お墓の承継者がいなかったり、遠方でお墓の管理が難しかったり…そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。「お墓じまい」や「改葬」という言葉をよく耳にするようになりましたが、実はこの2つの言葉、意味が少し違うんです。この記事では、それぞれの違いや必要な手続き、気になる費用について、どなたにも分かりやすく解説していきます。ご家族にとって一番良い方法を見つけるために、ぜひ参考にしてくださいね。
「お墓じまい」と「改葬」の基本的な違い
まずは、似ているようで違う「お墓じまい」と「改葬」の言葉の意味をしっかり理解しましょう。この2つの関係性を知ることで、全体像がぐっと掴みやすくなりますよ。簡単に言うと、「お墓じまい」は「改葬」を行うための一つのステップなんです。
お墓じまいとは?
お墓じまいとは、今あるお墓の墓石などを撤去して、墓地を更地に戻し、その土地の使用権を霊園やお寺の管理者に返還することです。言葉の通り「お墓のお片付け」のようなイメージですね。お墓を管理する人がいなくなり、そのまま放置してしまうと「無縁仏」となってしまいます。そうならないために、管理が難しくなった場合に必要となるのがお墓じまいです。
改葬とは?
改葬とは、お墓に納められているご遺骨を、別の場所に移して新しく供養し直すことです。こちらは「お墓のお引越し」と考えると分かりやすいでしょう。例えば、「遠くにあるお墓を、自宅の近くに移したい」といったケースがこれにあたります。改葬を行う際には、今あるお墓からご遺骨を取り出す必要があるので、多くの場合、先ほど説明した「お墓じまい」の作業が伴います。
関係性のまとめ
この2つの言葉の関係をシンプルにまとめると、「改葬(お墓のお引越し)という大きな流れの中に、お墓じまい(今のお墓の撤去)という作業が含まれている」ということになります。ただし、取り出したご遺骨を散骨したり、ご自宅で供養する「手元供養」にしたりする場合は、新しいお墓にご遺骨を「移す」わけではないため、厳密には改葬とは呼ばないこともあります。
| 用語 | 意味 |
| お墓じまい | 今あるお墓を撤去し、墓地を管理者に返還すること(お墓のお片付け) |
| 改葬 | ご遺骨を別の場所に移して供養し直すこと(お墓のお引越し) |
改葬(お墓じまい)の具体的な手順
改葬は、思い立ってすぐにできるものではありません。親族との大切な話し合いや、いくつかの行政手続きが必要です。ここでは、一般的な改葬(お墓じまい)の手順を6つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:親族への相談と合意
改葬を進める上で最も大切なのが、ご家族やご親族への相談です。お墓はご先祖様との繋がりを感じる大切な場所。なぜ改葬が必要なのか、新しい供養先はどこにするのかなどを丁寧に説明し、皆様の理解と同意を得ることが、後のトラブルを防ぐための第一歩です。
ステップ2:新しい供養先(改葬先)の決定
取り出したご遺骨をどこに移すかを決めます。後ほど詳しくご紹介しますが、新しいお墓を建てるだけでなく、納骨堂や樹木葬、永代供養墓など、様々な選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットや費用を比較検討し、ライフスタイルやご予算に合わせて、親族とよく話し合って決めましょう。
ステップ3:行政手続き(改葬許可証の取得)
ご遺骨を勝手に移動させることは法律で禁じられています。そのため、現在お墓がある市区町村の役所で「改葬許可証」を発行してもらう必要があります。この許可証がないと、ご遺骨を取り出すことも、新しい場所に納骨することもできません。申請には、主に以下の3つの書類が必要になります。
| 書類名 | どこで貰うか |
| 埋葬証明書 | 現在のお墓の管理者(霊園やお寺) |
| 受入証明書 | 新しい供養先の管理者 |
| 改葬許可申請書 | 現在お墓がある市区町村の役所 |
