ご家族が亡くなった後の相続。「遺言書があるから安心」と思っていませんか?実は、その遺言書の内容によっては、かえってご家族の間でトラブルが起きてしまうことがあるんです。特に「遺贈」によって特定の人に多くの財産が渡ると、「自分には全く財産が残らないの?」と不満を持つ相続人が出てくるかもしれません。そこで重要になるのが「遺留分」という考え方です。今回は、この3つのキーワードの関係性を、できるだけ分かりやすく、優しく解説していきます。円満な相続のために、ぜひ知っておいてくださいね。
まずは基本から!遺言・遺贈・遺留分ってどんなもの?
相続の話になると、よく耳にする「遺言」「遺贈」「遺留分」という3つの言葉。それぞれがどんな意味を持つのか、まずはおさらいしてみましょう。この3つの関係性を知ることが、相続トラブルを避ける第一歩になりますよ。
遺言|あなたの最後の想いを伝えるメッセージ
遺言(ゆいごん・いごん)とは、ご自身が亡くなった後に、ご自身の財産を「誰に」「何を」「どれくらい」渡したいかを書き記した、法的な効力を持つ文書のことです。ご家族への最後のメッセージとして、財産の分け方についての意思を示すことができます。遺言には、ご自身で書く「自筆証書遺言」や、公証役場で作成する「公正証書遺言」などの種類があります。
遺贈|相続人以外にも財産を渡せる方法
遺贈(いぞう)とは、遺言によって、相続人ではない人に財産を無償で譲り渡すことです。例えば、ご長男のお嫁さんや、ご友人、お世話になった方、あるいは応援したいNPO法人や自治体などに財産を渡したい場合に利用します。相続人に対して財産を渡す場合は「相続させる」と書くことが多いですが、遺贈はより広い範囲の人や団体を対象にできるのが特徴です。
遺留分|相続人に保証された最低限の取り分
遺留分(いりゅうぶん)とは、特定の相続人(配偶者、子、父母など)に法律で保障されている、最低限の遺産の取り分のことです。たとえ遺言書に「全財産を愛人に遺贈する」と書かれていたとしても、残されたご家族の生活が困らないように、この遺留分だけは請求する権利があります。遺留分は、遺言書の内容よりも優先される、非常に強い権利だと覚えておいてください。
誰に・どれくらい?遺留分の権利者と割合
遺言書を作成するときに最も気をつけたいのが、この「遺留分」です。遺留分を無視した内容の遺言書は、相続トラブルの大きな原因になります。では、具体的に誰が、どれくらいの遺留分を持っているのでしょうか。
遺留分が認められる人(遺留分権利者)
遺留分が認められているのは、亡くなった方(被相続人)の配偶者、子(子が先に亡くなっている場合は孫)、そして父母などの直系尊属です。ここでとても大切なポイントは、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がないということです。ですから、遺言で兄弟姉妹に財産を渡さないと決めた場合、兄弟姉妹は遺留分を主張することはできません。
具体的な遺留分の割合は?
遺留分の割合は、相続人の構成によって変わります。まず、相続財産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)が決まっていて、それを各相続人が法定相続分に応じて分ける、というイメージです。直系尊属(父母など)のみが相続人の場合は全体の1/3、それ以外の場合は全体の1/2が遺留分となります。具体的な割合を表にまとめてみました。
| 相続人の組み合わせ | 各相続人の遺留分の割合 |
|---|---|
| 配偶者と子 | 配偶者:1/4、子:1/4(※子の分は人数で均等に分けます) |
| 配偶者と父母 | 配偶者:1/3、父母:1/6(※父母の分は人数で均等に分けます) |
| 配偶者のみ | 配偶者:1/2 |
| 子のみ | 子:1/2(※子の分は人数で均等に分けます) |
| 父母のみ | 父母:1/3(※父母の分は人数で均等に分けます) |
例えば、相続財産が6,000万円で、相続人が配偶者と子2人の場合。全体の遺留分は1/2の3,000万円です。配偶者の遺留分は1/4なので1,500万円、子の遺留分は合計で1/4なので1,500万円。お子さん一人あたりは750万円が遺留分となります。
もし遺留分が侵害されたら?遺留分侵害額請求の流れ
「遺言書を見たら、自分の取り分が遺留分より少なかった…」そんなときは、遺留分を侵害している相手に対して、その不足分を請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。
昔とは違う?「モノ」ではなく「お金」で解決
2019年7月の民法改正により、遺留分についてのルールが変わりました。以前は「遺留分減殺請求」といって、不動産などの現物を返してもらう権利でした。そのため、不動産が共有状態になるなど、話が複雑になりがちでした。しかし、現在は「遺留分侵害額請求」となり、侵害された額に相当する金銭の支払いを請求する権利に変わりました。これにより、よりシンプルに解決が図れるようになっています。
請求できる期間は短いので要注意!
