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代表者が売却!換価分割した不動産の確定申告、相続人全員の書き方留意点

2025-04-06
目次

ご家族が遺してくれた不動産を相続したものの、利用する予定がないため、相続人の代表者が売却手続きを行い、その代金をみんなで分ける「換価分割」。この方法は、公平に遺産を分けられるとても便利な手段ですよね。でも、ここで一つ大切なポイントがあります。それは、不動産を売却して利益(譲渡益)が出た場合、相続人全員がそれぞれ確定申告をする必要があるということです。「手続きは代表者一人がやったから、申告も代表者だけでいいのでは?」と思いがちですが、税金のルールは少し違うんです。この記事では、換価分割を行った場合の確定申告について、誰が、どのように申告すればいいのか、具体的な書き方のステップや知っておきたい留意点を、分かりやすく解説していきますね。

換価分割と確定申告の基本を理解しよう

まずは、「換価分割」とは何か、そしてなぜ相続人「全員」に確定申告が必要になるのか、基本的なところから押さえていきましょう。この仕組みを理解することが、スムーズな申告への第一歩ですよ。

そもそも「換価分割」ってどんな方法?

換価分割とは、相続した不動産や株式など、物理的に分けることが難しい遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人同士で分け合う方法のことです。例えば、実家の土地と建物を相続人3人で分ける場合、土地を3つに分けたり、建物を共有名義にしたりするのは現実的ではありませんよね。そこで、不動産を売却して得たお金を3人で分けることで、誰にも不公平なく、スッキリと遺産分割を終えることができます。トラブルが起きにくく、公平性が高いのが大きなメリットです。

なぜ相続人「全員」が確定申告する必要があるの?

ここが一番大切なポイントです。たとえ相続人の代表者一人が売買契約などの手続きを行ったとしても、税法上は「各相続人が、自分の相続分(持ち分)に相当する不動産を売却した」と考えられます。つまり、不動産の売却によって利益(専門用語で「譲渡所得」といいます)が出た場合、その利益を受け取る相続人全員に、自分の持ち分に応じた所得税を納める義務が発生するのです。そのため、相続人一人ひとりが自分の名前で確定申告を行う必要があります。

代表者名義で登記(単独登記)した場合も全員申告?

はい、その通りです。不動産を売却する際には、亡くなった方(被相続人)の名義のままでは売れません。そのため、一度相続人の名義に変更する「相続登記」が必要です。このとき、手続きをスムーズに進めるために、代表者一人の名義(単独登記)にすることがよくあります。しかし、遺産分割協議書に「この不動産は換価分割(売却)する目的で、便宜上、代表者〇〇の名義にする」といった内容と、「売却代金は各相続人が〇分の〇の割合で分ける」ということがきちんと書かれていれば、税務署はこれを換価分割と認識してくれます。もしこの記載がないと、代表者から他の相続人へお金を贈与したとみなされ、思わぬ贈与税がかかってしまう可能性があるので、遺産分割協議書の作成はとても重要です。

確定申告の準備!必要書類と確認事項

確定申告をスムーズに進めるためには、事前の準備が欠かせません。申告時期になって慌てないように、どんな書類が必要で、何を事前に確認しておくべきか、しっかりチェックしておきましょう。

集めておきたい必要書類一覧

確定申告には、主に以下の書類が必要になります。コピーで良いものもありますので、早めに手元に揃えておくと安心です。

書類名 入手先・備考
確定申告書B、申告書第三表(分離課税用) 税務署の窓口や国税庁のホームページからダウンロードできます。
譲渡所得の内訳書(土地・建物用) 確定申告書と同じく、税務署や国税庁ホームページで入手します。
不動産の売買契約書のコピー 売却時に不動産会社から受け取ったものです。
仲介手数料などの譲渡費用の領収書のコピー 売却にかかった費用の領収書です。登記費用なども含まれます。
遺産分割協議書のコピー 換価分割であることと、分配割合が明記されているか確認しましょう。
被相続人が不動産を取得した時の書類のコピー 購入時の売買契約書など。取得費を証明するために必要です。
相続税の申告書のコピー(該当者のみ) 相続税を納めた場合に、「取得費加算の特例」で必要になります。

売却益(譲渡所得)の計算方法を確認しよう

確定申告で申告するのは、不動産を売って得た利益である「譲渡所得」です。この金額は、以下の計算式で求められます。

譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)

それぞれの項目について、ご自身の持ち分で計算することを忘れないでくださいね。例えば、不動産全体の売却価格が6,000万円で、ご自身の相続分が3分の1なら、計算に使う売却価格は2,000万円となります。

  • 売却価格:不動産を売った金額そのものです。
  • 取得費:亡くなった方がその不動産を購入したときの代金や手数料です。建物の場合は、年数に応じた減価償却費を差し引きます。
  • 譲渡費用:不動産を売るために直接かかった費用で、仲介手数料や印紙税、登記費用などが含まれます。

取得費がわからない!そんな時は?

