相続税の申告書を作成するとき、特に「第13表 債務及び葬式費用の明細書」で手が止まってしまう方、意外と多いのではないでしょうか。「発生年月日」「弁済期限」という欄がありますが、これが「相続発生日」とどう関係するのか、どの日付を書けばいいのか、迷ってしまいますよね。そこで今回は、この3つの日付の関係性を中心に、第13表の書き方を優しく、そして詳しく解説していきます。この記事を読めば、迷わずスラスラと書き進められるようになりますよ。
相続税申告書第13表とは?債務控除の基本
まずは、第13表がどのような書類なのか、基本からおさらいしましょう。この書類を正しく作成することが、相続税の節税につながる大切な第一歩です。
第13表の役割と債務控除
相続税申告書第13表は、「債務及び葬式費用の明細書」という名前の通り、亡くなった方(被相続人)が残した借金や未払金などの「債務」と、お葬式にかかった「葬式費用」を申告するための書類です。
相続税は、亡くなった方のプラスの財産(預貯金や不動産など)の合計額から、マイナスの財産である債務などを差し引いた金額を基に計算されます。この差し引く手続きを「債務控除」と呼びます。
第13表を正確に作成して債務控除を漏れなく適用することで、課税対象となる財産を減らし、結果的に相続税の負担を軽くすることができるのです。
債務控除の対象となるもの・ならないもの
「これも債務になるのかな?」と迷うこともあるかもしれません。ここで、債務控除の対象になるものとならないものの代表的な例をみてみましょう。
| 債務控除の対象になるもの | 債務控除の対象にならないもの |
|---|---|
|
|
第13表の「発生年月日」の書き方と注意点
それでは、具体的な書き方を見ていきましょう。まずは「発生年月日」です。この日付は、その債務が「いつ」生まれたかを示す重要な情報です。
「発生年月日」とは?何を指すのか
「発生年月日」とは、その債務が具体的に発生した日を指します。例えば、お金を借りた契約日や、サービスを利用した日などがこれにあたります。具体的には、以下のような日付を記載します。
- 銀行からの借入金:金銭消費貸借契約を結んだ日
- 未払いの医療費:病院で診療を受けた日
- 未払いの公共料金:電力会社などの検針日
- クレジットカードの未払金:カードを利用して商品やサービスを購入した日
発生年月日は「相続発生日」より前?後?
ここが一番大切なポイントです。債務控除の対象となるのは、原則として「相続発生日(亡くなった日)」の時点で、すでに存在していた債務に限られます。
つまり、第13表に記載する債務の「発生年月日」は、必ず「相続発生日」よりも前の日付になります。もし発生年月日が相続発生日より後の日付になるものがあれば、それは相続人の債務となり、原則として債務控除の対象にはなりません。
具体例で見る「発生年月日」の記載
債務の種類ごとに、どの時点の日付を「発生年月日」として書くのか、表で確認してみましょう。
| 債務の種類 | 発生年月日に記載する日付の例 |
|---|---|
| 銀行借入金 | 借入の契約書に記載されている契約日 |
| 未払医療費 | 領収書や診療明細書に記載されている診療日 |
| 未払固定資産税 | その年の1月1日(賦課期日) |
| クレジットカード未払金 | カード利用明細に記載されている利用日 |
第13表の「弁済期限」の書き方とポイント
次に「弁済期限」です。この欄も少し分かりにくいかもしれませんが、ポイントを押さえれば簡単です。
「弁済期限」とは?誰が支払った日?
「弁済期限」は、文字通りその債務を支払う期限日のことです。ただし、相続税申告の実務では、相続人がその債務を実際に支払った日を記載することが一般的です。
なぜなら、「支払った」という事実をもって、その債務の金額が確定し、相続人が負担したことが明確になるからです。
ここで絶対に間違えてはいけないのは、「被相続人が支払った日」ではないという点です。あくまで、相続が発生した後に、財産を引き継いだ相続人が支払った日付を記入してください。
弁済期限は「相続発生日」より後になるのが一般的
被相続人が亡くなった時点ではまだ支払われていなかった債務を、相続人が代わりに支払うわけですから、「弁済期限(実際に支払った日)」は、当然ながら「相続発生日」よりも後の日付になります。亡くなった後に、銀行振込や現金で支払いをした日を思い出して記載しましょう。
弁済期限が不明な場合はどうする?
