親御さんと同居するために、親名義の実家を二世帯住宅に増築したり、バリアフリーにリフォームしたりするケースは多いですよね。でも、その増築費用を子供が負担した場合、税金の取り扱いはどうなるのでしょうか?特に、将来の相続を考えたとき、「これって相続財産はどう評価されるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。知らずに進めると、思わぬ贈与税がかかったり、相続税で損をしたりする可能性も…。この記事では、親名義の建物に子供が増築した際の税務上の注意点や、相続税申告での正しい取り扱いについて、わかりやすく解説していきます。
親名義の建物に子供が増築したときに起こる税金の問題
子供の資金で親名義の建物を増築すると、税金の世界ではいくつかの問題が起こる可能性があります。良かれと思ってしたことが、後から「こんなはずでは…」とならないように、まずはどんな問題があるのかを知っておきましょう。
原則は「親への贈与」とみなされる
法律上、建物に増築した部分は、もとの建物の所有者である親のものとなります(これを民法で「附合(ふごう)」といいます)。そのため、子供が負担した増築費用は、「子供から親へのお金の贈与」とみなされてしまうのです。
もし贈与とみなされると、親に贈与税がかかる可能性があります。例えば、子供が1,000万円の費用を負担して増築した場合、贈与税は次のようになります。
(1,000万円 - 基礎控除110万円)× 税率40% - 控除額125万円 = 231万円
このように、何もしなければ高額な贈与税が発生してしまうケースがあるのです。
相続発生時の建物の評価はどうなる?
将来、親が亡くなって相続が発生したとき、相続税の対象となるのは「増築後の建物全体」です。相続税評価額は、原則として固定資産税評価額で計算されます。子供が増築費用を出したという事実は、この評価額の計算には直接影響しません。
つまり、親名義のまま増築すると、増築によって価値が上がった建物全体が、そのまま親の相続財産としてカウントされてしまうのです。
子供の増築費用は相続財産から引ける?
「子供が出したお金なのだから、相続財産からその分を差し引けるのでは?」と思うかもしれません。しかし、子供が負担した増築費用は、親が誰かに返済すべき「債務」ではないため、相続税の計算上、債務として控除することはできません。
結果として、増築時に贈与税が課され、さらに相続時には増築で価値が上がった建物全体に相続税がかかるという、二重に負担を強いられるような状況になりかねないのです。
贈与税を回避するための生前対策
では、どうすれば思わぬ贈与税を避けることができるのでしょうか。事前にしっかり対策をすれば、税金の負担を大きく減らすことが可能です。ここでは代表的な3つの対策をご紹介します。
対策①:建物を「共有名義」にする
最も一般的で確実な方法が、増築後の建物を親子での「共有名義」にすることです。子供が負担した増築費用に見合う分だけ、建物の所有権(持分)を子供の名義で登記します。
持分割合は、増築前の建物の評価額と、子供が負担した増築費用に応じて計算します。
例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。
・増築前の建物の評価額:1,000万円(親)
・子供が負担した増築費用:1,500万円(子)
この場合、増築後の建物全体の価値は2,500万円と考え、それぞれの持分割合は以下のようになります。
- 親の持分:1,000万円 ÷ 2,500万円 = 5分の2
- 子供の持分:1,500万円 ÷ 2,500万円 = 5分の3
このように出資割合に応じた持分で登記すれば、子供から親への贈与はなかったことになり、贈与税はかかりません。
対策②:増築前に建物の名義を子供へ変更する
もし、親名義の建物が古く、評価額がかなり低くなっている場合には、増築前に建物の名義自体を親から子供へ移してしまう方法も有効です。建物を子供の名義にした後で、子供が自己資金で増築を行えば、すべて子供自身の財産への投資となるため、贈与税の問題は発生しません。
ただし、親から子へ建物を贈与する際に、建物の評価額に応じた贈与税や、名義変更のための登録免許税、不動産取得税がかかります。例えば、建物の固定資産税評価額が200万円であれば、贈与税は(200万円 – 110万円)× 10% = 9万円となり、比較的少ない負担で名義変更が可能です。
対策③:子供が親にお金を貸す(金銭消費貸借契約)
もう一つの方法として、増築費用を子供が親に「貸す」という形をとることも考えられます。この場合、親子間であってもきちんと「金銭消費貸借契約書」を作成することが非常に重要です。
契約書には、貸付額、返済期間、利息などを明記し、実際に契約内容に沿って返済を行う必要があります。返済の事実を証明するために、銀行振込などを利用して記録を残しておきましょう。もし返済途中で親が亡くなった場合、残っている借入金は親の「債務」として相続財産から控除でき、子供にとっては「債権」として相続財産になります。
共有名義にした場合の注意点
贈与税対策として有効な共有名義ですが、いくつか注意すべき点もあります。メリットだけでなく、デメリットも理解した上で進めることが大切です。
親から子への「譲渡所得税」が発生する可能性
建物を共有名義にする際、親が子供に持分を移転することは、税務上「子供が負担した増築費用を対価として、親が子供に建物の持分を売った(譲渡した)」とみなされます。このため、親に譲渡所得税が課される可能性があります。
ただし、譲渡所得は「売った金額(この場合は子供の増築費用相当額)」から「取得費(建物の購入費用から減価償却費を引いたもの)」を差し引いて計算します。古い建物の場合、取得費が売った金額を上回ることが多く、結果的に利益が出ずに譲渡所得税がかからないケースがほとんどです。
住宅ローン控除が使えないケース
子供が増築費用をローンで支払う場合、住宅ローン控除の適用を考えたいですよね。住宅ローン控除は、原則として「自己が所有し、居住する家屋」が対象です。そのため、親の単独名義のままでは、子供は住宅ローン控除を受けることができません。
