税理士法人プライムパートナーズ

夫から妻へのプレゼント、相続財産はどっち?貴金属や絵画の扱いを解説

2025-04-14
目次

ご夫婦の間では、財産の管理が一緒になっていることも多く、「これは夫のもの、これは妻のもの」と明確に区別する機会は少ないかもしれませんね。特に、夫から妻へプレゼントされた指輪やネックレス、家に飾ってある絵画などは、いざ相続となったときに「これは誰の財産?」と問題になることがあります。相続財産が誰に帰属するかによって、相続税の金額も変わってくる大切な問題です。この記事では、夫婦間のプレゼントや資産が、どちらの相続財産になるのかを分かりやすく解説していきます。

夫婦間の財産における相続の基本ルール

相続の世界では、たとえ夫婦であっても財産はそれぞれ個人のものとして扱われるのが基本です。普段の生活では「夫婦のお金」という感覚でも、税務上は「誰のお金で買ったのか」「誰の名義になっているか」という事実がとても重要になります。まずは、その基本ルールから見ていきましょう。

名義預金と相続財産

例えば、妻名義の預金口座があったとします。しかし、その口座に入っているお金の出どころが、すべて夫の給料からだった場合、それは「名義預金」と判断される可能性が高いです。名義預金とは、口座の名義人と実質的な所有者が異なる預金のことで、この場合は実質的な所有者である夫の相続財産として扱われます。たとえ妻の名前の通帳でも、資金の源泉が夫であれば、相続税の課税対象になるので注意が必要ですね。

夫婦の共有財産と特有財産

夫婦の財産には、大きく分けて「共有財産」と「特有財産」があります。これは離婚時の財産分与でよく聞く言葉ですが、相続においても考え方の基本は似ています。

共有財産 婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産のことです。例えば、夫婦共同の貯金や、そのお金で購入した不動産などが該当します。
特有財産 夫婦の一方が婚姻前から持っていた財産や、親などから相続・贈与によって得た財産のことです。これは、夫婦の協力とは関係なく得た財産なので、その人の固有の財産となります。

相続では、亡くなった方の「特有財産」と、「共有財産」のうち亡くなった方の貢献分が相続財産の対象となります。

夫から妻へのプレゼントは誰の財産?

誕生日や結婚記念日など、夫から妻へ貴金属などをプレゼントする機会は多いですよね。これが妻の財産になるのか、それとも夫の財産と見なされるのかは、「贈与」がきちんと成立しているかどうかで決まります。

贈与が成立するための要件

税務上、贈与が成立したと認められるには、いくつかのポイントがあります。口約束だけでは不十分な場合もあるので、しっかり確認しておきましょう。

具体的には、

  1. 財産を「あげる」という贈与者(夫)の意思表示
  2. 財産を「もらう」という受贈者(妻)の同意
  3. 実際に財産が相手に渡されていること

この3つが揃っていることが大切です。高額なプレゼントの場合は、後々のトラブルを防ぐためにも「贈与契約書」を作成しておくと、贈与の事実を証明する有力な証拠になりますよ。

貴金属や宝飾品の所有権

夫が妻に「これは君のものだよ」と言って指輪やネックレスを渡し、妻がそれを受け取って自分のものとして身に着けたり管理したりしていれば、それは贈与が成立しており、妻の固有財産となります。したがって、将来夫が亡くなったとしても、その貴金属は夫の相続財産には含まれません。ただし、その価値が年間110万円を超える場合は、贈与税の申告が必要になる可能性がありますので注意してくださいね。

「へそくり」は誰のもの?

専業主婦の妻が、夫から受け取る生活費を節約して貯めた、いわゆる「へそくり」はどうなるのでしょうか。これは多くの場合、夫の財産と判断されます。なぜなら、夫から妻へ渡される生活費は、扶養義務の範囲内で行われるものであり、「贈与」ではないからです。そのため、生活費の残りは、もともとの所有者である夫のお金ということになり、夫の相続財産に含まれる可能性が非常に高いのです。

家に飾ってある絵画や骨董品は誰の財産?

リビングに飾られた絵画や、来客用の部屋に置かれた骨董品。これらは夫婦共有の空間を彩るものですが、相続の際には所有者をはっきりさせる必要があります。判断のポイントは、やはり「誰がそのお金を出したか」です。

購入資金の出どころが最も重要

家に飾ってある絵画の所有者を判断する上で最も重要なのは、誰がその購入資金を支払ったかという点です。例えば、絵画の購入代金を夫が自身の給料や貯金から支払った場合、その絵画は夫の相続財産となります。たとえ、その絵を選ぶ際に妻の意見を尊重したとしても、資金の出どころが夫であれば、所有者は夫とみなされます。逆に、妻が自分のパート収入や独身時代からの貯金で購入したのであれば、それは妻の固有財産です。

夫婦の共有財産とみなされるケース

では、夫婦の共有口座からお金を出して絵画を購入した場合はどうなるのでしょうか。この場合、その絵画は夫婦の共有財産と考えるのが一般的です。夫の相続が発生した際には、その共有財産に対する夫の持ち分(貢献度に応じた割合)が、相続財産の対象となります。例えば、夫婦の収入割合が夫7:妻3であれば、絵画の価値の70%が夫の相続財産として計算される、といった具合です。

