会社の経営者様や経理担当者様の中には、「法人保険で節税ができるって本当?」「どんな種類の保険なら損金にできるの?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。法人保険は、万が一の備えだけでなく、会社の財務戦略にも関わる大切なポイントです。この記事では、法人が加入する保険の種類と、保険料を損金にできるかどうかのルールの全体像を、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
先に結論をお伝えします。法人保険の保険料が損金になるかどうかは、「保険の種類」「保険金の受取人」「最高解約返戻率」の3つで決まります。定期保険・第三分野保険は、2019年(令和元年)7月8日以後の契約から最高解約返戻率50%・70%・85%を境に資産計上の割合が変わり、養老保険は受取人の組み合わせ次第で「全額資産計上」「2分の1損金」「給与」に分かれます。そして、保険料を損金にできても、解約返戻金を受け取れば益金になるため、多くの場合は税金の支払いを先送りする「課税の繰延べ」にとどまる点に注意が必要です。
法人保険の基本的な種類
まず、法人が契約する保険にはどんな種類があるのか見ていきましょう。法人保険は、会社のさまざまなリスクに備えるためのもので、目的によって大きく3つの分野に分けられます。
生命保険(第一分野)
経営者や従業員の「万が一」に備えるのが生命保険です。もし経営者の方が亡くなったり、重い障がいを負ったりした場合、会社の経営に大きな影響が出ることがありますよね。そんな時に、事業を守るためのお金(事業保障資金)や、借入金の返済資金を確保するのが主な目的です。代表的なものには、定期保険や養老保険、終身保険などがあります。
損害保険(第二分野)
事業活動の中で起こるさまざまな事故に備えるのが損害保険です。例えば、火災で社屋や設備が損害を受けたり、業務中の事故で第三者に損害を与えてしまい賠償責任を負ったりするリスクに備えます。火災保険や自動車保険、賠償責任保険などがこれにあたります。なお、保険期間が3年以上で満期返戻金のある長期の損害保険は、保険料のうち積立保険料に相当する部分を資産に計上し、残りを期間の経過に応じて損金に算入します。国税庁 第3節 保険料等
第三分野の保険
経営者や従業員が病気やケガをした場合に備えるのが第三分野の保険です。生命保険と損害保険の中間のような位置づけで、医療保険やがん保険、介護保険などが含まれます。役員や従業員の福利厚生を手厚くする目的で活用されることも多いんですよ。
法人保険の保険料は損金にできる?基本ルールを解説
法人保険を検討する上で最も気になるのが、「支払った保険料が損金(経費)になるのか」という点ですよね。保険料を損金に算入できれば、その年の会社の利益が圧縮され、法人税の負担がその年は軽くなります。ただし、これは厳密には「節税」というより「課税の繰延べ」という考え方が近いです。将来、保険を解約して解約返戻金を受け取った際には、そのお金は会社の利益(益金)として課税対象になるからです。
種類別の取扱いの早見表
法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者とする生命保険の主な取扱いを一覧にすると、次のとおりです(特約部分の保険料は、特約の内容に応じて養老保険・定期保険・第三分野保険のいずれかの取扱いによります)。
| 保険の種類 | 主な経理処理 |
|---|---|
| 定期保険・第三分野保険(最高解約返戻率50%以下など) | 原則として期間の経過に応じて損金 |
| 定期保険・第三分野保険(保険期間3年以上・最高解約返戻率50%超) | 返戻率の区分に応じて一部を資産計上し、後で取り崩して損金 |
| 養老保険 | 受取人に応じて全額資産計上・2分の1損金・給与のいずれか |
| 終身保険 | 貯蓄性が高いため、原則として資産計上 |
また、受取人が被保険者やその遺族となる契約で、役員や部課長など特定の人だけを被保険者にしている場合は、保険料はその人への給与として扱われます。役員の場合、経常的に負担する保険料は定期同額給与になります。国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
2019年(令和元年)の通達改正で何が変わった?
