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相続税申告で不動産鑑定士に依頼すべき?節税につながるケースを解説

2025-03-09
目次

相続財産に不動産が含まれる場合、その評価額が相続税を大きく左右します。基本的には「路線価」という国が決めた価格で評価しますが、土地の状況によっては、実際の価値よりも高く評価されてしまい、相続税を払い過ぎてしまうことも…。そんな時に頼りになるのが不動産鑑定士です。この記事では、相続税申告で不動産鑑定士に依頼した方が良いケースについて、分かりやすく解説していきます。

相続税申告における土地評価の基本

相続税を計算する上で、土地の評価はとても重要です。まずは、土地がどのように評価されるのか、基本的なルールを知っておきましょう。

原則は「路線価方式」または「倍率方式」

相続税申告では、土地の評価は国税庁が定めた「財産評価基本通達」に基づいて行われます。市街地にある土地の多くは、道路ごとに定められた価格である「路線価」を使って評価する「路線価方式」が用いられます。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算する「倍率方式」が使われます。これらは、公平に課税するための画一的な評価方法です。

路線価と「時価」の違いとは?

路線価は、公示価格(国土交通省が公表する土地の価格)の80%程度の水準になるように設定されています。つまり、実際に市場で売買される価格、いわゆる「時価(実勢価格)」とは異なることが多いのです。特に、土地に何らかのマイナス要因がある場合、路線価で計算した評価額が時価を大きく上回ってしまうことがあります。

鑑定評価が認められる根拠

相続税法では、財産は「相続開始時の時価」で評価することが原則とされています。財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合には、国税庁長官の指示を受けて評価することになります。このため、路線価での評価が実態と大きくかけ離れている場合、不動産鑑定士による鑑定評価額を申告書に添付することで、税務署に時価として認めてもらえる可能性があるのです。

不動産鑑定士への依頼を検討すべき土地の特徴

すべての土地で鑑定評価が必要なわけではありません。しかし、特定の条件を持つ土地の場合、鑑定評価によって相続税評価額を大幅に下げられる可能性があります。ここでは、具体的にどのような土地が該当するのか見ていきましょう。

土地の形状や接道状況に問題があるケース

土地の使いやすさは、その価値に大きく影響します。路線価方式でもある程度の補正はされますが、十分に減額されないケースも少なくありません。

ケース 解  説
極端な不整形地 三角形やL字型、旗竿地など、形がいびつで利用しにくい土地です。
間口が狭い・無道路地 道路に接している部分(間口)が2m未満で車の出入りが難しい、または建築基準法上の道路に接していない(再建築不可)土地です。
道路との高低差が大きい 道路面から著しく高い、または低い位置にある土地(がけ地など)は、造成費用がかさむため評価が下がります。

面積が極端に大きい、または小さいケース

土地の面積も評価額に影響を与える重要な要素です。

地積規模の大きな宅地
三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の広大な土地は、開発に道路を入れる必要があるなど、使い勝手が悪くなるため評価額が下がることがあります。路線価評価にも「地積規模の大きな宅地の評価」という減額規定はありますが、鑑定評価の方がより実態に即した評価額になる可能性があります。

面積が小さすぎる土地
一方で、面積が極端に小さい土地も、単独での利用が難しく、買い手がつきにくいため市場価値は低くなる傾向があります。

法令上の制限や物理的な問題があるケース

目に見えない問題が土地の価値を下げていることもあります。

ケース 解  説
市街化調整区域内の土地 原則として建物を建てることができないため、宅地としての利用価値が低く評価されます。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の土地 災害リスクが高く、建築にも制限がかかるため、市場価値は低くなります。
土壌汚染・地下埋設物がある土地 汚染の浄化費用や埋設物の撤去費用がかかるため、その分を考慮して評価額を下げられる可能性があります。

その他、鑑定評価が有効なケース

空室の多い古いアパートの敷地
賃貸物件の敷地は「貸家建付地」として評価額が下がりますが、建物の老朽化が激しく、空室率も高い場合、収益性が著しく低いため、鑑定評価によってさらに評価額を下げられることがあります。

私道
不特定多数の人が通行している私道は、財産価値がほとんどないと評価される場合があります。

遺産分割協議で揉めている場合も有効

不動産鑑定士の役割は、相続税の節税だけではありません。相続人間でのトラブルを防ぐためにも役立ちます。

公平な遺産分割のために

遺産分割協議では、不動産を「いくら」と評価するかが大きな争点になりがちです。路線価はあくまで相続税計算上の価格であり、実際の市場価値とは異なります。相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人にはその分のお金(代償金)を支払う「代償分割」を行う場合、路線価を基準にすると不公平が生じる可能性があります。

