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【相続税】特許権・商標権等の評価明細書の書き方を分かりやすく解説!

2025-01-29
目次

ご家族が亡くなられて相続が発生したとき、特許権や商標権といった「知的財産権」をお持ちだったというケースがあります。これらは目に見えない資産ですが、不動産や預貯金と同じように大切な相続財産です。そのため、きちんと価値を評価して、相続税の申告書に添付する「評価明細書」を作成する必要があります。なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、この記事では、それぞれの権利ごとに評価明細書の書き方を優しく解説していきますね。

知的財産権とは?相続税評価の基本

相続財産というと、土地や現金などを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実はアイデアやデザイン、ブランド名なども財産として扱われます。これらを法的に保護するのが「知的財産権」です。もし亡くなった方が発明家だったり、事業で独自のブランドを使っていたりした場合、これらの権利も相続の対象になるんですよ。

なぜ知的財産権の評価が必要なの?

相続税は、亡くなった方が残したすべての財産の価値を合計して計算されます。知的財産権も経済的な価値を持つ「財産」なので、その価値を算出して申告しなければなりません。もし申告から漏れてしまうと、後から税務署に指摘されて、追加の税金(追徴課税)が発生してしまう可能性もあるため、正確な評価がとても大切になります。

評価の対象となる主な知的財産権

知的財産権には様々な種類がありますが、相続税申告で特に評価が必要になることが多いのは、以下の4つの「産業財産権」です。それぞれの権利で評価の考え方が少しずつ異なりますので、一つひとつ見ていきましょう。

  • 特許権:新しい技術や発明を保護する権利
  • 実用新案権:物品の形状など、ちょっとした工夫(考案)を保護する権利
  • 意匠権:製品の見た目(デザイン)を保護する権利
  • 商標権:商品やサービスの目印となるマーク(ロゴやネーミング)を保護する権利

特許権・実用新案権の評価明細書の書き方

特許権実用新案権は、技術的なアイデアを保護するという点で似ているため、相続税での評価方法も基本的には同じです。評価のポイントは、その権利から「将来どれくらいの利益(収入)が見込めるか」という点にあります。

評価方法の原則

評価の原則は、「将来受け取ることが見込まれる補償金(ロイヤリティ収入)の額を、現在の価値に割り引いて計算する」という方法です。具体的には、国税庁が定めた計算式に基づいて評価額を算出します。言葉だけだと少し難しいので、手順を追って見ていきましょう。

評価額の計算式 各年の補償金額 × その年の基準年利率に応ずる複利現価率 = 各年の評価額
→ これを評価期間の全てもしくは一部の年数分合計する

具体的な計算手順

計算は以下の3ステップで行います。

  1. 年間の補償金額を確定する:他社に特許を使わせていて、使用料(ロイヤリティ)を受け取っている場合、そのライセンス契約書などから年間の収入額を確認します。
  2. 評価期間を決める:特許権の残りの存続期間(原則として出願から20年)や、ライセンス契約の残りの期間などを基に、収入が見込める年数を設定します。
  3. 現在の価値に換算する:国税庁が公表している「基準年利率」と「複利現価率」という数値を使って、将来の収入を現在の価値に直します。

ただし、将来見込まれる補償金の合計額が50万円に満たないような少額な権利については、評価をしなくてもよいことになっています。

注意点:自社で使っている特許権の評価

もし、亡くなった方が経営していた会社などで、その特許権を自社の事業のためだけに使っていた場合、個別の権利として評価するのではなく、会社の財産である「営業権(のれん)」の一部として評価されることが一般的です。この場合は評価方法が異なりますので、注意してくださいね。

意匠権の評価明細書の書き方

意匠権は製品のデザインを守る権利です。この評価方法も、基本的には特許権と同じ考え方で行います。そのデザインがあることによって、将来どれくらいの利益が生まれるかを計算するわけです。例えば、そのデザインを他社に使わせてロイヤリティ収入を得ている場合などが対象になります。

意匠権の評価方法

特許権と同様に、「将来そのデザインの使用許諾によって得られる利益」を基準に、現在の価値に割り引いて評価額を算出します。ライセンス契約の内容や、過去の収入実績などを基に、将来の収入を予測して計算を進めます。

評価期間はどう決める?

