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相続放棄の手続きはどうすればいい?自分でできる方法を6ステップで解説

2025-05-04
目次

亡くなったご家族に借金が残っていたり、相続トラブルを避けたかったりする場合、「相続を放棄したい」と考えることがありますよね。でも、具体的にどんな手続きをすればいいのか、自分ひとりでできるのか、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。この記事では、相続放棄の手続きについて、誰にでも分かりやすく、具体的な流れや費用、注意点を詳しく解説していきます。このまま読み進めていただければ、相続放棄の全体像がきっとつかめるはずですよ。

そもそも相続放棄ってどんな制度?

まずは、相続放棄がどのような制度なのか、基本的なところから確認していきましょう。「相続放棄」という言葉は聞いたことがあっても、詳しい内容までは知らないという方もいらっしゃるかもしれませんね。一度手続きをすると原則として取り消しができない大切な選択ですので、しっかり理解しておきましょう。

「相続放棄」と「遺産放棄」は違うもの?

よく混同されがちなのが「遺産放棄」という言葉です。実は、相続放棄と遺産放棄は全くの別物です。遺産放棄は、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)の中で「私は財産をもらいません」と意思表示をすること。これには法的な手続きは必要ありません。しかし、この方法だと預貯金や不動産といったプラスの財産は放棄できても、借金などのマイナスの財産を放棄したことにはならず、返済義務は残ってしまいます。
一方、相続放棄は家庭裁判所で手続きをすることで、プラスの財産もマイナスの財産もすべて手放す法的な制度です。これにより、借金の返済義務からも完全に解放されます。

相続の方法は3種類から選べる

相続が始まったとき、私たち相続人には3つの選択肢があります。どの方法を選ぶかによって、その後の状況が大きく変わってきますので、それぞれの特徴を知っておくことが大切ですよ。

単純承認 亡くなった方のプラスの財産(預貯金や不動産など)も、マイナスの財産(借金など)もすべて受け継ぐ方法です。特別な手続きをしなければ、自動的にこの方法を選んだことになります。
相続放棄 プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け継がない方法です。借金が多い場合に選ばれることが多いです。家庭裁判所での手続きが必要です。
限定承認 受け継いだプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産も受け継ぐ方法です。借金がいくらあるか分からないけれど、もし財産が残るなら受け継ぎたい、という場合に有効です。ただし、手続きが複雑で、相続人全員で行う必要があります。

相続放棄を検討したほうが良いケース

では、具体的にどのような場合に相続放棄を検討するのが良いのでしょうか。一般的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 明らかに借金などマイナスの財産がプラスの財産より多い場合
  • 他の相続人との関係が複雑で、遺産分割のトラブルに巻き込まれたくない場合
  • 事業を継ぐつもりがないなど、特定の財産を引き継ぎたくない場合(ただし、相続放棄はすべての財産を放棄することになります)

相続放棄の手続きの流れを6ステップで解説

ここからは、実際に相続放棄を行うための具体的な手続きの流れを、6つのステップに分けて見ていきましょう。一つひとつのステップを順番にこなしていけば、自分でも手続きを進めることができますよ。

ステップ1:相続財産の調査

まず最初に、亡くなった方にどのような財産があったのかを正確に把握することが重要です。「借金が多いはず」という思い込みで放棄してしまった後で、実は多額の預貯金が見つかった…なんてことになったら大変ですよね。預金通帳や不動産の権利証、借金の契約書や督促状などを探し、プラスの財産とマイナスの財産をリストアップして、本当に相続放棄が最善の選択なのかを慎重に判断しましょう。

ステップ2:必要書類の準備

相続放棄の手続きには、いくつかの書類を揃える必要があります。誰が手続きをするか(亡くなった方との関係)によって必要な書類が変わるので、ご自身のケースに合わせて準備してくださいね。

【全員共通で必要な書類】
  • 相続放棄の申述書
  • 被相続人(亡くなった方)の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人(手続きをする方)の戸籍謄本
【配偶者が手続きする場合】 上記に加えて、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本が必要です。
【子どもや孫が手続きする場合】 上記に加えて、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本が必要です。(孫が手続きする代襲相続の場合は、追加で書類が必要になることがあります)
【親や祖父母が手続きする場合】 亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本など、さらに多くの書類が必要になります。
【兄弟姉妹・甥姪が手続きする場合】 親や祖父母が手続きする場合と同様に、多くの戸籍謄本などが必要になります。

