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相続登記なしで不動産は売却できる?義務化後の注意点と手続きを解説

2025-03-25
目次

親から相続した不動産、「使う予定がないからすぐにでも売りたい…」と考えていませんか?でも、「相続登記って必ずしないといけないの?」「手続きが面倒で後回しにしたい」と感じている方も多いかもしれません。実は、相続登記をしないまま不動産を売却することはできません。この記事では、なぜ相続登記が必要なのか、不動産を売却するまでの具体的な流れ、そして2024年4月から始まった相続登記の義務化について、わかりやすく解説していきます。相続した不動産の売却をスムーズに進めるためのポイントを押さえていきましょう。

結論:相続登記しないと不動産は売却できない

まず結論からお伝えすると、相続した不動産は、相続登記をして名義変更をしない限り、売却することはできません。不動産の所有者が亡くなった方(被相続人)のままでは、法的に売買契約を進めることができないルールになっているんです。なぜなら、その不動産の現在の所有者が誰なのかを公的に証明できないからですね。まずは、この基本的なルールについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

なぜ被相続人名義のままではダメなの?

不動産の所有者が誰であるかは、「登記」によって公に示されています。これは、不動産のような高額な資産を安全に取引するための大切な仕組みです。もし登記上の名義が亡くなった方のままだと、買主さんから見れば「本当にこの人から買って大丈夫?」と不安になりますよね。法律上も、不動産の所有権は登記をしていないと、買主のような第三者に「この不動産は私のものです」と主張(対抗)できないと定められています(民法177条)。そのため、亡くなった方から買主へ直接名義を移す「中間省略登記」は認められておらず、「亡くなった方 → 相続人 → 買主」という順番で正しく所有権を移転させる手続きが必須となるのです。

相続登記はいつから義務化された?

これまで相続登記には期限がなく、手続きが任意だったため、所有者がわからない土地が増えて社会問題になっていました。そこで、この問題を解決するために、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。これにより、不動産を相続した方は、原則としてその事実を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならなくなりました。売却する・しないにかかわらず、相続が発生したら登記が必要になった、と覚えておきましょう。

義務違反のペナルティはある?

はい、ペナルティも設けられました。正当な理由がないのに、相続の開始を知った日から3年以内に相続登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。「正当な理由」とは、例えば、相続人が非常に多くて戸籍謄本の収集に時間がかかる場合や、遺言の有効性をめぐって争いがある場合などが想定されています。また、この義務化は過去に発生した相続にも適用されるため、「ずっと前に相続したけど、登記はまだ…」という方も対象になるので注意が必要ですよ。

相続した不動産を売却するまでの5ステップ

「相続登記が必要なのはわかったけど、具体的に何をすればいいの?」と思いますよね。ここからは、不動産を相続してから売却が完了するまでの一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。一つひとつのステップを順番に確認していきましょう。

ステップ1:遺言書の確認と相続人の確定

まず最初に行うのは、遺言書の有無を確認することです。もし故人が遺言書を残していれば、原則としてその内容に従って遺産を分けます。遺言書がない場合は、法律で定められた相続人(法定相続人)が誰なのかを確定させる必要があります。そのために、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)をすべて集め、誰が相続人になるのかを正確に把握します。

ステップ2:遺産分割協議

相続人が複数いる場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。この協議で、「誰が不動産を相続するのか」「売却して現金で分けるのか」などを決めます。話し合いがまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名と実印での押印をします。この書類は、後の相続登記の申請で非常に重要になります。

ステップ3:相続登記(名義変更)の申請

遺産分割協議が整ったら、いよいよ相続登記の申請です。遺産分割協議書や戸籍謄本、相続人の印鑑証明書など、必要な書類を揃えて、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。手続きが複雑なため、多くの方が司法書士に依頼します。司法書士に依頼した場合の費用は、不動産の評価額や相続人の数にもよりますが、一般的に5万円~15万円程度が目安です。

