ご親族から山林を相続されたものの、「この山の価値ってどうやって計算するの?」と途方に暮れていませんか。山林の相続税評価は専門的で難しく感じられますよね。でも、ご安心ください。その評価の鍵となるのが「森林簿(しんりんぼ)」という公的な資料です。この記事では、森林簿の入手方法から、それを使って「立木(りゅうぼく)」と「山林(土地)」の評価額を計算する具体的な手順まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事を読めば、複雑な山林評価の第一歩を踏み出せるはずです。
そもそも森林簿ってどんなもの?
山林の評価を始めるにあたり、まず手に入れるべきものが「森林簿」です。これは、都道府県などが森林の状況を把握するために作成している台帳のことで、いわば「森林のカルテ」のようなものです。相続税の申告で山林の価値を評価する際には、この森林簿に記載された情報が基礎となります。
森林簿に書かれている情報
森林簿には、その森林に関する詳細なデータが記録されています。評価に必要となる主な情報は以下の通りです。これらの情報をもとに、立木の価値などを計算していきます。
記載項目 | 内 容 |
所在 | 地番など、森林の場所を示します。 |
所有者情報 | 森林の所有者の氏名や住所が記載されています。 |
面積 | その区画の面積(ヘクタール)です。登記簿の面積と異なる場合があります。 |
樹種 | スギ、ヒノキ、マツなど、生えている木の種類です。 |
林齢(りんれい) | 木が植えられてからの年数、つまり木の年齢です。 |
林地の生産力(地位) | 土地の肥沃度や成長の良さをI〜Vの等級で示します。評価の際に重要になります。 |
保安林の種類 | 水源の確保や土砂災害防止などの目的で指定された保安林の場合、その種類が記載されます。 |
森林簿の入手方法
森林簿は、その山林がある都道府県の農林事務所や、市町村役場の林業担当部署で閲覧・交付の申請ができます。最近では、ウェブ上の「森林クラウドシステム」などで情報を閲覧できる自治体も増えています。
申請する際には、以下の書類が必要になることが一般的です。
- 本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカードなど。
- 山林の地番がわかるもの:固定資産税の課税明細書や登記事項証明書など。
- 委任状:所有者本人以外(相続人や代理人)が申請する場合に必要です。
- 相続関係がわかる書類:相続人が申請する場合、戸籍謄本などが必要になることがあります。
手数料は無料であることが多いですが、郵送を希望する場合は返信用封筒や切手が必要になることもありますので、事前に担当部署へ確認しましょう。
森林簿を見るときの注意点
森林簿は非常に役立つ資料ですが、いくつかの注意点があります。まず、森林簿は航空写真の判読や聞き取り調査などを基に作成されているため、必ずしも現地の実態や登記簿の内容と完全に一致するわけではありません。特に面積については、登記簿上の面積と差異(縄伸び・縄縮み)があることも珍しくありません。また、この資料はあくまで森林行政のためのものであり、土地の所有権や境界を法的に証明する効力はないことを理解しておきましょう。
立木(木)の評価方法をステップ解説
山林の評価は、地面に生えている「立木(りゅうぼく)」の価値と、土地である「山林」の価値を別々に計算します。まずは、立木の評価方法から見ていきましょう。国税庁が定めるルールに沿って、ステップごとに計算を進めます。
ステップ1:標準価額を調べる
最初に、国税庁のウェブサイトで公開されている「森林の立木の標準価額表」を確認します。これは、樹木の種類(樹種)と年齢(林齢)ごとに、1ヘクタール(10,000平方メートル)あたりの標準的な価額が定められた一覧表です。森林簿に記載されている「樹種」と「林齢」を基に、該当する標準価額を探しましょう。例えば、「スギ、林齢40年」であれば、お住まいの地域に対応する表から価額を見つけます。
ステップ2:総合指数を求める
次に、その森林の個別の状況を評価に反映させるための「総合指数」を求めます。これは、以下の3つの要素を掛け合わせて算出します。
- 地味級(ちみきゅう):土地の生産性を示す指標です。土地が肥沃で木の成長が良いほど評価が高くなります。森林簿の「林地の生産力(地位)」などを基に、「上級」「中級」「下級」のいずれかに判定します。
- 立木度(りゅうぼくど):木の密集度合いを示す指標です。人の手で植えられた人工林は「密」、自然に生えた天然林は「中庸」などと判定します。
- 地利級(ちりきゅう):木材の搬出しやすさを示す指標です。林道から近いなど、アクセスが良いほど評価が高くなります。森林簿の「林道からの距離」などを参考に判定します。
これらの3つの要素から、国税庁が公表している「総合指数表」を使って、最終的な総合指数を求めます。
ステップ3:保安林の控除を適用する
もし相続した山林が「保安林」に指定されている場合、法律によって木の伐採が制限されています。自由に木を売却できないため、その分、評価額を減額することができます。保安林の種類や伐採の制限内容(皆伐、択伐、禁伐など)に応じて、評価額から30%〜80%の控除が認められています。保安林かどうかは森林簿で確認できますが、詳しい制限内容は保安林台帳で確認する必要があります。
ステップ4:評価額を計算する
ここまでの情報をすべて使って、立木の評価額を計算します。計算式は以下の通りです。
立木の評価額 = ①標準価額 × ②総合指数 × ③面積(ヘクタール) × (1 – ④保安林の控除割合) × 0.85
