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相続不動産の換価分割、確定申告は代表者だけでOK?全員必要?

2025-04-07
目次

ご両親が亡くなり、実家などの不動産を相続したけれど、兄弟みんな自分の家を持っているし、誰も住む予定がない…。そんな時、不動産を売却して現金化し、相続人で分け合う「換価分割(かんかぶんかつ)」という方法があります。この方法なら公平に分けられるので、相続トラブルを防ぎやすいというメリットがあります。
しかし、不動産を売却すると利益(譲渡益)が出ることがあり、その場合は税金の申告が必要です。ここで多くの方が疑問に思うのが、「手続きを代表者一人が進めた場合、確定申告もその代表者だけがすればいいの?それとも相続人全員がしないといけないの?」という点です。
この問題を勘違いしたまま進めてしまうと、後から思わぬ税金がかかってしまう可能性も。この記事では、換価分割における確定申告の疑問について、誰が、何をすべきなのかを分かりやすく解説していきます。

換価分割とは?

まずは、「換価分割」がどのような遺産分割方法なのか、基本からおさえておきましょう。換価分割とは、相続した不動産や株式といった、そのままでは分けにくい財産を売却してお金に換え、その現金を相続人同士で分け合う方法です。相続人が複数いる場合に、最も公平に分割しやすい方法の一つと言われています。

換価分割のメリット

換価分割には、主に次のようなメリットがあります。

  • 公平に分割できる:1円単位で分けられるため、相続人間の不公平感がなく、トラブルになりにくいです。
  • 納税資金を確保できる:相続税の支払いは現金一括が原則です。不動産を売却することで、納税資金を準備することができます。
  • 自己資金が不要:特定の相続人が他の相続人にお金を支払う「代償分割」と違い、誰も自己資金を用意する必要がありません。

換価分割のデメリット

一方で、デメリットも存在します。

  • 売却に手間と費用がかかる:不動産会社への仲介手数料や、登記費用などが必要です。
  • 希望の価格で売れるとは限らない:市場の状況によっては、想定より低い価格でしか売却できない可能性もあります。
  • 譲渡所得税がかかる場合がある:不動産を売却して利益が出た場合、税金がかかります。これについては後ほど詳しく解説しますね。

換価分割が向いているケース

次のような状況では、換価分割が有効な選択肢となります。

  • 相続人の中に、その不動産に住んだり利用したりする人が誰もいない場合
  • 相続財産が不動産くらいしかなく、公平に分けたい場合
  • 相続税を支払うための現金が手元にない場合

【本題】不動産の売却と確定申告は誰が行う?

さて、ここからが本題です。相続人の代表者一人が不動産の売却手続きを進めた場合、譲渡益の確定申告は誰が行うのでしょうか。結論からお伝えすると、売却代金を受け取る相続人全員が、それぞれ確定申告を行う必要があります。代表者一人がまとめて申告することは認められていません。

なぜ相続人全員の申告が必要なの?

たとえ手続きの便宜上、代表者一人の名義(単独登記)にして売却したとしても、税法上は「遺産分割協議で決まった割合に応じて、各相続人が不動産を売却した」とみなされます。つまり、売却によって利益を得たのは、お金を分配された相続人全員ということになります。そのため、利益を受け取った人それぞれに、税金を申告し、納税する義務が生じるのです。

代表者一人が申告・納税するとどうなる?

もし、代表者が善意で他の相続人の分の税金までまとめて支払ってしまうと、税務署から「代表者から他の相続人へ、税金相当額の贈与があった」と判断される可能性があります。その場合、受け取った他の相続人には、贈与税が課せられてしまう恐れがあるのです。譲渡所得税を支払った上に、さらに贈与税までかかってしまうと、大きな負担になってしまいます。このような事態を避けるためにも、必ず各自で申告・納税を行いましょう。

相続登記は誰の名義にする?

換価分割を前提として不動産を売却する場合、まずは亡くなった方(被相続人)の名義から相続人の名義へ変更する「相続登記」が必要です。この登記には、主に2つの方法があります。

登記の方法 内容と注意点
① 相続人全員の共有名義(共同登記) 原則的な方法です。不動産を相続人全員で共有している状態にします。売却時には相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となり、手続きが少し煩雑になることがあります。
② 代表者一人の単独名義(単独登記) 手続きをスムーズに進めるために、代表者一人の名義にする方法です。売却手続きは代表者だけで進められますが、他の相続人から「勝手に売却された」といった誤解を招かないよう注意が必要です。遺産分割協議書に「換価分割を目的として、便宜上、代表者〇〇の単独名義とする」と明確に記載することが非常に重要です。これにより、贈与税のリスクを回避できます。

換価分割にかかる税金の種類と計算方法

換価分割を行う際には、いくつかの税金や費用がかかります。特に重要なのが、不動産売却の利益に対してかかる「譲渡所得税」です。

譲渡所得税・住民税

不動産を売却して得た利益を「譲渡所得」といい、この所得に対して所得税と住民税が課税されます。譲渡所得は以下の計算式で算出します。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費:その不動産を被相続人が購入したときの代金や手数料です。購入時の契約書などが見つからず不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計算することができます。
  • 譲渡費用:売却時にかかった仲介手数料や印紙税などのことです。

税率は、不動産の所有期間によって変わります。この所有期間は、被相続人が取得した日から計算されるので、多くの場合「長期譲渡所得」に該当します。

所有期間 区   分
5年超 長期譲渡所得20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
5年以下 短期譲渡所得39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)