以前は、貯蓄性が高い保険でも保険料の全額や半分を損金にできる商品が多くあり、それが「節税保険」として広く活用されていました。その状況を見直すため、2019年(令和元年)に国税庁の法人税基本通達が改正されました(法律の改正ではなく、通達による取扱いの見直しです)。ポイントは、「最高解約返戻率」に応じて、資産に計上すべき割合が変わるようになったことです。
最高解約返戻率とは、保険期間を通じて「解約返戻率」が最も高くなる期間のその割合をいいます。解約返戻率は、契約時に示された解約返戻金相当額を、それを受け取るまでに支払う保険料の合計額で割った割合です。新しい取扱いは令和元年7月8日以後の契約に適用され、解約返戻金のない短期払いの保険(後述)は令和元年10月8日以後の契約から適用されます。それより前の契約に遡って適用されることはなく、改正前の取扱いが続きます。国税庁 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
【種類別】生命保険の損金算入ルール
それでは、保険の種類ごとに損金算入のルールを見ていきましょう。経理処理は保険の種類や契約形態によって大きく異なります。
定期保険・第三分野保険
定期保険は、一定期間内に被保険者が亡くなった場合にだけ保険金が支払われる保険です。医療保険やがん保険などの第三分野保険とあわせて、次の「最高解約返戻率」の区分で取り扱います。保険期間が終身の第三分野保険は、被保険者が116歳に達する日までを計算上の保険期間とします。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | なし | なし(原則として期間の経過に応じて損金) | — |
| 50%超70%以下 | 保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料の40%(残り60%は損金) | 保険期間の75%経過後から終了まで |
| 70%超85%以下 | 保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料の60%(残り40%は損金) | 保険期間の75%経過後から終了まで |
| 85%超 | 原則として最高解約返戻率となる期間まで(5年未満となる場合は5年など) | 支払保険料×最高解約返戻率×90%(当初10年間)、11年目以降は×70% | 解約返戻金相当額が最も高くなる期間の経過後から終了まで |
50%超の区分が適用されるのは、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険です。資産に計上した金額は、取崩期間に入ってから均等に取り崩して損金に算入します。85%超の区分は「損金になるのは1割だけ」と誤解されやすいのですが、正しくは資産に計上する額が「支払保険料×最高解約返戻率×90%」で、残りが損金になります。国税庁 No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
例えば、年間保険料100万円・最高解約返戻率80%の定期保険なら、当初40%の期間は毎年次のように処理します。
区分ごとの具体的な計算や取崩しの流れは、次のコラムで設例を使って詳しくご紹介しています。
関連コラム法人保険料の損金算入|最高解約返戻率で変わる4区分と注意点▸
30万円基準の2つの特例
定期保険・第三分野保険には、「30万円」を目安にした取扱いが2つあります。似ていますが中身は別物なので、整理しておきましょう。
| 特例 | 対象となる保険 | 取扱い |
|---|---|---|
| 少額の保険の特例 | 最高解約返戻率が70%以下で、年換算保険料相当額(保険料の総額÷保険期間の年数)が被保険者1人につき合計30万円以下 | 50%超でも資産計上は不要。原則として期間の経過に応じて損金 |
| 解約返戻金のない短期払いの特例 | 保険期間を通じて解約返戻金相当額のない(ごく少額を含む)保険で、払込期間が保険期間より短く、その事業年度に支払った保険料が被保険者1人につき合計30万円以下 | 支払った日の属する事業年度に全額を損金に算入する処理が認められる |
2つ目の特例は、令和元年10月8日以後の契約が対象です。30万円を超える場合は、保険期間にわたって期間の経過に応じて損金に算入することになります。
養老保険
