事業オーナー様にとって、ご自身の会社の株式をどうやって次世代に引き継ぐかは、とても大きな課題ですよね。特に相続税の負担は、後継者の方にとって大きな悩みどころ。そんな時、心強い味方になるのが「法人保険」です。でも、いざ保険を選ぼうとすると、「定期保険?養老保険?終身保険?どれがいいの?」と迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。この記事では、それぞれの保険の特徴をわかりやすく解説し、あなたの会社に最適な保険選びをお手伝いします。
なぜ事業オーナーの株式相続対策に法人保険が有効なの?
会社の株式は、事業オーナー様にとって大切な資産であると同時に、相続時には高額な相続税がかかる可能性があります。法人保険は、この「事業承継」と「相続」という2つの大きな課題に対して、資金面から強力なサポートをしてくれるんです。具体的には、大きく3つの効果が期待できます。
相続税の納税資金をスムーズに準備できる
経営者様に万が一のことがあった場合、後継者の方はすぐに多額の納税資金を用意しなければなりません。会社の株式を相続しても、それをすぐに現金化するのは難しいですよね。そこで法人保険が役立ちます。会社が受け取った死亡保険金を原資として、後継者であるご遺族に「死亡退職金」として支払うことで、後継者の方はその資金を相続税の支払いに充てることができます。さらに、この死亡退職金には「500万円 × 法定相続人の数」という相続税の非課税枠があり、税負担を抑えながら資金を渡せるという大きなメリットがあります。
自社株の評価額を引き下げる効果がある
非上場会社の株式の価値は、会社の利益や純資産の額に大きく影響されます。会社が死亡退職金を支払うと、その分、会社の利益は圧縮され、現金(純資産)も社外に出ていきます。これにより、自社株の評価額が下がる効果が期待できるのです。株価が下がったタイミングで相続が発生すれば、相続税そのものの負担を軽減することにも繋がります。これは、計画的な事業承継において非常に重要なポイントです。
スムーズな遺産分割をサポートできる
事業を安定して継続させるためには、会社の株式は後継者に集中して相続させたいもの。しかし、他の相続人の方から見ると、財産の分配が不公平に感じられ、遺産分割トラブルに発展してしまうケースも少なくありません。法人保険で準備した資金があれば、後継者から他の相続人へ「代償金」として現金を支払うことができます。これにより、相続人間の公平感を保ち、円満な遺産分割をサポートすることができるのです。特に遺留分(相続人が最低限相続できる権利)への対策としても有効です。
【比較】定期保険・養老保険・終身保険、それぞれの特徴は?
それでは、相続対策でよく使われる3つの保険、「定期保険」「養老保険」「終身保険」は、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。目的によって最適な保険は変わってきますので、まずは基本的な違いを理解しましょう。
| 保険の種類 | 特徴 |
| 定期保険 | 一定期間の死亡保障に特化した「掛け捨て型」。保険料が割安で、大きな保障を確保しやすい。 |
| 養老保険 | 死亡保障と貯蓄の両方の性質を持つ。満期時には死亡保険金と同額の満期保険金が受け取れる。 |
| 終身保険 | 一生涯の死亡保障が続く「貯蓄型」。解約しない限り保障が続き、解約返戻金も貯まっていく。 |
定期保険:保障を重視するなら
定期保険は、例えば「10年間」「経営者が70歳になるまで」といった一定期間の保障を確保するための保険です。一番の特徴は、保険料が比較的安いため、少ない負担で高額な死亡保障を準備できる点です。事業承継が完了するまでの期間など、特定の期間における経営者の万が一のリスクに備えたい場合に非常に有効です。掛け捨てが基本ですが、「長期平準定期保険」のように、保険期間が非常に長く設定されているタイプでは、期間の途中で解約返戻金が高くなる時期があり、それを退職金の原資として活用することも可能です。
養老保険:保障と貯蓄を両立するなら
養老保険は、保険期間中に亡くなられた場合は死亡保険金が、無事に満期を迎えた場合は死亡保険金と同額の「満期保険金」が受け取れる、保障と貯蓄を兼ね備えた保険です。経営者の退職時期がある程度決まっている場合に、その時期を満期に設定すれば、計画的に勇退退職金の準備ができます。もちろん、満期前に万が一のことがあっても死亡保障があるため安心です。ただし、貯蓄性がある分、定期保険に比べて保険料は高くなります。
終身保険:一生涯の保障と資産形成なら
終身保険は、その名の通り、保障が一生涯続く保険です。いつ万が一のことが起きても必ず保険金が支払われるため、相続税の納税資金対策として最も確実性が高い方法と言えるでしょう。また、保険料の払込期間を終えると、解約返戻金が払込保険料総額を上回ることもあり、長期的な資産形成にも向いています。好きなタイミングで解約して解約返戻金を受け取れるため、勇退退職金の原資としても柔軟に活用できます。3つの保険の中では、保険料が最も高くなる傾向にあります。
相続対策の目的別!どの保険を選ぶべき?