これらの書類を揃えて役所に提出し、「改葬許可証」を受け取ります。この許可証はご遺骨1柱(1人分)につき1枚必要になるので、複数のご遺骨を改葬する場合はその分の申請が必要です。
ステップ4:閉眼供養とご遺骨の取り出し
お墓からご遺骨を取り出す前に、「閉眼供養(へいがんくよう)」または「魂抜き」と呼ばれる儀式を行います。これは、墓石に宿っている故人の魂を抜き、感謝を伝えてただの石に戻すための大切な儀式です。通常はお坊さんにお願いします。供養が終わったら、石材店に依頼して墓石を動かし、ご遺骨を取り出してもらいます。
ステップ5:墓石の撤去と墓地の返還
ご遺骨を取り出した後、墓石を撤去して墓地を更地の状態に戻します。この作業も石材店に依頼するのが一般的です。きれいになった土地を霊園やお寺の管理者に返還して、「お墓じまい」の作業は完了となります。
ステップ6:新しい供養先への納骨
取得した「改葬許可証」を新しい供養先の管理者に提出し、ご遺骨を納めます。新しいお墓を建てた場合は、納骨の際に、新しい墓石に故人の魂を入れる「開眼供養(かいげんくよう)」または「魂入れ」の儀式を行います。これで改葬の全ての手続きが完了となります。
墓じまいと改葬にかかる費用
やはり一番気になるのは費用のことではないでしょうか。墓じまいと改葬には、大きく分けて「今のお墓を整理するための費用」と「新しい供養先にかかる費用」の2種類が発生します。それぞれ詳しく見ていきましょう。
墓じまい(今のお墓の整理)にかかる費用相場
まずは、現在のお墓を撤去し、更地に戻すためにかかる費用の内訳と相場です。お墓の状況によって変動しますが、合計で30万円~70万円程度が目安になります。
| 費用の内訳 | 費用相場 |
| 墓石の撤去・処分費用 | 1平方メートルあたり約10万円~15万円 |
| 閉眼供養のお布施 | 約3万円~10万円 |
| 離檀料(お寺の檀家の場合) | 約5万円~20万円(無料の場合もあり) |
墓石の撤去費用は、お墓の大きさや立地(重機が入れるかなど)で変わるため、複数の石材店から見積もりを取ることをお勧めします。また、お寺の檀家をやめる際には、これまでお世話になった感謝の気持ちとして「離檀料」をお渡しすることがあります。法的な義務はありませんが、気持ちよく手続きを進めるための慣習となっています。
改葬(新しい供養先)にかかる費用相場
次に、新しい供養先にかかる費用です。どこにご遺骨を移すかによって、金額が大きく変わってきます。
| 改葬先の種類 | 費用相場 |
| 新しいお墓(一般墓) | 約80万円~250万円 |
| 永代供養墓 | 約10万円~150万円 |
| 納骨堂 | 約20万円~150万円 |
| 樹木葬 | 約20万円~80万円 |
この他に、納骨時に行う「開眼供養のお布施」として3万円~10万円程度が必要になる場合があります。近年は、承継者がいなくても安心で、費用も比較的抑えられる永代供養墓や樹木葬といった選択肢が人気を集めています。
新しい供養先の選び方と種類
改葬先には様々な選択肢があります。それぞれの特徴を理解して、ご自身やご家族のライフスタイルに合った場所を選びましょう。
一般墓
伝統的な墓石を建てるタイプのお墓です。家族代々で受け継いでいくことができますが、建立費用やその後の年間管理費が高額になりがちで、お墓を継いでくれる承継者が必要になります。
永代供養墓
霊園やお寺が、承継者に代わってご遺骨の管理・供養を永代にわたって行ってくれるお墓です。費用を抑えられ、承継者がいなくても安心なのが最大のメリットです。他の人と一緒に一つの場所に祀られる合祀型や、一定期間は個別に安置されるタイプなどがあります。
納骨堂
建物の中にご遺骨を安置するタイプです。ロッカー型や仏壇型など様々な形式があり、天候に左右されずにお参りしやすいのが特徴です。交通の便が良い都心部に建てられていることも多く、お参りのしやすさを重視する方に選ばれています。
樹木葬
