ご家族が亡くなられ、土地を相続することになった場合、相続税の申告手続きで「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」という書類を作成する必要があります。なんだか名前が長くて難しそうに感じますよね。でも、ご安心ください。この書類は、相続した土地の価値を計算するためのもので、書き方のポイントさえ押さえれば、ご自身で作成することも可能です。土地の評価額は相続税の金額に直接影響するとても大切な部分ですので、この記事を参考に一緒にじっくりと進めていきましょう。
「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」とは?
この書類は、相続や贈与で土地を取得したときに、その土地の評価額がいくらになるのかを計算し、その計算過程を明らかにするために作成するものです。正式名称は「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」ですが、一般的に「土地評価明細書」と呼ばれています。主に、市街地など道路に路線価が設定されている地域(路線価地域)の土地を評価する際に使います。第1表と第2表の2枚で構成されており、土地の状況に応じて記入する箇所が変わってきます。
誰がいつまでに提出するの?
この評価明細書は、土地を相続した方が作成し、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税申告書に添付して税務署へ提出する必要があります。提出が遅れると延滞税などのペナルティが発生する可能性があるので、期限はしっかり守りましょう。
評価明細書はどこで手に入る?
評価明細書の用紙は、2つの方法で入手できます。
入手方法 | 詳 細 |
国税庁のウェブサイトからダウンロード | PDF形式でダウンロードできるので、ご自宅のプリンターで印刷して使えます。最新の様式をいつでも入手できるのでおすすめです。 |
税務署の窓口 | お近くの税務署に行けば、直接用紙をもらうことができます。書き方について質問があれば、その場で尋ねることも可能です。 |
便利な「土地等の評価明細書作成コーナー」もある!
国税庁のウェブサイトには、「土地等の評価明細書作成コーナー」という便利なツールが用意されています。画面の案内に従って数値を入力していくだけで、自動で評価額を計算し、評価明細書を作成してくれるんです。ただし、利用できるのは以下のような比較的シンプルな土地の場合に限られます。
- 地目が「宅地」であること
- 土地の形がほぼ長方形であること
- 自用地、借地権、貸家建付地のいずれかであること
- セットバック(道路後退)を必要としない土地であること
複雑な形状の土地や特殊な権利関係がある場合は手書きで作成する必要がありますが、条件に合う方はぜひ活用してみてくださいね。
評価明細書を書く前の準備
評価明細書をスムーズに作成するためには、事前の準備がとても大切です。まずは、土地の評価に必要な書類を集めましょう。あらかじめ手元に揃えておくことで、記入作業がぐっと楽になりますよ。
必要な書類一覧と取得場所
主に以下の書類が必要になります。どこで手に入るかも一緒に確認しておきましょう。
書類名 | 取得場所 |
登記事項証明書(登記簿謄本) | 法務局 |
固定資産税の課税明細書 | 毎年春ごろに市区町村から送られてくる「固定資産税納税通知書」に同封されています。 |
公図・地積測量図 | 法務局 |
路線価図・評価倍率表 | 国税庁のウェブサイト「財産評価基準書」 |
【第1表】の書き方を項目別に解説!
それでは、いよいよ具体的な書き方を見ていきましょう。まずは基本となる「第1表」です。第1表は、土地そのもの(自用地)の評価額を計算するためのシートです。たとえ人に貸している土地であっても、まずはこの第1表で自用地としての評価額を計算するところからスタートします。
土地の基本情報を記入しよう
書類の上部には、土地の基本的な情報を記入します。
- 右上の欄(局(所)・署・年分・ページ):評価する土地が掲載されている「路線価図」の情報を転記します。路線価図の右上に管轄の国税局や税務署名、ページ番号が記載されています。
- 所在地番:「登記事項証明書」や「固定資産税の課税明細書」に記載されている地番を正確に書き写します。
- 所有者:亡くなられた方(被相続人)の住所と氏名を記入します。
- 使用者:相続開始時点でその土地を実際に使用していた方の情報を記入します。被相続人が住んでいた自宅の敷地であれば、所有者と同じく被相続人の情報を書きます。
土地のスペックを記入しよう
次に、土地の面積や接している道路の情報を記入していきます。
- 地目:土地の現況(実際の利用状況)で判断します。「宅地」「田」「畑」「山林」など、見たままの用途を記入しましょう。登記事項証明書の地目と違っていても問題ありません。
- 地積:土地の面積(㎡)を記入します。これは「登記事項証明書」や「地積測量図」で確認できます。
- 路線価:国税庁の「路線価図」で、土地が面している道路に記載された価格(千円単位)を記入します。例えば「300C」とあれば、路線価は300,000円です。2つ以上の道路に面している場合は、「路線価 × 奥行価格補正率」を計算し、金額が高い方を「正面」の欄に、もう一方を「側方」や「裏面」の欄に記入します。
- 間口距離・奥行距離:土地が正面の道路に接している長さ(間口)と、道路からの深さ(奥行)を記入します。「地積測量図」があれば正確な数値が分かります。
利用区分と地区区分を選ぼう
土地の利用状況と地域特性を選択します。
- 利用区分:土地の利用状況に合うものに丸をつけます。ご自身の自宅敷地なら「自用地」、土地の上に建てたアパートの敷地なら「貸家建付地」、土地だけを人に貸しているなら「貸宅地」となります。
- 地区区分:路線価図で確認できる地区の区分(例:「普通住宅地区」「普通商業・併用住宅地区」など)に丸をつけます。
1㎡あたりの価額を計算しよう
ここが評価額計算のメインパートです。土地の形状や接道状況に応じて、路線価を補正していきます。
- 一路線に面する宅地:まずは「正面路線価 × 奥行価格補正率」で、1㎡あたりの基本的な評価額を計算します。
- 二路線以上に面する宅地:角地などの場合は利用価値が高いため、評価額が加算されます。側方や裏面の路線価も使って、所定の計算式に当てはめて計算します。
土地の形がきれいな長方形でない「不整形地」や、間口が狭い土地などは、さらに減額補正の計算が入ります。計算は少し複雑になりますが、評価明細書の項目に従って計算を進めていきましょう。
最後に自用地としての評価額を計算
計算の締めくくりです。上記で算出した「1㎡あたりの価額」に「地積(面積)」を掛けて、自用地としての評価額を算出します。相続した土地が自用地で、特に特殊な事情がなければ、第1表の記入はこれで完了です。
【第2表】はどんな時に書くの?
