ご家族が亡くなられた後、手続きを進める中で「まだ受け取っていない年金(未支給年金)があるけれど、これは相続財産になるの?」と疑問に思う方は少なくありません。特に国民年金や厚生年金といった公的年金は、多くの方が受け取っていた可能性があるため、気になるポイントですよね。結論からお伝えすると、未支給の国民年金や厚生年金は相続財産には含まれません。この記事では、なぜ相続財産にならないのか、その理由と税金の扱い、そして注意すべき年金の種類について、わかりやすく解説していきます。
未支給年金(未収年金)とは?
まず、「未支給年金(みしきゅうねんきん)」または「未収年金(みしゅうねんきん)」がどのようなものかをご説明しますね。これは、年金を受け取っていた方が亡くなったときに、まだ受け取っていなかった年金のことを指します。
なぜ未支給年金は必ず発生するの?
国民年金や厚生年金などの公的年金は、亡くなった月までの分が支給されます。しかし、年金の支払いは後払いが原則で、偶数月(2月, 4月, 6月, 8月, 10月, 12月)の15日に、その前月と前々月の2ヶ月分が振り込まれる仕組みになっています。例えば、4月15日に振り込まれるのは、2月分と3月分の年金です。
このため、いつ亡くなっても、少なくとも1ヶ月分以上のまだ支払われていない年金、つまり未支給年金が必ず発生するのです。
誰が未支給年金を受け取れるの?
この未支給年金は、誰でも受け取れるわけではありません。亡くなった方と生計を同じくしていた遺族が請求できます。受け取れる遺族には優先順位が決められており、上位の方がいる場合、下位の方は請求できません。
【未支給年金を受け取れる遺族の優先順位】
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- その他3親等内の親族(甥・姪、おじ・おば など)
請求手続きはどうすればいい?
未支給年金の請求は、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターで行います。手続きには、「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出と、未支給年金の請求手続きが必要です。ただし、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として「年金受給権者死亡届」の提出は不要です。請求には5年の時効がありますので、忘れずに手続きを行いましょう。
主な必要書類 | 書類の説明 |
---|---|
未支給年金・未支払給付金請求書 | 年金事務所の窓口や日本年金機構のホームページで入手できます。 |
亡くなった方の年金証書 | 紛失した場合は、その旨を窓口で伝えます。 |
亡くなった方と請求者の続柄がわかる書類 | 戸籍謄本などが必要です。 |
生計を共にしていたことがわかる書類 | 亡くなった方の住民票(除票)と請求者の世帯全員の住民票など。 |
受取希望の金融機関の通帳 | 請求者本人名義の口座情報がわかるものが必要です。 |
なぜ公的年金の未支給年金は相続財産にならないの?
ここが一番のポイントです。未支給の国民年金や厚生年金が相続財産に加算されないのには、法律に基づいた明確な理由があります。
法律で定められた「遺族固有の権利」だから
国民年金法や厚生年金保険法では、未支給年金は「その年金受給者の死亡当時その者と生計を同じくしていた遺族が、自己の名でその支給を請求することができる」と定められています。これは、未支給年金が亡くなった方の財産(遺産)ではなく、残された遺族の生活を支えるために、遺族自身に与えられた権利(固有の財産)であることを意味しています。最高裁判所の判例(平成7年11月7日)でも、この考え方が示されています。
そのため、未支給年金は相続財産にはならず、遺産分割協議の対象にもなりません。請求権を持つ遺族が一人で手続きし、受け取ることができます。
相続税はかからないけど所得税はかかる?
