広い土地を相続したとき、相続税の負担が心配になりますよね。そんなときに頼りになるのが、土地の評価額を大きく下げられる可能性がある「地積規模の大きな宅地の評価」という制度です。でも、実は「広い土地だから絶対に使える」というわけではないんです。特定の条件に当てはまると、このお得な制度が使えなくなってしまうケースがあります。この記事では、そんな「地積規模の大きな宅地の評価」が使えない具体的なケースについて、わかりやすく解説していきます。ご自身の土地が当てはまらないか、ぜひチェックしてみてくださいね。
「地積規模の大きな宅地の評価」とは?
まずは、この制度がどんなものか簡単におさらいしましょう。「地積規模の大きな宅地の評価」とは、平成30年から始まった制度で、一定の面積を超える広い土地の相続税評価額を減額できる仕組みのことです。なぜ評価額が下がるかというと、広い土地を戸建て住宅地として開発・分譲する場合、道路や公園などを作らなければならず、宅地として使えない部分(潰れ地)が生まれることや、造成費用がかかることなどを考慮してくれるからなんです。この評価減を適用することで、相続税を大きく節税できる可能性があります。
基本的な適用要件
この制度を使うには、まず基本的な面積要件と地区要件をクリアしている必要があります。これが大前提となりますので、覚えておいてくださいね。
| 要件の種類 | 内 容 |
| 面積要件 | 三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏の一部)なら500㎡以上、それ以外の地域なら1,000㎡以上であること。 |
| 地区要件 | 路線価地域の場合、「普通商業・併用住宅地区」または「普通住宅地区」に所在していること。(倍率地域の場合は、大規模工場用地でなければOKです) |
これらの基本要件を満たした上で、これからご説明する「使えないケース」に当てはまらないことが重要になります。
【重要】地積規模の大きな宅地の評価が使えない4つの除外ケース
では、いよいよ本題です。たとえ面積が500㎡や1,000㎡以上あっても、以下の4つのケースに当てはまる土地は「地積規模の大きな宅地の評価」の対象外となってしまいます。一つずつ見ていきましょう。
ケース1:市街化調整区域にある土地
「市街化調整区域」にある土地は、原則としてこの評価減を使えません。市街化調整区域とは、都市計画法によって「市街化を抑制すべき区域」、つまり、むやみに建物を建てたり開発したりしないようにしましょう、と定められているエリアのことです。この制度は戸建て住宅地として分譲することを前提に評価額を減額するものなので、そもそも開発が制限されている市街化調整区域では、その前提が成り立たない、というわけですね。ただし、例外的に自治体の条例などで宅地分譲の開発行為が許可されている区域であれば、適用できる可能性もあります。
ケース2:工業専用地域にある土地
次に、「工業専用地域」に指定されている土地も対象外です。工業専用地域は、その名の通り、工場の利便性を高めるためのエリアです。環境悪化を防ぐため、住宅や店舗、学校などを建てることが原則として禁止されています。ここでも、戸建て住宅を建てることが想定できないため、「地積規模の大きな宅地の評価」は使えない、ということになります。
ケース3:指定容積率が高すぎる土地
土地の「指定容積率」が高すぎる場合も、この制度は適用できません。容積率とは、敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合のことです。この指定容積率が400%以上(東京23区内では300%以上)の地域にある土地は対象外となります。なぜなら、容積率が高い地域は、戸建て住宅よりも高層マンションなどを建てる方が土地を有効活用できると判断されるからです。マンション開発が一般的な地域では、戸建て分譲を前提とした評価減は馴染まない、という考え方に基づいています。
ケース4:大規模工場用地に該当する土地
最後に、財産評価基本通達で定められている「大規模工場用地」に該当する土地も対象外です。大規模工場用地には、それ専用の別の評価方法が定められています。そのため、「地積規模の大きな宅地の評価」と二重で評価減を適用することはできず、こちらの制度は使えないことになっています。
適用できる?できない?判断に迷うポイント
ご自身の土地が適用対象になるか、判断に迷うケースもありますよね。ここでは、よくある疑問点について解説します。
遺産分割で土地が小さくなったら?