では、具体的なお悩みに合わせて、どの保険が最適なのかを見ていきましょう。会社の状況や、オーナー様が何を一番重視するかによって、選択は変わってきます。
納税資金を確実に準備したい場合
「とにかく後継者の相続税の納税資金を確実に用意してあげたい」という場合は、保障が一生涯続く終身保険が最も適しています。いつ相続が発生しても必ず保険金が支払われるため、計画通りに納税資金を準備できます。会社が受け取った保険金で死亡退職金を支払うことで、後継者は安心して相続手続きを進めることができます。
事業承継までの期間、大きな保障を確保したい場合
「後継者がまだ若く、事業承継が終わるまでの今後15年間が心配だ」というように、リスクを特にカバーしたい期間が決まっている場合は、定期保険が力を発揮します。割安な保険料で、会社の借入金返済や当面の運転資金など、高額な事業保障資金を確保できます。もしものことがあっても、会社と後継者を資金面で守ることができます。解約返戻率が高いタイプの定期保険であれば、事業承継が無事に進んだ後に解約し、勇退退職金に充てるという活用法もあります。
勇退退職金と死亡退職金の両方を準備したい場合
「元気なうちに勇退して退職金を受け取りたいし、万が一のときの死亡保障も準備しておきたい」という場合は、貯蓄性のある養老保険や終身保険が選択肢となります。退職時期が65歳など明確に決まっているなら、そこを満期とする養老保険が計画的です。退職時期がまだ流動的な場合は、いつでも解約できる終身保険の方が柔軟に対応できるでしょう。どちらも会社の資産として積み立てながら、経営者の勇退と万が一の両方に備えることができます。
法人保険の税務上の取り扱い
法人保険を検討する上で、税金の話は避けて通れません。保険料の経理処理は、保険の種類によって異なります。節税効果だけに注目するのではなく、会社の財務状況に合った保険を選ぶことが大切です。
保険種類による経理処理の違い
支払った保険料が経費(損金)になるか、会社の資産として計上されるかは、保険の種類や契約形態によって細かく定められています。2019年の税制改正でルールが変更され、特に定期保険の扱いは解約返戻率によって複雑になっています。ここでは、一般的な例をご紹介します。
| 保険の種類 | 税務上の取り扱い(一般的な例) |
| 定期保険 | 保険料の多くを損金として計上できる場合があります(最高解約返戻率に応じて資産計上割合が定められています)。 |
| 養老保険 | 死亡保険金の受取人が遺族、満期保険金の受取人が法人の場合、保険料の半分を損金、半分を資産として計上します(ハーフタックスプラン)。 |
| 終身保険 | 貯蓄性が非常に高いため、原則として保険料は全額が資産として計上されます。 |
保険金・解約返戻金を受け取った時の注意点
重要なのは、法人が死亡保険金や解約返戻金を受け取った時、そのお金は法人の利益(益金)となり、法人税の課税対象になるという点です。せっかく保険で資金を準備しても、多額の税金がかかってしまっては意味がありません。そこで重要になるのが「出口戦略」です。保険金を受け取った事業年度に、同額の役員退職金を支払うことで、利益と費用(損金)が相殺され、法人税の負担を抑えることができます。この出口までを考えて保険を設計することが不可欠です。
法人保険を選ぶ際の注意点
最後に、相続対策として法人保険に加入する際に、気をつけておきたいポイントを2つお伝えします。
