった節税効果の大きい特例は、遺産分割が確定していることが適用要件となります。そのため、申告期限までに協議をまとめて協議書を作成することが理想的です。

まとめ

換価分割は、分けにくい不動産などを相続した場合に、相続人全員が納得しやすい公平な分割を実現できる有効な方法です。しかし、その手続きを円滑に進め、特に予期せぬ贈与税の課税リスクを避けるためには、遺産分割協議書の正しい作成が不可欠です。

今回の記事のポイントを最後におさらいしましょう。

  • 換価分割は、遺産を売却して現金で分ける公平な方法。
  • 売却するには、まず相続人名義への相続登記が必要。登記方法には「単独登記」と「共同登記」がある。
  • 単独登記を選ぶ場合は、贈与税とみなされないよう、遺産分割協議書に「換価分割が目的であること」と「売却代金の分配割合」を必ず明記する。
  • 売却で利益が出た場合は譲渡所得税がかかる可能性がある。特例が使えないか確認しよう。
  • 手続きに不安がある場合や、相続人の間で意見がまとまりにくい場合は、弁護士や司法書士、税理士といった専門家に相談することをおすすめします。

大切なご家族が遺してくれた財産を、円満に、そして正しく次の世代へつなぐために、この記事がお役に立てば幸いです。

参考文献

換価分割の遺産分割協議書に関するよくある質問まとめ

Q.換価分割とは、どのような遺産分割方法ですか?

A.遺産を売却してお金に換えてから、その現金を相続人間で分ける方法です。不動産など公平に分けにくい遺産がある場合に用いられます。

Q.換価分割の遺産分割協議書には何を記載すればいいですか?

A.「どの遺産を換価分割の対象とするか」「誰が代表して売却手続きを行うか」「売却代金から諸経費を差し引くこと」「諸経費を差し引いた後の金額を、誰がどの割合で取得するか」などを具体的に記載します。

Q.不動産を売却する前に遺産分割協議書を作成すべきですか?

A.はい、売却前に作成するのが一般的です。相続人全員の合意を書面に残しておくことで、後のトラブルを防ぎ、売却手続きをスムーズに進めることができます。

Q.売却代金の分け方で注意することはありますか?

A.売却にかかった仲介手数料や登記費用などの諸経費を、売却代金から差し引いた後の金額を分けることを明確に記載しましょう。経費の範囲を具体的に定めておくと、より安心です。

Q.遺産分割協議書に「代表相続人」を定めるのはなぜですか?

A.不動産の売買契約や代金の受け取りなどを相続人全員で行うのは煩雑なため、手続きを円滑に進める代表者を一人決めます。その代表者が責任をもって手続きを進めることを協議書に明記します。

Q.換価分割で税金はかかりますか?

A.はい、遺産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、各相続人の取得割合に応じて譲渡所得税・住民税が課税される可能性があります。相続税とは別に申告と納税が必要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。