養老保険は、満期または被保険者の死亡によって保険金が支払われる、死亡保障と貯蓄の両方の性質をあわせ持った保険です。この保険は、死亡保険金と満期保険金(生存保険金)の受取人を誰にするかによって、経理処理が全く異なります。国税庁 No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
| 死亡保険金の受取人 | 満期保険金の受取人 | 経理処理 |
|---|---|---|
| 法人 | 法人 | 契約が終了するまで全額資産計上(損金にはなりません) |
| 被保険者の遺族 | 法人 | 2分の1を資産計上、残りの2分の1は期間の経過に応じて損金(いわゆるハーフタックスプラン) |
| 被保険者またはその遺族 | 被保険者 | 保険料は役員・従業員への給与(受け取った側は所得税の対象・生命保険料控除の対象) |
2分の1損金のプランでも、役員や部課長など特定の人だけを被保険者にしている場合は、損金にできるはずの2分の1部分がその人への給与になります。原則として役員・従業員の全員を対象にすること(普遍的な加入)が前提だと考えてください。要件の詳しい中身は、次のコラムでご説明しています。
関連コラム法人保険で半分損金にする要件とは?養老保険の福利厚生プランを徹底解説▸
終身保険
終身保険は、保障が一生涯続く貯蓄性の高い保険です。そのため、支払った保険料は原則として全額が資産計上となり、損金に算入することはできません。会社の資産形成の一環として活用されることはありますが、法人税の負担を軽くする目的には向いていないと言えるでしょう。
「節税効果」の実態は課税の繰延べ
「全額損金の保険に入れば節税になる」と考えがちですが、保険料を損金にした分だけ、解約したときの益金が大きくなるのが基本の構造です。解約返戻金を受け取ると、それまで資産に計上してきた金額との差額が、その事業年度の益金(雑収入)になります。
例えば、資産計上の累計額が600万円の段階で解約し、解約返戻金を800万円受け取ったとすると、次のとおりです(取崩期間に入る前の解約を想定した単純化した例です)。
つまり、加入中に損金にした分は、出口で利益として戻ってくることが多く、税金そのものが消えるわけではありません。しかも保険料という現金は確実に出ていきます。法人保険は「保障が本当に必要か」を出発点に検討し、損金算入はその結果として付いてくるものと考えるのが健全です。
法人保険を活用するメリット
課税の繰延べ以外にも、法人保険には経営に役立つメリットがあります。
事業保障資金の確保
もし会社の経営に不可欠な経営者の方に万が一のことがあった場合、会社の信用が低下したり、金融機関からの借入金の返済を求められたりすることがあります。生命保険に加入していれば、死亡保険金を当面の運転資金や借入金の返済に充てることができ、会社の危機を乗り越えるための事業保障資金として役立ちます。
役員・従業員の退職金準備
貯蓄性のある保険を活用すれば、計画的に退職金の準備を進めることができます。経営者が勇退するタイミングに合わせて保険を解約し、その解約返戻金を退職金の原資に充てる方法は、多くの企業で活用されています。解約返戻金の益金と退職金の損金の時期を合わせられれば、出口での課税を抑えやすくなります。保険契約そのものを退職金として役員に引き継ぐ方法もあり、その場合の評価や手続きは次のコラムで詳しくご説明しています。
関連コラム法人保険の名義変更で役員退職金を現物支給!評価額と税務手続き▸
事業承継対策
事業承継の際には、後継者が先代の経営者から自社株を買い取るための資金や、相続税の納税資金が必要になることがあります。法人保険の死亡保険金や解約返戻金をこれらの事業承継資金に充てることで、スムーズな世代交代をサポートすることができます。
法人保険に加入する際の注意点
メリットの多い法人保険ですが、加入する前にはいくつか注意しておきたい点もあります。後で「こんなはずではなかった」とならないように、しっかり確認しておきましょう。
キャッシュフローの悪化
保険料の支払いは、毎月または毎年、会社の現金が外に出ていくことを意味します。保障内容を手厚くすればするほど、保険料の負担は大きくなります。会社の業績が良い時は問題なくても、将来的に業績が悪化した際に、保険料の支払いが資金繰りを圧迫する可能性があります。長期的に無理なく支払いを続けられるかを慎重に検討することが大切です。
解約返戻金の受け取り時に課税される