遺留分侵害額請求には時効があります。この期間を過ぎてしまうと、権利を主張できなくなってしまうので注意が必要です。
- 相続の開始と、ご自身の遺留分が侵害されていることを知った時から1年間
- 相続が開始した時から10年間
このどちらか早い方が到来すると、時効が成立してしまいます。もし遺留分が侵害されているかもしれないと思ったら、早めに行動することが大切です。
請求の具体的なステップ
実際に遺留分を請求する場合、まずは当事者同士で話し合うことから始めます。もし話し合いで解決しない場合は、後々のトラブルを防ぐためにも、配達証明付きの内容証明郵便で「遺留分侵害額を請求します」という意思表示を送ることが一般的です。これにより、時効の進行を止める効果もあります。それでも相手が支払いに応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、それでもまとまらなければ地方裁判所での訴訟へと進むことになります。
トラブルを避けるための遺言書作成のポイント
遺言書は、ご自身の想いを実現するための大切なツールです。しかし、それが原因でご家族が争うことになっては悲しいですよね。そうならないために、遺留分を意識した遺言書作成のポイントをご紹介します。
遺留分を侵害しない内容にする
最もシンプルで確実な方法は、各相続人の遺留分を計算し、それを下回らないように財産の分け方を決めることです。事前に相続財産の全体像を把握し、誰にどれくらいの遺留分があるのかを確認した上で遺言書を作成すれば、後のトラブルを大きく減らすことができます。
なぜこの分け方にしたのか「付言事項」で想いを伝える
「事業を継いでくれる長男に多くの財産を渡したい」「介護で世話になった長女に報いたい」など、特定の相続人に多くの財産を渡したい特別な理由がある場合もあるでしょう。その場合は、遺言書の本文とは別に「付言事項(ふげんじこう)」という項目で、その理由やご家族への感謝の気持ちを具体的に書き記すことをお勧めします。付言事項に法的な拘束力はありませんが、あなたの真摯な想いが伝わることで、他の相続人も遺言の内容に納得しやすくなり、争いを防ぐ効果が期待できます。
生命保険を活用した対策も
特定の相続人に多くの財産を渡したい場合、生命保険を活用する方法もあります。死亡保険金は、原則として受取人固有の財産とみなされるため、遺産分割の対象にならず、遺留分の計算の基礎となる財産にも含まれません。これにより、遺留分とは別の形で、特定の人にお金を残すことが可能になります。ただし、あまりに不公平な額だと、裁判で特別受益とみなされる可能性もゼロではないので注意は必要です。
注意!遺贈するときの税金の話
遺贈によって財産を受け取った場合、税金はどうなるのでしょうか。ここも大切なポイントなので、確認しておきましょう。
遺贈にも相続税がかかる
遺言によって財産を受け取った場合、それが相続であっても遺贈であっても、原則として相続税の課税対象となります。ただし、相続税には基礎控除があり、遺産の総額が「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という計算式で算出される金額以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。
相続税が2割加算されるケース
遺贈で財産を受け取った人が、亡くなった方の配偶者や一親等の血族(子や父母)以外の場合、計算された相続税額が2割加算されるというルールがあります。例えば、兄弟姉妹、甥・姪、友人、内縁の配偶者などがこれに該当します。誰に遺贈するかによって、受け取る側の税負担が変わってくることを覚えておきましょう。
まとめ
遺言書は、ご自身の最後の想いを形にするための非常に有効な手段です。しかし、その内容が特定の相続人の遺留分を侵害してしまうと、かえって「争族」の火種になりかねません。遺言、遺贈、遺留分の3つの関係性を正しく理解し、ご家族全員が納得できるような配慮をすることが、円満な相続への一番の近道です。ご自身の想いを伝えつつ、残されるご家族が困らないように、遺留分に配慮した遺言書の作成を心がけましょう。もしご自身での作成に不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することも検討してみてくださいね。
参考文献
遺言・遺贈・遺留分のよくある質問まとめ
Q.遺言書にはどんな種類がありますか?
A.主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。自筆証書遺言は手軽ですが要件が厳しく、公正証書遺言は費用がかかりますが最も確実で安全な方法です。
Q.遺贈と相続の違いは何ですか?
A.「相続」は法律で定められた相続人(法定相続人)が遺産を受け継ぐことです。一方、「遺贈」は遺言によって、法定相続人以外の人や団体(お世話になった人やNPO法人など)に財産を無償で譲ることです。
Q.遺留分とは何ですか?
A.遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上保障されている、最低限の遺産の取り分のことです。遺言によって自分の取り分が全くない場合でも、この遺留分を請求することができます。
Q.ペットに財産を遺すことはできますか?
A.ペットは法律上「物」として扱われるため、直接財産を相続することはできません。しかし、信頼できる人にペットの世話を頼む「負担付遺贈」や、ペット信託といった方法で、ペットのために財産を遺すことは可能です。
Q.遺言書は自分で書いても法的な効力はありますか?
A.はい、法律で定められた要件(全文自書、日付、氏名の自書、押印など)を全て満たしていれば、自筆証書遺言として法的な効力を持ちます。ただし、一つでも要件を欠くと無効になるリスクがあるため注意が必要です。
Q.遺留分はいつまでに請求すればいいですか?
A.遺留分を請求する権利(遺留分侵害額請求権)は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年が経過すると時効で消滅します。早めに手続きを開始することが重要です。