ご家族が亡くなられた後の相続手続きでは、財産の分け方が大きなテーマになります。その中で、「故人のために頑張った分、多く財産をもらえないだろうか?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。そんな時に知っておきたいのが「寄与分」と「特別寄与料」という制度です。この二つは似ているようで、対象になる人や中身が異なります。この記事では、二つの制度の違いや請求方法、金額の計算方法などを、具体例を交えながら優しく解説していきますね。
そもそも「寄与分」ってどんな制度?
まずは、以前からある「寄与分」という制度について見ていきましょう。これは、亡くなった方(被相続人といいます)の財産を増やしたり、維持したりすることに「特別な貢献」をした相続人がいる場合に、その貢献分を法定相続分に上乗せしてあげましょう、という制度です。相続人同士の公平を保つために設けられています。
寄与分が認められるのはどんな人?
寄与分を主張できるのは、共同相続人に限られます。つまり、亡くなった方の配偶者や子、親、兄弟姉妹など、法律で定められた相続人だけが対象です。例えば、長男が親の介護をしていた場合は対象になりますが、その長男のお嫁さんが介護を頑張っていても、お嫁さん自身は相続人ではないため、この「寄与分」を主張することはできません。
寄与分が認められる「特別な貢献」とは?
寄与分が認められるには、単に「親の面倒を見ていた」というだけでは難しく、「特別な寄与」と評価される必要があります。これは、親子や夫婦間の協力・扶助義務を超えるような、特別な貢献を指します。具体的には、主に以下の5つのタイプがあります。
家業従事型 | 亡くなった方が経営していたお店や農業などを無給、または非常に安い給料で手伝っていたケース。 |
財産給付型 | 亡くなった方の事業のために資金を提供したり、不動産購入の資金を援助したりしたケース。 |
療養看護型 | 病気や高齢の亡くなった方を、職業としてではなく無償で長期間にわたって介護・看護したケース。 |
扶養型 | 亡くなった方に仕送りをするなどして生活を支え、本来であれば亡くなった方が支出するはずだった生活費を負担したケース。 |
財産管理型 | 亡くなった方が所有するアパートの管理などを行い、財産の維持や増加に貢献したケース。 |
特に「療養看護型」では、ヘルパーを頼めば費用が発生したところを、家族が介護することでその支出を免れた、という点が評価されます。そのため、片手間でできるような身の回りの世話程度では「特別な寄与」とは認められにくいのが実情です。
寄与分はいくらもらえる?計算方法を解説
寄与分が認められた場合、相続財産の計算方法が少し変わります。まず、相続財産の総額から寄与分を差し引いたものを「みなし相続財産」として、これを法定相続分で分けます。その後、寄与分を主張した相続人は、その法定相続分に自分の寄与分を上乗せして受け取ります。
【例】遺産総額5,000万円、相続人が子どもA・Bの2人、Aの寄与分が1,000万円と認められた場合
- みなし相続財産を計算:5,000万円(遺産総額)- 1,000万円(Aの寄与分)= 4,000万円
- みなし相続財産を法定相続分で分ける:4,000万円 ÷ 2人 = 2,000万円(1人あたりの相続分)
- 各人の最終的な取得額を計算:
- Aの取得額:2,000万円 + 1,000万円(寄与分)= 3,000万円
- Bの取得額:2,000万円
このように、貢献が認められることで、相続できる財産額に大きな差が出ることがあります。
2019年から新設!「特別寄与料」とは?
寄与分制度では、相続人でない人の貢献は報われませんでした。特に「長年、義理の親の介護を献身的に行ってきた長男の嫁」のようなケースで、不公平だという声が多くありました。そこで、2019年7月の民法改正で新しく作られたのが「特別寄与料」の制度です。これにより、相続人以外の方でも、その貢献に見合った金銭を相続人に対して請求できるようになりました。
特別寄与料を請求できるのはどんな人?
特別寄与料を請求できるのは、「被相続人の親族」です。ここでいう「親族」とは、法律で定められた範囲のことで、具体的には「6親等内の血族」と「3親等内の姻族」を指します。少し難しい言葉ですが、亡くなった方から見て、子の配偶者(長男の嫁など)や、孫、甥・姪、いとこなどが含まれます。ただし、相続人や、相続放棄をした人は対象外です。
特別寄与料が認められる貢献とは?
