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遺言で換価分割はできる?メリット・注意点と書き方を徹底解説

2025-02-17
目次

ご自身の亡き後、残されたご家族が遺産をめぐって争うことになってしまったら…と考えると、とても悲しい気持ちになりますよね。特に、ご自宅の土地や建物といった分けにくい財産が主な遺産の場合、どう分ければ公平になるのか、悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。
実は、遺言書で「不動産などを売却して、その代金を相続人で分けなさい」と指示することができます。これを換価分割(かんかぶんかつ)と言います。今回は、遺言で換価分割を指示する方法や、そのメリット・デメリット、そして遺言書を作成する際の具体的な注意点について、わかりやすく解説していきますね。

換価分割とは?遺言で指示できる分割方法

相続が起きたとき、遺産の分け方にはいくつかの方法があります。その中の一つが「換価分割」です。まずは、換価分割がどのようなもので、どんな場合に有効なのかを見ていきましょう。

換価分割の基本的な仕組み

換価分割とは、土地や建物といった不動産や、株式などの遺産を売却してお金に換え、その現金を相続人間で分割する方法です。物理的に分けるのが難しい財産でも、現金にすることで、1円単位で公平に分けることができるのが大きな特徴です。通常、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)でこの方法を決めることが多いですが、遺言によって「この不動産は売却して分けなさい」と明確に指示することも可能です。

換価分割が有効なケース

換価分割は、特に次のようなケースでとても有効な方法と言えます。

  • 遺産の大部分が不動産の場合:相続人が複数いるのに、遺産が実家の土地と建物だけ、というケースは少なくありません。誰も住む予定がない場合、売却して現金で分けるのが最も現実的で公平な解決策になります。
  • 相続人同士の関係が良くない場合:誰が不動産を取得するか、あるいは不動産の評価額をいくらにするかで揉めてしまうことがあります。売却してしまえば、実際に得られた金額を分けるだけなので、評価額をめぐる争いを避けられます。
  • 相続税の納税資金が必要な場合:相続税は原則として現金で、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に納付しなければなりません。手元に現金がない場合でも、遺産を売却した代金で納税資金を確保できます。

他の遺産分割方法との比較

遺産の分割方法には、換価分割の他にもいくつか種類があります。それぞれの特徴を知っておくと、ご自身の状況に最も合った方法を選びやすくなりますよ。

分割方法 内  容
現物分割 土地は長男に、預貯金は長女に、というように財産そのものを分ける方法です。一番シンプルな方法ですが、財産の価値が異なると不公平感が出やすい側面もあります。
代償分割 相続人の一人が不動産など価値の大きい財産を相続する代わりに、他の相続人に対して差額分の現金(代償金)を支払う方法です。財産を渡したくないけれど、他の相続人への配慮もしたい場合に有効です。
共有分割 一つの不動産を、複数の相続人が持ち分を決めて共同で所有する方法です。一見公平に見えますが、将来的に売却や活用をする際に全員の同意が必要になるため、かえってトラブルの原因になることも多く、注意が必要です。
換価分割 財産を売却し、その売却代金を相続人で分ける方法です。公平性が高く、納税資金も確保しやすいですが、売却の手間や税金がかかる点を考慮する必要があります。

遺言で換価分割を指示するメリット

遺言で換価分割を指定しておくことには、相続が起きた後で相続人たちが話し合って決める場合と比べて、いくつかの大きなメリットがあります。大切な家族のために、あらかじめ道筋を示してあげることができるのです。

相続人間のトラブルを未然に防ぐ

最大のメリットは、相続人間の争いを防げることです。「誰が実家をもらうのか」「不動産の価値はいくらなのか」といった点は、相続で最も揉めやすいポイントです。遺言で「売却して公平に分ける」と決めておくことで、相続人たちは故人の意思に従うことになり、不毛な争いをせずに済みます。売却価格という客観的な金額で分けられるため、不公平感も生まれにくいでしょう。

分割が難しい財産をスムーズに分けられる

ご自宅の不動産や、事業で使っていた土地、非上場の会社の株式など、物理的に分けることが難しい財産は少なくありません。こうした財産を無理に共有名義にすると、将来の管理や処分でさらに大きなトラブルに発展する可能性があります。遺言で換価分割を指示しておけば、こうした問題を回避し、スムーズな遺産分割を実現できます。

