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亡くなった人の預金口座から預金を引き出す手続きとは?トラブルなく進める方法

2025-05-05
目次

ご家族が亡くなられた後、葬儀費用のお支払いや当面の生活費などで、故人の預金を引き出したい場面が出てくることがありますよね。でも、「勝手に引き出していいのかな?」「どんな手続きが必要なんだろう?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。大切な方を亡くされた悲しみの中で、お金のことで余計なトラブルは避けたいものです。この記事では、亡くなった方の預金口座からお金を引き出すための正しい手続きと、知っておきたい注意点を分かりやすく解説していきます。

故人の預金引き出し、勝手にやっても大丈夫?

結論からお伝えすると、他の相続人の同意なく預金を引き出すのは、後々のトラブルを避けるためにも絶対にやめましょう。故人が亡くなられた瞬間、その方の預金は法律上、相続人全員の共有財産となります。まずは、この基本的なルールと、金融機関がなぜ口座を凍結するのかを知っておくことが大切です。

金融機関は死亡を知ると口座を凍結する

金融機関は、ご家族からの連絡などによって口座名義人が亡くなった事実を知った時点で、その口座を凍結します。これは、一部の相続人が勝手にお金を引き出してしまい、他の相続人の権利が侵害されるのを防ぐためです。相続財産を安全に守るための措置なんですね。一度口座が凍結されると、ATMでの引き出しはもちろん、振込や公共料金の引き落としなども一切できなくなってしまいます。

口座凍結前に引き出すことのリスク

キャッシュカードと暗証番号を知っていれば、金融機関が死亡の事実を知る前にATMでお金を引き出すことは物理的には可能です。しかし、この行為にはとても大きなリスクが伴います。他の相続人から「財産を隠そうとしたのではないか」「自分のために使ったのでは?」と疑われ、相続トラブルに発展してしまうケースが非常に多いのです。また、引き出したお金の使い道によっては、借金なども含めてすべての遺産を相続する「単純承認」とみなされ、後から相続放棄ができなくなる可能性もありますので、注意が必要です。

罪には問われにくいけれど…

親族間での財産トラブルという性質上、刑事上の横領罪などに問われる可能性は低いとされています。しかし、それは「やってもいい」という意味ではありません。民事上では、他の相続人から「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」といった形で、引き出したお金を返すように求められる可能性があります。円満な相続のためにも、必ず正規の手続きを踏むようにしましょう。

凍結された口座から預金を引き出す正規の手続き

口座が凍結された後、預金を引き出すには、原則として相続手続きを完了させる必要があります。遺産の分け方によって、主に2つの方法がありますので、それぞれ見ていきましょう。

遺産分割協議後に手続きする

最も一般的で基本となる方法です。相続人全員で遺産の分け方について話し合う「遺産分割協議」を行い、合意した内容を「遺産分割協議書」という書類にまとめます。この遺産分割協議書に、相続人全員が署名し、実印を押します。そして、この書類と他の必要書類を金融機関に提出することで、預金の払い戻しや名義変更の手続きが可能になります。

遺産分割協議による手続きの必要書類(一例)
書類の種類 内容
遺産分割協議書 相続人全員の実印が押印されたもの
故人(被相続人)の戸籍謄本等 出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本など
相続人全員の戸籍謄本 現在のもの
相続人全員の印鑑証明書 一般的に発行から6ヶ月以内のもの
金融機関所定の払戻依頼書 窓口でもらえます
故人の通帳・証書・キャッシュカード等 紛失している場合はその旨を伝えます

※必要書類は金融機関によって異なる場合があるため、事前に必ず確認してください。

遺言書がある場合の手続き

故人が遺言書を残しており、その中で預金の相続人が明確に指定されている場合は、手続きが少し簡単になります。遺言書の内容に従って、預金を相続することになった方が手続きを進めることができます。ただし、自筆証書遺言など、遺言書の種類によっては、家庭裁判所で「検認」という、遺言書の内容を確認する手続きが必要になる場合がありますので注意しましょう。

遺言書による手続きの必要書類(一例)
書類の種類 内容
遺言書(原本) 公正証書遺言以外は、家庭裁判所の「検認済証明書」が必要です
故人の死亡が確認できる戸籍謄本
預金を相続する方の印鑑証明書
金融機関所定の払戻依頼書
故人の通帳・証書・キャッシュカード等

※遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の方が手続きを行います。

緊急時に役立つ「預貯金の仮払い制度」

「遺産分割協議には時間がかかりそうだけど、葬儀費用をすぐに支払わないといけない…」「故人の預金から当面の生活費を支払っていた…」といった緊急の事情がある場合、遺産分割協議が終わる前でも一定額の預金を引き出せる制度があります。これが「預貯金の仮払い制度」です。とても便利な制度なので、ぜひ覚えておいてください。

金融機関の窓口で直接手続きする場合

この方法は、他の相続人の同意がなくても、相続人の一人から金融機関の窓口で直接手続きをすることができます。ただし、引き出せる金額には上限が設けられています。計算方法は少し複雑ですが、一つの金融機関から引き出せる上限額は150万円と覚えておくと良いでしょう。