ステップ4:不動産会社へ売却を依頼

無事に相続登記が完了し、不動産の名義がご自身のものになったら、不動産会社に売却を依頼します。信頼できる不動産会社を選び、不動産の査定をしてもらいましょう。売却活動を依頼する際には、不動産会社と「媒介契約」を結びます。

契約の種類 特  徴
一般媒介契約 複数の不動産会社に同時に依頼できる。自分で買主を見つけることも可能。
専任媒介契約 1社の不動産会社にのみ依頼する。自分で買主を見つけることは可能。
専属専任媒介契約 1社の不動産会社にのみ依頼する。自分で買主を見つけることはできない。

ステップ5:売買契約と決済・引き渡し

購入希望者が見つかり、価格などの条件がまとまれば、売買契約を締結します。このとき、買主から手付金を受け取ります。その後、金融機関などで売主、買主、不動産会社の担当者などが集まり、買主から残りの代金を受け取る「決済」を行います。決済と同時に、不動産の鍵などを買主に渡し(引き渡し)、司法書士が買主への所有権移転登記を申請します。これで売却手続きは完了です。

売却方法によって相続登記の名義は変わる?

相続人が複数いる場合、遺産分割協議で決めた不動産の分け方によって、誰の名義で相続登記をするかが変わってきます。ここでは代表的な3つのパターンをご紹介します。

単独で相続して売却する場合

遺産分割協議の結果、相続人のうちの一人が不動産をすべて相続すると決まった場合は、その方の単独名義で相続登記をします。名義人が一人なので、売却の意思決定や契約手続きがスムーズに進めやすいのがメリットです。他の相続人の同意を得る必要がなく、ご自身の判断で売却を進めることができます。

いったん共有名義にして売却する場合

相続人全員で不動産を共有するという形で、法定相続分に応じた持分で共有名義の登記をすることも可能です。しかし、この方法で売却する場合、共有者全員の同意が必要になります。売買契約書にも全員が署名・押印し、印鑑証明書も全員分用意しなければならないため、手続きが非常に煩雑になりがちです。一人でも反対する人がいると売却できないというデメリットがあります。

売却代金を分ける「換価分割」の場合

不動産そのものではなく、売却して得た現金を相続人間で分ける方法を「換価分割」といいます。この方法は、公平に遺産を分けやすいため、よく選ばれます。換価分割を行う場合、手続きをスムーズにするために、相続人のうちの代表者一人の名義に相続登記をしてから売却するのが一般的です。その際は、遺産分割協議書に「この不動産は売却(換価)して、その代金を〇〇と△△で2分の1ずつ分ける」というように、換価分割する旨を明確に記載しておくことがトラブルを防ぐポイントです。

相続登記にかかる費用はどのくらい?

相続登記の手続きには、いくつか費用がかかります。事前にどのくらいの費用が必要になるか把握しておくと安心ですね。主な費用は以下の3つです。

登録免許税

登録免許税は、登記を申請する際に国に納める税金です。相続登記の場合、税額は以下の計算式で算出されます。
登録免許税 = 不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の土地であれば、2,000万円 × 0.4% = 8万円の登録免許税がかかります。

必要書類の取得費用

相続登記には、故人や相続人の戸籍謄本、住民票の除票、印鑑証明書など、多くの書類が必要です。これらの書類を取得するために、市区町村役場に手数料を支払います。

書類名 手数料(目安)
戸籍謄本 1通 450円
除籍謄本・改製原戸籍謄本 1通 750円
住民票の除票・戸籍の附票 1通 300円程度
印鑑証明書 1通 300円程度

相続関係が複雑で集める戸籍謄本の数が多くなると、この費用も数万円になることがあります。

司法書士への報酬

相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合、その報酬がかかります。報酬額は事務所や案件の難易度によって異なりますが、一般的な相場は5万円~15万円程度です。不動産の数が多い、相続人の数が多い、数世代前の相続登記が未了(数次相続)といった複雑なケースでは、報酬が高くなる傾向があります。

不動産売却でかかる税金と使える特例

無事に不動産を売却できた後、利益(譲渡所得)が出た場合には税金がかかります。しかし、状況によっては税金の負担を軽くできる特例が使えることもありますので、しっかり確認しておきましょう。

譲渡所得税とは?