相続税の納税資金を確保できる

相続税は、予想以上に高額になることがあります。特に都市部に不動産をお持ちの場合、評価額が高くなり、多額の相続税がかかることも珍しくありません。相続人たちに十分な預貯金がないと、納税のために借金をしたり、大切な資産を慌てて安く手放したり…ということにもなりかねません。遺言で換価分割を指示し、売却代金から納税するように定めておけば、相続人たちの納税の負担を大きく軽減することができます。

遺言で換価分割を指示する際の注意点とデメリット

公平でスムーズな分割が期待できる換価分割ですが、注意すべき点やデメリットも存在します。遺言書を作成する前に、これらの点もしっかりと理解しておきましょう。

譲渡所得税がかかる可能性がある

不動産などを売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して所得税と住民税(合わせて譲渡所得税)が課税されます。この税金は、その不動産を売却した人(相続によって名義人となった人)が支払う義務を負います。遺言書でこの税金の負担について明確に指示しておかないと、「売却代金から支払うのか」「名義人が自己資金で支払うのか」で新たなトラブルが生まれる可能性があります。必ず、売却代金から税金や諸経費を差し引いた後の金額を分けるように明記しましょう。

希望の価格・時期に売却できるとは限らない

不動産は、売りたいときに希望通りの価格で売れるとは限りません。経済の状況や不動産市場の動向によっては、売却までに時間がかかったり、想定よりも低い価格でしか売れなかったりするリスクがあります。特に、相続税の納税期限(10ヶ月以内)までに売却を完了させる必要がある場合、焦ってしまい不利な条件で売却せざるを得ない状況も考えられます。

遺言執行者の負担が大きい

換価分割をスムーズに進めるためには、遺言執行者の役割が非常に重要になります。遺言執行者は、不動産会社を選んで売却活動を行い、売買契約を締結し、代金を受け取って相続人に分配し、税金の申告・納付まで行います。これらの手続きは非常に専門的で手間がかかるため、相続人の一人に任せると大きな負担を強いることになります。信頼できる専門家(弁護士、司法書士、税理士、信託銀行など)を遺言執行者に指定することを強くお勧めします。

換価分割を指示する遺言書の書き方【文例付き】

実際に換価分割を指示する遺言書を作成する場合、どのような点に気をつけて書けばよいのでしょうか。後々のトラブルを防ぐためにも、明確で具体的な記載が不可欠です。

基本的な記載事項

換価分割を指示する遺言書には、少なくとも以下の内容を盛り込みましょう。

  • 対象財産の特定:どの財産を売却するのかを誰が見てもわかるように具体的に記載します。不動産の場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載通りに、所在・地番・地目・地積などを正確に書き写しましょう。
  • 分配方法の指定:売却して得たお金を、誰に、どのような割合(例:「長男と次男に2分の1ずつ」)で分けるのかを明確に記載します。
  • 諸費用・税金の負担:売却にかかる仲介手数料や登記費用、譲渡所得税などの費用を、売却代金から差し引くことを明記します。
  • 遺言執行者の指定:換価分割の手続きを実際に行う遺言執行者を指定し、その権限を明記します。

換価分割の具体的な文例

以下に、換価分割を指示する際の遺言書の文例をご紹介します。

第〇条
遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を換価し、その売却代金から、売却に要する仲介手数料、登記費用、譲渡所得税その他一切の諸費用を控除した残額を、妻〇〇(昭和△△年△月△日生)に2分の1、長男〇〇(平成△年△月△日生)に4分の1、長女〇〇(平成△年△月△日生)に4分の1の割合で相続させる。

【不動産の表示】
所在:東京都〇〇区〇〇一丁目
地番:〇〇番〇
地目:宅地
地積:〇〇.〇〇平方メートル

遺言執行者に関する文例

換価分割を円滑に進めるためには、遺言執行者の指定が欠かせません。

第〇条
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、下記の者を指定する。

住所:東京都千代田区〇〇町〇番〇号
氏名:司法書士 〇〇 〇〇
生年月日:昭和△△年△月△日生

2.遺言執行者は、本遺言の内容を実現するため、遺産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権限を有する。特に、前条記載の不動産を売却し、その所有権移転登記手続きを行う権限、および預貯金の解約・払戻しに関する権限を授与する。

