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成年後見人の指摘!相続財産は時価?相続税評価額?判断基準を解説

2025-03-03
目次

ご家族の相続手続きを進める中で、被後見人の方の成年後見人から「被後見人が相続する財産額は、法定相続分である平等以上になるようにしてください」という指摘を受けることがあります。これは、成年後見人が被後見人の方の財産を守るという大切な役割を担っているためです。しかし、いざ遺産分割協議を進めようとすると、「財産の価値って、どの金額を基準にすればいいの?」と迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。特に、不動産などが含まれていると、相続税の計算で使う「相続税評価額」と、実際に売買される価格である「時価」があり、どちらを使えばよいのか分からなくなってしまいますよね。この問題は、成年後見人が関わる相続では避けて通れない重要なポイントです。そこで今回は、成年後見人から財産額について指摘を受けた際に、相続税評価額時価のどちらを基準に判断すべきなのか、その理由と具体的な対応方法について、優しく解説していきます。

なぜ成年後見人は「平等以上」を求めるの?

まず、なぜ成年後見人が遺産分割において「平等以上」、つまり法定相続分の確保を強く求めるのか、その背景からご説明しますね。この理由を知ることで、成年後見人との話し合いもスムーズに進めやすくなります。

成年後見人の役割と責任

成年後見人は、判断能力が不十分なご本人(被後見人)に代わって、財産を管理したり、契約などの法律行為を行ったりする役割を担っています。この権限は家庭裁判所から与えられたもので、成年後見人は常に被後見人の利益を最優先に考えなければなりません。そして、その活動内容は定期的に家庭裁判所に報告する義務があります。つまり、成年後見人はご家族のためではなく、あくまで被後見人ご本人のために、そして家庭裁判所の監督のもとで活動しているのです。

「法定相続分」が最低ラインになる理由

法律(民法)では、誰がどれくらいの割合で財産を相続するのかという目安として「法定相続分」が定められています。例えば、配偶者と子2人が相続人の場合、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつです。成年後見人としては、被後見人の権利を守るため、少なくともこの法定相続分に相当する価値の財産を確保することが絶対的な使命となります。もし、法定相続分を下回るような遺産分割協議に合意してしまうと、被後見人に不利益を与えたとして、後見人としての責任を問われる可能性があるからです。

家庭裁判所の許可が必要不可欠

成年後見人が被後見人の代理人として遺産分割協議に参加し、その内容に合意するためには、事前にその遺産分割協議案を家庭裁判所に提出し、「被後見人にとって不利益な内容ではない」ということを認めてもらう必要があります。これを「遺産分割協議許可の審判」といいます。家庭裁判所は、被後見人が法定相続分をきちんと確保できているかを厳しくチェックします。そのため、成年後見人は家庭裁判所の許可を得られるような、公平な分割案でなければ同意することができないのです。

結論:遺産分割では「時価」で判断するのが原則

ここからが本題です。成年後見人が求める「平等(法定相続分)以上」の財産額を判断する基準は、相続税評価額と時価のどちらなのでしょうか。結論から申し上げますと、遺産分割協議においては「時価」を基準にするのが原則です。

なぜ税金の評価額ではダメなのか?

「相続税の申告では相続税評価額を使うのに、なぜ遺産分割では違うの?」と疑問に思われるかもしれませんね。相続税評価額は、あくまで相続税という税金を計算するために、国が定めたルール(財産評価基本通達)に基づいて算出した画一的な評価額です。一方で、時価とは、その財産が実際に市場で取引されるとしたら、いくらになるかという客観的な価値を指します。

特に不動産の場合、相続税評価額(路線価や固定資産税評価額)は時価よりも低く設定されていることがほとんどです。もし相続税評価額を基準に分割してしまうと、不動産を相続した人と、預貯金を相続した人との間で、実質的な価値に大きな不公平が生まれてしまう可能性があるのです。

