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黄金株と従業員持株会で相続対策!配当還元方式は使える?

2025-01-08
目次

同族会社のオーナー経営者の皆さまにとって、事業承継と並行して考えなければならないのが「相続税対策」ですよね。特に、会社の価値そのものである自社株の評価額をいかに抑えるかは、とても重要な課題です。今回は、相続対策の一つとして検討されることのある「従業員持株会」と「黄金株」を使ったスキームで、本当に自社株の相続税評価額を低く評価できるのか、という少し専門的なテーマを、できるだけ分かりやすく解説していきます。

自社株の相続税評価、基本のキ

まず、なぜ自社株の評価がこんなにも複雑で問題になるのでしょうか。それは、上場株式と違って、市場で売買される価格(株価)がないからです。そのため、会社の状況に応じて、国が定めたルールに従って株価を計算する必要があります。この評価方法には、大きく分けて「原則的評価方式」と「特例的評価方式」の2種類があります。

経営権を持つ株主の評価「原則的評価方式」

会社の経営に大きな影響力を持っているオーナー一族(同族株主)などが保有する株式は、こちらの「原則的評価方式」で評価されます。これは、会社の価値そのものを株価に反映させる方法で、評価額が高くなる傾向があります。主に2つの方法があります。

評価方式 概  要
類似業種比準方式 ご自身の会社と事業内容が似ている上場企業の株価などを参考にして評価する方法です。
純資産価額方式 会社の総資産から負債を差し引いた純資産を基にして評価する方法です。仮に今会社を清算したら株主にいくら分配されるか、という考え方ですね。

経営権を持たない株主の評価「配当還元方式」

一方で、会社の経営にはほとんど関与しない、いわゆる少数株主が保有する株式は「配当還元方式」という特例的な方法で評価されます。これは、その株式を持っていることで将来受け取れる「配当金」にだけ着目して評価する方法です。会社の資産や利益は直接関係ないため、原則的評価方式に比べて株価を非常に低く抑えられるのが大きな特徴です。

どちらの評価方法になるかの分かれ道

では、どちらの評価方法が適用されるかは、どうやって決まるのでしょうか。その大きな分かれ道が、株式を保有する人が「同族株主」にあたるかどうか、という点です。
簡単に言うと、株主の1人やその親族などのグループで、会社の議決権の30%以上(場合によっては50%超)を保有している場合、そのグループに属する株主は「同族株主」と判断されます。同族株主であれば原則的評価方式、そうでなければ配当還元方式が使える、というのが基本的な考え方です。この仕組みを利用して、相続税評価額を下げようとするのが、次にご紹介するスキームです。

相続対策スキームの概要と狙い

今回解説するスキームは、オーナー様が会社の経営権や経済的な利益は手放さずに、ご自身の相続財産となる株式の評価額だけを引き下げることを目的としています。少し複雑に見えるかもしれませんが、一つずつ見ていきましょう。

なぜ従業員持株会に株式を移すのか?

このスキームの第一歩は、オーナー様が保有している議決権のある「普通株式」を「従業員持株会」に移すことです。なぜなら、従業員持株会は、通常オーナー様の親族とは見なされないからです。
これにより、オーナー様とその一族が保有する議決権の割合を意図的に下げて、「同族株主」の判定から外れることを狙います。形式上、オーナー様は少数株主となり、相続する株式を配当還元方式で評価できるのではないか、と考えるわけです。

経営権を維持する「黄金株」とは?

「でも、普通株式を手放したら経営権がなくなってしまうのでは?」と心配になりますよね。そこで登場するのが「黄金株(正式には拒否権付種類株式)」です。
これは、たった1株持っているだけで、取締役の選任や解任、会社の合併、定款の変更といった、経営上の非常に重要な決議事項に対して「NO!」と言える拒否権を持つ特別な株式です。この黄金株をオーナー様が保有し続けることで、議決権の大多数を手放しても、会社経営の実権はしっかりと握り続けることができるのです。

経済的利益を確保する「配当優先株式」とは?

さらに、経済的なメリットを維持するために「配当優先株式」を活用します。これは、議決権がない代わりに、普通株式よりも優先的に、そしてより多くの配当金を受け取ることができる株式です。
つまり、このスキームは、

  • 普通株式 → 従業員持株会に移して、議決権割合を下げる
  • 黄金株 → オーナー様が保有し、経営支配権を維持する
  • 配当優先株式 → オーナー様が保有し、経済的利益を確保する

という役割分担で、相続税評価額の引き下げと、経営・経済両面での支配維持を両立させようというものなのです。

このスキームで配当還元方式は使えるのか?

さて、ここからが最も重要なポイントです。このように巧妙に設計されたスキームですが、本当にオーナー様が相続する黄金株や配当優先株式を、評価額の低い配当還元方式で評価できるのでしょうか。
結論から申し上げると、極めて難しいと考えられます。税務署は、書類上の形式だけでなく、その取引の「実質」を見て判断するからです。

形式的な判定と実質的な判定

税務の世界では、たとえ法律の条文や形式的な要件を満たしていても、その行為が税金の負担を不当に免れることだけを目的としている(租税回避目的である)と判断された場合、その行為そのものが否認されることがあります。
今回のスキームも、オーナー様が実質的な支配権を維持したまま、相続税評価額を下げることだけが目的だと見なされてしまうリスクがあります。

黄金株が評価に与える影響

最大のポイントは「黄金株」の存在です。黄金株は、議決権の数としてはカウントされませんが、その強力な拒否権によって、実質的に会社の経営を支配していると判断される可能性が非常に高いです。
国税庁の通達でも、黄金株の評価は「普通株式と同様に評価する」とされています。つまり、黄金株を持っている時点で、あなたは「経営に影響力のない少数株主」とは認められず、「実質的な支配権を持つ株主」として扱われるのです。

従業員持株会は本当に「他人」か?