例:路線価評価5,000万円、時価8,000万円の土地を長男が相続する場合

評価基準 次男が受け取る代償金(1/2の場合)
路線価 2,500万円
時価(鑑定評価) 4,000万円

このように、不動産鑑定士に時価を評価してもらうことで、誰もが納得できる客観的な基準ができ、円満な遺産分割協議につながります。

不動産鑑定士に依頼する流れと費用

実際に不動産鑑定士に依頼する場合、どのような流れで進み、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。

依頼から鑑定評価書受け取りまでの流れ

  1. 相談・見積もり依頼: まずは複数の不動産鑑定士事務所に相談し、見積もりを取りましょう。相続税申告に詳しい鑑定士を選ぶことが重要です。
  2. 正式依頼・契約: 業務内容や費用に納得できたら、正式に契約を結びます。
  3. 資料収集・現地調査: 鑑定士が必要な資料(登記簿謄本、公図、固定資産税評価証明書など)を集め、実際に現地を調査します。
  4. 評価額の算定・報告: 調査結果をもとに評価額を算定し、まずは評価額の報告を受けます。
  5. 鑑定評価書の作成・納品: 最終的な鑑定評価書が作成され、納品されます。相続税申告にはこの評価書を添付します。

費用の目安

不動産鑑定の費用は、土地の所在地や規模、複雑さによって異なりますが、一般的な個人の住宅地であれば20万円~50万円程度が目安です。複数の土地を依頼したり、特殊な土地であったりすると費用は高くなります。費用はかかりますが、それを上回る節税効果が期待できるか、相続トラブルを回避できるかといった視点で依頼を検討することが大切です。

鑑定評価を利用する際の注意点

鑑定評価は万能ではありません。利用する際にはいくつか注意すべき点があります。

税務署に否認されるリスク

不動産鑑定評価書を提出すれば、必ずその評価額が認められるわけではありません。鑑定評価額が時価として妥当なものであるか、その根拠が合理的であるかを税務署はチェックします。そのため、相続税に精通し、税務署への説明責任を果たせる経験豊富な不動産鑑定士に依頼することが非常に重要です。

鑑定評価が不利になるケースも

まれに、鑑定評価額が路線価評価額を上回ってしまうケースもあります。特に、周辺で再開発が進んでいるなど、将来性が高く評価される地域では注意が必要です。依頼する前に、鑑定士に路線価評価額を伝え、評価額が下がる見込みがあるかを確認してもらうと良いでしょう。

まとめ

相続税申告において不動産鑑定士に依頼することは、特に「形状が悪い」「接道が悪い」「面積が極端」「法令上の制限がある」といった特殊な事情を持つ土地をお持ちの場合に、大きな節税効果をもたらす可能性があります。また、遺産分割を公平に進めるための客観的な指標としても非常に有効です。

費用はかかりますが、相続税の負担軽減や相続トラブルの回避というメリットを考えれば、十分に検討する価値があります。まずは、ご自身の土地が鑑定評価によって評価額が下がる可能性があるかどうか、相続に強い税理士や不動産鑑定士に相談してみてはいかがでしょうか。

参考文献

相続税申告の不動産鑑定に関するよくある質問まとめ

Q.相続税申告で不動産鑑定士に依頼するのはどんなケースですか?

A.土地の形状が悪い、面積が非常に広い、接道状況が悪いなど、路線価での評価が実勢価格より高くなってしまう可能性があるケースです。不動産鑑定評価により、相続税を節税できる可能性があります。

Q.具体的にどんな土地が不動産鑑定の対象になりますか?

A.不整形地、無道路地、広大地(500㎡以上)、崖地や傾斜地、騒音や悪臭などの環境に問題がある土地、市街化調整区域内の土地などが対象になりやすいです。

Q.不動産鑑定を依頼するメリットは何ですか?

A.最大のメリットは、土地の評価額が下がり、相続税の負担を軽減できる可能性があることです。また、専門家による客観的な評価書を添付することで、税務署からの指摘リスクを減らすことにも繋がります。

Q.不動産鑑定の費用はどのくらいかかりますか?

A.不動産の規模や複雑さによりますが、一般的に20万円~50万円程度が目安です。節税できる金額が鑑定費用を上回るか、事前にシミュレーションしてもらうと良いでしょう。

Q.不動産鑑定を依頼するタイミングはいつが良いですか?

A.相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月以内)に間に合わせる必要があります。鑑定には1~2ヶ月程度かかることもあるため、相続が発生したら、なるべく早めに税理士や不動産鑑定士に相談することをおすすめします。

Q.税務署は不動産鑑定評価を必ず認めてくれますか?

A.路線価での評価が著しく不適当と認められる特別な事情がある場合、不動産鑑定評価額による申告は認められます。不動産鑑定士が作成した客観的で合理的な根拠のある評価書であれば、税務署に認められる可能性は非常に高いです。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。