相続した不動産が古く、購入当時の契約書などが見つからず取得費がわからない、というケースは少なくありません。そんなときは、「売却価格の5%」を概算取得費として計算することができます。例えば、売却価格が6,000万円なら、300万円が取得費となります。ただし、この方法は実際の取得費よりもかなり低くなることが多く、その分、譲渡所得が大きくなり税金が高くなってしまう可能性があるので注意が必要です。

【書き方解説】確定申告書作成のステップ

書類の準備ができたら、いよいよ申告書の作成です。少し難しく感じるかもしれませんが、一つひとつのステップを順番に進めていけば大丈夫ですよ。ここでは、大まかな流れをご説明します。

ステップ1:譲渡所得の内訳書を作成する

最初に作成するのが「譲渡所得の内訳書」です。これは、譲渡所得を計算するための明細書のようなものです。この書類に、以下の情報をご自身の持ち分に応じて記入していきます。

  1. 不動産の所在地や面積など:売買契約書を見ながら正確に記入します。
  2. 売却価格:不動産全体の売却価格 × ご自身の相続割合 の金額を記入します。
  3. 取得費:被相続人の購入価格 × ご自身の相続割合 の金額を記入します。
  4. 譲渡費用:仲介手数料など × ご自身の相続割合 の金額を記入します。

これらの金額を基に、書類の案内に沿って計算を進めると、最終的に「課税される譲渡所得金額」が算出されます。

ステップ2:確定申告書に転記する

次に、譲渡所得の内訳書で計算した金額を、確定申告書に書き写していきます。

  1. 申告書第三表(分離課税用):まず、この用紙に譲渡所得の内訳書で算出した「課税される譲渡所得金額」を転記します。ここで、所得税額と住民税額を計算します。
  2. 申告書第一表・第二表:第三表で計算した所得金額や税額を、第一表と第二表の対応する欄に転記します。給与所得など他の所得がある場合は、それらも合わせて記入します。

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の案内に従って数字を入力するだけで自動的に計算してくれるので、手書きよりも簡単で間違いも少なくおすすめです。

申告書の提出方法と期限

確定申告の期間は、不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日までです。この期間内に、お住まいの地域を管轄する税務署に申告書を提出し、納税まで済ませる必要があります。提出方法は以下の3つです。

  • e-Tax(電子申告):インターネット経由で申告する方法です。自宅から24時間提出できて便利です。
  • 郵送:信書として郵便で送ります。消印の日付が提出日とみなされます。
  • 税務署の窓口へ持参:直接税務署の窓口に提出します。時間外は受付箱に投函することもできます。

知っておきたい!税金の特例と注意点

不動産の譲渡所得には、税金の負担を軽くしてくれる特例がいくつか用意されています。適用できれば大きな節税につながりますので、ご自身が対象になるかぜひ確認してみてください。

使えるかも?「相続税の取得費加算の特例」

もし、あなたがその不動産を相続したときに相続税を納税していた場合、この特例を使える可能性があります。「取得費加算の特例」とは、相続開始があった日の翌日から3年10ヶ月以内にその不動産を売却した場合に、あなたが納めた相続税の一部を取得費に上乗せできる制度です。取得費が増えることで譲渡所得が減り、結果として所得税と住民税を節税することができます。相続税を納めた方は、忘れずに適用を検討しましょう。

「被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除」

相続した家が、亡くなった方が一人で住んでいた家(空き家)で、一定の要件を満たす場合には、「空き家の3,000万円特別控除」という特例が使えることがあります。この特例は、譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという、非常に節税効果の高い制度です。主な要件は以下の通りです。

要件項目 内   容
対象物件 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、相続開始直前に被相続人のみが居住していたことなど。
売却時期 相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
売却価格 売却代金が1億円以下であること。
その他 家屋を取り壊して土地だけを売る場合や、売却時に耐震リフォームをする場合など、状況によって細かな要件があります。

この特例を適用して譲渡所得がゼロになったとしても、確定申告は必ず必要ですのでご注意ください。

注意点:贈与税と間違われないための遺産分割協議書

再度お伝えしますが、遺産分割協議書の記載内容は非常に重要です。代表者が売却代金を一度すべて受け取り、後から他の相続人へ分配する流れは、客観的に見ると「贈与」に見えてしまう可能性があります。税務署に贈与と判断されないためには、遺産分割協議書に以下の2点を必ず明記しておきましょう。

  • この相続財産は、売却して現金で分ける「換価分割」を目的とすること。
  • 売却代金から諸費用を差し引いた残りを、各相続人が「〇分の〇」の割合で取得すること。

この記載があることで、あくまで遺産分割の一環であることが証明でき、余計な贈与税の心配がなくなります。

確定申告をしなかった場合どうなる?

