マイホームの夢を後押ししてくれる「住宅取得資金贈与の非課税特例」。親御さんからのありがたい資金援助ですが、「このお金を、今ある住宅ローンの返済に充てられたら助かるのに…」と考えたことはありませんか?実は、この特例の利用には、お金の使い道に大切なルールがあるんです。この記事では、住宅取得資金贈与がローンの返済に使えるのか、そして、もし使えないならどんな方法があるのかを、わかりやすく解説していきますね。
結論:住宅取得資金贈与をローンの返済に充てると非課税になりません
いきなり結論からお伝えすると、残念ながら住宅取得資金贈与の非課税特例は、すでにある住宅ローンの返済に充てることはできません。この制度は、あくまで「これから住宅を新築したり、購入したり、増改築したりするため」の資金に対して適用されるものだからです。すでに住宅ローンを組んでマイホームに住んでいる方が、後から親御さんに贈与を受けて繰り上げ返済に使う、といったケースは対象外になってしまうので、注意が必要なんです。
住宅取得資金贈与の非課税特例ってどんな制度?
まず、この制度の基本をおさらいしておきましょう。「住宅取得資金贈与の非課税特例」とは、ご両親やおじいちゃん、おばあちゃん(直系尊属)から、ご自身が住むための家を新築・購入・増改築するための資金を贈与された場合に、一定の金額まで贈与税がかからなくなる、というとてもお得な制度です。この特例は、2026年12月31日まで利用できます。
| 住宅の種類 | 非課税限度額 |
| 省エネ等住宅 | 1,000万円 |
| 上記以外の住宅 | 500万円 |
さらに、誰でも使える贈与税の基礎控除(年間110万円)も併用できるので、最大で1,110万円まで非課税で資金援助を受けることが可能になります。
どうしてローンの返済ではダメなの?
この特例の目的は、住宅の購入そのものを後押しして、経済を活性化させることにあります。そのため、「住宅を取得するための資金」であることが絶対条件です。すでにご自身の名義になっている住宅のローンを返済する行為は、「住宅の取得」ではなく、単なる「借金の返済」と見なされてしまうのです。国税庁のホームページにも、住宅ローンの返済資金は特例の対象にならないと明記されています。贈与されたお金の使い道が、住宅の購入代金や建築費用そのものである必要がある、と覚えておいてくださいね。
タイミングが重要!特例を受けるための正しいお金の流れ
非課税特例を正しく利用するためには、お金の流れの順番がとても大切です。正しいステップは以下の通りです。
1. 親や祖父母から住宅取得資金の贈与を受ける
2. 贈与された資金を、住宅の売買契約や工事請負契約の支払いに充てる(頭金など)
3. 残りの代金を自己資金や住宅ローンで支払う
この順番を守ることが、特例を適用してもらうための重要なポイントになります。先に住宅ローンを組んで全額支払いを済ませてから贈与を受ける、という流れでは適用できないので気をつけましょう。
ローン返済の援助を受けたい場合の代替案
「それじゃあ、ローンの返済を助けてもらうのは無理なの?」とがっかりされたかもしれません。ご安心ください。住宅取得資金贈与の非課税特例は使えませんが、別の方法でご両親から援助を受けることは可能です。ここでは3つの方法をご紹介します。
暦年贈与(基礎控除)を活用する
一つ目は、毎年110万円までなら贈与税がかからない「暦年贈与」の仕組みを使う方法です。毎年、基礎控除額である110万円の範囲内でご両親から資金援助を受け、それをコツコツと住宅ローンの返済に充てていきます。この方法なら、贈与されたお金の使い道は自由です。
ただし、注意点があります。毎年決まった時期に決まった金額を贈与し続けると、「定期贈与」とみなされ、初めからまとまった金額を贈与する約束があったと判断されてしまう可能性があります。そうならないためにも、面倒でも毎年「贈与契約書」を作成し、銀行振込で記録を残すなど、その都度の贈与であることを明確にしておくと安心です。
相続時精算課税制度を利用する
二つ目は、一度にまとまった金額の援助が必要な場合に検討したい「相続時精算課税制度」です。これは、原則60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する際に選択できる制度で、合計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた分に一律20%の税金がかかります。
ただし、この制度で贈与された財産は、将来ご両親が亡くなられた際に相続財産に加算して相続税を計算することになります。つまり、税金の支払いを先送りにする制度であり、相続税対策にはならない点に注意が必要です。また、一度この制度を選ぶと、暦年贈与には戻れないという大きなルールもあります。
2024年からは、この2,500万円の枠とは別に年間110万円の基礎控除枠が新設され、この110万円分は相続財産に加算されずに済むようになりました。
親からお金を借りる(金銭消費貸借契約)
三つ目は、「贈与」ではなく、親子間での「借金」という形にする方法です。親子間でお金の貸し借りをする「金銭消費貸借契約」を結びます。借金なので、当然ながら贈与税はかかりません。
ただし、これが税務署に「実質的な贈与(名義貸し)」と判断されないように、しっかりと対策する必要があります。具体的には、以下の3点を必ず実行してください。
- 金銭消費貸借契約書を作成する:借入額、返済期間、利率、返済方法を明記します。
- 適正な利息を設定する:無利子でも問題視されにくいですが、少しでも利息(年1%程度)を設定するとより安全です。
- 実際に返済を行う:契約書通りに、毎月銀行振込などで返済し、通帳に記録を残すことが最も重要です。
返済の実績がなければ、贈与とみなされてしまう可能性が高いので気をつけましょう。
住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるための重要ポイント
改めて、住宅取得資金贈与の非課税特例を正しく活用するための重要なポイントを確認しておきましょう。
対象となる人(もらう側)の要件
この特例を受けるためには、お金をもらう側(受贈者)にもいくつかの条件があります。主なものを表にまとめました。
| 要件 | 内 容 |
| 関係 | 贈与者の直系卑属(子や孫)であること。 |
| 年齢 | 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること。 |
| 所得 | 贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること。(床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は1,000万円以下) |
| 居住 | 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その家に住むこと。(または、住むことが確実であること) |
対象となる住宅の要件
購入する住宅にも条件があります。こちらも主なものを確認しておきましょう。
| 要件 | 内 容 |
| 床面積 | 40㎡以上240㎡以下であること。 |
| 用途 | 床面積の2分の1以上が、自分の居住用であること。 |
| 中古住宅の場合 | 原則として、1982年(昭和57年)1月1日以降に建築されたもの。または、新耐震基準に適合していることが証明されたもの。 |
贈与税が0円でも申告は必須!
