会社のオーナー様やそのご家族が相続や事業承継を考えるとき、避けて通れないのが「非上場株式の評価」です。その中でも特に専門的なキーワード「S1」「S2」「L」について、戸惑いを感じる方も多いのではないでしょうか。この記事では、これらの言葉が何を意味し、どのように使われるのかを、専門家が優しく、わかりやすく解説していきます。複雑に見える株価評価の仕組みが、きっとすっきりと理解できますよ。
非上場株式の評価方法の基本
まずは基本から押さえましょう。非上場株式は、証券取引所で売買されている上場株式と違って、決まった価格がありません。そのため、相続税や贈与税を計算する際には、国税庁が定めたルール(財産評価基本通達)に従って、会社の価値を評価する必要があります。この評価方法は、株主の立場や会社の規模によって大きく変わるのが大きな特徴です。
誰が株主?「原則的評価方式」と「特例的評価方式」
株式を評価するとき、まず「誰がその株を持っているか」がとても重要になります。会社の経営に大きく関わるオーナー一族などの「同族株主等」が持つ株式は、会社の価値をしっかりと反映させる「原則的評価方式」で評価します。一方で、経営への影響力がほとんどない「少数株主」が持つ株式は、評価額が低めになる傾向がある「特例的評価方式(配当還元方式)」を使います。これは、少数株主にとっての株式価値は、主に配当金にあると考えられるからです。
| 株主の区分 | 評価方式 |
| 同族株主等(経営に影響力あり) | 原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式など) |
| 少数株主(経営に影響力なし) | 特例的評価方式(配当還元方式) |
どんな会社?「一般の評価会社」と「特定の評価会社」
次に、評価する会社がどんな会社かという点も重要です。一般的な事業を行っている会社は「一般の評価会社」に分類されます。これに対して、資産の大部分が土地や株式であったり、開業したばかり、あるいは休業中といった特殊な事情がある会社は「特定の評価会社」として、通常とは異なる特別なルールで評価されます。今回解説するキーワードのうち、「S1」と「S2」は、この「特定の評価会社」の一つである「株式等保有特定会社」の評価で登場します。
会社の規模は?「大会社」「中会社」「小会社」
「一般の評価会社」は、さらに従業員数や総資産価額、取引金額によって「大会社」「中会社」「小会社」の3つ(中会社はさらに大・中・小に分かれるため計5段階)に分けられます。この会社の規模によって、どの計算方法をメインで使うかが決まってきます。そして、今回のキーワード「L」は、この中の「中会社」の評価で使われる非常に重要な要素なのです。
| 会社規模 | 主な評価方式 |
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式 |
※従業員数が70人以上の会社は、他の要件にかかわらず自動的に「大会社」に分類されます。
中会社の評価で使う「L」の割合とは?
それでは、最初のキーワード「L」について詳しく見ていきましょう。「L」は、中会社の株式を評価するときに使う「類似業種比準価額」と「純資産価額」という2つの評価方法を、どのくらいの割合で混ぜ合わせるかを示す数値です。中会社は大会社と小会社の中間的な性格を持つため、両方の評価方法をバランスよく取り入れて、より実態に近い株価を算出しようという考え方に基づいています。
「L」の割合の計算方法
Lの割合は、会社の「総資産価額(帳簿価額)」と「従業員数」、または「直前期末以前1年間の取引金額」に応じて、0.90、0.75、0.60のいずれかの数値になります。2つの基準でそれぞれ割合を算出し、どちらか大きい方の割合を採用します。この「L」を使って、以下の計算式で株価を算出します。
計算式:類似業種比準価額 × L + 純資産価額 × ( 1 – L )
例えば、Lの割合が0.75と判定された中会社であれば、類似業種比準価額を75%、純資産価額を25%のウェイトで混ぜ合わせて株価を計算することになります。
Lの割合を決める具体的な基準
Lの割合は、会社の業種(卸売業、小売・サービス業、その他)ごとに定められた基準で決まります。下の表は、総資産価額と従業員数に応じた割合の一例です。例えば、卸売業で総資産価額が5億円、従業員数が30人の会社の場合、Lの割合は0.90となります。
| Lの割合 | 卸売業の基準例(総資産価額) |
| 0.90 | 4億円以上(かつ従業員数35人超) |
| 0.75 | 2億円以上(かつ従業員数20人超) |
| 0.60 | 7,000万円以上(かつ従業員数5人超) |
※上記は簡略化した例です。実際の判定は、取引金額の基準も考慮し、より詳細な判定表に基づいて行われます。
株式等保有特定会社で使う「S1」「S2」とは?
次に、キーワード「S1」と「S2」について解説します。これらは、特定の評価会社の一つである「株式等保有特定会社」の株式を評価するときに登場する考え方です。株式等保有特定会社とは、その名の通り、会社の総資産(相続税評価額ベース)に占める株式や出資金の価額の割合が50%以上の会社を指します。いわゆるホールディングスカンパニー(持株会社)や、投資をメインに行っている会社などがこれに該当することが多いです。
なぜ特別な評価方法が必要なの?
