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親契約・子被保険者の医療保険は相続財産?生命保険契約に関する権利を解説

2025-04-12
目次

親御様が亡くなられ、ご自身が被保険者となっている医療保険の契約が残っている場合、「これはどう扱えばいいの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。死亡保険金が支払われるわけではないので、相続とは関係ないように思えるかもしれません。しかし、実はその保険契約が「生命保険契約に関する権利」として、相続財産になるケースがあるのです。今回は、この少し複雑な「生命保険契約に関する権利」について、わかりやすく解説していきます。

「生命保険契約に関する権利」ってなあに?

まず、「生命保険契約に関する権利」という言葉自体、あまり聞きなれないですよね。これは、被相続人(亡くなった方)が保険料を負担していた生命保険契約で、相続が始まった時点ではまだ保険金が支払われるような事故(被保険者の死亡など)が起きていないものを指します。
具体的には、亡くなった方が生前に解約していれば受け取ることができたはずの「解約返戻金」などを受け取る権利のことです。この「権利」そのものが、お金と同じように財産的な価値を持つと考えられるため、相続財産として扱われるのです。

一般的な死亡保険との違い

一般的な死亡保険は、被保険者が亡くなることで、受取人に死亡保険金が支払われます。この死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
一方で、「生命保険契約に関する権利」は、亡くなったのは保険料を支払っていた契約者であり、被保険者はご存命です。そのため、死亡保険金は支払われません。代わりに、その保険契約自体が持つ財産的価値(主に解約返戻金)が相続の対象となる、という点が大きな違いです。

医療保険も対象になるの?

はい、医療保険も対象になります。ただし、すべての医療保険が相続財産になるわけではありません。ポイントは「解約返戻金があるかどうか」です。

保険の種類 相続財産としての扱い
貯蓄型(解約返戻金あり) 解約返戻金相当額が「生命保険契約に関する権利」として相続財産になります。
掛け捨て型(解約返戻金なし、またはごくわずか) 財産的な価値がないため、相続財産として評価されることは基本的にありません。

ご自身の保険がどちらのタイプかわからない場合は、保険証券を確認したり、保険会社に問い合わせてみましょう。

親が契約者の医療保険は相続財産になる?

今回のテーマである「亡くなった親が契約者(兼保険料負担者)で、子供が被保険者の医療保険」について、具体的に見ていきましょう。

結論:解約返戻金があれば相続財産になります

結論から言うと、その医療保険に解約返戻金がある場合、「生命保険契約に関する権利」として相続財産に含まれます。
親御様が亡くなられたことで、その保険契約を今後どうするか(継続する、解約するなど)を決める権利が、相続人であるあなたに移ります。この権利に財産的な価値があるため、相続財産として扱われるのです。

どのような相続財産として扱われる?

生命保険契約に関する権利は、契約内容によって「本来の相続財産」か「みなし相続財産」かに分かれます。今回のケースは、亡くなった親御様自身が契約者だったので、「本来の相続財産」として扱われます。これは、預貯金や不動産などと同じ扱いで、遺産分割協議の対象となります。

相続税の対象になる?評価額の計算方法

相続財産になるということは、相続税の課税対象になる可能性があります。では、どのように評価されるのでしょうか。

評価額は「相続開始時点の解約返戻金相当額」

「生命保険契約に関する権利」の評価額は、相続開始日(親御様が亡くなった日)に、その保険契約を解約したと仮定した場合に支払われる解約返戻金の額となります。これを「解約返戻金相当額」といいます。
もし、解約返戻金の他に、配当金(剰余金)や前払いしていた保険料(前納保険料)があれば、それらも評価額に加算します。逆に、解約時に源泉徴収される所得税などがあれば、その金額は差し引かれます。

評価額 = 相続開始日の解約返戻金額 + 剰余金の分配額等 - 源泉徴収される所得税相当額

正確な評価額を知るためには、ご自身で計算するのは難しいので、保険会社に「相続開始日時点の解約返戻金相当額の証明書」を発行してもらうのが最も確実です。

「生命保険契約に関する権利」相続時の注意点

この権利を相続する際には、いくつか知っておきたい重要な注意点があります。

死亡保険金の非課税枠は使えない

相続税には、死亡保険金に対して「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。しかし、「生命保険契約に関する権利」は死亡保険金ではないため、この非課税枠を適用することはできません。評価額がそのまま相続財産の総額に加算されるため、注意が必要です。