もう一つの論点として、従業員持株会が本当に独立した存在なのか、という点も問われる可能性があります。もし、従業員持株会が実質的にオーナー様の意向通りに議決権を行使するような関係性(例えば、理事長がオーナー様の側近であるなど)である場合、「オーナーの意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者」とみなされ、従業員持株会の持つ議決権もオーナー様のものと合算して判定されることがあります。
過去の裁決例でも、このような実質判断で株主の区分が覆されたケースは存在します。

評価はどうなる?考えられる結論

これらの点を踏まえると、このスキームを利用した場合の株式評価は、残念ながらオーナー様の期待通りにはならない可能性が高いと言えます。

黄金株と配当優先株式の評価

最終的に、オーナー様が保有する黄金株や配当優先株式の相続税評価は、配当還元方式の適用が認められず、原則的評価方式(類似業種比準方式や純資産価額方式)によって評価されることになるでしょう。黄金株によって実質的な支配権を維持している以上、「同族株主」と同様の立場で評価される、と考えるのが自然です。

租税回避行為とみなされるリスク

このスキームは、その目的や構造から、相続税の負担を不当に減少させるための「租税回避行為」と認定されるリスクを伴います。もし税務調査で否認された場合、低い評価額での申告は認められず、多額の追徴税額や延滞税、場合によっては過少申告加算税が課される可能性もあります。

安全な相続対策のために

では、同族会社のオーナー様はどのように相続対策を進めればよいのでしょうか。大切なのは、トリッキーな節税スキームに頼るのではなく、着実に、そして正々堂々と対策を進めることです。

従業員持株会の本来の活用法

従業員持株会は、本来、従業員の財産形成を支援し、経営への参加意識を高めることでモチベーションを向上させるための、素晴らしい福利厚生制度です。また、会社の株式が社外に流出するのを防ぐ「安定株主対策」としても有効です。こうした本来の目的をしっかりと持って設立・運営することが重要であり、節税はあくまでその副次的な効果と位置づけるべきでしょう。

専門家への相談が不可欠

自社株の評価や事業承継、相続対策は、会社の状況やご家族の構成によって最適な方法が全く異なります。非常に専門性が高く、税法の解釈も複雑です。
ご自身の判断だけで進めるのではなく、必ず相続や事業承継に詳しい税理士などの専門家にご相談ください。専門家と一緒に、会社の将来を見据えた、長期的で安全な対策を計画・実行することが、結果的にご家族と会社を守る最善の道となります。

まとめ

今回は、従業員持株会と黄金株を使った相続対策スキームについて解説しました。ポイントをまとめると以下のようになります。

  • 普通株式を従業員持株会に移し、オーナーは黄金株と配当優先株式を保有するスキームは、相続税評価額を配当還元方式で評価することが目的
  • しかし、黄金株を持つことで実質的な経営支配権を維持していると判断されるため、配当還元方式の適用は極めて難しい。
  • 株式の評価は、原則的評価方式で行われる可能性が非常に高く、期待したような節税効果は得られない。
  • 税務署は形式ではなく「実質」で判断するため、租税回避行為として否認されるリスクも伴う。
  • 安全で確実な相続対策のためには、安易な節税スキームに頼らず、専門家と相談しながら自社に合った方法を検討することが不可欠

大切な会社とご家族の未来のために、ぜひ専門家の知恵を活用しながら、計画的な相続対策を進めていきましょう。

参考文献

黄金株と従業員持株会を活用した相続対策と株式評価のよくある質問まとめ

Q. 従業員持株会に株式を移し、オーナーが黄金株を持つ相続対策で、株式を配当還元方式で評価できますか?

A. 結論から言うと、極めて困難です。オーナーが黄金株(拒否権付種類株式)を保有し、経営上の重要事項に対して支配権を維持している場合、「中心的な同族株主」と見なされる可能性が非常に高いです。その場合、原則的評価方式(類似業種比準価額方式や純資産価額方式)が適用され、配当還元方式は使えません。

Q. 配当還元方式で評価できるのは、どのような株主ですか?

A. 配当還元方式は、主に経営に関与していない「少数株主(同族株主以外の株主)」が取得した株式を評価する際に用いられます。オーナーやその親族のように、会社の経営を支配している「中心的な同族株主」には適用されません。

Q. 普通株式をすべて従業員持株会に移せば、「中心的な同族株主」から外れるのではないでしょうか?

A. 形式的に普通株式の議決権割合が低下しても、黄金株によって実質的な経営支配権を維持していると判断されます。税務上の判定は、形式的な議決権数だけでなく、会社経営への実質的な影響力も考慮されるため、「中心的な同族株主」から外れることは難しいでしょう。

Q. 従業員持株会は、同族関係者として扱われるのですか?

A. 通常、従業員持株会自体は同族関係者には含まれません。しかし、その議決権行使が実質的にオーナーの意向に強く影響されるような実態がある場合、総合的な判断の中で支配関係を補強する一因と見なされる可能性はあります。

Q. オーナーが保有するのが議決権のない配当優先株式だけでも、評価は変わりませんか?

A. はい、変わりません。たとえオーナー自身が保有する株式に議決権がなくても、黄金株(拒否権)を保有している事実が経営支配の根拠となります。また、親族が保有する議決権と合算して同族株主グループの支配力を判定するため、評価方法の結論は同じになります。

Q. このスキームが税務調査で否認された場合、どのようなリスクがありますか?

A. 配当還元方式での評価が否認されると、原則的評価方式(類似業種比準価額方式など)で再計算されます。その結果、株式の評価額が大幅に増加し、多額の追徴税額(過少申告加算税や延滞税を含む)が発生するリスクがあります。

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