「少しの利益だから申告しなくてもバレないのでは?」と考えてしまうかもしれませんが、それはとても危険です。申告を怠ると、本来納めるべき税金に加えて、重いペナルティが課されてしまいます。

無申告加算税と延滞税のペナルティ

期限内に確定申告をしなかった場合、ペナルティとして「無申告加算税」と「延滞税」が課せられます。

  • 無申告加算税:原則として、納付すべき税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の割合で課されます。税務調査を受ける前に自主的に申告すれば5%に軽減されます。
  • 延滞税:法定納期限の翌日から、実際に税金を納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税がかかります。

これらの追徴課税は、本来払う必要のなかったお金です。必ず期限内に申告するようにしましょう。

税務署はなぜわかるの?

不動産を売買すると、所有権が移転したことを記録する「登記」が行われます。この登記情報は、法務局から税務署へ通知される仕組みになっています。そのため、税務署は「誰が、いつ、どの不動産を売却したか」という情報を確実に把握しています。売却した事実があるのに確定申告がされていないと、税務署から「お尋ね」という書類が届き、最終的には税務調査につながる可能性が高いのです。

まとめ

今回は、相続人代表者が不動産を換価分割し、相続人全員で確定申告を行う際の留意点について解説しました。最後に、大切なポイントをもう一度おさらいしましょう。

  • 不動産の換価分割で譲渡益が出た場合、手続きを代表者一人が行っても、相続人全員がそれぞれ確定申告をする必要があります。
  • 申告書の作成は、売却価格や取得費などをご自身の相続割合(持ち分)に応じて按分して計算します。
  • 「取得費加算の特例」や「空き家の3,000万円特別控除」など、使える可能性のある特例は積極的に活用して節税をはかりましょう。
  • 贈与税を疑われないよう、遺産分割協議書には換価分割である旨と分配割合を明記することが不可欠です。
  • 申告漏れには重いペナルティが課されます。不動産の売却事実は税務署に把握されているため、必ず期限内に正しく申告しましょう。

確定申告は少し複雑に感じるかもしれませんが、この記事で解説したポイントを押さえ、一つひとつ丁寧に進めていけば大丈夫です。もしご自身での申告に不安がある場合は、税理士などの専門家に相談するのも一つの方法ですよ。

参考文献

換価分割による不動産売却の確定申告 よくある質問まとめ

Q.Q.換価分割で不動産を売却しました。確定申告は代表者だけでよいですか?

A.いいえ、相続人全員が各自で確定申告を行う必要があります。不動産の売却による利益(譲渡所得)は、遺産分割協議で定められた相続分に応じて各相続人に帰属するためです。

Q.Q.確定申告書の「譲渡所得の内訳書」には、全体の金額と自分の持分、どちらを書けばよいですか?

A.ご自身の相続分(持分)に応じた金額を記入します。例えば、売却代金が5,000万円で相続分が1/2の場合、「譲渡価額」には2,500万円と記入します。取得費や譲渡費用も同様に持分で按分した金額を記載してください。

Q.Q.亡くなった親がいつ不動産を買ったかわからず、取得費が不明な場合はどうすればよいですか?

A.取得費が不明な場合は、売却価格の5%を「概算取得費」として計上することができます。実際の取得費が5%より低い場合もこの概算取得費を使うことが可能です。

Q.Q.相続税を支払っているのですが、譲渡所得の税金を安くできる特例はありますか?

A.はい、「相続税の取得費加算の特例」を使える可能性があります。相続開始から3年10ヶ月以内にその不動産を売却した場合、支払った相続税額のうち一定額を取得費に加算でき、譲渡所得を圧縮して税負担を軽減できます。

Q.Q.相続人全員で同じ内容の確定申告書を提出するのですか?

A.譲渡所得の計算内容は基本的に同じですが、各相続人の所得状況や利用できる控除(配偶者控除など)が異なるため、最終的な税額はそれぞれ異なります。申告書は各自の状況に合わせて作成・提出します。

Q.Q.換価分割の確定申告で、特に提出すべき書類はありますか?

A.通常の譲渡所得の申告書類に加え、換価分割であることがわかる「遺産分割協議書」のコピーを添付することが推奨されます。これにより、税務署が申告内容をスムーズに理解しやすくなります。

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