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法人の建物で相続税対策!個人所有の土地に建てるメリット・デメリット

2025-06-14
目次

ご自身が所有している大切な土地。将来の相続を考えたとき、「この土地の相続税はいくらになるんだろう?」と不安に思われる方も多いのではないでしょうか。特に、その土地の上に賃貸物件などを建てて活用しようとお考えの場合、その方法ひとつで相続税額が大きく変わることがあります。今回は、個人で所有する土地の上に、ご自身が設立した法人が借入をして建物を建てるというスキームが、相続税にどのような影響を与えるのか、その仕組みからメリット・デメリットまで、わかりやすく解説していきますね。

法人を活用した相続税対策の基本スキーム

まず、今回のテーマである「個人所有の土地+法人の建物」という形が、なぜ相続税対策として注目されるのか、その基本的な仕組みから見ていきましょう。一見すると少し複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫ですよ。

なぜ法人を設立するの?

個人事業主として賃貸経営を行うのではなく、あえて法人(一般的には資産管理会社)を設立するのには、いくつかの理由があります。一番の目的は、個人と法人で財産や所得を切り分けることにあります。法人を設立することで、家賃収入は法人のものとなり、個人の所得とは区別されます。これにより、所得税率を抑えたり、経費として認められる範囲が広がったりといったメリットが生まれます。そして、この「財産の切り分け」が、相続税対策においても重要なカギをなってくるのです。

土地と建物の所有関係がポイント

このスキームの最大の特徴は、土地と建物の所有者を分ける点にあります。

  • 土地の所有者:個人(あなた)
  • 建物の所有者:法人(あなたが設立した会社)

土地は個人の所有のままなので、もちろん相続の対象になります。一方、建物は法人の所有物です。法人は法律上、個人とは別人格として扱われるため、法人が所有する建物そのものは、あなたの直接の相続財産にはなりません。これが非常に大きなポイントです。

相続財産は一体どうなる?

では、建物が相続財産でないとすると、相続の対象は何になるのでしょうか。このスキームの場合、相続人が引き継ぐことになるのは、以下の2つです。

  1. 個人が所有している「土地」
  2. あなたが所有している「法人の株式(自社株)」

建物は法人の資産ですが、その法人を所有しているのはあなたです。その所有権は「株式」という形で表されます。そのため、相続が発生した際には、土地そのものと、この法人の株式が相続財産として評価され、相続税が計算されることになるのです。

相続税評価額はどう変わる?具体的な節税効果

「相続財産が『土地』と『株式』になることはわかったけど、それで本当に相続税が安くなるの?」と思いますよね。ここからは、このスキームがもたらす具体的な節税効果について、3つのポイントに分けて解説します。

土地の評価額が下がる!「貸家建付地評価」

あなたが所有する土地の上に、あなたの法人が建てた賃貸マンションなどがあるとします。この場合、土地は「他人に貸している建物が建っている土地」として扱われ、「貸家建付地(かしやたてつけち)」として評価されます。更地と比べて利用に制限があるため、その分だけ評価額が引き下げられるのです。一般的に、更地の状態に比べて評価額を15%~21%程度下げられる可能性があります。例えば、1億円の土地であれば、評価額を8,000万円前後にまで圧縮できる可能性があるということです。

「小規模宅地等の特例」でさらに評価減

さらに、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」という制度を利用できる可能性があります。この土地が貸付事業用宅地等に該当する場合、200㎡までの部分について評価額を50%減額できるのです。先ほどの貸家建付地評価と併用できれば、土地の評価額を大幅に引き下げることが可能になります。

借入金で「自社株の評価額」を圧縮する

もう一つの大きな節税ポイントが、法人の株式(自社株)の評価額です。法人が金融機関から借入を行って建物を建築した場合、この借入金は法人の「負債」となります。

非上場である自社株の評価額は、会社の純資産(資産-負債)を基に計算されるのが基本です。つまり、借入金という大きな負債があることで、会社の純資産価額が圧縮され、結果的に相続財産となる株式の評価額を低く抑えることができるのです。特に、法人設立直後や建物建築直後は、この効果が最も大きく現れます。

このスキームのメリットを整理しよう

ここまでの話をまとめると、このスキームには相続税対策として主に3つの大きなメリットがあると言えます。

相続財産の評価額を直接引き下げられる

最大のメリットは、これまで説明してきた通り、「貸家建付地評価」と「借入金による自社株評価の圧縮」という2つの効果によって、相続財産の評価額そのものを大きく引き下げられる点です。相続税は財産の評価額を基に計算されるため、評価額が下がれば納税額も直接的に少なくなります。

所得分散で将来の相続財産を増やさない

家賃収入はすべて法人の利益となります。その利益の中から、あなたやご家族に「役員報酬」として給与を支払うことで、所得を分散できます。個人で全収入を受け取ると高い所得税率が適用され、手元に残ったお金が積み重なって将来の相続財産を増やしてしまいます。役員報酬として分散すれば、個人の資産の増加を緩やかにし、将来の相続税負担を抑えることにつながります。また、役員報酬は給与所得控除が適用されるため、税制上も有利です。

個人の所得税率と法人税率の比較(一例)
課税所得金額(個人) 所得税率
900万円超 1,800万円以下 33%
4,000万円超 45%
課税所得金額(法人・中小法人) 法人税率
年800万円以下の部分 15%
年800万円超の部分 23.2%

