ご家族の将来を考えたとき、「養子縁組」という選択肢が頭に浮かぶことがあるかもしれませんね。特に、遺産分割や相続税のことを考えると、養子縁組がどのような影響を与えるのか気になるところだと思います。養子縁組は、家族の形を法的に結びつける大切な手続きですが、相続においてはメリットだけでなく、思わぬトラブルの原因になる可能性も秘めています。この記事では、養子縁組が遺産分割や相続にどう関わってくるのか、基本的な知識から具体的な注意点まで、わかりやすくお伝えしていきます。
養子縁組と遺産分割の基本
まずは、養子縁組をした場合、相続の世界でどのような立ち位置になるのか、基本的なルールから見ていきましょう。法律上、養子は実の子ども(実子)と全く同じ権利を持つんですよ。
養子は「実子」と同じ相続権を持つ
養子縁組をすると、養子は法律上、養親の「子」として扱われます。これを「嫡出子(ちゃくしゅつし)」としての身分を得るといいます。そのため、養親が亡くなった際の遺産分割においては、実子とまったく同じ立場で財産を相続する権利、つまり法定相続人としての権利を持ちます。相続できる財産の割合(法定相続分)にも、実子と養子の間で一切の差はありません。これは、とても大切なポイントなので覚えておいてくださいね。
養子がいる場合の法定相続分とは?
では、実際に養子がいる場合の法定相続分はどのようになるのでしょうか。法定相続分は、誰が相続人になるかによって変わります。いくつか例を見てみましょう。
【ケース1:配偶者と、実子1人・養子1人が相続人の場合】
| 配偶者 | 2分の1 | 
| 子ども全体(実子+養子) | 2分の1 | 
この場合、子ども全体の2分の1を、実子と養子の2人で均等に分けるので、実子と養子はそれぞれ「4分の1」ずつ相続することになります。
【ケース2:配偶者が既に亡くなっており、実子1人・養子1人が相続人の場合】
| 実子 | 2分の1 | 
| 養子 | 2分の1 | 
この場合は、財産全体を2人で均等に分け合います。
再婚相手の連れ子や孫も養子になれる?
「再婚相手の子ども(連れ子)に財産を残したい」「跡継ぎとして孫に財産を継がせたい」といった理由で養子縁組を検討される方もいらっしゃいます。もちろん、連れ子や孫と養子縁組することも可能です。
ただし、注意点があります。再婚しただけでは、連れ子には自動的に相続権は発生しません。連れ子に財産を相続させるには、養子縁組の手続きが不可欠です。また、孫を養子にした場合、相続税の計算で特別なルール(後ほど詳しくご説明します)が適用されることがあるので、知っておく必要があります。
養子縁組の種類と相続の違い
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があり、どちらを選ぶかによって、特に「実の親(実親)」との関係が大きく変わってきます。
一般的な「普通養子縁組」とは
一般的に「養子縁組」という場合、ほとんどがこの普通養子縁組を指します。普通養子縁組の最大の特徴は、養親との法的な親子関係が生まれると同時に、実親との親子関係もそのまま維持される点です。つまり、養子は「養親の相続人」であると同時に、「実親の相続人」にもなります。2つの家族から相続を受ける権利を持つことになるわけですね。
実親との関係がなくなる「特別養子縁組」とは
一方、特別養子縁組は、子どもの福祉を守ることを主な目的とした制度です。この制度を利用すると、養親との間に法的な親子関係が成立すると同時に、実親との法的な親子関係は完全に終了します。そのため、特別養子縁組をした子どもは、養親の財産は相続できますが、実親が亡くなった際の相続人にはなりません。この制度は、養子になる子どもの年齢が原則15歳未満であることなど、厳しい要件が定められています。
2つの養子縁組の相続における違いまとめ
普通養子縁組と特別養子縁組の相続に関する違いを、表で簡単にまとめてみましょう。
| 項目 | 普通養子縁組 | 
| 実親との親子関係 | 維持される | 
| 養親の相続権 | あり | 
| 実親の相続権 | あり | 
| 項目 | 特別養子縁組 | 
| 実親との親子関係 | 終了する | 
| 養親の相続権 | あり | 
| 実親の相続権 | なし | 
養子縁組が相続税に与える影響(メリット)
養子縁組は、相続税の負担を軽くするための対策(節税対策)として活用されることがあります。法定相続人が1人増えることで、税金の計算上有利になる点がいくつかあるからです。
相続税の基礎控除額が増える
相続税には「これまでは税金がかかりません」という非課税の枠があり、これを「基礎控除」と呼びます。基礎控除額は、以下の式で計算されます。
【基礎控除額】 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
養子縁組によって法定相続人が1人増えると、基礎控除額が600万円増えることになります。例えば、法定相続人が2人から3人に増えれば、基礎控除額は4,200万円から4,800万円になり、その分、課税対象となる遺産が減るのです。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠が広がる
亡くなった方が受け取るはずだった生命保険金や死亡退職金も相続財産とみなされますが、これらにも非課税枠が設けられています。
【非課税限度額】 500万円 × 法定相続人の数
こちらも、養子縁組で法定相続人が1人増えるごとに、非課税枠が500万円ずつ増えていきます。これは生命保険金と死亡退職金のそれぞれに適用されるため、大きな節税効果が期待できる場合があります。
相続税率が下がる可能性も