これはとても重要なポイントですが、保険料を損金に算入することは、あくまで「課税の繰延べ」です。保険を解約して解約返戻金を受け取った事業年度には、資産計上額との差額が会社の利益(雑収入)として計上され、法人税が課税されます。そのため、退職金の支払いなど、解約返戻金を受け取る年度に大きな損金が発生するような「出口」をあらかじめ計画しておく必要があります。
解約時期によっては元本割れの可能性も
貯蓄性のある保険でも、契約してすぐの時期に解約してしまうと、解約返戻金がそれまでに支払った保険料の総額を下回ってしまう「元本割れ」のリスクがあります。解約返戻率が最も高くなるピークの時期は保険商品によって異なりますので、いつ解約すれば損をしないのかを事前に確認しておくことが重要です。
契約日と契約内容の変更を確認する
同じ商品でも、令和元年7月8日より前の契約は改正前の取扱いのままです。また、契約後に内容を変更した場合は、変更後の内容に基づいて取扱いを見直すことになります。既存の契約を引き継いだときや見直すときは、契約日と最高解約返戻率を保険会社の資料で必ず確認しましょう。
まとめ
今回は、法人が加入する保険の種類と損金算入のルールについてご紹介しました。定期保険・第三分野保険は最高解約返戻率の区分、養老保険は受取人の組み合わせで取扱いが決まり、2019年(令和元年)の通達改正によって、以前のような大きな損金算入を期待することは難しくなりました。それでも法人保険は、事業保障や退職金準備、事業承継対策など、会社の未来を守るための心強い手段であることに変わりはありません。
大切なのは、損金算入を目的にするのではなく、自社に必要な保障と出口の時期から逆算して保険を選ぶことです。ルールには細かな部分もありますので、加入や見直しの前には、ぜひ税理士にもご相談くださいね。
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参考文献
- 国税庁 第3節 保険料等
- 国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 国税庁 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
- 国税庁 No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 国税庁 No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
法人向け生命保険の損金計上に関するよくある質問まとめ
Q.法人保険はすべて経費(損金)にできますか?
A.すべてが損金になるわけではありません。保険の種類、保険金の受取人、最高解約返戻率によって、損金・一部資産計上・全額資産計上・給与のいずれかに分かれます。
Q.全額損金になる法人保険にはどんな種類がありますか?
A.最高解約返戻率が50%以下の定期保険や医療保険などは、原則として期間の経過に応じて損金に算入します。最高解約返戻率70%以下で年換算保険料相当額が1人30万円以下の保険も同じ扱いです。
Q.解約返戻金のない短期払いの保険の30万円基準とは何ですか?
A.令和元年10月8日以後の契約で、解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険について、その事業年度に支払った保険料が1人30万円以下なら、支払った事業年度に全額を損金に算入する処理が認められます。
Q.養老保険の保険料が2分の1損金になるのはどんな場合ですか?
A.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、満期保険金の受取人が法人の場合です。保険料の2分の1を資産計上し、残りを損金に算入します。ただし役員や部課長など特定の人だけが対象のときは、その残りは給与になります。
Q.保険を解約したときの解約返戻金には税金がかかりますか?
A.はい、かかります。解約返戻金と資産に計上してきた金額との差額が、解約した事業年度の益金(雑収入)となり、法人税の課税対象になります。保険料の損金算入は多くの場合、課税の繰延べにとどまります。
Q.役員退職金の準備で生命保険を使うメリットは何ですか?
A.計画的に退職金の原資を積み立てられる点です。解約返戻金の益金と退職金の損金の時期を合わせることで、出口での課税を抑えやすくなります。


