生命保険が相続対策に有効なことはよく知られていますが、「受取人を誰にするか」で納税額が大きく変わることはご存知でしょうか?ご自身の万が一の際に、大切なご家族が困らないよう、最適な受取人を設定しておくことはとても重要です。今回は、生命保険の受取人を配偶者と子供、それぞれにした場合のメリット・デメリットを相続税の観点から詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
生命保険金にかかる税金は3種類!まずは基本を知ろう
生命保険金を受け取ったとき、かかる税金は相続税、所得税、贈与税の3つのうちいずれかです。どの税金がかかるかは、「誰が保険料を払っていたか(契約者)」、「誰が保険の対象だったか(被保険者)」、「誰が保険金を受け取ったか(受取人)」の3者の関係性で決まります。相続税対策を考えるなら、まずはこの基本を理解することが大切です。
相続税がかかるケース
被保険者と契約者(保険料負担者)が同じ人の場合、死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。例えば、夫が自分自身を被保険者として保険料を支払い、その死亡保険金を妻や子供が受け取るケースです。これが、生命保険を活用した相続対策として最も一般的な形になります。
所得税がかかるケース
契約者(保険料負担者)と受取人が同じ人の場合、受け取った保険金は所得税(一時所得)の対象となります。例えば、妻が保険料を負担して夫に保険をかけ(被保険者:夫)、夫の死亡後に妻自身が保険金を受け取る、といったケースが該当します。
贈与税がかかるケース
契約者(保険料負担者)、被保険者、受取人がすべて違う人の場合、贈与税の対象になります。例えば、夫が保険料を負担し、被保険者が妻、そして受取人が子供であるケースです。贈与税は相続税に比べて基礎控除額が少なく、税率が高くなる傾向があるため、特別な意図がない限り、この契約形態は避けた方が賢明と言えるでしょう。
| 契約者(保険料負担者) | 被保険者 |
| 夫 | 夫 |
| 受取人 | 税金の種類 |
| 妻 または 子供 | 相続税 |
相続税対策のキホン!生命保険の非課税枠
生命保険金が相続税の対象となる場合、とても大きなメリットがあります。それが「生命保険の非課税枠」です。これは、残された家族の生活保障という生命保険の大切な役割を考慮して設けられた特別な制度で、上手に活用することで相続税を大きく減らせる可能性があります。
非課税枠の計算方法
非課税になる金額は、「500万円 × 法定相続人の数」というシンプルな式で計算できます。例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人なら、「500万円 × 3人 = 1,500万円」までが非課税になります。もし死亡保険金が2,000万円だった場合、課税対象となるのは非課税枠を超えた500万円だけです。
非課税枠を使えるのは「相続人」だけ
この非課税枠という恩恵を受けられるのは、保険金の受取人が「法定相続人」である場合に限られます。例えば、相続人ではないお孫さんや内縁の妻などが保険金を受け取った場合は、非課税枠は適用されず、受け取った保険金の全額が課税対象となってしまいます。また、相続放棄をした人も、保険金を受け取る権利はありますが非課税枠は使えませんので注意が必要です。
受取人を「配偶者」にするメリット・デメリット
では、具体的に受取人を配偶者にすると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。相続税の制度とあわせて見ていきましょう。
メリット:配偶者の税額軽減で相続税がかからないことが多い
最大のメリットは、「配偶者の税額軽減」という非常に強力な制度を使える点です。これは、配偶者が相続した財産のうち、「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多い金額までは相続税がかからない、というものです。そのため、配偶者が生命保険金を受け取っても、他の財産と合計した額がこの範囲内であれば、結果的に相続税はかからないケースがほとんどです。当面の生活資金を確実に配偶者に渡したい場合にとても有効な方法です。
デメリット:二次相続で子供の負担が増える可能性
一方で注意したいのが「二次相続」です。一次相続(例えば、お父様が亡くなった時)で配偶者であるお母様が多くの財産を相続すると、そのお母様が亡くなった時の二次相続で、子供たちが支払う相続税が高額になる可能性があります。なぜなら、二次相続では配偶者がいないため「配偶者の税額軽減」が使えません。また、相続する財産が多ければ多いほど税負担も重くなるため、結果的に家族全体での納税額が増えてしまうことがあるのです。
受取人を「子供」にするメリット・デメリット
次に、受取人を子供にした場合を見ていきましょう。二次相続まで見据えた、賢い選択肢になるかもしれません。
メリット:二次相続の負担を軽減できる
子供を受取人にすると、その保険金は配偶者の財産にはなりません。つまり、一次相続の段階で財産を子供に移転できるため、将来の二次相続における課税対象財産をあらかじめ減らすことができます。これにより、ご家族全体で見たときのトータルの相続税を抑えられる可能性があります。