最後の「× 0.85」は、相続税評価における立木の特例控除です。この計算で、立木部分の相続税評価額が算出できます。
山林(土地)の評価方法
立木の次は、土地である山林そのものの評価です。こちらは比較的シンプルな方法で評価することが多いです。
評価方式の決定(倍率方式)
市街地の土地のように「路線価」が定められている地域はまれで、ほとんどの山林は「倍率方式」で評価します。倍率方式とは、その土地の固定資産税評価額に、国税庁が定める一定の倍率を掛けて相続税評価額を計算する方法です。
評価額の計算方法
山林の評価額は、市区町村から送られてくる固定資産税の課税明細書や、役所で取得できる評価証明書に記載の「固定資産税評価額」を確認することから始まります。その金額に、国税庁のウェブサイトで公開されている「評価倍率表」で、該当地の「山林」の倍率を調べて掛け合わせます。
山林の評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率表に定められた倍率
山林の倍率は「1.0」や「1.1」など、比較的低い倍率が設定されていることが一般的です。
山林評価での面積の注意点
前述の通り、山林は登記簿上の面積と、森林簿に記載されている実態に近い面積が異なることがあります。固定資産税評価額は登記簿面積を基に計算されていますが、実態が森林簿の面積の方が正しいと考えられる場合、固定資産税評価額を登記簿面積で割り戻して1平方メートルあたりの単価を出し、それに森林簿の面積を掛けて評価額を再計算する方法が合理的と判断されることもあります。
評価に必要な書類と情報
山林の評価をスムーズに進めるために、事前に以下の書類や情報を集めておくと良いでしょう。
森林簿・森林計画図
立木評価の基礎となる最も重要な資料です。森林計画図は、森林簿の区画が示された地図で、場所の特定に役立ちます。
固定資産税評価証明書(または課税明細書)
山林(土地)の評価に必須です。毎年春に送られてくる納税通知書に添付されている課税明細書でも確認できます。
登記事項証明書(登記簿謄本)
法務局で取得します。所有者や地番、地積(面積)など、権利関係の正確な情報を確認するために必要です。
保安林台帳
山林が保安林に指定されている場合、より詳しい伐採制限の内容を確認するために、都道府県の担当部署で取得します。これにより正確な控除割合を判定できます。
森林簿がない、または情報が古い場合
すべての山林に詳細な森林簿が整備されているわけではありません。また、情報が古くて現状と合わないケースもあります。そのような場合は、別の方法で評価する必要があります。
精通者意見価格
森林簿が利用できない場合、地域の森林組合や林業の専門家(林業士など)に依頼し、専門家の知見に基づいて評価額を算出してもらう「精通者意見価格」を参考にすることができます。これは、近隣の取引事例や森林の状態などを総合的に判断して評価するものです。
近隣の山林の売買実例
近くにある類似した山林の売買実例があれば、その取引価格を参考に評価することもできます。しかし、山林の取引は頻繁に行われるものではないため、適切な実例を見つけるのは非常に難しいのが実情です。
まとめ
山林の相続税評価は、一見すると複雑で難解に思えるかもしれません。しかし、手順を一つひとつ整理すれば、ご自身でも評価の概要を掴むことができます。
- 山林の評価は「立木」と「山林(土地)」に分けて計算します。
- 評価の第一歩は、役所で「森林簿」を入手することから始まります。
- 立木は、国税庁の標準価額表や総合指数表を使って計算します。
- 山林(土地)は、固定資産税評価額に倍率を掛けて計算するのが一般的です。
- 保安林などの制限がある場合は評価額が減額されるため、見落とさないように注意が必要です。
もし評価に行き詰まったり、ご自身での計算に不安を感じたりした場合は、無理せず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。大切な財産を正しく評価し、円滑な相続手続きを進めていきましょう。
参考文献
森林簿と木の評価に関するよくある質問
Q.森林簿とは何ですか?
A.森林簿は、森林の所在地、所有者、面積、樹種、林齢、材積(木の体積)などの情報を記録した公的な台帳です。森林計画の策定や管理の基礎資料として市町村などが整備しています。
Q.自分の山の森林簿はどこで入手できますか?
A.所有する山林が所在する市町村の林務担当課や、管轄の都道府県の農林(森林)事務所などで閲覧や写しの交付を申請することができます。
Q.森林簿に書かれている木の価値(材積)は正確ですか?
A.森林簿の材積は、航空写真や標準的な調査に基づいて算出された推定値であり、必ずしも現況と一致するとは限りません。あくまで目安として捉え、正確な評価には現地調査が必要です。
Q.森林簿以外に木の価値を評価する方法はありますか?
A.はい、あります。森林組合や林業コンサルタントなどの専門家による現地調査(毎木調査)が最も正確です。また、固定資産税の評価額や、近隣の山林取引事例なども参考になります。
Q.山林を相続する際、木の評価はどのように行われますか?
A.相続税評価では、国税庁が定める財産評価基本通達に基づき評価します。一般的には、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる「倍率方式」が用いられることが多いです。
Q.森林簿の情報が古い場合はどうすればよいですか?
A.売買や相続などで正確な情報が必要な場合は、専門家に依頼して現況調査を行い、実態に即した評価を行うことをお勧めします。森林簿の情報は定期的に更新されますが、現状と大きく異なる場合があります。