「子どもや孫に学費や生活の足しになるお金を渡したいけど、贈与税ってかかるのかな?」そんなふうに思ったことはありませんか?大切な家族をサポートしたい気持ちはあっても、税金のことが気になってしまいますよね。実は、生活費や教育費としての援助は、原則として贈与税がかかりません。でも、渡し方や金額によっては課税対象になってしまうケースもあるんです。この記事では、どんな場合に非課税になるのか、逆にどんな場合に贈与税がかかってしまうのか、具体的なケースを交えながら分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけて、安心して家族をサポートしましょう。
贈与税が非課税になる生活費・教育費の基本ルール
まず、基本として知っておきたいのが、「扶養義務者」から受け取る「通常必要と認められる」生活費や教育費は贈与税の対象にならない、というルールです。扶養義務者とは、一般的に配偶者や、親・祖父母・子・孫などの直系の血族、兄弟姉妹などを指します。生活を支える義務のある人からの、生活や教育に欠かせないお金の援助には、税金をかけないという考え方に基づいています。
「通常必要」ってどのくらい?生活費の具体例
「通常必要と認められる」と言われても、少し分かりにくいですよね。これは「社会通念上、常識的な範囲」と考えれば大丈夫です。例えば、以下のような費用が生活費として認められます。
- 家賃、食費、光熱費などの日常的な生活費
- 病気やケガの治療費、入院費
- 子どもの養育費
- 結婚式や披露宴の費用、新生活のための家具・家電の購入費用
一方で、生活に必要とは言えない贅沢品、例えば高級車やブランド品の購入資金、趣味のコレクションに充てるお金などは、「通常必要」の範囲を超えていると判断され、贈与税の課税対象になる可能性が高いので注意が必要です。
教育費として非課税になる範囲
教育費も生活費と同じように、教育のために通常必要と認められるものであれば贈与税はかかりません。これには、義務教育だけでなく、高校や大学、専門学校などの費用も含まれます。
- 入学金、授業料、施設設備費など学校に直接納めるお金
- 教科書代、教材費、文房具代
- 通学のための交通費
- 学習塾や習い事の月謝
- 海外留学の費用
これらの費用を、親や祖父母が子や孫のために直接支払ってあげる分には、基本的に贈与税の心配はいりません。
非課税のポイントは「必要な都度」渡すこと
生活費や教育費を非課税で渡すための最も重要なポイントは、「必要な都度、直接その支払いに充てる」ことです。例えば、「将来の学費のために」と一括で1,000万円を子どもの口座に振り込んでしまうと、それは「必要な都度」の支払いとは認められません。なぜなら、そのお金が本当に教育費として使われるか分からず、預金したり、投資に使ったりできてしまうからです。このように一括で渡したお金は、贈与税の課税対象となる可能性が非常に高いです。授業料なら学校へ、家賃なら大家さんや管理会社へ直接振り込むなど、使途が明確になるように渡すのが安心です。
生活費・教育費以外で贈与税が非課税になるケース
「必要な都度」渡す以外にも、贈与税がかからずにお金を渡せる方法がいくつかあります。計画的に利用すれば、将来の相続税対策にも繋がります。
年間110万円以下の暦年贈与
贈与税には、誰でも使える年間110万円の基礎控除があります。これは、1人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからず、申告も不要という制度です。この110万円の枠は、先ほど説明した生活費や教育費の非課税とは別枠で使えます。例えば、祖父母が孫の大学の授業料300万円を直接大学に支払った上で、お小遣いとして別途100万円を渡しても、どちらも贈与税はかかりません。
ただし、注意点として、贈与した人が亡くなった場合、亡くなる前の一定期間内の贈与は相続財産に加算される「生前贈与加算」というルールがあります。この期間が、2024年1月1日以降の贈与から段階的に3年間から7年間に延長されていますので、相続対策として暦年贈与を行う場合は気をつけましょう。
相続時精算課税制度の活用
「相続時精算課税制度」は、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫へ贈与する際に選択できる制度です。この制度を選ぶと、贈与者ごとに累計2,500万円までの贈与が非課税になります。2,500万円を超えた分には一律20%の贈与税がかかりますが、この制度で贈与した財産は、将来贈与者が亡くなった時に相続財産に加算して相続税を計算します。つまり、税金の支払いを将来の相続時まで先送りする制度です。
さらに、2024年1月1日からは、この2,500万円の特別控除とは別に年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の贈与であれば、申告も不要で、将来の相続財産にも加算されません。まとまった資金を早めに渡したい場合に有効ですが、一度選択すると暦年課税には戻れないため、慎重な判断が必要です。
まとまったお金を渡せる特例制度
特定の目的のためであれば、一括でまとまった資金を非課税で贈与できる特例制度もあります。これらは期間限定の措置なので、利用を検討する際は期限を確認しましょう。
制度の名称 | 非課税限度額と期限 |
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教育資金の一括贈与に係る非課税措置 | 子や孫1人につき最大1,500万円まで(2026年3月31日まで) |
結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置 | 子や孫1人につき最大1,000万円まで(2025年3月31日まで) |
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置 | 省エネ等住宅は最大1,000万円、それ以外の住宅は500万円まで(2026年12月31日まで) |
教育資金や結婚・子育て資金の特例は、金融機関で専用口座を開設するなどの手続きが必要です。住宅取得等資金の特例を利用するには、贈与を受けた翌年に贈与税の申告が必要になるので忘れないようにしましょう。