株式等保有特定会社は、一般的な事業会社とは資産の中身が大きく異なります。そのため、事業内容が似ている上場企業と比較して株価を計算する「類似業種比準方式」が馴染みにくいのです。そこで、原則として会社の資産を時価で評価し直す「純資産価額方式」で評価することになっています。ただし、事業も行っている持株会社などの実態に合わせて、納税者が有利な方を選べるように「S1+S2方式」という特別な評価方法も認められています。
「S1」と「S2」の正体
「S1+S2方式」は、会社の資産を2つのパートに分けて、それぞれ別に評価したものを最後に合算する方法です。
- S1:株式等以外の資産(事業部分)の価値
- S2:保有している株式等の価値
このように資産を分解して評価することで、会社の事業活動の実態を評価額に適切に反映させることができます。
S1とS2の具体的な計算方法
S1とS2は、それぞれ以下のように計算します。
S1の計算:
会社の資産から、保有している株式等を「ないもの」と仮定して計算します。その上で、その会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じた原則的評価方式(類似業種比準方式やその併用方式)を使って評価します。これは、会社の「事業」部分の価値を測るイメージですね。
S2の計算:
会社が保有している株式等の部分だけを取り出して、その価値を純資産価額方式で評価します。これは、保有している「投資資産」そのものの価値を純粋に計算するパートです。
そして、最終的に「S1の評価額 + S2の評価額」が、S1+S2方式による1株あたりの株価となります。ただし、この計算結果が、会社全体を純資産価額方式で評価した金額よりも高くなる場合は、純資産価額方式の金額を採用します。
評価方法の選択が重要です
非上場株式の評価では、どの評価方法を使うかによって株価が大きく変わることが少なくありません。特に、納税者の選択が認められているケースでは、どの方法が有利になるかを慎重に検討することが、適切な納税や節税に直結します。
中会社の場合
中会社は、原則として「類似業種比準価額 × L + 純資産価額 × ( 1 – L )」で計算しますが、計算した結果が純資産価額で評価した額よりも高くなる場合には、納税者にとって有利な純資産価額を選択することが認められています。
株式等保有特定会社の場合
原則は「純資産価額方式」ですが、納税者の選択で「S1+S2方式」を選ぶことができます。どちらの評価額が低くなるかをシミュレーションし、有利な方を選択することが大切です。
まとめ
今回は、非上場株式の評価で使われる「L」「S1」「S2」というキーワードについて解説しました。それぞれの意味を簡単にまとめると以下のようになります。
| L | 中会社の評価で、類似業種比準価額と純資産価額を混ぜ合わせる割合のこと。 |
| S1 | 株式等保有特定会社の評価で、保有株式等を除いた事業部分の価値のこと。 |
| S2 | 株式等保有特定会社の評価で、保有している株式等そのものの価値のこと。 |
非上場株式の評価は非常に専門的で、どの評価方法を選択するかによって納税額に大きな差が生じる可能性があります。特に会社のオーナー経営者の方にとって、事業承継や相続対策を計画する上で自社株の評価は避けては通れない重要なステップです。ご自身の会社の株価がどうなるのか、また、どのような対策が考えられるのか、少しでもご不安があれば専門家である税理士に相談することをおすすめします。
参考文献
非上場株式の評価(S1, S2, L)に関するよくある質問
Q. 非上場株式の評価で出てくる「S1」「S2」「L」とは何ですか?
A. S1は「類似業種比準価額」、S2は「純資産価額」という株価の評価方法を指します。Lは、中会社を評価する際にS1とS2をどの割合で混ぜるかを示す「斟酌率(しんしゃくりつ)」のことです。これらは会社の規模に応じて使い分けられます。
Q. S1(類似業種比準価額)とは、どのような評価方法ですか?
A. S1(類似業種比準価額)とは、事業内容が似ている上場企業の株価を参考に、評価対象会社の「配当」「利益」「純資産」を比較して株価を計算する方法です。主に大会社の評価で用いられます。
Q. S2(純資産価額)とは、どのような評価方法ですか?
A. S2(純資産価額)とは、会社の総資産から負債を差し引いた純資産額(会社の解散価値)を基に、1株あたりの株価を評価する方法です。主に小会社の評価で用いられます。
Q. L(斟酌率)はどのように決まるのですか?
A. L(斟酌率)は、中会社を評価する際の「類似業種比準価額(S1)」の割合を示すもので、会社の規模(従業員数、総資産価額、取引金額)によって0.90、0.75、0.60のいずれかに定められています。大きい中会社ほどLの割合が高くなります。
Q. 会社の規模によって、S1、S2、Lの使い方はどう変わりますか?
A. 会社の規模に応じて原則的な評価方法が決まっています。大会社はS1(類似業種比準価額)、小会社はS2(純資産価額)で評価します。中会社は「S1×L + S2×(1-L)」という計算式で、S1とS2を併用して評価します。
Q. なぜ会社の規模によって評価方法を分ける必要があるのですか?
A. 会社の実態をより適切に株価へ反映させるためです。大会社は上場企業に近く事業継続が前提のためS1が馴染み、小会社は同族経営が多く資産価値が重視されるためS2が馴染みます。中会社はその中間的な性質を持つため、両方を併用します。