成年後見人や家庭裁判所が「時価」を重視する理由

被後見人の財産を実質的に守るという観点から、成年後見人や家庭裁判所は、税金計算上の金額ではなく、財産の客観的でリアルな価値、つまり「時価」を重視します。

例えば、相続税評価額が2,000万円、時価が3,000万円の不動産と、2,000万円の預貯金があったとします。もし相続税評価額で「平等」に分けると、一方は価値3,000万円の不動産を、もう一方は2,000万円の預貯金を取得することになり、1,000万円もの差が生まれてしまいます。これでは被後見人の利益が守られたことにはなりません。だからこそ、公平な遺産分割のためには時価を用いる必要があるのです。

相続税評価額と時価の違いをチェック

それでは、主な財産について、相続税評価額と時価にどれくらいの差があるのか、具体的に見ていきましょう。この違いを理解することが、公平な遺産分割の第一歩になります。

相続税評価額とは

相続税の課税対象となる財産の価額を計算するための基準です。国税庁が公表している「財産評価基本通達」というルールに従って評価されます。公平に税金を課すことを目的としているため、個別の事情はあまり考慮されず、画一的な評価になりがちです。

時価とは

「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」、つまり、今まさに市場で売買した場合の価格のことです。遺産分割協議や財産分与など、当事者間の公平性が求められる場面で用いられます。

主な財産の評価額の比較表

代表的な財産の評価方法の目安をまとめてみました。

財産の種類 評価方法の目安
土地 相続税評価額:路線価方式または倍率方式で評価(時価の約80%が目安)
時価:近隣の取引事例や、不動産会社の査定価格、不動産鑑定士の鑑定評価額など
建物 相続税評価額:固定資産税評価額と同額(時価の約70%が目安)
時価:近隣の取引事例や、不動産会社の査定価格、不動産鑑定士の鑑定評価額など
上場株式 相続税評価額:課税時期の終値など4つの価額のうち最も低い価額
時価:一般的に課税時期の終値が時価とされます
預貯金 相続税評価額:課税時期の預入残高 + 既経過利子(税引後)
時価:課税時期の預入残高

不動産の「時価」はどうやって調べる?

預貯金や上場株式と違って、不動産には決まった価格がありません。そのため、客観的な時価をどうやって把握するかが非常に重要になります。主な方法は2つあります。

複数の不動産会社に査定を依頼する

最も手軽な方法です。無料で査定してくれる不動産会社がほとんどなので、2~3社に依頼して査定額を比較することで、おおよその相場観を掴むことができます。ただし、査定額はあくまで「このくらいの価格で売れるだろう」という売却予想価格であり、会社によって金額にばらつきが出ることもあります。相続人間で合意形成ができればこの方法でも問題ありませんが、客観的な証明としては少し弱い側面もあります。

不動産鑑定士に鑑定を依頼する

相続人間で意見が分かれている場合や、成年後見人・家庭裁判所に対して最も客観的で説得力のある資料を提出したい場合には、国家資格者である不動産鑑定士に鑑定評価を依頼する方法が最適です。費用は物件にもよりますが、20万円~50万円程度かかることが一般的です。費用はかかりますが、不動産の適正な価値を証明する公的な資料となるため、後のトラブルを防ぐ効果が期待できます。

成年後見人がいる遺産分割協議の注意点

最後に、成年後見人が関わる遺産分割協議を進める上での注意点をまとめます。スムーズに手続きを終えるために、ぜひ押さえておいてください。

必ず家庭裁判所の許可を得る

先述の通り、遺産分割協議書を作成・調印する前に、成年後見人はその内容について家庭裁判所の許可を得なければなりません。許可を得ずに進めた遺産分割協議は無効となってしまいます。許可の申立てには、遺産分割協議案のほか、財産目録や不動産の時価がわかる資料(査定書や鑑定書など)の提出が必要になります。