相続税は、遺産の額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みになっています。遺産を法定相続分で分けた場合の各人の取得金額に応じて税率が決まるため、法定相続人が増えて一人あたりの取得金額が少なくなれば、より低い税率が適用される可能性があります。結果として、相続人全員で納める相続税の総額が少なくなることがあるのです。
養子縁組における注意点とトラブル事例
相続税対策としてメリットがある一方で、養子縁組には注意すべき点や、思わぬトラブルにつながるケースもあります。良い面だけでなく、リスクもしっかり理解しておくことが大切です。
相続税法上の養子の数には制限がある
節税目的で何人でも養子を増やせるわけではありません。相続税法では、基礎控除などの計算に含めることができる養子の数に、以下のような制限を設けています。
- 被相続人に実子がいる場合:1人まで
 - 被相続人に実子がいない場合:2人まで
 
例えば、実子が2人いる方が養子を3人迎えたとしても、相続税の計算上、法定相続人としてカウントできる養子は1人だけ、ということになります。ただし、連れ子を養子にした場合などは実子として扱われるため、この人数の制限には含まれません。
孫を養子にすると相続税が2割加算されるケース
通常、財産は「親から子へ」「子から孫へ」と二世代にわたって相続され、その都度相続税がかかります。しかし、孫を養子にすると、子を一代飛ばして財産を渡せるため、相続が1回で済みます。この「世代飛ばし」による相続税の負担回避を防ぐため、孫を養子にした場合、その孫が支払う相続税額が2割加算されるというルールがあります。ただし、本来の相続人である子が既に亡くなっていて、孫が代わりに相続人(代襲相続人)となっている場合は、この2割加算の対象にはなりません。
「節税目的だけ」の養子縁組は認められないことも
養子縁組は、本来、法的な親子関係を築くための制度です。もし、実質的な親子としての交流などが全くなく、「相続税を不当に安くすることだけが目的だ」と税務署に判断された場合、その養子縁組は無効とされ、節税効果が認められない可能性があります。特に、被相続人が亡くなる直前に駆け込みで養子縁組をした場合などは、厳しく見られる傾向があります。
実子との間で遺産分割トラブルになる可能性
養子が増えるということは、実子から見れば自分の相続分が減ることを意味します。このことに不満を抱いた実子と養子の間で関係が悪化し、遺産分割協議がまとまらなくなるといったトラブルは少なくありません。また、子どもの配偶者を養子にした後で子どもが離婚した場合や、再婚相手の連れ子を養子にした後で離婚した場合など、家族関係の変化によって、養子縁組が将来の相続トラブルの火種になることもあります。
養子縁組の手続きと解消(離縁)について
最後に、養子縁組の具体的な手続きと、一度結んだ関係を解消する場合について簡単にご説明します。
養子縁組の手続きの流れ
普通養子縁組は、当事者間の合意に基づき、市区町村の役所に「養子縁組届」を提出することで成立します。証人として成人2名の署名も必要です。ただし、養子にする相手が未成年者である場合は、原則として家庭裁判所の許可が必要になりますので、手続きが少し複雑になります。
養子縁組を解消(離縁)したい場合
一度成立した養子縁組を解消することを「離縁」といいます。当事者同士の話し合いで合意できれば、役所に「養子離縁届」を提出するだけで離縁が成立します。しかし、相手が離縁に同意してくれない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて、法的な手続きを通じて解決を目指すことになります。
まとめ
遺産分割や相続税対策において、養子縁組は有効な選択肢の一つです。法定相続人が増えることで、基礎控除額が増え、結果的に相続税の負担を軽減できる可能性があります。しかし、その一方で、相続税法上の人数制限や税金の2割加算、そして何よりもご家族の間での感情的な対立といった、無視できない注意点やリスクも存在します。養子縁組を検討する際は、節税というメリットだけに目を向けるのではなく、ご家族全員の気持ちや将来の関係性をよく考え、慎重に進めることが何よりも大切です。もし不安な点があれば、専門家に相談してみるのも良いでしょう。
参考文献
遺産分割と養子縁組のよくある質問まとめ
Q. 養子は実子と同じように遺産を相続できますか?
A. はい、養子は法律上、実子と同じ「法定相続人」となります。そのため、実子と全く同じ割合(法定相続分)で遺産を相続する権利があります。
Q. 普通養子と特別養子で相続権に違いはありますか?
A. はい、違いがあります。普通養子は実親と養親の両方の相続人になりますが、特別養子は実親との親子関係が法律上終了するため、養親の遺産のみを相続します。
Q. 再婚相手の連れ子は、何もしなくても私の遺産を相続できますか?
A. いいえ、再婚相手の連れ子と養子縁組をしていない場合、法律上の親子関係がないため、あなたの遺産を相続する権利はありません。相続させたい場合は、養子縁組をするか、遺言書で遺贈する必要があります。
Q. 孫を養子にした場合、相続分はどうなりますか?
A. 孫を養子にすると、その孫は法律上「子」としての立場で遺産を相続します。そのため、他の実子と同じ割合の相続分を受け取ることができます。
Q. 養子縁組は相続税対策になりますか?
A. はい、相続税対策になる場合があります。養子を法定相続人に加えることで、相続税の基礎控除額が増え、結果的に相続税が安くなることがあります。ただし、税法上、法定相続人の数に含められる養子の数には制限があります。
Q. 養子にも遺留分は認められますか?
A. はい、養子も実子と同じく法定相続人であるため、遺留分(遺言によっても侵害されない最低限の遺産取得分)を主張する権利が認められています。