会社のオーナー様やそのご家族にとって、相続や贈与の際に大きな課題となるのが「同族会社株式の評価」です。上場している株式と違って市場での取引価格がないため、その価値をどのように算定するのか、とても複雑で分かりにくいですよね。もし評価方法を間違えてしまうと、本来よりも高い相続税を支払うことになってしまう可能性も…。そこで今回は、この複雑な同族会社株式の評価について、どなたにも分かりやすいように、優しく丁寧に解説していきますね。
そもそも同族会社株式(取引相場のない株式)とは?
まず、今回テーマとなる「同族会社株式」についてご説明します。これは、特定の株主とその親族など(同族関係者)で、会社の株式の大部分を保有している会社の株式を指します。多くの中小企業がこれに当てはまりますね。このような株式は、証券取引所に上場されていないことがほとんどで、市場で売買されることがないため「取引相場のない株式」とも呼ばれます。市場価格という客観的な指標がないため、相続税や贈与税を計算する際には、国税庁が定めた特別なルールに従って株価を評価する必要があるのです。
株式の評価は「誰が」「どれだけ」持つかで変わる
取引相場のない株式の評価方法は、株式を取得した人が会社に対してどれくらい影響力を持っているかによって、大きく2つの方法に分かれます。会社の経営を左右できる立場の人と、そうでない人とでは、株式を持つ目的が違うと考えられるためです。まずは、ご自身がどちらに当てはまるのかを確認してみましょう。
経営支配力のある「同族株主」
会社の経営に大きな影響力を持つ株主のことを「同族株主」といいます。具体的には、株主1人とその同族関係者(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族など)が持つ議決権の合計が、会社の議決権総数の30%以上である場合の、その株主グループのことです。ただし、もし議決権の50%超を保有する同族株主グループが存在する場合には、そのグループのみが同族株主とされます。同族株主が取得した株式は、会社の資産や収益性を細かく反映した「原則的評価方式」で評価されます。
経営に関与しない「同族株主以外の株主」
上記で説明した「同族株主」に当てはまらない株主を「同族株主以外の株主」といいます。いわゆる少数株主で、会社の経営に直接関与しない立場の方々です。これらの株主が持つ株式は、会社の経営に参加することよりも配当を受け取ることを主な目的としていると考えられるため、評価方法が簡略化された「特例的評価方式(配当還元方式)」という特別な方法で評価されます。
会社の規模で決まる!原則的評価方式
それでは、同族株主が株式を取得した場合の評価方法である「原則的評価方式」について詳しく見ていきましょう。この方式は、会社の規模によってさらに評価方法が細かく分かれています。まずは、ご自身の会社がどの規模に分類されるのかを判定するところから始まります。
会社の規模(大会社・中会社・小会社)の判定方法
会社の規模は、「従業員数」「総資産価額(帳簿価額)」「取引金額(年間の売上高)」の3つの基準と業種によって、「大会社」「中会社」「小会社」のいずれかに分類されます。従業員数が70人以上の場合は、他の基準にかかわらず大会社となります。70人未満の場合は、下の表を使って判定します。複数の区分に当てはまる場合は、より上位の会社規模として判定されます。
会社規模 | 判定基準 |
大会社 | 従業員数70人以上。または、下の「中会社」の基準をいずれも上回る会社。 |
中会社 | 総資産価額、従業員数、取引金額が、業種に応じて定められた基準の範囲内にある会社。さらに「大・中・小」に細分化されます。 |
小会社 | 総資産価額、従業員数、取引金額が、業種に応じて定められた基準を下回る会社。 |
(注)業種(卸売業、小売・サービス業、その他)ごとに総資産価額や取引金額の基準が細かく定められています。
類似業種比準方式とは?
類似業種比準方式は、主に大会社の株式を評価する際に用いられる方法です。これは、評価したい会社と事業内容が似ている上場企業の株価を参考にして、株価を計算する方法です。具体的には、国税庁が公表している類似業種の株価をもとに、「1株当たりの配当金額」「1株当たりの利益金額」「1株当たりの純資産価額」の3つの要素を比べて評価額を算出します。上場企業の株価動向に影響されるため、景気によって評価額が変動しやすいのが特徴です。
純資産価額方式とは?