注意!贈与税がかかるケースとかからないケース

夫婦間の財産のやり取りは、日常生活の一部として行われることが多いですが、税金の観点からは「贈与」にあたる場合があります。贈与税のルールを知っておくことで、思わぬ課税を防ぐことができます。

年間110万円の基礎控除(暦年贈与)

贈与税には、1年間に110万円までなら税金がかからない「基礎控除」があります。これは、財産をもらった人(受贈者)一人ひとりに対する金額です。夫から妻へプレゼントされた貴金属の時価が110万円以下であれば、贈与税の申告も納税も必要ありません。ただし、同じ年に他の人(例えば妻の両親など)からも贈与を受けている場合は、それらを合計した金額が110万円を超えるかどうかで判断します。

生活費や教育費は原則非課税

国税庁は、「扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」については贈与税を課さないとしています。つまり、夫が妻に毎月渡す生活費や、子どもの学費などは、常識的な範囲内であれば贈与にはあたりません。しかし、生活費として受け取ったお金を元手に、妻が株式投資をしたり、生活に必要とはいえない高価なブランド品を購入したりした場合は、その分が贈与とみなされ、課税対象になることがあるので気をつけましょう。

婚姻20年以上の夫婦なら「おしどり贈与」も

少し話はそれますが、夫婦間の贈与には特別な制度もあります。それが「贈与税の配偶者控除」、通称「おしどり贈与」です。これは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、住んでいる家(居住用不動産)やその購入資金を贈与した場合に、基礎控除110万円とは別に、最高2,000万円まで贈与税がかからなくなるという特例です。貴金属や絵画は対象外ですが、大きな財産を非課税で配偶者に移せる制度として、知っておくと役立つかもしれませんね。

相続財産になるかどうかの判断ポイントまとめ

これまでの内容をまとめると、夫から妻へのプレゼントや家にある資産がどちらの相続財産になるかは、以下のポイントで判断されます。分かりやすく表にしてみました。

財産の種類 誰の相続財産になるか(判断基準)
夫から妻へのプレゼント(貴金属など) 贈与の事実(あげる・もらうの意思と実際の引き渡し)が明確であれば妻の財産。そうでなければ夫の財産とみなされる可能性があります。
家に飾ってある絵画・骨董品 購入資金を夫が出したなら夫の財産。妻が出したなら妻の財産。夫婦の共有資金からなら共有財産となります。
妻名義の預金(へそくり) 資金の源泉が夫の給与(生活費の残り)であれば、名義預金として原則夫の財産と判断されます。
夫婦の共有名義の不動産や預金 原則として夫婦の共有財産です。相続時には、亡くなった方の出資割合に応じた分が相続財産となります。

まとめ

夫から妻へのプレゼントや、家に置いてある絵画などがどちらの相続財産になるかは、「誰のお金で、誰のために取得したか」という実質的な所有者が誰であるかによって決まります。たとえ妻が使っている貴金属でも、それが贈与ではなく夫がいつでも取り戻せる状態であったり、妻名義の口座でも原資が夫であったりすれば、夫の相続財産とみなされます。

相続が発生してから「これは妻のものだと思っていたのに…」と慌てないためにも、生前のうちから財産の帰属を明確にしておくことが大切です。高価なものをプレゼントする際には贈与契約書を作成するなど、将来の相続に備えて準備しておくと安心ですね。

参考文献

夫婦間の財産と相続のよくある質問まとめ

Q.夫からプレゼントされた結婚指輪やネックレスは、夫の相続財産になりますか?

A.いいえ、なりません。夫婦間でのプレゼント(贈与)が明確に成立していれば、それは妻の固有財産となり、夫の相続財産には含まれません。客観的に贈与と認められることが重要です。

Q.夫が購入して家に飾ってあった絵画は、誰の相続財産になりますか?

A.基本的に、夫のお金で購入したものであれば夫の相続財産となります。たとえ妻が気に入って飾っていたとしても、所有権は購入者である夫にあるとみなされるのが一般的です。

Q.夫からもらった生活費をやりくりして貯めた妻名義の預金(へそくり)は、相続財産ですか?

A.夫の収入から得たお金が原資である場合、実質的に夫の財産(名義預金)とみなされ、夫の相続財産に含まれる可能性が高いです。贈与の事実が明確でない限り注意が必要です。

Q.夫が生前に「この宝石は君にあげる」と言って渡してくれたものは、妻のものになりますか?

A.はい、口約束でも贈与は成立するため、妻の固有財産となります。ただし、他の相続人と争いになる可能性も考え、贈与契約書など客観的な証拠があるとより安心です。

Q.妻への高額なプレゼントが「相続税対策」と見なされることはありますか?

A.社会通念上相当と認められる範囲を超える高額なプレゼントは、相続税対策のための贈与と判断される可能性があります。年間110万円を超える贈与には贈与税がかかる点にも注意しましょう。

Q.夫の相続財産か妻の固有財産かでもめた場合、どうすればいいですか?

A.まずは相続人間で、購入資金の出所や贈与の意思の有無などを客観的な証拠に基づいて話し合います。当事者間での解決が難しい場合は、専門家へ相談することをおすすめします。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。