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法定相続人に未成年がいる場合の手続きは?特別代理人と税金控除を解説

2025-05-02
目次

ご家族が亡くなり、相続人の中にもし未成年のお子さんがいらっしゃった場合、相続の手続きは通常とは少し違った注意が必要になります。特に、遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」は、未成年者がいるとそのまま進めることができません。「どうすればいいの?」と不安に思われるかもしれませんが、ご安心ください。この記事では、法定相続人に未成年者がいる場合の具体的な手続きの流れや、知っておくとお得な税金の控除について、分かりやすく解説していきます。

法定相続人に未成年がいる場合の基本

まず大切なことは、未成年者であっても、年齢に関係なく法定相続人として財産を相続する権利があるということです。赤ちゃんでも、まだ生まれる前の胎児(無事に生まれた場合)でも、きちんと相続人になります。ただし、相続の手続き、特に遺産分割協議を進める上では、いくつかの特別なルールがあります。

未成年者の法律行為と法定代理人

民法では、未成年者はまだ社会的な経験や判断能力が十分ではないと考えられているため、一人で契約などの重要な法律行為を有効に行うことができません。例えば、携帯電話の契約をするときに親の同意が必要になるのと同じですね。相続手続きの中心となる遺産分割協議も、この「法律行為」にあたります。そのため、未成年者が遺産分割協議に参加するには、親権者などの「法定代理人」が本人に代わって手続きを行う必要があります。

なぜ親が代理人になれないの?「利益相反」とは

「じゃあ、親である私が代理人になればいいのね」と思われるかもしれませんが、多くの場合、そう簡単にはいきません。なぜなら、親自身も相続人であることが多いからです。例えば、お父さんが亡くなり、相続人がお母さんと未成年の子どもだった場合を考えてみましょう。このとき、お母さんと子どもは、どちらも遺産を相続する当事者です。もしお母さんが子どもの代理人を兼ねてしまうと、お母さん自身の取り分を多くして、子どもの取り分を少なくするような、自分に都合の良い内容で遺産分割を決めてしまうことができてしまいます。このように、一方の利益が、もう一方の不利益につながる関係を「利益相反」と呼びます。子どもの権利を守るため、このような利益相反にあたる場合、親は子どもの代理人になることができないのです。

未成年者の年齢について

2022年4月1日に民法が改正され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。そのため、現在では18歳未満の方が「未成年者」として扱われます。この記事で解説する手続きは、相続が発生した時点で相続人が18歳未満である場合に必要となります。

特別代理人が必要になるケース・不要なケース

親が代理人になれない場合、代わりに未成年者の利益を守るために「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。では、どのような場合に特別代理人が必要で、どのような場合には不要なのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

特別代理人が【必要】なケース

特別代理人の選任が必須となるのは、主に親子の間で「利益相反」が生じる次のようなケースです。

ケース 具体例
親と未成年の子で遺産分割協議をする 最も一般的なケースです。例えば、父が亡くなり、母と未成年の子が相続人になる場合。母と子の利益が相反するため、子のために特別代理人が必要です。
未成年の子が複数いる 未成年の子が2人いる場合、子ども同士でも利益が相反します。そのため、未成年者一人ひとりに対して、それぞれ別の特別代理人を選任する必要があります。
未成年の子だけが相続放棄をする 親は相続し、未成年の子だけが相続放棄をする場合。これにより親の相続分が増えるため、利益相反となり特別代理人が必要です。

特別代理人が【不要】なケース

一方で、利益相反が生じないなど、特定の状況下では特別代理人の選任が不要になります。

ケース 具体例
遺言書通りに相続する 法的に有効な遺言書があり、その内容に従って遺産を分ける場合。遺産分割協議自体が不要なため、特別代理人は必要ありません。
親権者が相続人ではない 例えば、離婚した元配偶者が亡くなり、その子ども(未成年)が相続人になる場合。親権者であるもう一方の親は相続人ではないため、利益相反は生じず、そのまま法定代理人として手続きができます。
親権者と未成年の子全員が相続放棄する 借金が多いなどの理由で、親子そろって相続放棄をする場合。誰も財産を受け取らないため、利益相反は発生せず、親が子の代理人として手続きできます。
未成年者が成人するのを待つ お子さんがあと数ヶ月で18歳になる場合など、成人するのを待ってから遺産分割協議を行えば、本人が参加できるため特別代理人は不要です。ただし、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)には注意が必要です。

特別代理人は誰がなる?選任手続きの流れ

特別代理人が必要になった場合、どのような人がなれて、どうやって選任するのでしょうか。手続きは少し複雑に感じるかもしれませんが、一つずつ確認していきましょう。

特別代理人になれる人

特別代理人になるために、弁護士や司法書士といった特別な資格は必要ありません。相続に利害関係のない成人であれば、誰でも候補者になることができます。一般的には、未成年者の祖父母やおじ・おばといった親族にお願いするケースが多いです。ただし、候補者が見つからない場合や、財産の内容が複雑で親族には頼みづらいといった場合には、公平な立場で手続きを進めてくれる弁護士や司法書士などの専門家を候補者とすることが安心です。