純資産価額方式は、主に小会社の株式を評価する際に用いられる方法です。考え方はとてもシンプルで、「もし今会社を解散したら、株主の手元にいくら残るか?」という考え方に基づいています。具体的には、会社の総資産と負債をすべて相続税評価額(時価)で評価し直します。そして、評価し直した総資産の価額から負債の価額を差し引き、さらにそこから含み益に対する法人税等相当額(約37%)を控除した金額(純資産価額)を、発行済株式数で割って1株当たりの株価を計算します。土地などの含み益が大きい資産を保有していると、評価額が高くなる傾向があります。
中会社の評価方法
中会社の株式は、大会社で使う「類似業種比準方式」と小会社で使う「純資産価額方式」を組み合わせて評価します。これを併用方式と呼びます。会社の規模が大きくなるほど類似業種比準方式の比重が高くなり、小さくなるほど純資産価額方式の比重が高くなります。どのくらいの割合で組み合わせるかは、会社の規模によって細かく定められています。
中会社の区分 | 評価方法の計算式 |
大会社に近い中会社 | 類似業種比準価額 × 0.9 + 純資産価額 × 0.1 |
中くらいの中会社 | 類似業種比準価額 × 0.75 + 純資産価額 × 0.25 |
小会社に近い中会社 | 類似業種比準価額 × 0.6 + 純資産価額 × 0.4 |
少数株主のための特例的評価方式(配当還元方式)
次に、同族株主以外の株主、つまり少数株主が株式を取得した場合の評価方法である「特例的評価方式(配当還元方式)」について解説します。これは、株主が受け取る配当金に着目した評価方法で、計算が比較的シンプルです。一般的に、原則的評価方式で計算するよりも株価が低く評価される傾向にあります。
配当還元方式の計算方法
配当還元方式は、その株式を所有することで将来受け取れる1年間の配当金額を、一定の利率(10%)で割り戻して元本である株価を評価する方法です。計算式は以下のようになります。
(直近2年間の平均配当金額 ÷ 10%) × (1株あたりの資本金等の額 ÷ 50円)
もし会社が配当を出していない(無配当の)場合や、年間の平均配当金額が2円50銭未満の場合は、2円50銭として計算するルールになっています。これにより、少数株主の権利が保護されています。
注意が必要!特定の評価会社の株式
これまで説明してきた評価方法が適用されない、特殊な会社も存在します。これらの会社は「特定の評価会社」と呼ばれ、その会社の実態に合わせて特別な評価方法が定められています。もしご自身の会社がこれに該当する場合、株価が大きく変動する可能性があるので注意が必要です。
土地保有特定会社・株式等保有特定会社
会社の総資産のうち、土地や借地権などの割合が非常に高い会社を「土地保有特定会社」、保有する株式や出資金の割合が非常に高い会社を「株式等保有特定会社」といいます。これらの会社は、事業で利益を上げるというより資産保有がメインの会社と見なされるため、原則として「純資産価額方式」で評価されます。そのため、含み益のある不動産や株式を多く持っている場合は、株価が非常に高くなる可能性があります。
特定会社の区分 | 判定基準(総資産価額に占める割合) |
土地保有特定会社 | 大会社:70%以上、中会社:90%以上など |
株式等保有特定会社 | 全規模共通:50%以上 |
その他の特定の評価会社
上記以外にも、以下のような会社は特定の評価会社として扱われ、原則として純資産価額方式で評価されます。
- 開業してから3年未満の会社
- 比準要素(配当・利益・純資産)のほとんどがゼロの会社
- 開業前または休業中の会社
- 清算中の会社
まとめ
今回は、複雑な同族会社株式の評価について解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。
- 株式の評価方法は、株主が「同族株主」か「それ以外」かで大きく異なる。
- 同族株主が持つ株式は「原則的評価方式」で評価し、会社の規模(大・中・小)によって計算方法が変わる。
- 少数株主が持つ株式は「特例的評価方式(配当還元方式)」で評価され、株価が低くなる傾向がある。
- 土地や株式を多く保有する会社などは「特定の評価会社」として扱われ、評価方法が異なる場合がある。
ご覧いただいたように、同族会社株式の評価は非常に専門的な知識が必要です。ご自身で判断するのは難しく、誤った評価は思わぬ税負担につながりかねません。相続や事業承継で自社株の問題に直面した際には、なるべくお早めに相続に詳しい税理士などの専門家にご相談することをおすすめします。
参考文献
同族会社株式の評価に関するよくある質問まとめ
Q.同族会社の株式(非上場株式)はなぜ評価が必要なのですか?
A.相続、贈与、M&Aなどで株式を移転する際に、客観的な価値を算定する必要があるためです。上場株式と異なり市場価格がないため、国税庁の定めたルールに基づいて評価します。
Q.非上場株式の評価方法にはどのような種類がありますか?
A.主に「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」の3つがあります。会社の規模や株主の状況に応じて、どの方式を使うか、または組み合わせて使うかが決まります。
Q.類似業種比準価額方式と純資産価額方式はどのように使い分けるのですか?
A.会社の規模(大会社、中会社、小会社)によって使い分けます。大会社は主に類似業種比準価額方式、小会社は主に純資産価額方式、中会社はその両方を会社の規模に応じて組み合わせて評価します。
Q.配当還元方式はどのような場合に使うのですか?
A.同族株主以外の株主(少数株主)が株式を取得した場合に用いる、例外的な評価方法です。その株式の過去の配当実績を基に評価額を計算するため、一般的に評価額は低くなります。
Q.自社株の評価額を下げる方法はありますか?
A.はい、計画的に行うことで可能です。役員退職金の支給による利益の圧縮、不動産購入による資産構成の変更、生命保険の活用などが代表的な対策として挙げられます。実行には専門的な判断が必要です。
Q.株式評価は誰に相談すればよいですか?
A.株式評価は税務上の専門知識が不可欠なため、相続税や事業承継に詳しい税理士に相談するのが一般的です。正確な評価だけでなく、将来を見据えた節税対策のアドバイスも期待できます。