※必要な戸籍謄本は関係性によって複雑になるため、詳しくは裁判所のホームページを確認するか、専門家に相談することをおすすめします。

ステップ3:費用の準備

自分で手続きする場合の費用は、それほど高額ではありません。主に以下の実費が必要になります。

収入印紙代 手続きをする人1人につき800円分
連絡用の郵便切手代 数百円程度(提出する家庭裁判所に確認が必要です)
必要書類の取得費用 戸籍謄本(1通450円)、除籍謄本(1通750円)、住民票除票(1通300円程度)など、合計で数千円程度

ステップ4:家庭裁判所への申述(申し立て)

書類と費用が準備できたら、いよいよ家庭裁判所に申し立てを行います。申し立て先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。直接窓口に持参するか、郵送で提出します。ここで最も注意したいのが、手続きの期限です。

ステップ5:家庭裁判所からの「照会書」に回答

申し立てから1~2週間ほどすると、家庭裁判所から「相続放棄照会書」という書類が郵送されてきます。これは、「本当にご自身の意思で相続放棄をしますか?」「相続財産を使ったりしていませんか?」といったことを確認するための質問状です。内容をよく読んで、正直に記入し、署名・押印して返送しましょう。この回答内容が、相続放棄が認められるかどうかの判断材料になります。

ステップ6:「相続放棄申述受理通知書」の受領

照会書を返送して問題がなければ、さらに1~2週間ほどで家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。この通知書を受け取った時点で、正式に相続放棄の手続きが完了したことになります。この書類は、借金の債権者などに相続放棄したことを証明するために必要になることがあるので、大切に保管してくださいね。必要であれば、別途「相続放棄申述受理証明書」(1通150円)を発行してもらうこともできます。

相続放棄の手続きには期限がある!「3か月」の壁

相続放棄の手続きで、最も重要なのが「期限」です。この期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなってしまいます。

「知ったときから3か月」がタイムリミット

相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」と法律で定められています。この3か月という期間を「熟慮期間」と呼びます。「知ったとき」とは、一般的に以下の2つを知った日を指します。

  • 相続の対象となる方が亡くなった事実
  • それによって自分が相続人になったという事実

多くの場合、亡くなった日やその直後から3か月間のカウントが始まることになります。思ったよりも短い期間なので、早めに行動を開始することが大切です。

3か月の期限を過ぎてしまったら?

もし、何もせずに3か月の期限を過ぎてしまうと、自動的に「単純承認」したとみなされ、すべての財産(借金も含む)を相続することになってしまいます。 ただし、「亡くなった方とは長年疎遠で、借金があるとは全く知らなかった」など、特別な事情がある場合には、3か月を過ぎてからでも相続放棄が認められるケースもあります。諦めずに弁護士などの専門家に相談してみましょう。

期限の延長(伸長)はできる?

「財産調査に時間がかかって、3か月では判断できない」という場合には、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期限を延ばしてもらうことができます。この手続きも、元の3か月の期限内に行う必要がありますので注意してくださいね。

相続放棄ができなくなる!?やってはいけないNG行動

相続放棄を考えている期間中に、特定の行動をとってしまうと「相続する意思がある」とみなされ、相続放棄ができなくなってしまうことがあります。これを「法定単純承認」と呼びます。うっかりNG行動をとってしまわないように、しっかり確認しておきましょう。

相続財産を処分・消費する

最も注意が必要なのが、亡くなった方の財産に手をつけてしまうことです。具体的には、以下のような行為が該当します。

  • 亡くなった方の預貯金を引き出して自分のために使う
  • 亡くなった方の不動産や自動車を売却する、または名義変更する
  • 価値のある遺品(骨董品や宝石など)を勝手に形見分けとして持ち帰る

ただし、社会通念上相当な範囲での葬儀費用を亡くなった方の預金から支払うことなどは、例外的に認められる場合があります。

相続財産を隠す

借金から逃れるために、意図的にプラスの財産(預貯金や不動産など)の存在を隠す行為も、法定単純承認にあたります。財産調査は誠実に行いましょう。

熟慮期間を過ぎる

前述の通り、特別な理由なく3か月の熟慮期間を過ぎてしまうと、単純承認したとみなされ、相続放棄はできなくなります。期限管理は徹底しましょう。

相続放棄に関するよくある質問

ここでは、相続放棄を検討している多くの方が疑問に思う点について、Q&A形式でお答えします。

相続放棄は自分でできる?専門家に依頼すべき?

