ご家族から相続した土地が「市街化調整区域内の雑種地」だった場合、その評価はとても複雑で、専門家でも頭を悩ませる分野です。特に評価額を大きく左右するのが「しんしゃく割合」という考え方です。この割合を正しく適用できるかどうかで、相続税額が数百万円変わることも珍しくありません。この記事では、少し難しい市街化調整区域内の雑種地の評価について、しんしゃく割合を中心に、できるだけ分かりやすく解説していきますね。
市街化調整区域の雑種地評価の基本
まず、市街化調整区域内の雑種地の評価がなぜ特別なのか、基本的なところからお話しします。市街化調整区域とは、簡単に言うと「むやみに建物を建てたり市街地化を進めたりしないようにしましょう」と定められたエリアのことです。そのため、土地の利用に厳しい制限がかかっており、同じ雑種地でも市街化区域にあるものとは価値が大きく異なります。この「利用の制限」を評価額に反映させるのが「しんしゃく割合」なのです。
国税庁が示す評価の考え方
国税庁は、市街化調整区域にある雑種地の評価について、その土地の周りの状況に応じて評価方法を判定する指針を出しています。評価方法は大きく分けて、周りの農地や山林に値段を合わせる方法と、周りの宅地に値段を合わせる方法があります。しんしゃく割合が関係してくるのは、後者の「宅地比準方式」で評価する場合です。
| 評価方法 | 概 要 |
| 農地・山林・原野比準方式 | 土地の周囲が田畑や山林である場合に用いる方法です。この方法では、しんしゃく割合は使いません。 |
| 宅地比準方式 | 土地の周囲に住宅があったり、幹線道路沿いであったりする場合に用いる方法です。宅地としての価値を基準にしますが、建築制限などを考慮して評価額を減額します。この減額で使うのが「しんしゃく割合」です。 |
「しんしゃく割合」とは?
しんしゃく割合とは、市街化調整区域であるがゆえの建築制限などを考慮して、宅地と比べた価値の低さを割合で示すものです。国税庁の指針では、この割合が50%、30%、0%の3段階に分けられています。どの割合を適用するかは、その土地にどの程度の建築が許可されるかによって決まります。
| しんしゃく割合 | 土地の状況 |
| 50% | 原則として、建物の建築が一切できない土地 |
| 30% | 建物の建築はできるが、用途や規模に制限がある土地 |
| 0% | 原則として建築に制限がなく、宅地とほぼ同じように扱える土地 |
それでは、それぞれの割合がどのような場合に適用されるのか、具体的に見ていきましょう。
しんしゃく割合50%:建物が建てられない土地
しんしゃく割合50%は、「その土地には、原則として建物を建てることができません」という場合に適用されます。市街化調整区域の土地は、もともと建物を建てることを抑制されているエリアなので、このケースに該当することは少なくありません。
50%と判断するポイント
具体的には、後ほど説明する「しんしゃく割合30%」や「しんしゃく割合0%」の条件に当てはまらない土地が、この50%減の対象となります。都市計画法という法律で定められた開発許可の基準をどれも満たせない土地、と考えると分かりやすいかもしれません。駐車場や資材置き場としてしか利用できず、将来的に建物が建つ見込みがほとんどない土地がこれにあたります。
注意点:他の減価要因との重複適用
ひとつ注意点があります。しんしゃく割合50%は「建築ができない」ことによる減価です。そのため、例えば無道路地(建築基準法の道路に接していない土地)のように、同じく建築ができないことを理由とする別の評価減と重複して適用することはできません。二重に減額することになってしまうからです。
しんしゃく割合30%:建物は建てられるが制限がある土地
しんしゃく割合30%は、「建物を建てることはできるけれど、誰でもどんな建物でも建てられるわけではない」という、条件付きで建築が許可される場合に適用されます。
対象となる開発許可基準(都市計画法第34条)
市街化調整区域で建物を建てるには、都市計画法第34条に定められた1号から14号までのいずれかの基準を満たす必要があります。このうち、しんしゃく割合30%の対象となるのは、主に以下の基準に該当する土地です。
- 1号:地域住民のための小規模な店舗や診療所など
- 9号:ガソリンスタンドやコンビニなどの沿道サービス施設
- 12号:自治体の条例で定められた特定の建築物(例:分家住宅など)
- 13号:市街化調整区域に指定される前から土地を持っていた人のための自己用住宅など
これらの基準は、建てられる建物の種類(用途)や規模が限定されています。だからこそ、「宅地と同じ価値」とは言えず、30%の減額が認められているのです。
具体例1:1号(公益上必要な建築物など)
例えば、1号基準では「周辺住民の日常生活に必要な物品の販売を行う小規模店舗」などの建築が認められる場合があります。しかし、これには「既存集落から50m以内」「敷地面積500㎡以下」といった細かい要件があります。評価対象の土地がこれらの要件を満たしていなければ、1号基準での建築はできないことになります。
具体例2:9号(道路管理施設など)
9号基準は、幹線道路沿いの土地に関係します。ガソリンスタンドやドライブインなどが対象ですが、これも「高速自動車国道」や「4車線以上の県道」など、特定の道路に面している必要があります。もし評価対象地が普通の市道にしか面していなければ、この基準を満たすことはできません。