特別寄与料の対象となる貢献は、寄与分よりも範囲が限定されています。認められるのは「無償で行った療養看護その他の労務の提供」のみです。つまり、亡くなった方の介護をしたり、事業を無償で手伝ったりといった、体を使った貢献が対象となります。寄与分で認められていた「財産の給付」、例えばお金を援助したようなケースは、特別寄与料の対象にはなりませんので注意が必要です。
特別寄与料はいくらもらえる?計算方法を解説
特別寄与料の金額は、まずは当事者間の話し合いで決めますが、まとまらない場合は家庭裁判所が判断します。その際の計算方法の目安として、療養看護の場合は以下のような式が使われることが多いです。
特別寄与料 = 介護報酬相当額(日当)× 療養看護日数 × 裁量割合
介護報酬相当額は、介護保険の要介護度などに応じて決まり、一般的には1日あたり5,000円~8,000円程度が目安とされています。裁量割合とは、親族間の扶養義務などを考慮して調整するためのもので、0.5~0.9程度の係数がかけられます(実務では0.7がよく使われます)。
【例】長男の嫁Cさんが、要介護3の義父を3年間(1,095日)にわたり介護した。介護報酬相当額を日当6,000円、裁量割合を0.7とした場合
6,000円 × 1,095日 × 0.7 = 4,599,000円
この場合、Cさんは相続人に対して約460万円の特別寄与料を請求できる可能性がある、ということになります。ただし、請求できる金額の上限は、遺産の総額から遺贈(遺言による贈与)の額を引いた金額までと定められています。
「寄与分」と「特別寄与料」の主な違いを比較
ここまでご説明した二つの制度の違いを、表で分かりやすくまとめてみましょう。
項目 | 寄与分 |
請求できる人 | 相続人のみ |
対象となる貢献 | ・家業従事 ・財産給付 ・療養看護 など幅広く対象 |
請求方法 | 遺産分割協議の中で主張する |
請求期限 | 原則として相続開始から10年 |
項目 | 特別寄与料 |
請求できる人 | 相続人以外の親族(子の配偶者など) |
対象となる貢献 | 療養看護などの労務提供のみ(金銭援助は対象外) |
請求方法 | 相続人に対して金銭の支払いを請求する |
請求期限 | 相続の開始と相続人を知った時から6か月以内 または 相続開始の時から1年以内 |
特に重要なのが請求期限です。特別寄与料は寄与分に比べて非常に短いため、「いつか請求しよう」と思っていると、あっという間に期限が過ぎてしまう可能性があります。この制度の利用を考えている方は、できるだけ早く行動を起こすことが大切です。
寄与分・特別寄与料を請求する手続きの流れ
では、実際にこれらの権利を主張する場合、どのような手続きを踏むのでしょうか。基本的な流れは同じです。
まずは当事者間での話し合いから
何よりもまず、相続人全員での話し合いが基本です。寄与分であれば遺産分割協議の場で、特別寄与料であれば相続人に対して、貢献した内容や希望する金額を具体的に伝えます。その際、介護日誌や医療費の領収書、通帳の記録など、貢献を客観的に示す証拠があると、他の相続人の理解を得やすくなります。
話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所へ
当事者間の話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
・寄与分の場合:「寄与分を定める処分調停」
・特別寄与料の場合:「特別の寄与に関する処分調停」
調停では、調停委員が間に入って話し合いを進めてくれます。それでもまとまらなければ、最終的には裁判官が判断する「審判」という手続きに移行します。
知っておきたい税金の話
寄与分や特別寄与料を受け取った場合、税金はどうなるのでしょうか。これも重要なポイントです。
寄与分と相続税
寄与分として取得した財産は、もともと相続財産の一部ですので、相続税の課税対象となります。ただし、相続人が受け取るものなので、相続税が2割増しになる「2割加算」の対象にはなりません。
特別寄与料と相続税
特別寄与料として受け取った金銭は、税法上「遺贈(遺言による贈与)によって取得したもの」とみなされ、こちらも相続税の課税対象となります。注意点として、特別寄与料を受け取るのは相続人ではないため、原則として相続税額の2割加算の対象になります。
まとめ
今回は、相続における「寄与分」と「特別寄与料」について解説しました。どちらも、故人のために尽くした方の貢献を金銭的に評価するための大切な制度です。ご自身の状況がどちらの制度に当てはまるのか、違いをしっかり理解し、特に請求期限には十分注意してください。相続の話は感情的になりやすく、当事者だけでは話がこじれてしまうことも少なくありません。請求を検討している方、または請求をされてどう対応すればよいか分からない方は、一度、相続に詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。
参考文献
寄与分・特別寄与料のよくある質問まとめ
Q.寄与分とは何ですか?
A.被相続人(亡くなった方)の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分に加えて多くもらえる財産のことです。例えば、家業を無給で手伝ったり、高額な療養看護費を負担したりした場合が該当します。
Q.どのような場合に寄与分は認められますか?
A.主に「家業従事型」「金銭等出資型」「療養看護型」「扶養型」「財産管理型」などがあります。被相続人の事業への貢献、財産の提供、無償での介護、生活費の負担などが典型的なケースです。
Q.特別寄与料とは何ですか?寄与分との違いは?
A.相続人ではない親族が、被相続人に対して無償で療養看護などを行い、財産の維持・増加に貢献した場合に請求できる金銭のことです。相続人が請求する「寄与分」と異なり、相続人以外の親族(例:息子の嫁)が対象となる点が大きな違いです。
Q.息子の嫁でも特別寄与料は請求できますか?
A.はい、請求できます。息子の嫁(配偶者)は相続人ではありませんが、「被相続人の親族」に該当するため、無償で介護などの特別な貢献をしていれば、相続人に対して特別寄与料を請求する権利があります。
Q.寄与分や特別寄与料を請求するにはどうすればいいですか?
A.まずは相続人間での遺産分割協議で主張します。話がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて請求することになります。
Q.寄与分や特別寄与料の請求に時効はありますか?
A.寄与分は遺産分割が終了するまで主張できます。特別寄与料は、寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月、または相続開始の時から1年を経過すると請求できなくなるため注意が必要です。