メリット:財産をスムーズに次の世代へ渡せる
生命保険金は受取人固有の財産とされ、遺産分割協議の対象外です。預貯金のように凍結されることもなく、他の相続人の同意も必要ありません。そのため、面倒な手続きなしに、指定した子供へ直接、現金を渡すことができます。相続税の納税資金や当面の生活費として、すぐに活用してもらえるのは大きなメリットです。
デメリット:一次相続での納税額が増える可能性
子供には「配偶者の税額軽減」のような大きな控除はありません。そのため、子供が受取人になると、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超えた部分に対して相続税がかかり、一次相続での納税額が配偶者受取の場合より高くなる可能性があります。全体の財産額や、誰にいくら納税資金が必要かを考えてバランスを取ることが重要です。
ケース別!最適な受取人の選び方
結局、誰を受取人にするのが一番良いのでしょうか。これは、ご家庭の状況によって最適解が異なります。いくつかの代表的なケースを考えてみましょう。
配偶者の生活資金を最優先したい場合
ご自身が亡くなった後、残された配偶者の生活が一番心配だという場合は、受取人を「配偶者」にするのが良いでしょう。「配偶者の税額軽減」により、多くの場合、非課税でまとまった生活資金を確保できます。
相続税の総額を抑えたい場合
二次相続まで見据えて、家族全体での税負担をできるだけ軽くしたいとお考えの場合は、受取人を「子供」にすることを検討しましょう。一次相続の段階で財産を子供へ移転させておくことで、結果的に大きな節税につながる可能性があります。
納税資金を準備したい場合
相続財産に不動産が多く、相続税を支払うための現金が少ないと予想される場合は、納税義務が発生する人(例えば子供)を受取人にしておくと安心です。保険金でスムーズに納税することができます。
受取人を複数にするという選択肢
受取人は一人に限定する必要はありません。例えば「配偶者に1,000万円、子供にそれぞれ500万円」のように、複数の人を割合や金額を指定して受取人にすることも可能です。それぞれの状況に合わせて柔軟に設定することで、よりご自身の想いに沿った形で財産を残すことができます。
まとめ
生命保険の受取人を誰にするかによって、相続税の負担は大きく変わる可能性があります。それぞれのメリット・デメリットをしっかり理解することが大切です。
| 配偶者を受取人にする場合 | 一次相続の税負担は軽くなりますが、二次相続で子供の負担が増える可能性があります。 |
| 子供を受取人にする場合 | 二次相続まで含めたトータルの税負担を軽減できる可能性がありますが、一次相続で納税が必要になる場合もあります。 |
どちらが良いかという問いに、唯一の正解はありません。ご自身の財産状況、家族構成、そして「誰に、何のために財産を残したいか」という想いによって最適な答えは変わります。生命保険は、遺産分割で揉めることなく、特定の人に現金を残せる非常に有効な手段です。今回の記事を参考に、ぜひ一度、ご自身の保険契約を見直し、ご家族にとって最適な受取人を検討してみてください。もし判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
生命保険の受取人と相続税に関するよくある質問まとめ
Q.生命保険の受取人は、配偶者と子供、どちらにするのが相続税対策として有利ですか?
A.一概にどちらが有利とは言えません。一次相続(最初の相続)の税負担を軽くしたいなら配偶者、二次相続(次の相続)まで含めたトータルの税負担を考えれば子供が有利になる傾向があります。ご家庭の資産状況や方針によって最適な選択は異なります。
Q.生命保険の相続税の非課税枠について教えてください。
A.死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」で計算される非課税枠があります。この非課税枠は、配偶者や子供など法定相続人が保険金を受け取った場合にのみ適用されます。
Q.受取人を配偶者に設定するメリットは何ですか?
A.配偶者の当面の生活資金を確実に確保できる点が最大のメリットです。また、「配偶者の税額軽減」という制度を利用すれば、一次相続での相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
Q.受取人を子供に設定するメリットは何ですか?
A.親から子へ直接資産を渡せるため、二次相続の対象となる財産を減らすことができます。これにより、家族全体で見たときのトータルの相続税を節税できる可能性があります。また、遺産分割協議を待たずに子供がすぐに現金を受け取れるメリットもあります。
Q.「二次相続」を考えると子供が受取人の方が有利なのはなぜですか?
A.配偶者が保険金を受け取ると、その財産はその配偶者が亡くなった時(二次相続)に再び相続税の課税対象になります。最初から子供が受け取っていれば、この二次相続の課税を一度回避できるため、結果的に税負担が軽くなることがあります。
Q.生命保険金は遺産分割の対象になりますか?
A.指定された受取人が受け取る生命保険金は、受取人固有の財産とみなされるため、原則として遺産分割の対象にはなりません。そのため、特定の人に確実に財産を遺したい場合に有効な手段です。