遺産分割協議の対象になる

前述のとおり、今回のケースは「本来の相続財産」にあたるため、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がその保険契約を引き継ぐのかを決める必要があります。特定の相続人が引き継ぐ場合は、遺産分割協議書にもその旨を記載しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。

相続放棄をすれば権利も承継しない

もし、亡くなった親御様に借金が多く、相続放棄を選択した場合、この「生命保険契約に関する権利」も承継することはありません。プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄することになるため、保険契約を引き継ぐことはできなくなります。

相続後の手続きはどうする?

無事に誰が保険契約を引き継ぐか決まったら、必要な手続きを進めましょう。

保険会社への名義変更手続き

まず、保険契約の契約者を亡くなった親御様から、権利を相続したご自身の名義に変更する手続きが必要です。これを「契約者変更」といいます。保険会社所定の書類に加えて、一般的には以下のような書類の提出を求められます。

  • 保険証券
  • 亡くなった方の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
  • 相続人であることがわかる戸籍謄本
  • 遺産分割協議書の写し(または相続人全員の同意書)
  • 新しい契約者の本人確認書類・印鑑証明書

必要書類は保険会社によって異なるため、事前にコールセンターなどで確認しましょう。

相続税申告書への記載

「生命保険契約に関する権利」を含む相続財産の総額が、基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合は、相続税の申告が必要です。
その際は、相続税申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」に、財産の種類を「生命保険契約に関する権利」として記載します。死亡保険金を記載する第9表ではないので、間違えないようにしましょう。

まとめ

最後に、今回のポイントをまとめておきましょう。

  • 親が契約者、子が被保険者の医療保険は、解約返戻金があれば「生命保険契約に関する権利」として相続財産になる。
  • 掛け捨て型の保険は、財産価値がないため基本的に対象外。
  • 評価額は、親が亡くなった時点での「解約返戻金相当額」
  • 死亡保険金ではないため、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠は使えない。
  • 「本来の相続財産」として、遺産分割協議の対象となる。
  • 相続後は、保険会社での名義変更手続きと、必要に応じて相続税の申告が必要。

一見すると相続財産に見えないため、申告漏れが起きやすい財産の一つです。心当たりがある方は、まずは保険会社に解約返戻金の有無や金額を確認することから始めてみてくださいね。

参考文献

国税庁 No.4660 生命保険契約に関する権利の評価

親が契約者の医療保険の相続に関するよくある質問まとめ

Q.亡くなった親が契約者で、子供が被保険者の医療保険は相続財産になりますか?

A.はい、相続財産になります。これは「生命保険契約に関する権利」と呼ばれ、相続税の課税対象となります。

Q.「生命保険契約に関する権利」とは具体的に何ですか?

A.亡くなった契約者が持っていた、保険契約を解約して解約返戻金を受け取ったり、契約内容を変更したりする権利のことです。この権利が相続財産とみなされます。

Q.相続財産として、いくらで評価されるのですか?

A.親が亡くなった時点での「解約返戻金」の額で評価されます。保険会社に問い合わせることで、正確な金額を確認できます。

Q.掛け捨て型の医療保険で解約返戻金がない場合も相続財産になりますか?

A.解約返戻金がない、またはごくわずかな掛け捨て型の保険の場合、財産的価値はほぼないため、相続財産として評価されることは通常ありません。

Q.親が亡くなった後、この医療保険はどうすればよいですか?

A.相続人の誰かが契約を引き継ぐ(契約者変更する)か、解約するかを選択します。保険を継続する場合は、速やかに保険会社で契約者変更の手続きを行ってください。

Q.この医療保険に相続税はかかりますか?

A.解約返戻金の額が相続財産として加算されるため、遺産総額が基礎控除額を超える場合は相続税の課税対象となります。ただし、死亡保険金とは異なり、生命保険の非課税枠は適用されません。

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