キャッシュフローへの影響
保険料の支払いは、毎月または毎年、会社の資金から出ていきます。特に貯蓄性の高い終身保険などは保険料が高額になりがちです。相続対策も大切ですが、会社のキャッシュフローを圧迫して、日々の事業運営に支障が出てしまっては本末転倒です。会社の財務状況をよく見て、無理のない範囲で継続できる保険プランを選びましょう。
出口戦略を明確にすること
何度か触れましたが、「出口戦略」は法人保険において最も重要と言っても過言ではありません。「いつ、誰が、何のために」この保険を使うのかを、加入する時点で明確に描いておく必要があります。特に、解約返戻金を活用するプランの場合、返戻率がピークになる時期は限られています。そのタイミングを逃してしまうと、想定していた資金を準備できなくなる可能性もあります。専門家と相談しながら、長期的な視点で計画を立てることが成功の鍵です。
まとめ
事業オーナー様の株式相続対策において、法人保険は納税資金の準備、自社株評価の引き下げ、円満な遺産分割のサポートなど、多くのメリットをもたらす非常に有効な手段です。定期保険、養老保険、終身保険にはそれぞれに特徴があり、どれが一番良いというわけではありません。会社の財務状況、後継者の有無、事業承継の進捗、そしてオーナー様が何を一番に願うかによって、最適な保険は変わってきます。大切なのは、自社の課題を正しく認識し、目的に合った保険を組み合わせることです。この記事が、皆様の円滑な事業承継と相続対策の一助となれば幸いです。ぜひ一度、信頼できる専門家にご相談のうえ、会社の未来を守るための最適なプランを検討してみてください。
参考文献
法人保険による相続対策のよくある質問まとめ
Q.なぜ法人保険が事業承継の相続対策になるのですか?
A.経営者に万一のことがあった際、会社が受け取る死亡保険金を活用して、相続人から自社株を買い取ったり、相続人に死亡退職金を支払ったりできるためです。これにより、後継者への株式集中や相続人の納税資金確保がスムーズになります。
Q.事業承継対策として、定期保険、養老保険、終身保険のどれを選べば良いですか?
A.目的によって異なります。低コストで大きな保障が必要なら「定期保険」、保障と貯蓄性を両立したいなら「養老保険」、長期的な保障と資産性を重視するなら「終身保険」が適しています。自社の状況に合わせて選びましょう。
Q.定期保険を相続対策に使うメリットは何ですか?
A.比較的安い保険料で高額な死亡保障を確保できる点です。会社の財務負担を抑えつつ、自社株の買い取り資金や死亡退職金といった多額の資金を準備できます。
Q.終身保険を相続対策に使うメリットは何ですか?
A.保障が一生涯続くことに加え、解約返戻金が貯まるため、経営者の勇退退職金の原資としても活用できます。相続対策と退職金準備を一つの保険で両立できるのが強みです。
Q.養老保険はどのような場合に適していますか?
A.満期時にまとまった資金(満期保険金)が受け取れるため、保障と計画的な資金準備を両立したい場合に適しています。特定の時期(例:10年後の勇退)に必要な退職金などを確実に準備したいケースで有効です。
Q.法人保険で受け取る死亡保険金に税金はかかりますか?
A.はい、法人が受け取る死亡保険金は益金として法人税の課税対象となります。ただし、その保険金を原資に死亡退職金を支払うなど、損金となる支出があれば法人税の負担を軽減できる場合があります。