ご実家を相続したけれど誰も住む予定がない、遠方に住んでいるため管理が難しい…そんな「空き家」に関するお悩みはありませんか?実は、放置された空き家は「特定空き家」に指定され、固定資産税が最大6倍になったり、罰金が科されたりする可能性があるんです。この記事では、特定空き家とは何か、どんなリスクがあるのか、そして大切な資産を守るための対策について、わかりやすくお話ししますね。
特定空き家とは?普通の空き家との違い
「空き家」と一言で言っても、適切に管理されていればすぐに問題になるわけではありません。しかし、管理されずに放置され、周りに悪影響を与えかねない状態になると「特定空き家」として扱われることがあります。これは、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律で定められたもので、単なる空き家とは区別される、いわば「問題のある空き家」のことなんです。
「特定空き家」に認定される4つの基準
では、どのような状態だと特定空き家に認定されてしまうのでしょうか?法律では、以下の4つのいずれかに当てはまる状態だと定義されています。ご自身の空き家が当てはまっていないか、チェックしてみてくださいね。
| 基準 | 具体的な状態の例 |
| 1. 保安上危険となるおそれのある状態 | 家が傾いている、屋根や壁が壊れている、門や塀が倒れそうになっている |
| 2. 衛生上有害となるおそれのある状態 | ゴミが放置されて悪臭がする、害虫や害獣が発生している、浄化槽が壊れて汚水が漏れている |
| 3. 景観を損なっている状態 | 外壁に落書きがされている、窓ガラスが割れたまま、庭の草木が伸び放題になっている |
| 4. 周辺の生活環境に悪影響を及ぼす状態 | 伸びた木の枝が隣の家や道路にはみ出している、不審者が侵入しやすい、動物が住み着いて騒音や糞尿の問題がある |
これらの状態は、一つでも当てはまると特定空き家に認定される可能性があります。
誰がどうやって認定するの?
特定空き家の認定は、その空き家がある市町村が行います。市町村の職員が現地調査を行ったり、近隣の住民の方からの情報提供を受けたりして、先ほどの4つの基準に照らし合わせて判断します。「うちの隣の空き家が危なくて…」といった通報がきっかけで調査が始まることも少なくありません。調査の結果、問題があると判断されると、所有者に連絡が来て、改善に向けた手続きが始まります。
2023年改正で新設された「管理不全空き家」とは?
さらに、2023年12月からは法律が改正され、特定空き家の“予備軍”ともいえる「管理不全空き家」という区分が新しく作られました。これは、「このまま放置すれば、いずれ特定空き家になってしまう可能性が高い」と判断された空き家のことです。管理不全空き家に指定された場合も、改善を求める「勧告」を受けると、後述する固定資産税の優遇措置が受けられなくなります。特定空き家になる前段階から、行政の指導が入るようになったということですね。早めの対策がより一層重要になっています。
特定空き家に指定されるとどうなる?重いペナルティ
もし所有する空き家が特定空き家に指定されてしまうと、所有者にはいくつかの重いペナルティが科せられます。知らなかったでは済まされない、金銭的な負担が大きくなるものばかりです。
固定資産税が最大6倍に!住宅用地の特例除外
最も大きな影響が、固定資産税の増額です。通常、住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」という税金の優遇措置が適用されていて、固定資産税が大幅に安くなっています。しかし、特定空き家に指定され、行政から改善を求める「勧告」を受けると、この特例の対象から外されてしまうのです。
| 土地の種類 | 固定資産税の課税標準額 |
| 小規模住宅用地(200㎡以下の部分) | 評価額の6分の1に軽減 |
| 特定空き家(勧告後) | 評価額のまま(軽減なし) |
例えば、土地の課税標準評価額が1,800万円の土地(200㎡以下)の場合、特例が適用されていると税額は約4.2万円(1,800万円×1/6×税率1.4%)ですが、特例が外れると約25.2万円(1,800万円×税率1.4%)となり、負担が6倍にもなってしまいます。これは非常に大きな負担ですよね。
行政からの措置の流れ
特定空き家に指定されたからといって、すぐさま罰則が科されるわけではありません。行政は、段階を踏んで所有者に改善を促します。この流れを知っておくことも大切です。
| ステップ | 内 容 |