※上記は国税のみの税率です。実際には住民税や事業税などが加わります。

納税資金の準備がしやすくなる

法人に計画的に利益を蓄積し、あなたの退職時に「退職金」として支払うことも可能です。退職金は税制上非常に優遇されており、多額の現金を低い税負担で個人に移すことができます。この退職金をご家族が受け取ることで、相続税の納税資金に充てるといった準備も可能になります。

注意すべきデメリットとリスク

一方で、このスキームを実行する際には、知っておかなければならないデメリットや注意点もあります。安易に始めると、思わぬ落とし穴にはまる可能性もあるので、しっかり確認しましょう。

法人設立・維持のコストと手間

当然ながら、法人を設立し、維持していくにはコストがかかります。株式会社を設立する場合、登録免許税や定款認証費用などで約20万円~30万円の実費が必要です。また、決算申告などを税理士に依頼すればその費用もかかりますし、従業員がいなくても役員1名から社会保険への加入義務が発生します。さらに、もし経営が赤字になったとしても、法人住民税の均等割(最低でも年間約7万円)は必ず支払わなければなりません。

「土地の無償返還に関する届出」を忘れずに!

これは非常に重要な税務手続きです。個人所有の土地を法人が無償で借りて建物を建てている場合、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出しないと、法人が地主(個人)から土地を借りる権利(借地権)を無償で受け取ったとみなされ、法人に多額の贈与税が課税される「認定課税」のリスクがあります。この届出を提出することで、このリスクを回避できますので、絶対に忘れてはいけません。

借入金の返済が進むと株価が上昇する

建築当初は借入金によって圧縮されていた自社株の評価額ですが、家賃収入によって借入金の返済が進むと、法人の負債が減り、純資産が増加していきます。つまり、時間が経つにつれて自社株の評価額はどんどん上がっていく傾向にあるのです。そのため、何も対策をしないと、いざ相続が発生したときには株価が高騰していて、思ったほどの節税効果が得られないという事態も考えられます。長期的な視点で、役員報酬や退職金の活用など、計画的な株価対策が必要になります。

どんな人にこのスキームはおすすめ?

では、具体的にどのような方がこの方法を検討する価値があるのでしょうか。いくつかのケースをご紹介します。

不動産所得が高額な方

すでに賃貸経営をされていて、年間の不動産所得(家賃収入から経費を引いた利益)が多い方には特におすすめです。個人の所得税・住民税は累進課税で、所得が増えるほど税率が高くなります(最高55%)。課税所得が900万円を超えてくると、法人化した方がトータルの税負担を抑えられる可能性が高まります。

複数の収益物件を所有・検討している方

今後、事業規模を拡大していきたいとお考えの方にも法人化は有効です。複数の物件を法人で管理することで、損益通算が容易になったり、経費管理がしやすくなったりと、経営上のメリットも大きくなります。

相続人が複数いて遺産分割が心配な方

不動産は物理的に分割することが難しく、相続人が複数いる場合に揉め事の原因(いわゆる「争族」)になりがちです。しかし、このスキームを使えば、相続財産は「土地」と「株式」になります。株式であれば、1株単位で分割できるため、各相続人に公平に財産を分けやすくなります。これは、円満な相続を実現するための大きなメリットと言えるでしょう。

まとめ

個人所有の土地の上に法人が借入をして建物を建てるスキームは、貸家建付地評価による土地評価額の引き下げと、借入金による自社株評価の圧縮という二重の効果で、相続税を効果的に引き下げることができる非常に有効な対策の一つです。さらに、所得分散による将来の相続財産増加の抑制や、円満な遺産分割にも繋がります。
ただし、法人設立・維持のコストがかかることや、「土地の無償返還に関する届出」といった専門的な税務手続きが必要になるなど、専門知識が不可欠です。ご自身の状況で本当にメリットがあるのか、長期的にどのような影響があるのかを慎重に判断するためにも、実行を検討される際は、必ず相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、綿密なシミュレーションを行うことを強くおすすめします。

参考文献

個人所有地への法人による建物建築と相続税に関するよくある質問まとめ

Q. 個人所有の土地に法人が建物を建てる方法の、相続税上のメリットは何ですか?

A. 土地の評価額を下げられる可能性があることと、法人の株式評価額を抑えられる可能性があることです。これにより、相続財産全体の評価額を圧縮できる効果が期待できます。

Q. 土地の相続税評価額はどのように変わりますか?

A. 法人から地代を受け取っていない「使用貸借」の場合、土地は「自用地」として100%評価されます。相当の地代を受け取っている「賃貸借」の場合は「貸宅地」となり、評価額が下がります。

Q. 小規模宅地等の特例は適用できますか?

A. はい、適用できる可能性があります。個人が住むオーナー住居部分に対応する土地は「特定居住用宅地等」、賃貸部分に対応する土地は「貸付事業用宅地等」として、一定の要件を満たせば特例の対象となります。

Q. 法人が借りた建築資金は、個人の相続税計算で債務控除できますか?

A. いいえ、できません。借入金は法人の債務であり、個人の債務ではないため、相続税の計算上、債務として控除することはできません。

Q. この場合、何を相続することになりますか?

A. 相続財産となるのは、個人が所有する「土地」と、その法人の「株式(自社株)」です。建物は法人の資産であるため、直接の相続財産には含まれません。

Q. この方法で相続対策をする際の注意点は何ですか?

A. 土地の評価を下げるには法人から相当の地代を受け取る必要があります。また、法人の株式評価は専門的な知識が必要なため、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

事務所概要
社名
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対応責任者
税理士 島本 雅史

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