しかし、建物を共有名義にしていれば、子供自身の持分に対応する部分のローン残高については、住宅ローン控除の対象となります。ローンを組んで増築するなら、共有名義にすることは必須と言えるでしょう。
不動産取得税や登録免許税がかかる
建物を共有名義にするためには、法務局で所有権の持分移転登記が必要です。この登記手続きには、登録免許税という税金がかかります。また、自治体によっては不動産取得税が課される場合もあります。これらの費用も事前に確認しておきましょう。
相続発生!相続税申告での取り扱い
実際にご両親のどちらかが亡くなり、相続が開始された場合、増築した建物の相続税申告はどうなるのでしょうか。生前の対策によって評価方法が大きく変わってきます。
共有名義の場合の評価方法
建物が親子共有名義になっている場合、相続財産として計上するのは「親が所有していた持分」のみです。建物全体の評価額に、親の持分割合を掛けて相続財産価額を計算します。
| 計算式 | 建物全体の固定資産税評価額 × 親の持分割合 |
| 具体例 | 建物全体の評価額が2,000万円、親の持分が5分の2の場合、相続財産は 2,000万円 × 2/5 = 800万円 となります。 |
子供が負担した部分はもともと子供の財産ですので、相続税の対象にはなりません。
親単独名義のままだった場合の評価方法
もし、生前対策を行わずに親の単独名義のままで相続を迎えた場合、増築後の建物全体が相続財産となります。このとき、子供が増築費用を負担したという事実は考慮されません。
ただし、増築時に贈与税の申告をしている場合、相続開始前7年以内(※2024年1月1日以降の贈与から段階的に延長)の贈与であれば、その贈与額は相続財産に加算されます(生前贈与加算)。この際、支払った贈与税額は相続税額から控除することができます。
小規模宅地等の特例は使える?
増築した自宅の敷地(土地)については、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」を適用でき、土地の評価額を最大80%減額できます。この特例は、相続税を大幅に軽減できる非常に重要な制度です。
子供が被相続人である親と同居していた場合、「特定居住用宅地等」として、330㎡を上限に80%の評価減が受けられる可能性があります。建物の名義が共有かどうかは、この特例の適用に直接影響しません。あくまで土地の評価に関する特例であり、被相続人と相続人の居住実態が重要になります。
ケース別シミュレーション
対策をした場合としなかった場合で、税金の取り扱いがどう変わるのか、簡単なモデルケースで比較してみましょう。
対策をしなかった場合(親の単独名義)
生前に贈与税の問題が発生し、相続時には建物全体が課税対象となります。
| タイミング | 課税される可能性のある税金 |
| 増築時 | 親に贈与税(子供が負担した増築費用に対して) |
| 相続時 | 子に相続税(増築後の建物全体が相続財産となる) |
対策をした場合(共有名義)
生前の贈与税を回避でき、相続時の課税対象も親の持分のみに限定できます。
| タイミング | 課税される可能性のある税金 |
| 増築時 | 贈与税は発生しない |
| 相続時 | 子に相続税(親の持分相当額のみが相続財産となる) |
まとめ
親名義の建物にお子さんが自己資金で増築する場合、何も対策をしないと「贈与税」と「相続税」の両方で思わぬ負担が生じる可能性があります。これを避けるためには、増築前に建物を共有名義にするなどの対策が非常に重要です。
どの対策がベストかは、建物の現在の評価額、増築にかかる費用、ご家族の状況などによって異なります。また、登記手続きや税金の計算には専門的な知識が必要です。後でトラブルにならないためにも、増築を計画する段階で、一度税理士などの専門家に相談することをおすすめします。ご家族でしっかり話し合い、将来を見据えた最適な方法を選びましょう。
参考文献
- 国税庁 No.4557 親名義の建物に子供が増築したとき
- 国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
- 国税庁 No.1216 増改築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
親名義の建物に子供が増築した際の相続税Q&Aまとめ
Q.親名義の建物に子供が費用を出して増築しました。この増築部分は相続財産になりますか?
A.増築部分は建物の所有者である親の財産として扱われます。ただし、子供が負担した増築費用は、相続時に親の債務として相続財産から差し引くか、子供の権利として評価し、相続税の課税対象から外すことができます。
Q.親の家に子供が増築した場合、相続税評価額はどうなりますか?
A.建物全体の固定資産税評価額を基に評価します。その上で、子供が負担した増築費用が建物全体の価値に占める割合を計算し、その分を親の相続財産から控除する形で評価額を算出するのが一般的です。
Q.子供が親の家の増築費用を出した場合、贈与税はかかりますか?
A.子供が親名義の建物の増築費用を負担すると、子供から親への贈与とみなされ、親に贈与税がかかる可能性があります。これを避けるには、親子間で金銭消費貸借契約書(借用書)を作成し、返済の実態を示す必要があります。
Q.増築費用を子供が負担したことを証明するには何が必要ですか?
A.相続税申告時には、増築時の工事請負契約書、費用の支払いを証明する領収書や振込明細、親子間の金銭消費貸借契約書など、子供が費用を負担したことを客観的に証明できる書類を準備しておくことが重要です。
Q.増築を機に建物を親子共有名義にした場合、相続税はどうなりますか?
A.増築時に子供の出資割合に応じて持分登記をし、共有名義にしておけば、相続時は親の持分のみが相続税の課税対象となります。これにより、相続財産を明確に分けることができます。
Q.親の家の増築で、将来の相続トラブルを避けるための対策はありますか?
A.対策として、①増築前に親子間で契約書(金銭消費貸借契約など)を交わす、②出資割合に応じて共有名義登記をする、③遺言書で増築部分の財産的価値の帰属先を明確にする、などの方法があります。事前に専門家に相談することをお勧めします。