不動産を売却して得た利益を「譲渡所得」といい、この譲渡所得に対して所得税と住民税がかかります。これをまとめて「譲渡所得税」と呼びます。譲渡所得は以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
「取得費」とは、故人がその不動産を購入したときの代金や手数料のことです。もし購入時の契約書などがなくて取得費がわからない場合は、売却価格の5%を取得費として計算します。相続した不動産の場合、故人がその不動産を所有していた期間も引き継いで計算します。

使えるかもしれない2つの特例

相続した不動産の売却では、税負担を軽減できる特例が用意されています。代表的なものを2つご紹介します。

特例の名称 内  容
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 相続税を支払った方が、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内にその不動産を売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費」に加算できる制度です。取得費が増えることで、譲渡所得が減り、結果的に税金が安くなります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 故人が一人で住んでいた家(空き家)を相続して売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度です。ただし、昭和56年5月31日以前に建てられた家であること、売却代金が1億円以下であることなど、細かい要件があります。

これらの特例を利用するには、確定申告が必要です。ご自身が対象になるかどうか、税務署や税理士に相談してみるのがおすすめです。

まとめ

今回は、相続した不動産を売却する際の相続登記について解説しました。最後に大切なポイントを振り返りましょう。

  • 相続した不動産を売却するには、必ず相続登記が必要です。
  • 2024年4月1日から相続登記は義務化され、3年以内に申請しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。
  • 売却までの大まかな流れは、「相続人の確定」→「遺産分割協議」→「相続登記」→「売却活動」です。
  • 相続登記や不動産売却には、登録免許税や譲渡所得税などの費用・税金がかかりますが、税負担を軽減できる特例もあります。

相続の手続きは複雑で、時間も手間もかかります。特に不動産の売却が絡むと、法律や税金の専門的な知識も必要になります。もし手続きに不安を感じたり、何から手をつけていいかわからなかったりする場合は、一人で悩まずに司法書士や税理士、不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。専門家の力を借りて、スムーズで安心な不動産売却を実現してくださいね。

参考文献

国税庁: No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

国税庁: No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

国税庁: No.7191 登録免許税の税額表

法務省: 相続登記の申請が義務化されます

相続登記と不動産売却のよくある質問まとめ

Q. 相続登記をしないまま不動産を売却できますか?

A. いいえ、できません。不動産を売却するには、まず相続人へ名義変更する「相続登記」を完了させ、登記簿上の所有者になる必要があります。

Q. なぜ売却前に相続登記が必要なのですか?

A. 不動産の所有者が誰であるかを公的に証明するためです。登記簿上の所有者(亡くなった方)と売主(相続人)が異なると、買主への所有権移転登記ができないため、売買契約が成立しません。

Q. 相続登記はいつから義務化されましたか?

A. 2024年4月1日から義務化されました。相続の開始を知った日から3年以内に登記申請を行う必要があります。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

Q. 相続人が複数いる場合、売却はどう進めればよいですか?

A. まず遺産分割協議を行い、不動産を誰が相続するかを決めます。その協議内容に基づき相続登記を行った後、名義人となった相続人が売主として売却手続きを進めるのが一般的です。

Q. 相続登記にはどのような費用がかかりますか?

A. 主に、法務局に納める登録免許税(不動産の固定資産税評価額の0.4%)と、戸籍謄本などの必要書類の取得費用がかかります。司法書士に依頼する場合は、別途その報酬が必要となります。

Q. 売却を急いでいる場合、相続登記を早く済ませる方法はありますか?

A. 司法書士などの専門家に依頼するのが最もスムーズです。必要書類の収集から申請手続きまでを代行してくれるため、ご自身で進めるよりも時間を短縮でき、不備なく登記を完了させることができます。

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