| 助言・指導 | まずは口頭や書面で、空き家の状態を改善するように助言や指導が行われます。この段階で対応すれば、大きな問題にはなりません。 |
| 勧告 | 指導に従わない場合、より強く改善を促す「勧告」が出されます。この勧告を受けると、翌年から固定資産税の住宅用地の特例が適用されなくなります。 |
| 命令 | 勧告にも従わない場合、期限を定めて改善措置をとるよう「命令」が出されます。この命令に違反すると、50万円以下の過料(罰金のようなもの)が科されることがあります。 |
| 行政代執行 | 命令にも従わない、所有者と連絡が取れないなど、最終手段として行政が所有者に代わって建物の解体などを行います。ただし、その解体費用はすべて所有者に請求されます。自分で業者に頼むより高額になるケースがほとんどです。 |
このように、放置すればするほど状況は悪化し、金銭的な負担もどんどん大きくなってしまうのです。
なぜ特定空き家は増えるのか?主な原因
そもそも、なぜ適切に管理されない空き家が増えてしまうのでしょうか。そこにはいくつかの社会的な背景や、所有者の方々が抱える個別の事情があります。
相続がきっかけになるケース
空き家が生まれる最も多いきっかけが「相続」です。親が亡くなり実家を相続したものの、子どもはすでに別の場所で家庭を築いているため住むことができない、というケースは非常に多いです。また、兄弟姉妹で相続したために、売却や活用について意見がまとまらず、結果的に放置されてしまうことも少なくありません。思い出の詰まった家だからと、なかなか処分に踏み切れないという気持ちの問題も大きいでしょう。
解体費用の問題と固定資産税
建物の活用が難しい場合、「解体して更地にする」という選択肢もありますが、そこには解体費用という壁が立ちはだかります。一般的な木造2階建ての家(30坪程度)でも、解体には120万円~200万円ほどの費用がかかることもあります。この費用をすぐに用意するのが難しいという方もいらっしゃいます。また、「家を壊して更地にすると固定資産税が高くなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。確かに住宅用地の特例がなくなるため税金は上がりますが、特定空き家に指定されて特例を外されるリスクを考えれば、必ずしも解体しないことが得策とは言えないのです。
特定空き家にしないための4つの対策
では、大切な資産を問題のある「特定空き家」にしないためには、どうすればよいのでしょうか。方法は一つではありません。ご自身の状況に合わせて、最適な方法を考えてみましょう。
自分で管理する・住む
もし空き家が自宅から近い場所にあるなら、定期的に訪れて管理するのが基本です。窓を開けて空気を入れ替えたり、郵便受けを整理したり、庭の草むしりをしたりするだけでも、家の傷みを遅らせ、放火や不法侵入のリスクを減らすことができます。可能であれば、ご家族やご親族の誰かが住むのが最も理想的な対策です。
活用する(賃貸・リフォーム)
立地が良い場所にあれば、賃貸物件として貸し出すことで、家賃収入を得ながら家を維持することができます。古い家でもリフォームすれば十分に活用できる可能性がありますし、最近では入居者が自由にDIYできる「DIY賃貸」という形も注目されています。自治体によっては、空き家のリフォーム費用に対する補助金制度を設けている場合もあるので、一度調べてみると良いでしょう。
解体して更地にする
建物の老朽化が激しく、活用も難しい場合は、解体して更地にすることも有効な選択肢です。建物の管理から解放されるという大きなメリットがあります。解体後の土地は、駐車場として貸したり、家庭菜園として利用したり、もちろん売却することも可能です。解体費用についても、自治体の補助金が使えるケースがあるので、役所の窓口に相談してみることをお勧めします。
売却する
今後、空き家を使う予定がなく、管理も難しいという場合には、売却が最も現実的な解決策かもしれません。家や土地を必要としている人に譲ることで、資産を現金化でき、管理の負担からも解放されます。建物が古い場合は「古家付き土地」としてそのまま売却する方法と、解体して「更地」として売却する方法があります。どちらが良いかは不動産会社などの専門家に相談してみましょう。
相続した空き家を売却するなら知っておきたい税金の特例
もし、相続したご実家を売却することに決めたなら、ぜひ知っておいてほしいお得な税金の制度があります。それは「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」です。
3,000万円の特別控除とは?