しんしゃく割合0%:宅地とほぼ同じように扱われる土地
しんしゃく割合0%は、市街化調整区域内でありながら、建築に関する制限がほとんどなく、宅地と同じように開発や売買ができる場合に適用されます。つまり、評価額の減額は行われません。
対象となる開発許可基準(都市計画法第34条)
しんしゃく割合が0%となる可能性があるのは、主に都市計画法第34条の10号と11号の基準を満たす土地です。これらの基準に該当するエリアは、宅地分譲のような開発も可能なため、市街化区域の宅地と価値が変わらないと判断されます。
10号(地区計画又は集落地区計画区域内の開発行為)
自治体が「地区計画」などを定めているエリアが対象です。計画に沿ったものであれば、比較的自由に開発行為が認められます。お持ちの土地がこの区域内にあるかどうかは、役所の都市計画課などで確認できます。
11号(条例指定区域内の開発行為)
11号は少し複雑ですが、「市街化区域に隣接・近接していて、すでに50戸以上の建物が連なっている地域」などで、都道府県が条例で指定した区域が対象です。「条例指定区域」とも呼ばれます。この区域内では、一定の要件を満たせば住宅などの建築が可能です。ただし、すべての自治体がこの条例を定めているわけではないので、確認が必要です。
しんしゃく割合の判断フローと注意点
ここまで解説してきた内容を、判断の流れとしてまとめてみましょう。
| ステップ | 確認事項 |
| Step1 | 評価対象地は宅地比準方式で評価するか?(周囲に宅地や幹線道路があるか)→Noなら農地等比準となり、しんしゃく割合は関係なし。 |
| Step2 | 都市計画法第34条の10号や11号に該当するか?(地区計画や条例指定区域か)→Yesならしんしゃく割合0%の可能性が高い。 |
| Step3 | 1号や9号など、その他の開発許可基準に該当するか?(特定の建物なら建築可能か)→Yesならしんしゃく割合30%の可能性が高い。 |
| Step4 | 上記のいずれにも該当しないか?(建物の建築が実質的に不可能か)→Yesならしんしゃく割合50%の可能性が高い。 |
役所での確認が不可欠です
しんしゃく割合を正確に判断するためには、必ず土地のある市町村役場の都市計画担当課などで確認を行う必要があります。電話や窓口で土地の地番を伝え、「この土地は都市計画法第34条の何号の許可基準に該当する可能性がありますか?」「条例指定区域(11号区域)に含まれますか?」といった質問をすることで、判断の根拠となる情報を得ることができます。
あくまで原則的な考え方です
この記事で解説した内容は、国税庁が示す原則的な取り扱いです。例えば、形式的には30%減が適用できそうな土地でも、周辺で宅地並みの価格で取引されている実態があれば、税務署から0%と判断される可能性もあります。最終的には個別の土地の状況に応じた判断が必要になる、非常に専門的な分野なのです。
まとめ
市街化調整区域内の雑種地の評価は、「しんしゃく割合」を正しく見極めることが非常に重要です。建物の建築が全くできないなら50%、用途などに制限があるなら30%、宅地と変わらないなら0%と、評価額が大きく変動します。この判断には、都市計画法などの専門知識と、役所での詳細な調査が欠かせません。もしご自身の土地の評価で不安な点があれば、相続税に詳しい税理士などの専門家にご相談されることを強くおすすめします。適正な評価を行うことで、払い過ぎの相続税を防ぐことにつながりますよ。
参考文献
市街化調整区域の雑種地評価「しんしゃく割合」のよくある質問まとめ
Q.そもそも「しんしゃく割合」って何ですか?
A.市街化調整区域内の土地は、建築制限などがあるため利用価値が低くなります。その利用価値の低さを土地の評価額から割り引く割合のことで、漢字では「斟酌割合」と書きます。
Q.市街化調整区域内の雑種地の評価額はどのように決まるのですか?
A.基本的には、その土地が宅地だとした場合の価額(宅地比準価額)を基準に計算します。そこから宅地造成費を差し引き、さらに「しんしゃく割合」による減額を考慮して評価額を決定します。
Q.しんしゃく割合は全国一律ですか?
A.いいえ、一律ではありません。しんしゃく割合は、土地の所在する地域や周辺の市街化の状況などを考慮して国税局ごとに定められています。一般的に30%から50%の範囲で設定されることが多いです。
Q.雑種地にしんしゃく割合が適用されないケースはありますか?
A.はい、あります。例えば、すでに駐車場や資材置き場として利用されているなど、宅地と同程度の利用価値があると認められる土地の場合は、しんしゃく割合が適用されず、減額されないことがあります。
Q.自分の土地のしんしゃく割合を知るにはどうすればいいですか?
A.国税庁のウェブサイトで公開されている財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)で確認できます。不明な場合は、管轄の税務署や専門家に相談することをおすすめします。
Q.なぜ市街化調整区域の雑種地は評価が複雑なのですか?
A.市街化を抑制する区域であるため、建物の建築が原則としてできず利用上の制限が大きいからです。そのため、個別の土地の状況に応じて、造成費や利用制限の度合い(しんしゃく割合)を考慮する必要があるため複雑になります。