第2表は、土地に特別な事情がある場合や、土地に関する「権利」の評価額を計算するために使用します。第1表で計算した「自用地としての評価額」を元にして、さらに評価額を調整していくイメージです。第2表に記入する事項がなければ、提出は不要です。
土地に利用制限がある場合
法律によって土地の利用が制限されている場合は、その分評価額が下がります。
- セットバックを必要とする宅地:将来、建物を建て替える際に、敷地の一部を道路として提供しなければならない土地です。そのセットバック部分は評価額が70%減額されます。
- 都市計画道路予定地の区域内にある宅地:将来、道路になる計画がある土地も、建築制限などがあるため、所定の補正率を掛けて評価額を減額できます。
他人に貸している土地・権利の評価
土地や建物を誰かに貸している場合、所有者の権利が一部制限されるため、評価額が減額されます。
- 貸宅地(人に土地を貸している):評価額は「自用地評価額 ×(1 – 借地権割合)」で計算します。借地権割合は路線価図に「A」から「G」の記号で示されています。
- 貸家建付地(土地の上に建てた家を貸している):評価額は「自用地評価額 ×(1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」で計算します。借家権割合は全国一律で30%です。
土地を借りている権利(借地権)の評価
他人から土地を借りて、その上に自宅などを建てている場合の「土地を借りる権利(借地権)」も相続財産になります。その評価額は「自用地評価額 × 借地権割合」で計算します。借地権割合は、路線価図に記載されているアルファベットで確認できます。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
評価明細書作成時の注意点
評価明細書を正しく作成するために、いくつか注意しておきたいポイントがあります。ミスがあると、税務署から指摘を受けたり、税金を払い過ぎてしまったりする可能性があるので、しっかり確認しましょう。
評価は「相続開始日」の現況で判断
土地の評価は、すべて被相続人が亡くなった日(相続開始日)の状況で判断します。例えば、登記簿上の地目が「畑」でも、相続開始日に駐車場として使われていれば、現況の「雑種地」として評価します。必ず現地の状況を確認することが大切です。
路線価方式?倍率方式?
この記事で解説したのは「路線価方式」ですが、郊外や山林地域など、路線価が定められていない地域もあります。その場合は「倍率方式」という別の方法で評価します。倍率方式では、この評価明細書は使わず、「固定資産税評価額 × 国税庁が定める評価倍率」で計算します。ご自身の土地がどちらの方式で評価するかは、国税庁の「財産評価基準書」で確認できます。
複雑な土地評価は専門家に相談を
土地の形状が極端に悪い(不整形地)、道路に接していない(無道路地)、とても面積が広い(地積規模の大きな宅地)など、評価が難しいケースでは、さまざまな減額要素が適用できる可能性があります。これらの計算は非常に専門的で、見逃してしまうと本来よりも高い税金を納めることになりかねません。少しでも「難しいな」「自分の場合はどうなるんだろう?」と感じたら、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」の書き方について、基本的な流れをご説明しました。この書類は、相続税申告の中でも特に専門性が高く、重要な部分です。形の整った自宅の敷地などであれば、この記事を参考にご自身で作成にチャレンジしてみるのも良いでしょう。しかし、土地の評価は一つとして同じものはなく、少しの条件の違いで評価額が大きく変わることがあります。評価額を正しく計算し、適用できる特例を漏らさず活用するためにも、不安な点があれば無理せず専門家である税理士の力を借りるのが、結果的に最も安心で、賢い選択と言えるかもしれませんね。
参考文献
土地評価明細書の書き方 よくある質問まとめ
Q.「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」はどこで入手できますか?
A.国税庁のホームページからダウンロードできます。また、お近くの税務署の窓口でも入手可能です。必ず最新の様式を使用してください。
Q.評価明細書の「利用区分」には何を書けばよいですか?
A.土地の利用状況に応じて、「宅地」「田」「畑」「山林」「原野」「雑種地」などから選択して記入します。登記簿上の地目ではなく、相続開始日時点の現況で判断します。
Q.路線価方式で評価する場合、どの書類が必要ですか?
A.評価対象地の「路線価図」と「評価倍率表」が必要です。これらは国税庁のホームページで確認できます。土地の形状によっては、測量図や公図なども参考にします。
Q.倍率方式はどのような土地で使いますか?
A.路線価が定められていない地域にある土地の評価に用います。その土地の固定資産税評価額に、国税庁が定める評価倍率を掛けて評価額を計算します。
Q.「地積」は登記簿と現況が違う場合、どちらを記入しますか?
A.原則として、課税時期の現況に応じた「実際の面積(実測面積)」を記入します。登記簿上の面積(公簿面積)と大きく異なる場合は、その理由がわかる資料を添付することが望ましいです。
Q.評価明細書の作成は自分でもできますか?専門家に依頼すべきですか?
A.土地の形状がシンプルであればご自身で作成することも可能です。しかし、土地が不整形であったり、権利関係が複雑だったりする場合は評価が難しくなります。不安な場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。