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非嫡出子の相続権はどうなる?嫡出子との違いと相続トラブル回避法

2025-05-17
目次

ご家族が亡くなり相続が始まったとき、戸籍を調べてみたら「知らない子ども」の存在が明らかになることがあります。このような、いわゆる「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」がいる場合、遺産の分け方はどうなるのでしょうか。ご自身の相続分が減ってしまうのか、そもそもその子に相続権はあるのか、不安に思う方も少なくないはずです。この記事では、相続における相続人嫡出子、非嫡出子の関係性や、相続分がどう決まるのか、そして事前にできるトラブル対策について、わかりやすく丁寧にご説明しますね。

嫡出子と非嫡出子の基本的な違い

相続の話を進める前に、まずは「嫡出子」と「非嫡出子」という言葉の意味をしっかり理解しておきましょう。この違いが、相続権の有無を左右する最初の重要なポイントになります。

嫡出子とは?

嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子どものことをいいます。結婚している夫婦の間に生まれたお子さんのことですね。この場合、子どもの出生届を提出すれば、法律上、当然にその夫婦の子どもとして戸籍に記載され、親子関係が成立します。

非嫡出子とは?

一方で非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことです。いわゆる「婚外子」とも呼ばれます。母親との親子関係は、出産の事実によって自動的に証明されるため、特別な手続きは必要ありません。しかし、父親との間では、ただ生まれただけでは法律上の親子関係は成立しないのです。父親との間に法律上の親子関係を成立させるためには、「認知」という手続きが必要になります。

違いをまとめた表

嫡出子と非嫡出子の主な違いを、わかりやすく表にまとめてみました。

項目 嫡出子
親の婚姻関係 あり
父親との法律上の親子関係 出生により当然に発生
項目 非嫡出子
親の婚姻関係 なし
父親との法律上の親子関係 父親による「認知」が必要

非嫡出子の相続権と「認知」の重要性

非嫡出子が父親の財産を相続できるかどうかは、ひとえに「認知」されているかどうかで決まります。この「認知」という手続きが、相続の扉を開く鍵となると考えてください。

認知とは?法律上の親子関係を成立させる手続き

認知とは、父親が「この子は自分の子どもです」と法的に認める意思表示のことです。認知届が役所に受理されると、子どもの出生のときにさかのぼって、父親との間に法律上の親子関係が成立します。この手続きを経て初めて、非嫡出子は父親の相続人となる権利を得ることができるのです。

認知の方法

認知には、父親が自らの意思で行う方法のほかに、子ども側から求める方法もあります。主な方法は以下の通りです。

認知の方法 内  容
任意認知 父親が自分の意思で、市区町村役場に「認知届」を提出する方法です。生前に行うのが一般的です。
遺言認知 父親が遺言書の中で「あの子を私の子として認知する」と書き残す方法です。父親の死後、遺言執行者が認知届を提出します。
裁判認知(強制認知) 父親が認知を拒否する場合に、子ども側から家庭裁判所に調停や訴えを起こして認知を求める方法です。父親の死亡後でも、死亡の事実を知った日から3年以内であれば、検察官を相手方として訴えを起こすことが可能です。

認知されていない場合の相続権

もし父親から認知されていない場合、たとえ血のつながりが事実としてあっても、法律上は他人と同じ扱いになってしまいます。そのため、認知されていない非嫡出子には、父親の財産を相続する権利は一切ありません。

嫡出子と非嫡出子の相続分は同じ?

「認知されていれば相続できるのはわかったけど、もらえる遺産の割合は嫡出子と同じなの?」と疑問に思いますよね。実は、このルールは数年前に大きく変わりました。

平成25年の民法改正で相続分は同等に

かつての法律では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分(1/2)と定められていました。しかし、この規定は「生まれた環境によって差別するのは不公平だ」として、平成25年9月4日に最高裁判所が違憲であるとの判断を下しました。これを受けて民法が改正され、平成25年9月5日以降に開始した相続については、認知された非嫡出子の法定相続分は、嫡出子と全く同じ割合になりました。これにより、子どもたちの間で相続分に差がつけられることはなくなりました。

具体的な相続分の計算例

それでは、具体的なケースで相続分がどうなるか見てみましょう。例えば、亡くなった方に配偶者と、嫡出子が1人、そして認知された非嫡出子が1人いたとします。遺産総額が8,000万円だった場合のそれぞれの法定相続分は以下のようになります。

相続人 法定相続分
配偶者 1/2(4,000万円)
子ども全体 1/2(4000万円)

子ども全体の相続分である4,000万円を、嫡出子と非嫡出子の2人で均等に分けることになります。

嫡出子 4,000万円 × 1/2 = 2,000万円
非嫡出子 4,000万円 × 1/2 = 2,000万円

このように、嫡出子であっても非嫡出子であっても、子どもの立場としての取り分に違いはありません。

非嫡出子がいる場合の相続税への影響

非嫡出子が相続人に加わることは、相続税の計算にも影響を及ぼします。特に、税金の負担を軽くする「基礎控除」の額が変わる点は知っておきたいポイントです。

相続税の基礎控除額とは?