特別代理人の選任手続き

特別代理人の選任は、家庭裁判所への申立てによって行います。手続きの概要は以下の通りです。

  • 申立先:未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 申立人:親権者や他の相続人などの利害関係人
  • 審理期間:申立てから選任まで、通常1ヶ月程度かかります。

申立てに必要な主な書類は次の通りです。

書類名 補足
特別代理人選任申立書 裁判所のウェブサイトから書式をダウンロードできます。
未成年者の戸籍謄本
親権者の戸籍謄本
特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
遺産分割協議書(案) どのような内容で遺産分割をする予定かを示す書類です。未成年者の法定相続分を確保した内容であることが基本です。
その他(遺産の資料など) 不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピーなど、遺産の内容がわかる資料が必要です。

手続きにかかる費用

家庭裁判所での手続き自体にかかる費用は、未成年者1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代(数百円~1,000円程度)です。ただし、戸籍謄本などの書類取得費用が別途かかります。また、特別代理人の候補者を弁護士や司法書士に依頼した場合は、その専門家への報酬が必要になります。

特別代理人が選任された後の遺産分割協議

家庭裁判所から無事に特別代理人選任の審判書が届いたら、いよいよ遺産分割協議を進めることができます。協議には、他の相続人と共に、未成年者の代理人として特別代理人が参加します。話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員と特別代理人が署名・押印をします。このとき、特別代理人は自身の印鑑証明書を添付します。この正式な遺産分割協議書を使って、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約といった具体的な相続手続きを進めていくことになります。

未成年者がいる場合に使える相続税の控除

相続財産の金額によっては相続税がかかる場合がありますが、相続人が未成年者の場合には、税金の負担を軽くしてくれる「未成年者控除」という制度を利用できます。これはぜひ知っておきたい大切なポイントです。

未成年者控除とは?

未成年者控除とは、法定相続人である未成年者が成人(18歳)になるまでの期間に応じて、相続税額から一定額を差し引くことができる制度です。未成年者はこれから教育費などがかかることを考慮した、税制上の優遇措置といえます。

未成年者控除の計算方法

控除額は、以下の計算式で算出します。とてもシンプルです。

(18歳 - 相続開始時の年齢) × 10万円

※年齢の計算では、1年未満の端数は切り上げて1年として計算します。

例えば、相続が始まったときにお子さんが10歳5ヶ月だった場合、年齢は11歳(端数切り上げ)として計算します。

(18歳 - 11歳) × 10万円 = 70万円

この場合、70万円が未成年者控除額となり、お子さんの相続税額から直接差し引くことができます。

控除しきれない場合はどうなる?

お子さんの相続税額が控除額よりも少ない場合、控除しきれない金額が出てくることがあります。例えば、相続税額が30万円で、未成年者控除額が70万円だった場合、40万円分が余ってしまいます。この余った金額は、無駄にはなりません。その未成年者の扶養義務者(例えば、親権者である親など)の相続税額から差し引くことができるのです。これはご家族全体で見たときに、大きな節税につながる可能性があります。

まとめ

法定相続人に未成年者がいる場合、通常とは異なる特別な配慮と手続きが必要です。特に、親と子も相続人となるケースでは、子どもの権利を守るために特別代理人を家庭裁判所で選任し、遺産分割協議を進めなければなりません。この手続きには1ヶ月程度の時間がかかるため、相続税の申告期限も見据えながら、早めに準備を始めることが大切です。また、税金面では未成年者控除という心強い制度がありますので、忘れずに適用しましょう。手続きが複雑で不安な点が多いと感じられたら、一人で抱え込まずに、弁護士や司法書士、税理士といった相続の専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.4164 未成年者の税額控除

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

裁判所 特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)の申立て

法定相続人に未成年がいる場合のよくある質問まとめ

Q.法定相続人に未成年者がいる場合、遺産分割協議はどうすればよいですか?

A.未成年者は遺産分割協議に直接参加できません。親権者が法定代理人となりますが、親権者も相続人である場合は利益が相反するため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらう必要があります。

Q.特別代理人とは何ですか?誰がなれますか?

A.特別代理人とは、親権者と子の利益が相反する場合に、子に代わって法的な手続きを行う人です。相続人以外のご親族や、司法書士・弁護士などの専門家が候補者となることが多いです。

Q.なぜ親権者が相続人だと「利益相反」になるのですか?

A.親権者が自身の相続分を多くすると、その分、子の相続分が少なくなってしまう可能性があるためです。親が子の利益を不当に害することを防ぐために、法律で利益相反と定められています。

Q.未成年者が相続放棄をしたい場合はどうすればよいですか?

A.未成年者本人は手続きできないため、親権者が法定代理人として家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。親権者も一緒に相続放棄する場合など、利益相反にあたらなければ特別代理人は不要です。

Q.特別代理人の選任はどこに申し立てるのですか?

A.未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。申立てには、収入印紙や郵便切手などの実費が必要です。

Q.遺言で未成年者に財産を遺す場合の注意点はありますか?

A.遺言で未成年後見人を指定したり、遺言執行者を指定したりしておくことで、相続手続きや財産管理をスムーズに進めることができます。

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