登録免許税

相続登記を行う際に、法務局に納める税金です。税額は、不動産の固定資産税評価額 × 0.4% となります。

印紙税

不動産の売買契約書に貼る収入印紙の代金です。契約金額に応じて、税額は1万円から6万円(軽減措置適用後)などと変動します。

譲渡所得税の負担を軽くする特例

譲渡所得税は高額になることもありますが、条件を満たせば税負担を軽減できる特例が用意されています。これらは確定申告の際に適用を受ける必要があります。

相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

相続税を支払った人が、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内にその相続した財産を売却した場合、支払った相続税の一部を不動産の取得費に上乗せできる制度です。取得費が増えることで、課税対象となる譲渡所得が減り、結果的に税金が安くなります。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

いわゆる「空き家特例」です。一定の要件を満たす被相続人が住んでいた家(空き家)を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる非常に大きな特例です。主な要件には以下のようなものがあります。

  • 昭和56年5月31日以前に建てられた家であること
  • 相続の開始直前において、被相続人が一人で住んでいたこと
  • 相続してから売却するまで、事業用や賃貸用として使っていないこと
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 相続開始日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること

特例を使う際の注意点

これらの特例を利用するには、いくつかの注意点があります。

  • 原則として、複数の特例を併用することはできません。
  • 特例を適用した結果、譲渡所得がゼロになり税金がかからない場合でも、必ず確定申告を行う必要があります。
  • 空き家特例は、被相続人と同居していた相続人は利用できないなど、相続人ごとに適用要件が異なります。そのため、特例を使える相続人と使えない相続人で税負担に差が生まれ、不公平感が生じる可能性も考慮しておく必要があります。

換価分割をスムーズに進めるための重要ポイント

最後に、トラブルなく換価分割を終えるための大切なポイントを2つご紹介します。

遺産分割協議書の作成が必須

換価分割を行う際は、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。これは、相続人全員が「不動産を売却して現金で分ける」ことに合意した証拠となる、非常に重要な書類です。特に、代表者一人の単独名義で登記する場合は、贈与とみなされないためにも必須です。以下の内容を明確に記載してください。

  1. 相続財産である不動産を換価分割する目的で売却すること
  2. 売却代金から諸経費(仲介手数料、税金など)を差し引いた後の金額の分配割合
  3. 売却にかかる諸経費を誰がどのように負担する
  4. (単独登記の場合)手続きの便宜上、代表者〇〇の単独名義とする

確定申告は忘れずに行う

不動産を売却して譲渡益が出た場合、売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、相続人それぞれがご自身の住所地を管轄する税務署で確定申告を行う必要があります。期限に遅れると無申告加算税などのペナルティが課されることもあるため、忘れずに行いましょう。

まとめ

今回は、相続不動産を換価分割した場合の確定申告について解説しました。大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。

  • 相続不動産を売却して利益が出た場合、確定申告は代表者一人ではなく、売却代金を受け取った相続人全員が行う必要があります。
  • 代表者一人が手続きを進める場合は、後々のトラブルや贈与税のリスクを避けるため、遺産分割協議書に「換価分割が目的である」ことを必ず明記しましょう。
  • 譲渡所得税には、税負担を軽減できる特例があります。ご自身のケースで使えるものがないか、要件を確認することが大切です。

換価分割は、公平に遺産を分けられる有効な方法ですが、税金の手続きが少し複雑です。もしご自身で進めるのが不安な場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

相続不動産の換価分割と確定申告のよくある質問まとめ

Q.相続した不動産を売却しました。代表者一人がまとめて確定申告をすることはできますか?

A.いいえ、できません。相続した不動産は相続人全員の共有財産となるため、売却によって得た利益(譲渡所得)も相続人全員に帰属します。そのため、確定申告は相続人全員が、それぞれの持分割合に応じて行う必要があります。

Q.なぜ相続人全員で確定申告をする必要があるのですか?

A.不動産の所有権が法律上、相続人全員にあるためです。代表者一人が全ての利益を受け取って申告し、その後他の相続人へ金銭を分配すると、その行為が「贈与」とみなされ、別途贈与税が課されるリスクがあるため、各所有者が申告する必要があります。

Q.「換価分割(かんかぶんかつ)」とは何ですか?

A.換価分割とは、相続した不動産など、物理的に分けにくい遺産を売却してお金に換え、その現金を相続人間で分配する遺産分割方法の一つです。公平に分割しやすいメリットがあります。

Q.相続人全員で申告する場合、具体的にどのように計算すればよいですか?

A.まず、不動産の売却価格から取得費と譲渡費用を引いて、全体の譲渡所得を計算します。その譲渡所得を、遺産分割協議で定めた持分割合(または法定相続分)に応じて各相続人に按分し、それぞれが自身の所得として確定申告を行います。

Q.もし代表者一人が申告して、後から他の相続人にお金を渡した場合、どうなりますか?

A.税務上、代表者から他の相続人への「贈与」と判断される可能性が非常に高いです。その場合、お金を受け取った相続人に高額な贈与税が課される恐れがあるため、必ず各自で申告するようにしてください。

Q.売却にかかった仲介手数料などの経費は、誰が計上できますか?

A.仲介手数料や印紙税といった譲渡費用も、譲渡所得と同じように、各相続人が自身の持分割合に応じて按分し、それぞれの確定申告で経費として計上することができます。

事務所概要
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