借入金のように返済スケジュールが契約で決まっている場合は、その契約上の期限日を記載します。もし、支払いの期限が特に決まっていない債務や、書類がなくて期限がわからない場合はどうすればよいでしょうか。
その場合は、空欄にしておいても税務署から指摘されることは少ないですが、実際に支払いが済んでいるのであれば、その支払日を記載しておくのが最も確実で分かりやすい方法です。
「発生年月日」「弁済期限」「相続発生日」の関係性を徹底解説
ここまで解説してきた3つの日付の関係性を、時系列で整理してみましょう。この流れを頭に入れておけば、もう迷うことはありません。
3つの日付の関係性を時系列で整理
3つの日付は、必ず以下の順番になります。この関係性が崩れることはありません。
| 時系列の順番 | 日付の種類と説明 |
|---|---|
| ① 過去 | 【発生年月日】 債務が生まれた日です(契約日、利用日など)。相続発生日よりも必ず前になります。 |
| ② 相続の基準日 | 【相続発生日】 被相続人が亡くなった日です。すべての基準となる日で、この日に債務が存在していたことが債務控除の条件です。 |
| ③ 未来 | 【弁済期限(支払日)】 相続人が債務を支払った日です。相続発生日よりも必ず後になります。 |
よくある間違いと注意すべきケース
日付の記載でよくある間違いや、特に注意が必要なケースについて触れておきます。
- よくある間違い:「発生年月日」の欄に、つい「相続発生日」を書いてしまうケースです。正しくは、その債務が生まれた日を記載しましょう。
- 注意すべきケース(固定資産税):例えば、被相続人が2月1日に亡くなったとします。その年の固定資産税の納税通知書が届くのは5月頃です。通知書が届いたのは亡くなった後ですが、固定資産税はその年の1月1日時点の所有者に納税義務があります。したがって、1月1日時点で所有者であった被相続人の債務となり、その年1年分の固定資産税全額が債務控除の対象となります。この場合の「発生年月日」は「1月1日」と記載します。
葬式費用の場合はどう書く?
第13表には、債務だけでなく葬式費用を記載する欄もあります。こちらは日付の考え方が少し違うので注意しましょう。
葬式費用に「発生年月日」「弁済期限」はない
第13表をよく見ていただくと、「2 葬式費用の明細」の欄には、「発生年月日」や「弁済期限」を記載する場所がないことにお気づきかと思います。葬式費用は相続が起きてから発生するものなので、これらの日付の概念がないのです。
記載するのは「支払年月日」
葬式費用の欄には、代わりに「支払年月日」という項目があります。ここには、葬儀社やお寺、火葬場などに費用を実際に支払った日をそのまま記載すれば大丈夫です。当然、この日付も「相続発生日」より後の日付になります。
まとめ
相続税申告書第13表の「発生年月日」と「弁済期限」、そして「相続発生日」の関係性について、ご理解いただけましたでしょうか。最後にポイントをもう一度おさらいします。
- 発生年月日:債務が生まれた日。相続発生日より前。
- 相続発生日:亡くなった日。債務控除の基準日。
- 弁済期限:相続人が実際に支払った日。相続発生日より後。
このシンプルな時間の流れを覚えておけば、第13表の作成は決して難しくありません。債務控除は、相続税の負担を適正にするための大切な制度です。漏れなく正確に申告して、スムーズな相続手続きを進めていきましょう。
参考文献
相続税申告書第13表(債務)の年月日に関するよくある質問まとめ
Q.相続税の債務控除で、「発生年月日」と「相続発生日」はどういう関係ですか?
A.債務の「発生年月日」は「相続発生日(被相続人が亡くなった日)」以前である必要があります。相続発生日より後に発生した債務は、原則として債務控除の対象になりません。
Q.債務の「弁済期限」が相続発生日より後でも、債務控除はできますか?
A.はい、できます。「弁済期限」が相続発生日より後であっても、相続発生日時点で確定している債務(例:ローン残高など)であれば、債務控除の対象となります。
Q.相続発生日(死亡日)に入院費が発生しました。これは債務控除の対象ですか?
A.はい、対象です。相続発生日時点で確定している債務なので、「発生年月日」を亡くなった日として記載し、債務控除に含めることができます。支払いが相続開始後であっても問題ありません。
Q.被相続人名義の公共料金で、亡くなった後に請求がきました。これは債務控除できますか?
A.亡くなる日までの利用分については債務控除の対象となります。請求書などで利用期間を確認し、相続発生日までの金額を按分計算して計上します。発生年月日は、利用期間の開始日などを記載します。
Q.葬式費用は相続発生日より後に支払いますが、「発生年月日」はどう書けばよいですか?
A.葬式費用は債務とは別に控除が認められています。第13表に記載する際、「発生年月日」は葬儀を行った日や支払日が明確な場合はその日を、不明な場合は相続発生日を記載するのが一般的です。
Q.個人間の借金で「弁済期限」がはっきり決まっていませんでした。どうすればいいですか?
A.弁済期限の定めがない場合でも、借用書などで債務の存在が客観的に証明できれば控除の対象となります。「弁済期限」の欄は「期限の定めなし」と記載します。重要なのは、相続発生日時点で債務が存在したと証明できることです。