墓石の代わりに、桜やハナミズキなどの樹木や草花を墓標(シンボル)とするお墓です。「自然に還りたい」という方に人気があります。費用も比較的安価なことが多いですが、一度埋葬するとご遺骨を取り出せない場合が多いので、その点は事前に確認が必要です。
墓じまい・改葬でよくあるトラブルと注意点
大切なご先祖様に関わることだからこそ、トラブルなくスムーズに進めたいですよね。ここでは、起こりがちなトラブルとその対策についてお伝えします。
親族との意見の相違
最も多いのが親族間でのトラブルです。「先祖代々のお墓をなくすなんてとんでもない」と反対されることも少なくありません。改葬を決める前に、なぜお墓じまいが必要なのか、将来の管理はどうするのかなどを丁寧に説明し、時間をかけて話し合うことが何よりも大切です。
お寺との離檀料トラブル
檀家となっているお寺からお墓を移す場合、高額な離檀料を請求されてしまうケースがあります。離檀料はあくまで「感謝の気持ち」であり、法的な支払い義務はありません。金額に納得できない場合は、まず住職と穏やかに話し合いの場を持ちましょう。それでも解決しない場合は、弁護士などの専門家に相談することも一つの方法です。
石材店との費用トラブル
墓石の撤去費用などで、後から追加料金を請求されるといったトラブルも報告されています。契約前には必ず複数の業者から見積もりを取り、作業内容と費用の内訳が明確に記載されているかを確認しましょう。霊園によっては石材店が指定されている場合もあるので、その点も事前に確認が必要です。
まとめ
今回は、「お墓じまい」と「改葬」の違い、そして具体的な手順や費用について解説しました。お墓じまいはお墓を撤去して更地に戻す「お片付け」、改葬はご遺骨を別の場所へ移す「お引越し」です。改葬は親族との話し合いから始まり、行政手続きや供養など、時間も費用もかかります。しかし、お墓の管理や承継に悩んでいる方にとっては、将来の不安を解消し、ご自身に合った供養の形を実現するための大切な選択肢となります。この記事が、皆さまが後悔のない決断をするための一助となれば幸いです。
参考文献
お墓じまいと改葬に関するよくある質問まとめ
Q. そもそも「お墓じまい」と「改葬」の違いは何ですか?
A. 「お墓じまい」はお墓を解体・撤去して更地に戻す行為そのものを指します。一方、「改葬」は取り出した遺骨を別の場所へ移す一連の手続き全体を指します。つまり、お墓じまいは改葬の一部に含まれることが多いです。
Q. お墓じまいだけを行うことはできますか?
A. はい、可能です。お墓じまいをして取り出した遺骨を、新しいお墓を建てずに散骨したり、手元供養したりする場合が該当します。ただし、遺骨を別の場所で管理・供養する場合は「改葬」の手続きが必要になります。
Q. 改葬にはどのような手続きが必要ですか?
A. 主に「受入証明書(新しい納骨先の証明書)」「埋葬証明書(現在の墓地の管理者からの証明書)」「改葬許可申請書(自治体の窓口で入手)」の3つの書類が必要です。これらを揃えて自治体に提出し、「改葬許可証」を発行してもらいます。
Q. お墓じまいや改葬の費用はどのくらいかかりますか?
A. 費用の内訳は、お墓の解体・撤去費用、離檀料(お寺の場合)、行政手続き費用、そして新しい納骨先の費用などです。総額は数十万円から数百万円と、状況によって大きく異なります。
Q. 「永代供養」もお墓じまいや改葬と関係がありますか?
A. はい、深く関係があります。お墓じまいをした後の遺骨の新しい供養先として、永代供養付きの納骨堂や樹木葬などを選ぶ方が増えています。永代供養は、承継者に代わって寺院や霊園が永代にわたり遺骨を管理・供養してくれる方法です。
Q. 親族の同意なしにお墓じまいや改葬はできますか?
A. 法律上は墓地の使用者(承継者)の判断で行えますが、トラブルを避けるために必ず親族間で話し合い、同意を得てから進めることが非常に重要です。事前に相談なく進めると、後々大きな問題に発展する可能性があります。