相続税には、「この金額までは税金がかかりません」という非課税の枠が設けられています。これを基礎控除額といい、以下の計算式で求められます。

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

法定相続人が増えると基礎控除額も増える

認知された非嫡出子は、嫡出子と同じく法定相続人として数えられます。そのため、相続人の数が増えることになり、結果として基礎控除額が大きくなるのです。
例えば、相続人が配偶者と嫡出子1人の場合、法定相続人は2人なので基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)です。ここに認知された非嫡出子が1人加わると、法定相続人は3人になり、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)に増えます。非課税枠が600万円増えるため、相続税の負担が軽減される可能性があるのです。

非嫡出子がいる相続で起こりやすいトラブルと生前対策

非嫡出子の存在は、他のご家族にとっては全く知らされていなかったというケースも多く、感情的な対立から深刻な相続トラブルに発展しやすい傾向があります。穏やかな相続を実現するためには、亡くなる前の対策が非常に重要です。

トラブル例1:相続開始後に存在が発覚する

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて集めた際に、初めて認知した子の存在が明らかになるケースです。配偶者やお子さんにとってはまさに青天の霹靂であり、精神的なショックも大きく、遺産分割の話し合いが感情的にもつれてしまう原因になります。

トラブル例2:遺産分割協議のやり直し

非嫡出子の存在に気づかないまま、他の相続人だけで遺産分割協議を終えてしまった場合、その協議は法的に無効となります。遺産分割協議は、相続人全員の参加が絶対条件だからです。そのため、非嫡出子に連絡を取り、最初から協議をやり直さなければならず、時間も手間も大幅にかかってしまいます。

生前対策としての「遺言書」の活用

こうしたトラブルを防ぐための最も有効な対策が、遺言書を作成しておくことです。遺言書で「誰に」「どの財産を」「どれだけ相続させるか」を明確に指定しておくことで、相続人同士が遺産の分け方を巡って争う事態を未然に防ぐことができます。また、まだ認知していない子どもがいる場合には、遺言によって認知する「遺言認知」も可能です。
ただし、遺言書を作成する際には、他の相続人に最低限保障されている相続分である「遺留分」を侵害しないように財産の配分を考えることが、後の新たなトラブルを防ぐ上でとても大切です。

まとめ

今回は、相続人、嫡出子、そして非嫡出子というキーワードを軸に、その相続権についてご説明しました。一番のポイントは、父親が非嫡出子を「認知」しているかどうかです。認知さえされていれば、非嫡出子は嫡出子と全く同じ立場で財産を相続する権利を持ちます。非嫡出子のいる相続は、他のご家族との関係が複雑になりがちで、トラブルに発展しやすいのが現実です。関係者全員が辛い思いをしないためにも、ご自身の意思を明確にする遺言書を作成するなど、元気なうちから準備を進めておくことを強くおすすめします。もし少しでもご不安なことがあれば、お早めに専門家にご相談くださいね。

参考文献

国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

国税庁 No.4152 相続税の計算

相続人・嫡出子・非嫡出子のよくある質問まとめ

Q.嫡出子と非嫡出子(婚外子)で、相続できる遺産の割合に違いはありますか?

A.いいえ、違いはありません。2013年の民法改正により、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同じになりました。どちらも同じ割合で遺産を相続する権利があります。

Q.非嫡出子(婚外子)が父親の遺産を相続するためには何が必要ですか?

A.父親からの「認知」が必要です。遺言書で認知することも可能ですが、生前に認知されていれば、自動的に相続人となります。認知されていない場合は、家庭裁判所に認知を求める調停や訴えを起こす必要があります。

Q.亡くなった後に、認知されていない非嫡出子(婚外子)がいることが判明しました。この場合、相続はどうなりますか?

A.その非嫡出子が父親の死後3年以内に「死後認知の訴え」を提起し、親子関係が認められれば、その子も相続人となります。すでに遺産分割協議が終わっていても、協議のやり直しや価額での支払いを求められる可能性があります。

Q.嫡出子とは具体的にどのような子供のことですか?

A.嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供のことを指します。また、婚姻中に妻が妊娠した子供は、夫の子と推定されます。

Q.相続人にはどのような人が含まれますか?

A.亡くなった方(被相続人)の配偶者は常に相続人となります。それ以外の相続人には順位があり、第一順位は子(嫡出子・非嫡出子・養子含む)、第二順位は直系尊属(父母や祖父母)、第三順位は兄弟姉妹です。上位の順位の人がいる場合、下位の順位の人は相続人になりません。

Q.遺言書で「非嫡出子には相続させない」と書かれていた場合、全く遺産はもらえないのでしょうか?

A.いいえ、全くもらえないわけではありません。非嫡出子にも「遺留分」という最低限の遺産を相続する権利が保障されています。遺言書の内容にかかわらず、遺留分侵害額請求を行うことで、一定の割合の財産を受け取ることができます。

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