評価期間は、意匠権の残りの存続期間を基に考えます。意匠権の存続期間は、出願日から最長で25年です。相続が発生した時点で、あと何年権利が残っているかを確認し、その期間内で収入が見込める年数を評価期間として設定します。

商標権の評価明細書の書き方

商標権は、お店のロゴや商品のブランド名などを守る権利です。有名なブランドであれば、その価値は非常に高くなることもあります。商標権の評価も、これまでの権利と同じように将来の収入を基に計算するのが原則です。

商標権の評価方法

評価方法は特許権などと同じで、将来のロイヤリティ収入を予測し、それを現在の価値に換算します。もし、その商標を他社に使わせていて収入がある場合は、その実績を基に計算します。

評価が不要なケースもある?

亡くなった方が個人事業主で、ご自身の事業で使っていた屋号やロゴなどの商標権は、その事業の価値、つまり「営業権」に含めて評価されることがほとんどです。そのため、商標権単体で評価明細書を作成する必要がないケースも多いです。ただし、法人で所有している場合や、複数の会社にライセンスしている場合は個別の評価が必要になるため、状況に応じた判断が求められます。

評価明細書作成に必要な書類

知的財産権の評価明細書を作成する際には、その価値を計算するための根拠となる資料が必要です。事前に以下の書類を準備しておくと、スムーズに手続きを進めることができますよ。

書類の種類 入手先・内容
登録証の写し 権利が正式に登録されていることを証明する書類です。特許庁から交付されたものを確認しましょう。
ライセンス契約書 他社に権利の使用を許可している場合に必要です。契約期間やロイヤリティの金額などが記載されています。
過去の収入がわかる資料 確定申告書の控えや、事業で使っていた帳簿など、実際の収入額を確認できる書類です。
権利の残存期間がわかる資料 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)など、特許庁のデータベースで権利の状況を確認できます。

まとめ

今回は、特許権や商標権などの知的財産権に関する評価明細書の書き方について解説しました。最後にポイントを振り返っておきましょう。

  • 知的財産権も、相続税の対象となる大切な財産です。
  • 評価の基本は「将来得られる利益を現在の価値に換算する」ことです。
  • 権利の利用状況(他社に貸しているか、自分で使っているか)によって評価方法が異なります。
  • 評価には専門的な知識が必要な場合も多いので、不安な点があれば税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

知的財産権の評価は少し複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつ丁寧に進めていけば大丈夫です。この記事が、皆さんの相続手続きの一助となれば幸いです。

参考文献

国税庁  無体財産権の範囲

知的財産権の評価明細書に関するよくある質問まとめ

Q.特許権等の評価明細書はどこで入手できますか?

A.国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。相続税や贈与税の申告書作成コーナーや、様式検索ページで「評価明細書」と検索すると見つかります。

Q.評価明細書はどのような場合に必要になりますか?

A.相続や贈与によって特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を取得した際に、その財産価額を計算し、相続税や贈与税の申告書に添付するために必要となります。

Q.評価額の計算方法が複数ありますが、どれを選べば良いですか?

A.原則として、将来得られる利益を現在価値に割り引く方法などで評価しますが、実務上は「年平均収益額 × 評価倍率 × 純益率」などの算式で計算することが一般的です。権利の内容や収益状況に応じて適切な方法を選択します。

Q.権利が複数ある場合、評価明細書は1枚にまとめて書けますか?

A.評価する権利ごとに作成するのが原則です。特許権が2つあれば、評価明細書も2枚作成する必要があります。

Q.収益が全くない特許権の評価額は0円になりますか?

A.収益実績がない、または将来も収益が見込めない場合は、評価額が0円となることがあります。ただし、その場合でも評価明細書を作成し、評価額が0円となる根拠を記載して申告する必要があります。

Q.評価明細書の作成にあたって、他にどんな書類が必要ですか?

A.評価の根拠となる、特許権等の登録原簿の写し、ライセンス契約書、過去数年分の収益がわかる帳簿や確定申告書の控えなどが必要になる場合があります。

事務所概要
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