この特例は、一定の要件を満たして相続した空き家を売却した場合、その売却によって得た利益(譲渡所得)から最大3,000万円まで控除できるというものです。つまり、売却益が3,000万円以下であれば、所得税や住民税がかからなくなる可能性がある、非常に大きな特例です。これにより、税金の負担を心配せずに売却を進めやすくなります。
特例を受けるための主な要件
この特例を利用するには、いくつかの条件をクリアする必要があります。主なものを簡単にご紹介しますね。
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
- 売却した金額が1億円以下であること。
- 相続時から売却時まで、事業用や貸付用、居住用として使われていないこと。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。(新耐震基準より前の建物が対象です)
- 売却する建物が一定の耐震基準を満たしているか、または建物を解体して土地のみを売却すること。
細かい条件は他にもありますので、詳しくは専門家や税務署に確認することが大切ですが、このような制度があることを知っておくだけでも、選択肢が大きく広がるはずです。
まとめ
今回は、「特定空き家」についてお話ししました。大切な資産である空き家を放置してしまうと、固定資産税の増額や過料といった金銭的なリスクだけでなく、倒壊や火災など、近隣の方々にご迷惑をかけてしまう可能性もあります。そうなる前に、ご自身の状況に合わせて「管理する」「活用する」「解体する」「売却する」といった対策を早めに検討することが何よりも重要です。特に相続がきっかけで空き家の所有者になった方は、どうするべきかをご家族で話し合い、行動に移すことが大切です。もし一人で悩んでしまったら、市町村の相談窓口や不動産の専門家に気軽に相談してみてくださいね。
参考文献
特定空き家に関するよくある質問
Q.特定空き家とは何ですか?
A.周辺の生活環境に悪影響を及ぼす可能性のある、保安上危険、衛生上有害、景観を損なう、などの状態にあると市町村から判断された空き家のことです。
Q.特定空き家に指定されるとどうなりますか?
A.自治体から助言・指導、勧告、命令といった行政指導が行われます。特に「勧告」を受けると固定資産税の優遇措置が解除され、税金が最大6倍になる可能性があります。
Q.特定空き家に指定される基準は何ですか?
A.主に、(1)倒壊の危険がある、(2)衛生上有害となる恐れがある、(3)景観を著しく損なっている、(4)その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である、といった状態が基準となります。
Q.「管理不全空き家」と「特定空き家」の違いは何ですか?
A.「管理不全空き家」は、「特定空き家」になる前の段階の空き家です。放置すると特定空き家になる恐れがある状態を指し、指導・勧告の対象となります。勧告を受けると固定資産税の優遇措置が解除されます。
Q.特定空き家に指定されたら、固定資産税は必ず上がりますか?
A.自治体からの「勧告」を受けると、「住宅用地の特例」が適用されなくなり、土地の固定資産税が最大6倍になる可能性があります。指導や助言の段階では税金は変わりません。
Q.特定空き家の指定を解除してもらうにはどうすればいいですか?
A.指定の原因となった問題点(建物の修繕、庭木の剪定、ゴミの撤去など)を改善し、適切な管理状態にする必要があります。改善が確認されれば、指定は解除されます。