要注意!贈与税がかかってしまうケース
良かれと思ってした援助が、思わぬ形で贈与税の対象になってしまうこともあります。よくある間違いやすいケースを知っておきましょう。
生活費・教育費の名目でも使途が違えば課税対象
たとえ「生活費として」「授業料として」という名目でお金をもらっても、そのお金を本来の目的以外に使った場合は贈与税の対象になります。例えば、授業料として親から200万円を受け取ったけれど、実際には奨学金で支払ったため、もらったお金は使わずに預金している、または株式投資に充てた、というようなケースです。この場合、その200万円は生活費や教育費とは認められず、贈与税の課税対象となります。
親による借金の肩代わり
子どもが抱える借金(住宅ローンやカードローンなど)を親が代わりに返済してあげる行為も、実質的にお金を贈与したのと同じとみなされ、贈与税がかかります。これは、子どもが借金を返済する義務を免れるという「経済的な利益」を受けたと考えられるためです。ただし、子ども自身が資力を失い、どうしても返済できない状態にあるなど、特別な事情がある場合は課税されないこともあります。
親が保険料を払った生命保険金
例えば、父親が保険料を支払い、被保険者も父親、満期保険金の受取人が子ども、という生命保険契約があったとします。この場合、父親が生きている間に満期を迎え、子どもが満期保険金を受け取ると、それは父親から子どもへの贈与とみなされ、贈与税の対象となります。保険料を負担していた人とお金を受け取る人が違うため、実質的な贈与と判断されるのです。
こんな場合はどうなる?贈与税のQ&A
贈与税に関する疑問は、家庭の状況によってさまざまです。ここでは、特によくある質問についてお答えします。
妻(夫)の両親からの援助は?
例えば、夫が妻の両親(義父母)から生活の援助を受けた場合、これは贈与税の対象となります。なぜなら、義父母は夫にとって民法上の扶養義務者ではないからです。ただし、妻が自分の親から援助を受け、それを家族の生活費に充てるのであれば問題ありません。お金の流れを明確にしておくことが大切です。
子ども名義の口座に親がお金を入れたら?(名義預金)
「子どもの将来のために」と、子ども名義の銀行口座を作って親がコツコツお金を貯めているケースはよくあります。しかし、子どもがその口座の存在を知らず、通帳や印鑑も親が管理していて自由にお金を引き出せない状態の場合、それは贈与とは認められません。税務上は「名義預金」とみなされ、親の財産として扱われます。そのため、贈与税はかかりませんが、将来親が亡くなったときには相続税の課税対象となってしまうので注意が必要です。
贈与税がかかる場合の申告と納付
年間110万円を超える贈与を受けた場合や、各種特例制度を利用して申告が必要な場合は、必ず手続きを行いましょう。贈与税の申告と納付は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日の間に行います。申告書は、贈与を受けた人(もらった人)の住所地を管轄する税務署に提出します。もし申告を忘れてしまうと、本来の税金に加えて無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されてしまうので、期限は必ず守るようにしてください。
まとめ
ご家族への生活費や教育費の援助について、贈与税の不安は解消されたでしょうか。ポイントをまとめると以下のようになります。
- 扶養義務者から「通常必要と認められる」生活費・教育費を「必要な都度」受け取る場合は非課税。
- 一括でまとまったお金を受け取ったり、目的以外のこと(貯蓄や投資)に使ったりすると課税対象になる。
- 生活費・教育費とは別に、年間110万円の基礎控除や各種特例制度も賢く活用できる。
- 名義預金や借金の肩代わりなど、贈与とみなされるケースに注意が必要。
お金の渡し方ひとつで、税金がかかるかどうかが変わってきます。大切なご家族を安心してサポートするためにも、正しい知識を持つことがとても重要です。もし判断に迷うことがあれば、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
- 国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」
- 国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
- 国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
- 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
生活費・教育費と贈与税のよくある質問まとめ
Q.親から子への生活費や教育費の仕送りは贈与税の対象になりますか?
A.通常、扶養義務者(親など)が必要な都度支払う生活費や教育費には贈与税はかかりません。これは「通常必要と認められるもの」に限られます。
Q.贈与税が非課税になる「生活費」や「教育費」の範囲を教えてください。
A.生活費は食費・家賃・光熱費など日常の費用、教育費は学費・教材費・塾の費用などが該当します。ただし、これらは社会通念上相当と認められる範囲内である必要があります。
Q.生活費や教育費をまとめて前渡ししても非課税になりますか?
A.いいえ、非課税の対象となるのは「必要な都度、直接支払われるもの」です。将来分をまとめて渡すと、その年の贈与として贈与税の課税対象となる可能性があります。
Q.仕送りされた生活費や教育費を使い残して貯金したらどうなりますか?
A.生活費や教育費の名目で受け取ったお金を、本来の目的以外(貯金、株式投資、不動産購入など)に使用した場合、その部分は贈与税の課税対象となります。
Q.「教育資金の一括贈与」の非課税制度とは何が違いますか?
A.通常の都度贈与は金額の上限がありませんが、教育資金の一括贈与は将来の教育費を最大1,500万円まで非課税で前渡しできる制度です。金融機関での専用口座開設など所定の手続きが必要です。
Q.祖父母から孫へ直接学費を支払ってもらった場合も贈与税はかかりませんか?
A.はい、祖父母も孫に対する扶養義務者に含まれるため、孫の教育上必要な学費などを必要な都度直接支払う場合は、原則として贈与税の対象にはなりません。