仮払い制度で引き出せる金額
計算式 (相続開始時の預貯金残高) × 1/3 × (仮払いを求める相続人の法定相続分)
上限額 1つの金融機関につき150万円まで

例えば、預金残高が900万円で、相続人が配偶者と子供2人(法定相続分は配偶者1/2、子供1/4ずつ)の場合、配偶者がこの制度を利用すると、900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円を引き出すことができます。

家庭裁判所の手続きを利用する場合

金融機関での仮払い上限額(150万円)を超える金額が必要な場合や、他の相続人との協力が得られない場合には、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立てる方法もあります。これは、遺産分割の調停や審判が申し立てられていることが前提となりますが、生活費の支払いや入院費の精算など、お金を引き出す緊急の必要性が認められれば、特定の預金の全部または一部の仮払いが認められることがあります。

預金引き出しでトラブルにならないための注意点

故人の預金の引き出しは、ささいな行き違いが大きなトラブルに発展してしまうことがあります。ご家族がこれからも円満な関係を続けていくためにも、以下の点には特に注意してください。

必ず他の相続人と情報共有する

これが最も大切なことです。たとえ葬儀費用などの正当な理由があったとしても、お金を引き出す前には必ず他の相続人に連絡し、何のために、いくら必要なのかを説明して同意を得るようにしましょう。「後で言えばいいや」という事後報告ではなく、事前の相談が信頼関係を保ち、トラブルを防ぐ鍵となります。

使途を明確にし、領収書を保管する

引き出したお金を何に使ったのか、誰が見ても分かるように証拠を残しておきましょう。葬儀費用の請求書や医療費の領収書などは必ず保管し、コピーを他の相続人と共有すると、より丁寧で安心です。引き出したお金を、ご自身の個人的な支払いに使うのは絶対にやめましょう。

引き出す金額は必要最小限に

仮払い制度などを利用して緊急でお金を引き出す場合でも、その金額は本当に必要な最低限の額に留めましょう。特に、ご自身の法定相続分を超えるような多額の引き出しは、他の相続人の権利を侵害することになり、トラブルの大きな原因となります。

もし他の相続人が勝手に預金を引き出していたら?

万が一、他の相続人が相談なく勝手に預金を引き出していたことが分かった場合の対処法についても、念のため知っておきましょう。

まずは話し合いで解決を目指す(遺産分割協議)

まずは感情的にならずに、引き出した本人に理由やお金の使い道を確認しましょう。その上で、遺産分割協議の中で解決を図るのが第一です。2019年7月の民法改正により、勝手に引き出された預金も、相続人全員の同意があれば、遺産分割の対象に含めて話し合うことができるようになりました。引き出した分をその人の相続分から差し引く(特別受益として扱う)形で解決するのが一般的です。

話し合いがまとまらない場合は法的手続きを

話し合いでの解決が難しい場合や、相手が使い込みを認めないといった場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたり、不当利得返還請求訴訟などを起こしたりすることになります。ただし、法的な手続きに進む場合は、時間も労力もかかりますので、まずは専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

亡くなった方の預金を引き出す手続きは、故人を偲ぶ悲しみの中で行わなければならず、精神的にも負担が大きいものだと思います。しかし、後の相続トラブルを避けるためには、正しい手順を一つひとつ踏んでいくことが何よりも大切です。基本は「相続人全員でよく話し合い、同意を得てから手続きを進める」ということを忘れないでください。どうしても緊急でお金が必要な場合には、「預貯金の仮払い制度」という心強い味方もあります。もし手続きに不安があったり、相続人間で意見が食い違ってしまったりした場合は、一人で抱え込まず、早めに専門家に相談することをおすすめします。

参考文献

民法 | e-Gov法令検索

国税庁:相続税の申告のしかた

故人の預金引き出し手続きに関するよくある質問

Q.故人の預金は誰が引き出せますか?

A.原則として、相続人全員の同意に基づいて代表者が手続きを行います。遺言書や遺産分割協議書がある場合は、その内容に従って手続きを進めます。

Q.手続きに必要な書類は何ですか?

A.一般的に、故人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、金融機関所定の書類などが必要です。金融機関によって異なるため、事前に必ず確認しましょう。

Q.故人の口座はいつ凍結されますか?

A.金融機関が口座名義人の死亡を知った時点で凍結されます。相続人からの連絡や、新聞のお悔やみ欄などで金融機関が死亡の事実を把握したタイミングです。

Q.凍結された口座から葬儀費用を引き出すことはできますか?

A.はい、「預貯金の仮払い制度」を利用することで、家庭裁判所の判断を経ずに一定額(上限150万円)まで引き出すことが可能です。詳細は金融機関にご確認ください。

Q.預金引き出し手続きの基本的な流れを教えてください。

A.①金融機関に連絡し死亡の事実を伝える ②必要書類の案内を受ける ③戸籍謄本などを収集・作成する ④書類を金融機関に提出する ⑤審査後、預金が払い戻されます。

Q.複数の金融機関に口座がある場合、手続きはどうなりますか?

A.手続きは金融機関ごとに行う必要があります。必要書類は共通するものも多いですが、各金融機関所定の様式もあるため、それぞれの窓口で確認し、個別に手続きを進める必要があります。

事務所概要
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