被後見人に不利な内容は許可されない

家庭裁判所は、被後見人が法定相続分相当の財産を時価ベースで取得できるかを厳しく審査します。下記のような分割案は、許可されない可能性が非常に高いので注意しましょう。

  • 法定相続分を明らかに下回っている
  • 他の相続人は預貯金なのに、被後見人だけがすぐに現金化できない不動産や非公開株式を相続する
  • 被後見人が住んでいない不動産を相続することになり、管理費などの負担だけが増える

手続きには時間がかかることを覚悟する

家庭裁判所に遺産分割協議の許可を申し立ててから、許可が下りるまでには通常1ヶ月~2ヶ月程度の期間がかかります。相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。財産の調査や時価の把握、相続人間の話し合い、そして家庭裁判所の許可手続きの時間を考えると、決して長くはありません。できるだけ早めに手続きに着手することが大切です。

まとめ

成年後見人から「被後見人の相続分は平等以上に」という指摘を受けた際の財産評価について、ご理解いただけましたでしょうか。

大切なポイントは、税金計算で使う相続税評価額ではなく、相続人間の公平性を保つための時価を基準に判断する、ということです。これは、被後見人の財産を実質的な価値で守るために、成年後見人や家庭裁判所が最も重視する点です。

特に不動産は評価額の差が大きくなりやすく、トラブルの原因にもなりがちです。不動産会社の査定や、必要であれば不動産鑑定士の鑑定評価などを活用して、すべての相続人が納得できる客観的な時価を把握することが、スムーズで円満な遺産分割協議の鍵となります。手続きに不安がある場合は、専門家への相談も検討してみてくださいね。

参考文献

成年後見・保佐・補助の申立て | 裁判所

相続税のあらまし|国税庁

No.7191 登録免許税の税額表|国税庁

成年後見人と遺産分割|相続財産の評価は時価?相続税評価額?よくある質問

Q.成年後見人から「被後見人の相続財産が法定相続分以上になるように」と言われました。この評価は相続税評価額と時価のどちらで行うべきですか?

A.遺産分割における財産評価は、原則として「時価」で行います。相続人間の公平性を保つため、分割時の実際の価値である時価を基準にするのが一般的です。

Q.なぜ相続税の申告で使う「相続税評価額」ではなく、「時価」で評価する必要があるのですか?

A.相続税評価額は税金計算のための統一的な基準ですが、必ずしも市場での売却価格(時価)とは一致しません。特に不動産は乖離が大きいため、相続人間の実質的な公平を図るには時価での評価が適切とされています。

Q.不動産の「相続税評価額」と「時価」はどれくらい違うのですか?

A.一概には言えませんが、土地の場合、相続税評価額(路線価)は時価の80%程度が目安とされています。しかし、立地や形状によって大きく異なるため、正確な時価を知るには不動産会社の査定や不動産鑑定士による鑑定が必要です。

Q.成年後見人はなぜ「法定相続分以上」という点に厳格なのですか?

A.成年後見人には、被後見人の財産を守る義務があり、不利益な遺産分割協議を行うと責任を問われる可能性があります。そのため、家庭裁判所への報告も踏まえ、少なくとも法律で定められた法定相続分を確保しようとします。

Q.時価で評価すると、被後見人が管理の難しい不動産を相続することになり、かえって不利益になりませんか?

A.はい、その可能性はあります。そのような場合は、他の相続人が不動産を相続し、被後見人にはその分を現金で支払う「代償分割」という方法も検討できます。分割方法は、財産の内容や各相続人の状況に応じて柔軟に協議することが重要です。

Q.相続人間で不動産の時価についての意見が合わず、話がまとまりません。どうすれば良いですか?

A.まずは複数の不動産会社から査定書を取得し、客観的な価格の目安を共有することをお勧めします。それでも合意できない場合は、公平中立な不動産鑑定士に鑑定を依頼するか、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図ることになります。

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