これは非常に大切なポイントです。この非課税特例を使った結果、計算上の贈与税額が0円になったとしても、必ず税務署への贈与税の申告が必要です。申告をしないと、この特例を「使わなかった」ことになってしまい、後から多額の贈与税とペナルティ(加算税や延滞税)を請求されることになりかねません。申告期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日です。忘れずに手続きしましょう。
知らないと損?住宅ローン控除との関係
住宅取得資金贈与は、年末の所得税が戻ってくる「住宅ローン控除」にも少し関係してきます。合わせて知っておきましょう。
贈与された分は住宅ローン控除の対象外
住宅ローン控除は、あくまで「ご自身が借り入れた住宅ローンの年末残高」に対して適用される制度です。ご両親から贈与された資金は「自己資金」と同じ扱いになります。そのため、贈与を受けた金額分は、住宅ローン控除の計算対象には含まれません。
例えば、5,000万円の家を、贈与1,000万円+住宅ローン4,000万円で購入した場合、住宅ローン控除の計算の基になるのは4,000万円の部分となります。
繰り上げ返済での注意点
先ほどご紹介した暦年贈与などを利用して、住宅ローンの繰り上げ返済をする方もいらっしゃると思います。その際に一つ注意点があります。繰り上げ返済をした結果、住宅ローンの返済期間が、当初の契約から10年未満になってしまうと、その年以降、住宅ローン控除が受けられなくなってしまいます。返済計画を立てる際には、この点も考慮に入れておきましょう。
もし間違ってローンの返済に使ってしまったら?
もし、非課税特例が使えると勘違いして、贈与された資金をローンの返済に充ててしまった場合、その贈与は特例の対象外となり、通常の贈与として扱われます。暦年贈与の基礎控除110万円を超える部分に対して、贈与税が課税されます。例えば、親から1,000万円の贈与を受けてローンの返済に使った場合、税額は約177万円にもなります。申告をしていなければ、後日の税務調査で指摘され、本来の税金に加えてペナルティも支払うことになりますので、くれぐれもご注意ください。
まとめ
今回のポイントをまとめます。
- 住宅取得資金贈与の非課税特例は、既存の住宅ローンの返済には使えません。
- この特例は、あくまでこれから「住宅を新築・取得・増改築する」ための資金が対象です。
- 既存ローンの返済援助を受けたい場合は、「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」、「親子間の金銭消費貸借」といった方法を検討しましょう。
- 住宅取得資金贈与の非課税特例を利用する際は、適用要件をしっかり確認し、期限内に贈与税の申告を必ず行いましょう。
どの方法がご自身の状況にとって一番良いのかは、ご家庭の資産状況などによっても変わってきます。もし判断に迷われたら、税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。大切な資金援助を最も有効に活用できるよう、正しい知識を身につけておきましょう。
参考文献
住宅取得資金贈与とローン返済に関するよくある質問
Q. 親や祖父母から贈与されたお金を、住宅ローンの返済に使えますか?
A. 住宅取得資金贈与の非課税特例を使って贈与された資金は、住宅の「取得」に充てるためのものです。そのため、原則として、既に組んでいる住宅ローンの返済(繰り上げ返済など)に直接充てることはできません。
Q. 住宅取得資金贈与の非課税特例の対象となる使い道は何ですか?
A. この特例は、住宅の新築、取得(中古住宅含む)、または一定の増改築等の「対価」として支払う資金が対象です。具体的には、不動産会社や工務店に支払う購入代金や工事費用などが該当します。
Q. 贈与された資金をローンの返済に使ってしまった場合、どうなりますか?
A. 住宅取得資金贈与の非課税特例の要件を満たさない使い方をした場合、特例は適用されず、暦年贈与の基礎控除(年間110万円)を超える部分について贈与税が課税される可能性があります。税務署の調査で指摘されるリスクがあります。
Q. 住宅購入のタイミングで贈与を受け、自己資金として使ってローン借入額を減らすのは問題ないですか?
A. はい、問題ありません。住宅の購入契約後に贈与を受け、その資金を物件の引き渡し時までに支払う頭金などに充てるのが正しい使い方です。結果的に住宅ローンの借入額を減らすことにつながり、これが最も一般的な活用方法です。
Q. 住宅取得資金贈与の非課税特例を受けるには、いつまでに贈与を受ければいいですか?
A. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その資金の全額を住宅の取得等の対価に充て、かつ、その家屋に居住を開始する(または居住することが確実である)必要があります。タイミングが非常に重要です。
Q. ローンの返済ではなく、住宅取得に伴う諸費用(仲介手数料や登記費用など)に贈与資金は使えますか?
A. いいえ、使えません。住宅取得資金贈与の非課税特例の対象は、あくまで住宅そのものの「取得対価」です。仲介手数料、登記費用、不動産取得税などの諸費用は対象外となるため注意が必要です。