換価分割と税金の関係

換価分割を行う場合、税金の問題は避けて通れません。「相続税」と「譲渡所得税」という2種類の税金について、正しく理解しておくことが大切です。

相続税の計算方法

まず注意したいのが、相続税の計算の基礎となる財産の価値は、「売却できた金額」ではなく「相続が開始した時点(亡くなった日)の評価額」であるという点です。例えば、相続開始時に3,000万円と評価された不動産が、その後に2,800万円で売れたとしても、相続税の計算は3,000万円を基準に行われます。逆に、3,200万円で売れた場合でも同様に3,000万円で計算します。この評価額は、土地であれば路線価、建物であれば固定資産税評価額などを基に算出されます。

譲渡所得税の計算と特例

次に、不動産を売却して利益が出た場合の譲渡所得税です。この税額は、以下の計算式で算出されます。

譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)

「取得費」とは、亡くなった方がその不動産を購入したときの代金や手数料のことです。もし取得費がわからない場合は、売却価格の5%を取得費とみなして計算するため、税額が高額になることがあります。
しかし、相続した財産を売却する場合には、税負担を軽減する特例がいくつかあります。

特例の種類 内  容
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 相続税を支払った人が、相続税の申告期限の翌日から3年以内にその相続した財産を売却した場合、支払った相続税額の一部を「取得費」に加算できる制度です。これにより、譲渡所得が圧縮され、結果として譲渡所得税が安くなります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 亡くなった方が一人で住んでいた家(一定の要件を満たすもの)を相続し、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合、譲渡所得から最高で3,000万円を控除できる制度です。適用には細かい要件があるため、事前に税理士などの専門家に確認することをお勧めします。

まとめ

遺言で換価分割を指示することは、分けにくい財産を公平に分割し、家族間のトラブルを防ぐための非常に有効な手段です。特に、遺産の大部分が不動産である場合や、相続人同士の関係に少しでも不安がある場合には、積極的に検討する価値があるでしょう。
ただし、譲渡所得税の問題や、希望通りに売却できないリスク、そして遺言執行者の大きな負担といったデメリットも存在します。これらの点を十分に理解した上で、遺言書には誰が読んでも誤解のしようがない、具体的で明確な内容を記載することが何よりも重要です。
遺言書の作成は、ご自身の想いを実現し、残された大切なご家族を守るための最後のお手紙です。もし少しでも不安や疑問があれば、ぜひ弁護士や司法書士、税理士といった専門家に相談しながら、万全の準備を進めてくださいね。

参考文献

国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税

遺言による換価分割のよくある質問まとめ

Q. 遺言で不動産などを「換価分割」するように指示することはできますか?

A. はい、できます。遺言書で「特定の財産(例:不動産)を売却し、その代金を相続人AとBで2分の1ずつ分けなさい」といった形で、換価分割を明確に指示することが可能です。

Q. 換価分割とは、具体的にどのような遺産分割方法ですか?

A. 換価分割とは、不動産や株式など、物理的に分けにくい遺産を売却してお金に換え(換価)、その現金を相続人間で分ける方法です。公平に分割しやすいというメリットがあります。

Q. 遺言で換価分割を指示するメリットは何ですか?

A. 相続人同士が「誰が不動産を取得するか」で揉めるのを防ぎ、公平に遺産を分けられる点が最大のメリットです。また、相続人が誰もその不動産に住む予定がない場合にも有効な方法です。

Q. 遺言で換価分割を指示する場合、遺言執行者を指定した方が良いですか?

A. はい、遺言執行者を指定することを強くお勧めします。遺言執行者がいれば、不動産の売却手続きや代金の分配などをスムーズに進めることができます。相続人間の手続きの負担を軽減できます。

Q. 換価分割で不動産を売却した場合、税金はどうなりますか?

A. 不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、相続人が所得税(譲渡所得税)を支払う必要があります。相続税とは別に発生する税金なので注意が必要です。

Q. 相続人の一人が遺言による換価分割に反対した場合、どうなりますか?

A. 遺言は法定相続分より優先されるため、原則として遺言の内容に従う必要があります。もし相続人が反対しても、遺言執行者は遺言の内容を実現する義務があります。ただし、相続人全員が合意すれば、遺言と異なる分割協議をすることも可能です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
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〒107-0052
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電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

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