例えば、相続前は800㎡あった土地を、相続人2人で400㎡ずつに分割して相続したとします。この場合、面積要件は分割後の400㎡で判断します。三大都市圏にあったとしても、500㎡に満たないため、「地積規模の大きな宅地の評価」は使えなくなってしまいます。遺産分割の方法によっては、節税のチャンスを逃してしまう可能性があるので注意が必要です。
土地を共有で相続した場合は?
先ほどの例で、800㎡の土地を分割せず、2人で2分の1ずつの共有名義で相続した場合はどうでしょうか。この場合は、個人の持分面積(400㎡)ではなく、土地全体の面積である800㎡で面積要件を判断します。そのため、要件を満たし、「地積規模の大きな宅地の評価」を適用することができます。評価額全体を計算した後に、それぞれの持分で按分することになります。
併用でさらに節税!小規模宅地等の特例
もし「地積規模の大きな宅地の評価」を使えた場合、さらに評価額を下げられる「小規模宅地等の特例」という強力な制度と併用できる可能性があります。これは、亡くなった方が住んでいた土地や事業をしていた土地などについて、一定の面積までの評価額を最大80%も減額できる制度です。「地積規模の大きな宅地の評価」でまず評価額を下げ、その金額からさらに小規模宅地等の特例で減額できるので、併用できれば非常に大きな節税効果が期待できます。ただし、適用要件は複雑ですので、こちらも専門家への相談がおすすめです。
まとめ
今回は、相続税の節税に役立つ「地積規模の大きな宅地の評価」が、どのようなケースで使えなくなってしまうのかを解説しました。
ポイントをまとめると、以下の4つのいずれかに該当する土地は、たとえ面積が広くても適用対象外となります。
- 市街化調整区域にある(一部例外あり)
- 工業専用地域にある
- 指定容積率が400%(東京23区は300%)以上である
- 大規模工場用地である
広い土地を相続する予定がある方は、ただ面積が大きいというだけでなく、その土地がどの地域にあって、どのような規制があるのかを事前に確認しておくことがとても大切です。ご自身での判断が難しい場合や、相続税について不安な点がある場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に一度相談してみることをお勧めします。
参考文献
国税庁 「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート
地積規模の大きな宅地の評価が使えないケースのよくある質問まとめ
Q.どんな土地だと「地積規模の大きな宅地の評価」が使えないのですか?
A.三大都市圏で500㎡、それ以外の地域で1,000㎡の面積要件を満たしても、市街化調整区域内の土地、工業専用地域に指定された土地、容積率が300%(三大都市圏は500%)以上の土地などは適用対象外となります。
Q.市街化調整区域にある広い土地は、この特例の対象になりますか?
A.原則として対象外です。市街化調整区域は宅地造成が制限されているため、戸建分譲を想定したこの評価減は適用できません。
Q.商業地域にある土地でも適用できますか?
A.適用できない可能性が高いです。商業地域の多くは容積率が300%(三大都市圏は500%)を超えるため、適用要件から外れます。お持ちの土地の容積率をご確認ください。
Q.路線価が設定されていない地域(倍率地域)の土地はどうなりますか?
A.路線価地域にある宅地が対象のため、固定資産税評価額に倍率を掛けて評価する「倍率地域」の土地は、この評価減の対象外となります。
Q.土地の面積が広くても、マンションが建っている場合は適用できますか?
A.適用できません。マンション用地や大規模な工場用地など、その土地の最も有効な利用方法が戸建分譲以外であると判断される場合は対象外です。
Q.相続開始の直前に土地を分筆して面積要件を満たそうとするのは問題ありますか?
A.租税回避行為とみなされ、特例の適用が否認される可能性があります。特例の適用を目的とした意図的な分筆は認められないケースがほとんどです。