相続放棄の手続きは、ご自身で行うことも可能です。特に、財産関係がシンプルで、期限にも余裕がある場合は、費用を抑えるために自分で挑戦してみるのも良いでしょう。
一方で、以下のようなケースでは、弁護士や司法書士といった専門家に依頼することをおすすめします。

  • 3か月の期限が迫っている、または過ぎてしまった
  • 亡くなった方と疎遠で財産状況が全くわからない
  • 相続関係が複雑で、必要な戸籍謄本を集めるのが大変
  • 仕事などが忙しく、手続きをする時間がない
  • 手続きに不安があり、確実に放棄したい

専門家に依頼した場合の費用相場は以下の通りです。

司法書士に依頼した場合 3万円~5万円程度
弁護士に依頼した場合 5万円~10万円程度

弁護士は、万が一債権者とトラブルになった場合の対応も依頼できるというメリットがあります。

相続放棄をしても生命保険金は受け取れない?

生命保険金は、原則として受け取ることができます。なぜなら、死亡保険金は契約によって定められた受取人の「固有の財産」と考えられており、亡くなった方の相続財産には含まれないからです。ただし、保険金の受取人が「被相続人(亡くなった方)本人」に指定されている場合は相続財産となりますので注意が必要です。

相続放棄をすると、借金は誰が払うの?

あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人に移ります。相続人の順位は、①子ども(や孫)、②親(や祖父母)、③兄弟姉妹(や甥姪)と法律で決まっています。例えば、子どもであるあなたが相続放棄をすると、次は亡くなった方の親に相続権が移り、その親が借金の返済義務を負うことになります。次の順位の相続人に迷惑をかけないためにも、相続放棄をする際は、事前にその旨を伝えておくのがマナーと言えるでしょう。

相続人全員が相続放棄したら、財産はどうなるの?

相続人となる可能性のある人全員が相続放棄をした場合、最終的に残った財産は、「相続財産清算人」という人が清算手続きを行い、借金の返済などに充てられます。それでも財産が残った場合は、国のもの(国庫に帰属)となります。

まとめ

今回は、相続放棄の手続きについて、流れや注意点を詳しく解説しました。相続放棄は、借金などのマイナスの財産を引き継がないために非常に有効な手段ですが、「知ったときから3か月以内」という厳格な期限があります。また、一度手続きをすると取り消しはできません。まずは落ち着いて財産調査を行い、本当に相続放棄をすべきか慎重に判断することが大切です。ご自身で手続きを進めるのが不安な場合や、状況が複雑な場合は、決して一人で抱え込まず、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談してみてくださいね。

参考文献

裁判所|相続の放棄の申述

国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

相続放棄の手続きに関するよくある質問

Q. 相続放棄とは何ですか?

A. 相続人が亡くなった方(被相続人)の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を一切受け継がないことです。借金が多い場合などに選択されます。

Q. 相続放棄はいつまでに手続きすればいいですか?

A. 原則として、ご自身が相続人であることを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。

Q. 相続放棄の手続きはどこで行いますか?

A. 亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

Q. 相続放棄の手続きに必要な書類は何ですか?

A. 一般的に、相続放棄申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本などが必要です。被相続人との関係性によって追加書類が必要になる場合があります。

Q. 相続放棄は自分でできますか?費用はどのくらいかかりますか?

A. ご自身で手続きすることも可能です。費用は、収入印紙代や郵便切手代、戸籍謄本などの取得費用で数千円程度です。専門家に依頼する場合は別途報酬が必要です。

Q. 相続放棄をするときの注意点はありますか?

A. 一度相続放棄をすると、原則として撤回できません。また、相続財産を一部でも使ったり処分したりすると、相続を承認したとみなされ、放棄できなくなる可能性があるので注意が必要です。

事務所概要
社名
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対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。