未支給年金は相続財産ではないため、相続税の課税対象にはなりません。これは大きなメリットと言えるでしょう。しかし、税金が全くかからないわけではないので注意が必要です。
受け取った遺族の「一時所得」になる
遺族が受け取った未支給年金は、その年の「一時所得」として扱われ、所得税の課税対象となります。一時所得には、年間で最大50万円の特別控除があります。他に一時所得に分類される収入(生命保険の一時金や懸賞金など)がなく、受け取った未支給年金の金額が50万円以下であれば、実質的に所得税はかかりません。
一時所得の計算式:
(受け取った未支給年金の金額 - 50万円)× 1/2 = 課税対象となる金額
この計算で残った金額を、給与所得など他の所得と合算して、その年の所得税を計算します。受け取った金額が50万円を超える場合は、確定申告が必要になる可能性がありますので覚えておきましょう。
注意!相続財産になる「未収年金」もある
ここまで「公的年金は相続財産にならない」と説明してきましたが、すべての年金が同じ扱いではありません。企業年金や個人年金保険といった「私的年金」の場合は、扱いが異なり、相続財産に含まれるケースがあります。
企業年金の場合
企業が独自に運営する企業年金の場合、課税関係が少し複雑です。
- 亡くなった月までの未支給分:公的年金と同様に、受け取った遺族の一時所得となり、相続税はかかりません。
- 死亡の翌月以降に支給される分:保証期間付きの年金などで、亡くなった後も遺族に年金が支払われる場合があります。この権利は「定期金に関する権利」とみなされ、相続税の課税対象となります。
個人年金保険の場合
生命保険会社などで加入する個人年金保険の未支給分は、原則として相続税の課税対象となります。これは、亡くなった方から「年金を受け取る権利」を相続したとみなされるためです。ただし、誰が保険料を支払っていたかによって、相続税ではなく贈与税の対象となるケースもありますので、契約内容の確認が必要です。
公的年金と私的年金の課税関係まとめ
公的年金と私的年金の未支給分について、税金の扱いをまとめました。このように、年金の種類によって全く異なることがわかりますね。
年金の種類 | 相続税の扱い |
---|---|
国民年金・厚生年金(公的年金) | かからない(遺族固有の財産のため) |
企業年金(私的年金) | 死亡月まではかからないが、死亡翌月以降の分はかかる場合がある |
個人年金保険(私的年金) | 原則としてかかる(年金受給権を相続するため) |
まとめ
今回は、「なぜ未収の国民年金、厚生年金は相続財産に加算されないのか」という疑問について解説しました。
最後にポイントを整理しましょう。
- 未支給の国民年金や厚生年金(公的年金)は、法律で「遺族固有の権利」と定められているため、相続財産にはなりません。
- したがって、遺産分割の対象にもならず、相続税もかかりません。
- ただし、受け取った遺族の「一時所得」として所得税の対象になり、金額によっては確定申告が必要です。
- 一方で、企業年金や個人年金保険などの「私的年金」は、相続税の課税対象となるケースが多いので注意が必要です。
年金の種類によって税金の扱いが大きく異なるため、亡くなった方がどのような年金に加入していたかを確認することが大切です。手続きには期限が設けられているものもありますので、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
参考文献
未収年金の相続に関するよくある質問まとめ
Q.故人が受け取るはずだった年金(未収年金)は、相続財産になりますか?
A.いいえ、未収年金は相続財産にはなりません。年金を受け取る権利は故人本人だけのものであり(一身専属権)、相続の対象外とされています。
Q.未収年金が相続財産にならないなら、相続税はかかりますか?
A.未収年金は相続財産ではないため、相続税の課税対象にはなりません。ただし、受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になる場合があります。
Q.相続人ではないのですが、故人の未収年金を受け取れますか?
A.はい、受け取れる可能性があります。未収年金は、故人と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などの親族が請求できます。これは民法の相続順位とは異なります。
Q.故人の未収年金を受け取るには、どのような手続きが必要ですか?
A.お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに「未支給年金・保険給付請求書」を提出する必要があります。故人の年金証書、戸籍謄本、請求者の住民票などが必要です。
Q.未収年金の請求に期限はありますか?
A.はい、あります。年金の支払日の翌月の初日から5年を過ぎると時効により請求できなくなるため、早めに手続きをすることが重要です。
Q.遺族年金と未収年金の違いは何ですか?
A.未収年金は「故人自身が受け取るはずだった年金」です。一方、遺族年金は「故人によって生計を維持されていた遺族の生活を保障するために、遺族自身に支給される年金」であり、制度の目的が異なります。